[ミマモ]真っ先に作ったのは冷凍庫 ある日、マミーはゴルトオール砂漠を、大きなゴーレムと共に横断し、ある場所に向かっていた。
ある崖にある洞窟を進むと、そこに自分とはまた別の、この砂漠に住むゴーレムが住んでいた。
ゴーレムから降りて、お供のドッドゴーレム二体と共に、洞窟の中へ入って奥へ進んだ。
「おーい! マムー! 修理しに来たぞー!」
「あいてるぞー」
そんな声が、扉の向こうから聞こえてくると、マミーは扉を開けた。
洞窟の奥に住むマムーは、マミーにとって初号機にあたるゴーレムだった。
容姿はほとんどそっくりなのだが、マムーは浴槽に浸かっているが、これが彼にとって普段の佇まいに等しいものだった。
彼はどうやら温浴することで身体にエネルギーを満たす機構を持っているようで、湯船は欠かせないものらしい。
今日マミーが来たのは、彼が家で使っている湯船に水を供給するパイプが壊れてしまったらしい。
別にすぐにマムーが動かなくなるわけではないが、身動きが取れないのですぐに直してもらおうとマミーに連絡していた。
さっそくマミーたちが修理場所を見てみると、確かに破損はしていたがほんの一部の部品だけだった。
それを見ると、マミーと並んで確認していたドッドゴーレムが「これなら僕たちだけで直せるからマミー様は休んでていいよ」と文字を身体に表示させていた。
「そうか? じゃあ任せるよ」
そうマミーが言うと、ドッドゴーレムたちがさっそく道具を持って修理を始めた。
マミーがマムーのいる部屋に戻ると、マムーは申し訳なさそうに話しかけてきた。
「いつもごめん、マミー」
「構わねえよ。しかしお前の家も、相変わらず岩肌だらけだな」
「う……別にいいだろ。お前の家みたいにギラギラしている必要はない」
「ギラギラしているつもりはないんだけどな……」
とはいえ、初めてルチアとここに来た時よりは、内装も増えてきた気がする。
中身はあまりないが、棚や机などの家具も確認できる。
マミーがプレゼントした空調機などの家電もある。
しかし相変わらず「洞窟の中に作ったキャンプ」みたいな様子は完全にはぬぐえない。
マミーの家と違ってそもそも壁紙や床板などは貼られておらず、壁も足元もごつごつとした岩肌がむき出しになっているところばかりだ。
「ていうか……お前が希望すれば、俺の家くらいに改装してやってもいいんだぜ」
「いや……そこまでしなくても構わないよ。どうせその間、俺は家にいれないんだろ?」
「……まあ、大規模な工事になるしな」
「それに、俺だって機械を作ろうと思えば作れると思うんだ。ほら、マミー、見てくれ」
「ああ?」
マムーは、向こうに会った正方形上の箱を見せた。
「冷凍庫を作った」
「ほう? どれどれ」
マミーは興味津々な様子でそこへ向かい、冷凍庫の中を開けた。
自分の家にある冷蔵庫より簡素な造りだが、裏で動いているモーターなどの器具はしっかり作動していた。
それから中はなぜかアイスクリームだらけだった。
「これをお前の手でか? すごいじゃないか!」
「いや……この前お前と一緒にガラクタ置き場を掃除したときに持って帰ったもので作ったんだ」
彼が言うガラクタ置き場とは、かつてマミーが「グッドナイトVR」のために作った電波塔の周辺にあるところだった。
あそこだけではないが、あの周りには機械の材料となるものが多く、マミーもちょくちょく回収しに行くことがあった。
「いやいや、それでもすごいぞ!」
「アイスクリーム、一つあげるぞ」
「お、いいのか? ラッキー♪ ていうかアイスしかなくね?」
「うむ、俺だけで食べきれるか分からないしな……」
「今度冷凍食品でもあげるよ」
「いや、そこまでお前に頼りたくない……食糧にはあまり困ってないし」
「遠慮することないぞ。お前は少ないゴーレムの仲間だし……まあ俺の初号機だからな」
「……」
マミーは褒めると、マムーはどこか居心地悪そうに姿勢を低くした。
「それにお前のところにある冷凍庫付き冷蔵庫はもっとはいてくだし……」
「ゴーレムだっていきなり大きなもの作れたりはしねえよ……まあ、お前から見れば、最初から俺はすごいもの作れてるように見えるかもしれないが、俺だって日々成長はしてるからな」
「むむむ……最初からすごいもの作れるのはずるい」
「そればかりは、二号機だからしょうがないっていうか……」
マムーがじわっと泣き出しそうな表情を見せるとマミーは気まずく思って、焦るように言った。
「いや、そもそもお前がいなかったら、俺は生まれなかったんだ! それだけお前はすごいぞ! ある意味俺の実績の一部はお前の実績でもある!」
「マミーさ……褒め方が下手って言われたりしない?」
「う……言われたことはないけど悩むことはあるな……こほん、それにしても、すぐに冷凍庫作るなんてどうしたんだ?」
「バーバラだよ」
「あ? 誰だって」
「バーバラ。クラールハイトっていう国にいる友達だ」
「……ああ、あの熊みてえなやつか」
城下町にいる銭湯で、マムーがそのバーバラと話しているのをマミーは思い出した。
彼は大のアイスクリーム好きらしく、いつもアイスクリームを持っており、人を見かけたらアイスクリームを贈ろうとするようだ。
足跡は残さなくても、溶けたアイスクリームを垂らすことが多いので、銭湯の他の客や職員、そこで働いでいるゴーレムのピータローたちを時折困らせていたのも何度か見たことがあった。
「あいつがここに来るたびに、箱でアイスクリームを贈ってくるんだ。だから溶かさないためにつくった」
「それが動機かよ」
しかしマムーは真剣な表情で言った。
「だって、アイスクリームが溶けてるの見たらあいついつも泣くんだもん。お前だって友達が泣いてるとこ見たくないだろ?」
「う……そ、それはそうだけどよ……」
ふとマミーは、いつもルチアの前でうじうじとしていたのを思い出して、あいつはどう思っているのか気にしだした。
「お前も結構友達想いなんだな、お前」
「大事な友達だ、当然だろ」
マムーはどこか気が抜けたように、湯船の中であおむけになってリラックスしながら言った。
ちょうどドッドゴーレムが「オワッタヨー!」とマミーに報告しに来たのだった。
どうやらマムーも、安定的に身体へのエネルギー供給がされるようになったのを感じたのかもしれない。
「それに……せっかくできた友達なんだ……」
「ああ、分かるよ……」
マミーもマムーも、何もない砂漠で目が覚めたところで、当初身勝手で強引な形で他者と交流をし始めようとしていたのは変わらない。
照れ屋なところも災いして、人との交流をすることが苦手なのは否めないので、せっかくできた友人が何かの拍子でいなくなるのが怖かったのは、マミーもマムーもおなじようだった。
「とにかく冷凍庫は俺のものづくりの一歩に過ぎない。俺だって、お前みたいにいろんな道具を作りたいんだ。いつかはお前の家に変わらないくらい豪華な家にしてやる……そしてバーバラとチータラの奴に自慢するんだ」
「豪華ってそこまで……」
マミーは困惑しながらも、マムーの真剣な表情を見て言った。
「でも応援はしてるよ。必要になったら俺も手伝うからな」
「う……なるべく自分でやりたい。でもなんかあったら呼ぶかも……」
「おう、いつでもチャット送ってくれ。都合が付けば行ってやるからな」