おぢん☆quiet followDONE灯海灯祭の話 満天の星空のように輝く海灯。日頃華やかな璃月港も、今日は一段と煌びやかさを増し、道ゆく人々の表情も目を輝かせている。 以前のぼくなら間違いなく海灯祭のような活気溢れる場所に訪れることはなかっただろうが、最近は体質をうまく抑えられているのもあり、行秋の誘いに二つ返事で応じた。璃月に居るからには一度は参加したいとは思っていたし、商会の仕事で毎年忙しそうにしている行秋と回れるのは、最初で最後かもしれなかったから。 人混みの中で少しばかり心が浮つき、雲の上を歩いているようにふわふわとした感覚。知っているはずの場所なのに別世界のようで、氷菓を片手にきょろきょろと見て回った。 ぼんやりと空を飛び交う灯を見つめていると、千岩軍に声をかけられ、海灯を手渡された。日頃お堅い千岩軍が率先して祭りを盛り上げようとしているのに、思わず笑みが溢れる。「有名ではありますが、海灯を思い人と一緒に放てば結ばれると言う言い伝えがあります。良い海灯祭を!」 すぐに放ってやろうと思っていたが、その言葉を聞いて、もう少しだけ仕舞っておくことにした。 さてこれからどうしようかと思案すれば、後ろから肩を叩かれ、振り向けば行秋が目を丸くしてこちらを見ていた。「重雲のことだから、人混みに入れずに外で待っていると思って探したよ。」 自分でも不思議だった。いつもならとうの昔に自我を手放していてもおかしくない。それだけ楽しみにしていたせいか、と言おうとして口をつぐんだ。 祭りというものは本当に多くのものが出揃う。雲のような綿菓子、全く当たらない射的、快刀陳のチ虎焼き、甘く艶やかな林檎飴。毎年来たいと思わせるそれを一度に受け、隣でころころと笑う行秋が夢のように思えた。 一通り周りきると、硝子細工の出店が目に留まった。海灯の形を模した色とりどりのその細工は、不思議と淡い光を放つ。「重雲重雲、これを記念に揃いで買うのはどうかな。」 僕も友人と遊んで回るのは今日が初めてだから、といたずらそうに笑った。 琥珀色の灯が一際目を引く。隣で黙々と吟味している瞳によく似たそれは、きらきらと無邪気に輝いていた。「店主、その角に置いてあるものを貰おう。」 勘定を、とぼくが手に取ったそれを見るなり、出店の奥の方にあるものを指して言った。「これですか? これは不純物が混じっていてあまり良い出来ではありませんよ。」 行秋が選んだそれを見れば、淡い水色の中に、濃い色の筋が走っている。「だから良いんじゃないか、普通のものではつまらないよ。」 何はともあれ失敗作が捌けて僥倖、とでも言いたげな店主を尻目に、にやりとこちらを見やる。 いじらしいことをするじゃないか、と手の内の琥珀をころりとつつかれ、きゅっと喉が音を立てる。「行秋──」 言葉を発しようとしたその時、すぐ後ろで聞き覚えのある声がした。「アタイのライブ、聞いてってくれよな!」 ばっと振り返れば、辛炎がお得意の琴を手に、人を集めていざ弾かんというところで。 取り急ぎ店主に多めに握らせ、行秋の手を取って全力で反対方向に走った。せっかくここまで楽しい思い出を作れているのだ。最後まで記憶を手放したくない。 あてもなく走って、万文集舎の屋根の上までよじ登った。ここまでくればあの歌は聞こえないし、下の方で賑わう人々の声がぼんやりと聞こえるだけだ。 合流してからというもの、楽しさにかまけて空を見上げるのも忘れていたが、見れば灯籠はほとんど遠くに飛んでいってしまっていた。 そういえば、と千岩軍に渡された海灯を取り出す。火は随分と小さくなっていたが、二人分をぼんやりと照らすには十分だった。「重雲、知っているかい? この灯を共に飛ばした人達は、長く良い関係を築けるそうだよ。」 ある人は家族と、ある人は恋人と、ある人は大切な友人と、と付け加える。「なら、友人として。」 そう言って二人で放ったか細いそれば、力なく他のものを追いかける。ずっと遅れて飛んでいるそれを、何を言うでもなくただ見つめていた。 ただ、友人と言った時にぼんやりと照らされて顔だけが忘れられなくて。