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    霜花(しもか)

    @kirina_hgrkuri

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    霜花(しもか)

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    1.「ブレゴン」をもらった
     ある日、マルコメは三人の子供たちからもらった大きくてふわふわした贈り物を、寮にある自分の部屋へ運ぼうとしていた。
     部屋に戻ってみると、ブッカーがいたが……

    ※完結版までのネタバレ及び自己解釈・捏造設定による表現が含まれています。

    #ミマモロール!

    [ミマモ]「ブレゴン」をもらった ある日のゴルトオール騎士団の寮。

     この寮も、元々の規模相応の大きさがあったが、病の蔓延や事件を経て騎士も減り、今でも空き室が多いものだった。
     
     寮は二人での使用を想定した相部屋が多かったが、特例として一人で使っている騎士も少なくない。
     それくらい、今は騎士が少ないのだ。
     
     マルコメもその一人だった。
     彼は今、やや重く、そして大きく、ふわふわとした荷物を背負って、ゆっくりと寮の廊下を通っていた。

    「よいしょ……よいしょ……」
    「マルコメさん、随分と大きいものを持って帰って来たね? 大丈夫かい?」

     寮の廊下を回っていたらしい護衛ゴーレムがすれ違った際にマルコメに話しかけてきた。
     
    「だ、大丈夫です……」
    「……扉に入るのかい?」
    「『クマタン』より小さいと思うので大丈夫です!」
    「ああ! それなら大丈夫かもね!」

     そう言ってからゴーレムは納得したようにうなずいて、寮の入口の方へ歩き出した。
     
     マルコメはそれからさらに進んで、自分の部屋の前にまで来た。
     ふかふかとした大きな荷物を、なるべく足元に落ちないように扉を開ける。
     
    「お、マル、おせーぞ!」

     部屋に入ると、すでに先客がおり、もどってきたマルコメにそう言った。
     
    「門に行っただけじゃなかったのかよ」
    「だって……急に大きな荷物押し付けられたんだもん」

     ちょうど部屋の入口に立ち止まっていたマルコメは言った。

    「荷物ぅ?」
    「よいしょ……なんとか扉には入るかな」

     マルコメがこの部屋まで背負ってきたものを中にいれる。戸口の大きさに阻まれるようなことはなく、部屋に入れることができた。
     マルコメの表情は少しぐったりしている様子だったが、すぐにそれをマルコメに見せてみた。

    「ブッカーは覚えてるかな、これ」
    「……」

     マルコメが、持ってきたものを見せながらそう聞くと、ブッカーは真顔になる。
     
     マルコメが運んできたものは着ぐるみだった。
     丁度ブッカーのすぐそばで一緒に座るように並んでいた、「クマタン」という大きなくまのぬいぐるみよりは若干小さいが、充分に大きい。
     
    「あー……今俺も思い出したぞ。それってあのお節介ガキどもの奴だろ?」
    「そうだよ。あの三人が作った奴さ」

     新たに部屋に入ってきたのは、ゾンビドールの子供たちが「ブレゴン」と呼んでいる、恐竜を模したらしい怪獣の着ぐるみだった。
     
    「ていうか、なんでそんなもん持って帰ってきたんだよ。いらねーだろ」
    「いやー……俺だってこれを貰っても、部屋に置いておく余裕ないよなーって思ったさ。でも子供たちから『プレゼントなのだ』とか言われたら断れないじゃん」

     マルコメは切実そうにそう訴えたが、ブッカーは大きなため息をついて言った。

    「お前なぁ、オトナとして、その辺の線引きはしておこうぜ」
    「そ、そんなことは分かってはいるけど……」

     ふとマルコメは、元騎士長のセクタならどうしたのだろうと、思った。
     彼だって子供好きなところはあるが、子供からこんなに大きなものをもらったら、受け取るにせよ断るにせよどう対応しただろうか。

    「なんなら、直々に俺がしつけとか、子供の扱いを教えてやってもいいぞ」
    「ええ……遠慮しとくよ。お前に関してはその辺りのこと信用していいかまだ分からないし」
    「お前にそんな危険なことはさせねえよ。別に、昔俺がやったような、そう乱暴な話をするつもりはないぞ。ただ忙しいオトナに馴れ馴れしく近づいて来るガキに『散れ! 散れ!』と言うだけだ」
    「うぅ……忙しいときに邪魔されるのは困るのはそうだけど、今回の場合それやったらかわいそうじゃん!」
    「……とにかく断れよ、置く場所ないだろ。クマタンもいるのに」
    「そんなこと言われても……ていうかブッカーってば、すっかり俺のクマタンを私物化してるじゃん」
    「それとこれとは別だろ」
    「どういうことだよ」

