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    おぢん

    @Odin_Genshin

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    おぢん

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    青写真
    五彩招福親友短編

    「重雲重雲、これはどうだろう。」
     地べたにしゃがみ込む行秋を見れば、自信ありげに瑠璃百合を手にしていた。
    「それは水色だと言っていたはずだから、受け取ってもらえないと思うぞ。」
     青も水色も似たようなものじゃないか、とわざとらしく頬を膨らませる行秋の隣で、どうしたものかと首を捻ることしかできないでいる、
     数日前から、李同という商人に写真機を渡されて頼み事を言付かっているのだ。どうも様々な色合いの写真を集めているらしく、今日は青いものが映った写真を撮ってくるように頼まれ、こうして璃月港を歩き回っている。
     昨日も赤い写真を頼まれて持って行ったのだが、彼はどうも几帳面な性格のようで、この被写体は赤ではないと、随分と没にされてしまった。
     それでも遠巻きに絶雲の唐辛子を撮ったりしてなんとか納めることができたのだが、今日は一段と難航している。
     璃月の建物は赤や緑で豪華に塗り立てられているし、そもそも自然に青色というのはそう多くあるものでもない。夜泊石はどうかと写真機を構えたが、売り物を勝手に撮るなと石商に諭された。
     海の写真は青だろうか水色だろうか、と埠頭の方を見渡せば、パシャリと光を焚かれて目が眩む。
    「物は試しだ、もしかするとこれは青かもしれないよ。」
     先程まで探し疲れて不貞腐れていた行秋が、悪戯そうに笑った。こういう小さないたずらを仕掛ける時の行秋は、普段より一回りも二回りも幼く見える。
     いつもならされるがままにそれを受け入れてやるのだが、やたらと細かい依頼に気が少々滅入ってきているのも事実で。にやにやと構えたままの写真機を取り上げ、立て続けに数枚シャッターを切る。
    「ぼくが青なら行秋もそうに違いない」
     やり返してみれば存外に楽しいもので、思わずにやりと笑みが溢れた。当の行秋はというと、ぼくが仕返しをするとは思ってもみなかったようで、少しばかり目をぱちぱちと瞬かせていたが、すぐに写真機を取り返して構え直す。それからはもう当初の目的も忘れてただただ交互にシャッターを押した。写真が次々と出てくるのすら面白く、二人で腹を抱えながら軽やかな音を奏でた。
     
     もう何枚目かも分からない写真を撮ろうとすると、突然それは終わりを告げた。
     押せども押せども何も出ず、しばらくしてフィルムを使い果たしたことに気付く。真っ青な顔で互いを見合い、この顔の写真なら受け取ってくれるかもしれないなどと現実逃避に走った。
     
     よく見れば瞳の奥に青い輝きがあるだろうとか、この遠くを見つめる姿は方士としての青写真を描いているところということでどうだろうとか、それらしい理由を必死でこじつけているが、当然ながら李同氏の首が縦に振られることはなかった。行秋の口の上手さならあるいは、と思ったがそううまくはいかないらしい。行く当てのない写真ばかりがただ残った。
    「値がつかないなら仕方ない。これは僕がもらっていくことにするよ。」
     口説き落とすのを諦めたようで、それならぼくもと適当に数枚手元から引き抜く。
    「わざわざ自分の写真を持っていくのかい?折角だから互いの写真を持って帰ることにしようよ。丁度同じくらいの数だろう。」
     僕は自分の写真なんて珍しくもないからね、と続ける。わざわざ行秋の写真を選んで取るのはどうも気恥ずかしくて無作為に取ったのだが、互いの写真の一枚や二枚、写真機の普及した国ならば友人間でもよくあることだろうと合点した。
     それから程なくして別れ、行秋が見えなくなったのを確認してからこっそりと写真を見返した。
     李同氏が断ってくれて本当に良かった。こんなにも無邪気に笑う行秋はぼくであってもそう頻繁に見れるものではない。それが知らぬ誰かの手に渡ると思うと、少しばかり胸につっかえるものがあった。
     これはきっと親友の意外な一面が公然に晒されるというのを、少しばかり面白くないと思っているだけに違いない。決して他意などないと自分に言い聞かせたが、掌の中の微笑みを見るたびに、平生人前だからと抑えている口元が緩んだ。
     
     
     