「行秋は、ぼくが知らないとでも思って言ったのかもしれないけれど、」 本当のところ、あれは恋人同士でだけ共に上げるものなんだろう、と問えば、仄暗い中でも分かるほどに肩が跳ねる。 そんなはずはない、僕は友人とも飛ばすものだと聞いたよ、などと早口で捲し立てていたが、しばらく聞き流していると「……そうだよ。そう言ったら困らせてしまうと思ったからね。」 自己満足のつもりだったのさ、と再び力無い海灯に目を向けた。 ふっと冷たい風が吹く。あおられるようにして灯は消えてしまった。他の光と別の方向に攫われ、力なく落ちていく。解く頃合いを見失ったままの手が、ぎゅうと握り締められた。「やっぱり、恋人の真似事なんてするべきじゃなかったんだ。」 言い聞かせるように呟かれたそれは、ぼくの胸をも締め付けるようで。「……また来年、一緒に来よう。」 来年も、その次も、ずっと一緒に来よう。一緒に来て、その度に飛ばせばいい。 祭りの終わりを告げる花火が鼓膜を叩く。この手が離れてしまう前に、「行秋、ずっと言わないでいたけれど、ぼくは──」 言い終わるや否や、柔らかな唇が息を奪った。触れ合う睫毛が震えるほどに、鼓動も花火もうるさい。「──花火の音で聞こえなかったよ。」 一瞬の光に照らされて輝いたその顔は、りんご飴のように赤く艶やかだった。──────────────── あれから一年、祭りの始まりを告げる花火が遠くで鳴り響く。 支度を急ぎ、どこかふわふわと浮ついた足取りで部屋を出る。 玄関の片隅で、琥珀の硝子細工がふわりと輝いていた。Tap to full screen .Repost is prohibited Let's send reactions! freqpopularsnackothersPayment processing Replies from the creator Follow creator you care about!☆quiet follow おぢんDOODLEイースターうさ秋 ⚠︎産卵 おぢんPROGRESSエイプリルフール親友 腐向けではない 仄暗いかも「ごめんごめん、今読んでる本が思ったより面白くてね。」 万民堂に入るなり、軽い調子で謝ってみせる。待ち合わせの相手は気にせぬ様子でお冷の氷を舌の上で弄んでいた。 二人して香菱に適当におすすめを見繕ってもらい、調理場から流れる小気味よい音が腹をくすぐった。昼食というにはやや遅いこの時間は、人気の万民堂といえども客はそう多くない。「それで行秋、話というのは?」 昨日、いつになく真剣な面持ちで誘ってやったせいか、わざわざ居住まいを正してから話を切り出した。「……これは重雲が望むような話ではないかもしれないけれど」 きっといつかは知らなければいけないことだから、と続ければ、口を真一文字に結び、身を乗り出してくる。「魈仙人曰く、今の世に、君の探している妖魔は存在しないそうだ。ここ数百年は、瘴気の残滓にあてられた魔物ばかりで、とても君の体質に敵うようなのは、もう──」 どんな表情をしているだろう。絶望、それとも怒っているだろうか。ちらりと目をやれば、それは存外けろりとした顔をしていた。「今日は嘘をついてもいい日なんだろう。さっき香菱にも騙されたところだ。」 今日は何を言っても 1177 おぢんPROGRESSドラゴンスパインと親友 1草木も凍る冷え切った寒空の下、ざくざくと霜柱を踏み締める音だけが響く。薄く引き結ばれた口元から漏れ出づる吐息は、慶雲頂の薄雲のように細くたなびいた。 方士が璃月を離れてどれほどの時が経ったろうか。俗世の喧騒から逃げるようにして行き着いた雪原は、歓迎も拒絶もせず、ただ彼がそこに在ることを受け入れた。そうは言っても、依頼さえあれば出向かねばならぬのは当然のことで。久々に訪れた璃月港は、灰色の静寂に馴染んだこの身に酷く眩しかった。 聞けば飛雲商会は益々の発展を遂げているようで、極彩色の錦傘は先行きの明るいのを喧伝するかのようだ。ちらちらと舞い降りる白雪を、未だ網膜に焼きついたままの丹青の残滓が淡く彩る。 この山眠る大地に雨が降ることはなく、雨傘など差し方も忘れてしまった。