     「クマタン」は以前からマルコメが持っている、自分と身体と同じくらいの大きさがある巨大なクマのぬいぐるみだ。とても抱き心地がよく、マルコメは今でも寂しいときや癒しが欲しいときは抱き着いたりしていた。

     ブッカーがこの国の騎士となってからは、まさに今のように暇を見つけてマルコメの部屋に来ることもあったが、彼はすっかり「クマタン」を気に入ったようで、勝手に抱きついてみたり一緒に寝たり座ったりしている有り様だった。
     別にそれで汚したり傷めたりしてるわけでもないので、それに関してマルコメは文句をいうこともない。

    「マル、お前は人に感謝されるような仕事をしているかもしれないが」
    「ブッカー、そうやってふんぞりかえってるえど、きみもゴルトオールの騎士なんだからね」

     マルコメはブッカーに一度釘を刺す。
     しかしブッカーはあたかも流したように続ける。

    「……感謝されるような騎士とかになると、そうやって、いろんな人から貰うことも多いかもしれない。だが、断るときは断った方がいい。一旦引き取るとどんどん捨てるにも捨てられなくなるからな。その人からの情とかいろいろ思い出してしまってな」
    「へえ……ブッカーって人から物を貰っても断るかなーって思ったけど、そういう経験あるの?」
    「エミシア様の教えだぜ」
    「ああそう……」

     ブッカーは、彼にしては真面目な話をした後にいつも口にしている、お決まりのようなセリフを言う。
     
     エミシアはブッカーの上司にあたるが、かつて名を馳せた騎士だった彼女は感謝されるようなことが多かったのだろうか。
     それとも、表向きは慈善事業を行っていた教会などでのことなのだろうか。
     
    「にしても『ブレゴン』ねえ。どうすんだよこれ」
    「どうしようもこうしようも、俺が困ってるよ」
    「困ってるよって、ガキどもから貰ってきたのはお前だろうが」
    「うーん……ブッカーの部屋は? いる?」
    「いやだ」
    「……」

     しかしブッカーはしばらくじっと、「ブレゴン」を見つめていた。

    「でも考えてみたら、こいつのおかげで、俺とマルはだいぶ距離が近くなったんだよな」
    「それは……まあ、そうだね」
    「一体何を考えてこんなもん作ったのか知らねえけどさ。鳥のガキは『千里眼』で、これを作ろうなんて本当に思ったのか?」
    「そ、そう言われても……」

     実際この「ブレゴン」のおかげで、ブッカーが自分と師弟関係になりつつも仲良くなり、また彼がこの国の騎士になったきっかけとなった。
     未来を見通せる「ヒポグリフ」というマモノだったルチアが、これを作らせてブレラとエイダに西方の森で芝居をさせてマルコメをそこへ呼ばせたらしいが、「ヒポグリフ」の力を取り戻した彼は、ブッカーの処遇や二人の関係についてここまで見通せたのだろうか。
     だが実際に、彼らが取り戻した生前のマモノの力のおかげで、再び絶望の病が蔓延したこの町を救った。彼らの能力に疑いの余地はない。

     ところで当時の「ブレゴン」は破損してしまったが、あれからも三人は作り直したり、破けたら補修したりしているらしい。あの子たちも気に入っているのだろうか。
     この「ブレゴン」も、あの三人が日頃の感謝と、もうすぐ旅に出るからと、マルコメにプレゼントしてくれた新品のものだった。

     あの三人がもうすぐ旅に出るらしい……そう思うと、マルコメは寂しく思ったのも、断れなかった一つの大きな理由だった。


       †


     その翌日のことだった。

     午前中に町の門番を終えて、部屋に戻ってみると、また部屋にブッカーがいたのだが、ブレゴンとクマタンを独り占めして寝ていた。

    「おいブッカー……」
    「むにゃ……あれ、マル、戻ってきてたのか?」
    「昨日あんなこと言っておいて、結局お気に召してるようじゃん」
    「……ああ? 別にいいだろ。お前が持ってきちゃったものは。それにこれ! クマタンには負けるがとてもスベスベで触り心地がいいんだぜ!」
    「……」

     ブッカーはとても満足そうに、子供ような笑顔でブレゴンの着ぐるみを触っていた。
     その様子を見て、マルコメはもうこれでいいやと思ったのだった。
     
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