     
     ぱたりと扉を閉め、すぐさま布団の上に転がる。言い訳がましくなかったろうか。気付かれやしなかったろうか。冗談めいて勝手に撮ってみたのも、わざと下手な言い訳で断られるように仕向けたのも、本当は気付かれていたのでは、と一日をひとり反芻した。
     フォンテーヌから少しづつ入ってきているとはいえ、まだ写真機は璃月ではあまり馴染みがない。以前自分で仕入れた時に一枚どうかと誘ってみたが、彼の性分のせいもあって断られたのを思い出す。あまりにも笑いながら撮ったものだから、何割かはまともに顔も判別できないほどにぼやけていたが、無事なものは見るだけでこちらにも伝染るように朗らかな表情の彼を捉えている。やはり写真というのは良いものだ。こうやって眉を下げて困ったように笑うのだとか、ちらりと覗く歯が小粒だとか、横顔を見れば意外と睫毛が長いのだとか。日頃気付かずにいる何気ないことすらつぶさに見て回ることができる。後で書斎の引き出しにでも片付けておこうと決めて、最後の一枚を捲る。
     

     重雲は気付かなかっただろうか、李同に貰ったのとは別に、僕が自分の写真機を構えていたのを。
     埠頭に目をやっていた時、重雲ひとりの写真とは別にもう一枚自分ので撮っておいたのだ。自分を画面に収めるというのは存外難しく、上手く撮れているか不安ではあったが、見れば画面にしっかりと二人で収まることに成功していた。
     重雲にはもちろん、鏡の中ですら見たことがないほどに緩んだ顔は、多幸感を蘇らせる反面、顔から火が出るように恥ずかしい。
     この一枚だけは必ずや墓まで持っていかなくてはならないと肝に銘じる。
     枕の下の武侠小説に、栞のように挟み込んだ。
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    おぢん

    PROGRESSエイプリルフール親友 腐向けではない 仄暗いかも「ごめんごめん、今読んでる本が思ったより面白くてね。」
     万民堂に入るなり、軽い調子で謝ってみせる。待ち合わせの相手は気にせぬ様子でお冷の氷を舌の上で弄んでいた。
     二人して香菱に適当におすすめを見繕ってもらい、調理場から流れる小気味よい音が腹をくすぐった。昼食というにはやや遅いこの時間は、人気の万民堂といえども客はそう多くない。
    「それで行秋、話というのは?」
     昨日、いつになく真剣な面持ちで誘ってやったせいか、わざわざ居住まいを正してから話を切り出した。
    「……これは重雲が望むような話ではないかもしれないけれど」
     きっといつかは知らなければいけないことだから、と続ければ、口を真一文字に結び、身を乗り出してくる。
    「魈仙人曰く、今の世に、君の探している妖魔は存在しないそうだ。ここ数百年は、瘴気の残滓にあてられた魔物ばかりで、とても君の体質に敵うようなのは、もう​──」
     どんな表情をしているだろう。絶望、それとも怒っているだろうか。ちらりと目をやれば、それは存外けろりとした顔をしていた。
    「今日は嘘をついてもいい日なんだろう。さっき香菱にも騙されたところだ。」
     今日は何を言っても 1177

    おぢん

    PROGRESSドラゴンスパインと親友 1草木も凍る冷え切った寒空の下、ざくざくと霜柱を踏み締める音だけが響く。薄く引き結ばれた口元から漏れ出づる吐息は、慶雲頂の薄雲のように細くたなびいた。
     方士が璃月を離れてどれほどの時が経ったろうか。俗世の喧騒から逃げるようにして行き着いた雪原は、歓迎も拒絶もせず、ただ彼がそこに在ることを受け入れた。そうは言っても、依頼さえあれば出向かねばならぬのは当然のことで。久々に訪れた璃月港は、灰色の静寂に馴染んだこの身に酷く眩しかった。
     聞けば飛雲商会は益々の発展を遂げているようで、極彩色の錦傘は先行きの明るいのを喧伝するかのようだ。ちらちらと舞い降りる白雪を、未だ網膜に焼きついたままの丹青の残滓が淡く彩る。
     この山眠る大地に雨が降ることはなく、雨傘など差し方も忘れてしまった。もっとも、かの錦は日除けにすらならないと誰かが言っていたけれど。
     洞窟の奥地の氷柱にどさりと背を預けた。背から伝わる心地よい冷気が、俗世に浮かされた熱を諫める。どこからともなく聞こえる氷河の静かなる唸りは穏やかに頭蓋を揺すり、遠い記憶を呼び戻した。
     あの日もこうして囁くような唸り声に耳を澄ませていた。
    「重雲重雲、 2972