もっとも、かの錦は日除けにすらならないと誰かが言っていたけれど。 洞窟の奥地の氷柱にどさりと背を預けた。背から伝わる心地よい冷気が、俗世に浮かされた熱を諫める。どこからともなく聞こえる氷河の静かなる唸りは穏やかに頭蓋を揺すり、遠い記憶を呼び戻した。 あの日もこうして囁くような唸り声に耳を澄ませていた。「重雲重雲、 2972 おぢんTRAINING01. 足踏み 階段 祝う行秋の書庫は、飛雲商会の地下に広々と備えられている。薄暗くひんやりとしたそこは居心地が良く、本を読む行秋の隣でこうして桃符を作る時間は一瞬のように過ぎていく。 もっとも、ぼくがここを頻繁に訪れる理由はそれだけではないけれど。「重雲、」 伏せられた睫毛がふわりとこちらを捉え、擡げられた顔は薄く朱に染まっていた。桃符を削り終えて、隅に置く。それから唇を重ねて、そしてまた新しい桃符を取った。一連の儀式のようにそれは行われる。この部屋で行秋が一度だけぼくの名前を呼ぶ時、それはこの儀式の開始の合図だった。無論深い意味などない。ぼくが桃符を削るように、行秋が頁を捲るように、それは至極当然の行為なのだ。 別段愛を囁くわけでも、その先を求めるわけでもない。親友の垣根の上から少しだけ手を伸ばし合うだけ。この部屋に限っては誰もそれを咎めないし、ここ以外でぼく達がその垣根を越えようとするつもりもない。 また一つ桃符が削り終わり、かたりと音を立てて隅に置かれた。それから柔らかな音が小さく響き、また木板を削る音と頁を捲る音だけが流れる。 行秋がぱたりと本を閉じた。ぼくも桃符から手を離す。どちらがそう 897 おぢんDONE青写真五彩招福親友短編「重雲重雲、これはどうだろう。」 地べたにしゃがみ込む行秋を見れば、自信ありげに瑠璃百合を手にしていた。「それは水色だと言っていたはずだから、受け取ってもらえないと思うぞ。」 青も水色も似たようなものじゃないか、とわざとらしく頬を膨らませる行秋の隣で、どうしたものかと首を捻ることしかできないでいる、 数日前から、李同という商人に写真機を渡されて頼み事を言付かっているのだ。どうも様々な色合いの写真を集めているらしく、今日は青いものが映った写真を撮ってくるように頼まれ、こうして璃月港を歩き回っている。 昨日も赤い写真を頼まれて持って行ったのだが、彼はどうも几帳面な性格のようで、この被写体は赤ではないと、随分と没にされてしまった。 それでも遠巻きに絶雲の唐辛子を撮ったりしてなんとか納めることができたのだが、今日は一段と難航している。 璃月の建物は赤や緑で豪華に塗り立てられているし、そもそも自然に青色というのはそう多くあるものでもない。夜泊石はどうかと写真機を構えたが、売り物を勝手に撮るなと石商に諭された。 海の写真は青だろうか水色だろうか、と埠頭の方を見渡せば、パシャリと光を 2388 おぢんDONE灯海灯祭の話満天の星空のように輝く海灯。日頃華やかな璃月港も、今日は一段と煌びやかさを増し、道ゆく人々の表情も目を輝かせている。 以前のぼくなら間違いなく海灯祭のような活気溢れる場所に訪れることはなかっただろうが、最近は体質をうまく抑えられているのもあり、行秋の誘いに二つ返事で応じた。璃月に居るからには一度は参加したいとは思っていたし、商会の仕事で毎年忙しそうにしている行秋と回れるのは、最初で最後かもしれなかったから。 人混みの中で少しばかり心が浮つき、雲の上を歩いているようにふわふわとした感覚。知っているはずの場所なのに別世界のようで、氷菓を片手にきょろきょろと見て回った。 ぼんやりと空を飛び交う灯を見つめていると、千岩軍に声をかけられ、海灯を手渡された。日頃お堅い千岩軍が率先して祭りを盛り上げようとしているのに、思わず笑みが溢れる。「有名ではありますが、海灯を思い人と一緒に放てば結ばれると言う言い伝えがあります。良い海灯祭を!」 すぐに放ってやろうと思っていたが、その言葉を聞いて、もう少しだけ仕舞っておくことにした。 さてこれからどうしようかと思案すれば、後ろから肩を叩かれ、振り向 2411