    おぢん

    TRAINING01. 足踏み 階段 祝う行秋の書庫は、飛雲商会の地下に広々と備えられている。薄暗くひんやりとしたそこは居心地が良く、本を読む行秋の隣でこうして桃符を作る時間は一瞬のように過ぎていく。
     もっとも、ぼくがここを頻繁に訪れる理由はそれだけではないけれど。
    「重雲、」
     伏せられた睫毛がふわりとこちらを捉え、擡げられた顔は薄く朱に染まっていた。桃符を削り終えて、隅に置く。それから唇を重ねて、そしてまた新しい桃符を取った。一連の儀式のようにそれは行われる。この部屋で行秋が一度だけぼくの名前を呼ぶ時、それはこの儀式の開始の合図だった。無論深い意味などない。ぼくが桃符を削るように、行秋が頁を捲るように、それは至極当然の行為なのだ。
     別段愛を囁くわけでも、その先を求めるわけでもない。親友の垣根の上から少しだけ手を伸ばし合うだけ。この部屋に限っては誰もそれを咎めないし、ここ以外でぼく達がその垣根を越えようとするつもりもない。
     また一つ桃符が削り終わり、かたりと音を立てて隅に置かれた。それから柔らかな音が小さく響き、また木板を削る音と頁を捲る音だけが流れる。
     行秋がぱたりと本を閉じた。ぼくも桃符から手を離す。どちらがそう 897

    おぢん

    DONE青写真
    五彩招福親友短編
    「重雲重雲、これはどうだろう。」
     地べたにしゃがみ込む行秋を見れば、自信ありげに瑠璃百合を手にしていた。
    「それは水色だと言っていたはずだから、受け取ってもらえないと思うぞ。」
     青も水色も似たようなものじゃないか、とわざとらしく頬を膨らませる行秋の隣で、どうしたものかと首を捻ることしかできないでいる、
     数日前から、李同という商人に写真機を渡されて頼み事を言付かっているのだ。どうも様々な色合いの写真を集めているらしく、今日は青いものが映った写真を撮ってくるように頼まれ、こうして璃月港を歩き回っている。
     昨日も赤い写真を頼まれて持って行ったのだが、彼はどうも几帳面な性格のようで、この被写体は赤ではないと、随分と没にされてしまった。
     それでも遠巻きに絶雲の唐辛子を撮ったりしてなんとか納めることができたのだが、今日は一段と難航している。
     璃月の建物は赤や緑で豪華に塗り立てられているし、そもそも自然に青色というのはそう多くあるものでもない。夜泊石はどうかと写真機を構えたが、売り物を勝手に撮るなと石商に諭された。
     海の写真は青だろうか水色だろうか、と埠頭の方を見渡せば、パシャリと光を 2388

    おぢん

    DONE
    海灯祭の話
    満天の星空のように輝く海灯。日頃華やかな璃月港も、今日は一段と煌びやかさを増し、道ゆく人々の表情も目を輝かせている。
     以前のぼくなら間違いなく海灯祭のような活気溢れる場所に訪れることはなかっただろうが、最近は体質をうまく抑えられているのもあり、行秋の誘いに二つ返事で応じた。璃月に居るからには一度は参加したいとは思っていたし、商会の仕事で毎年忙しそうにしている行秋と回れるのは、最初で最後かもしれなかったから。
     人混みの中で少しばかり心が浮つき、雲の上を歩いているようにふわふわとした感覚。知っているはずの場所なのに別世界のようで、氷菓を片手にきょろきょろと見て回った。
     ぼんやりと空を飛び交う灯を見つめていると、千岩軍に声をかけられ、海灯を手渡された。日頃お堅い千岩軍が率先して祭りを盛り上げようとしているのに、思わず笑みが溢れる。
    「有名ではありますが、海灯を思い人と一緒に放てば結ばれると言う言い伝えがあります。良い海灯祭を!」
     すぐに放ってやろうと思っていたが、その言葉を聞いて、もう少しだけ仕舞っておくことにした。
     さてこれからどうしようかと思案すれば、後ろから肩を叩かれ、振り向 2411