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    DMDMGN210

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    DMDMGN210

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    このリンクを踏む者は一切の希望を捨てよ。
    100年前if同棲時空のパーオス原稿の一部です。原稿を凍結させてしばらく離れる決意をしたので報告がてら、的な。
    推敲もおざなりかつWordからそのままコピペなので各種不具合あると思いますが流してくれ。

    *****

     パーンが買い出しの仕事にも慣れ、オスカーもパーンの存在を受け入れ始めたとある日の昼食時のこと。
    「ずっと気になっていたんだけれど、それはなに?」
     不意にそんな言葉が投げかけられた。パーンが指さしたものはオスカーの左手。
    「……この指輪のことか」
     小指になにやら幅広の指輪がつけられていた。問いかけの主はその確認に頷く。
    「食事時だが外すのを忘れていたな。シグネットリング、という名を聞いて理解できるか」
     握っていたフォークとナイフを一度置くとオスカーはそのシグネットリングを丁寧に外し食卓の端へと置いた。パーンは密かにその場所を記憶する。オスカーはのちのちそれを失くしたと言ってこの散らかった家を大捜索することになるだろう。
    「あ、えっと……聞き覚えは、あるような。スタンプみたいなもの、だっけ?」
     オスカーはその返答に小さく感心した。パーンはやはり情緒や実年齢に見合わぬ知識を有しているように見える。知に貪欲なことは良いことだ。
    「概ねその認識で間違いはない。封筒に落とした封蝋にこれで印をつけると、それがサインの代わりになる。紋章をあしらった一点ものが多いな」
     私のものは、と言葉を続けようとしてオスカーは口をつぐむ。フォルテムで用いられている……用いられていたシグネットリングは役職ごとにおおまかなデザインが定められており、そこに自らの偽名にちなんだデザインを絡めるのが常であった。
    その中でも『ジョージとヨハネ』……ウィリアムとオスカーの持つものは特殊で、彼らのそれは左右を違えただけのほぼ同じデザインをしている。『フォルテムの創設者とこの想区の創造主』、二人のリングが作られた当初は彼らの意志はそのままフォルテムの意志であることを指した。刻まれる紋章も彼ら個人ではなくフォルテムそのものを指すべきという帰結は当然だろう。一構成員にすぎない、しかもモリガンに拠る独裁の時代しか知らない人間にそんなことを教える義理はない。
     むろんパーンはそんな裏事情になど気づきもしなかった。左手の甲を見せながら右手でコップを扱うのは器用だな、などとぼんやり考える。おそらくオスカーは「これ」という指示語に合わせてシグネットリングを見せているつもりだったのだろうが、つい数秒前にそれ外していたことを忘れているらしい。
    「じゃあそれは、お仕事で使う文房具みたいなものなんだね。ペーパーナイフとか、文鎮みたいな」
    「ああ、そういうことだ。時代……想区によっては公的文書の必需品でもあるからその例えはやや的外れかもしれないが」
     オスカーは再びナイフとフォークとを握って食事に向かう。端の焦げた肉にぎちぎちとナイフを当てながら言葉を続ける。
    「さきほど君は『ずっと気になっていた』と言ったが、それもこの昼食時を指すのであれば不適当な表現だな」
     やっとのことで切り分けた固い肉を口に放り込む。平気な顔をして咀嚼を続けるオスカーとは裏腹にパーンの手は止まっていた。なにやら手元を見つめている。重箱の隅をつつくような指摘に対して反抗しよう、という顔ではない。むしろどこかもの悲しさを覚えるような表情。
    「……うん。あなたは少し前にもその指輪もつけていたことがあったから。その時から」
     パーンの返答に目を丸くするのと肉を飲み込むのとが同時だった。あのリングは今や、週に一度の書簡を書くときにしか使わない。今日のように誤って私室から持ち出したのは記憶が正しければ三週間ほど前のことだ。そのときから気にかけていたということだろうか。
    「なぜ指輪ごときにそこまで注目する」
     ナイフは再びその刃を肉の上に置いたが、オスカーの目線はそこを向いていない。
    「えっ、あ、なんでもないんだ。ただ……」
     指摘に対してわずかに身体が跳ねて、視線が泳ぐ。
    「人間の、夫婦? は、揃いの指輪をつけるものなんでしょう? あなたにも、そういう相手がいるのかなって」
     オスカーの手元のナイフが肉汁で滑ってガチンと音を立てた。陶器の皿にあたった音だ。力が込められていたせいでその音はいやに大きかった。
    「ごめんなさい、その、踏み入っ、た、話でしたか」
    「いや、不快なわけではない。意外だっただけだ。この指輪も偶然ではあるが知人と揃いの仕立てをしているしな。……それにしても、夫婦……パートナーか…………」
     考えこむようなそぶりをしつつ真面目に肉を切って、今度はパンに乗せて口に運ぶ。パートナーと聞いて思い浮かぶ顔は……目を伏せて小さく首を横に振り、嚥下する。
    「かつては、いたが」
     申し訳なさげにナイフとフォークを握り締めたパーンがますますその表情を曇らせる。
    「変なこと聞いてごめんなさい」
    「構わないと言っている。謝られる筋合いなどない。天涯孤独の身であることも、それに対する覚悟もとうの昔にきまっていた」
     その言葉を聞いてパーンは思わず頬がゆるんだ。あわてて表情を引き締める。顔をそむけるように俯きながら、小さくにやけてしまった。
    「そっか」
     パーンは小さくそうこぼすと、ふたたび自らの食事に向き直りナイフとフォークの柄を握り直す。無自覚のうちに握り締めていたのか、金属製のそれらの柄はわずかに形が歪んでいた。

     よかった。この想区でも、孤独な者は自分だけだと思っていた。そんなことはなかったのだ。

     他人の孤独に安堵したことを恥じつつも、たったそれだけの事実が異様に喜ばしい。一方的に、身勝手に、仲間意識を持ててしまう。歪な感情だがたしかに嬉しかった。

              *

    「……うん、よし」
     その日はパーンが夕飯の準備を任されていた。他の仕事を切り上げて普段よりも早く石窯の前に腰を据えている。見れば窯には火が入っており、手元には小さな鉄くれが転がっていた。満足げに眺めているものも鉄製。
     階段のほうから足音がして、パーンは自らの小さな工芸品を後ろ手に隠した。
    「今日の夕飯は君が当番だったか。……ん? そこにあるのはカトラリーか? 食事もなしになにをしていた」
     オスカーがパーンの隠しそこねた鉄くれに目をつける。石窯に転がっていたカトラリー……パーンの使っていたスプーンとフォーク。持ち手部分がなぜか短く切り取られている。
    「いや、その、趣味の工作を」
    「別に君がなにをしようと他人が害を被らないのであれば私は咎めない。しかし見え透いたヘタな嘘は追究せずにはいられないな。なにをしていた」
    「……べつに、ウソではなかったんだけど」
     取り繕いはすぐに看破されてしまったが、パーンは大して動揺もせずにイスから立ち上がった。オスカーのほうへと歩み寄る。
    「なんだ」
    「右手を出して」
     この家にやってきてからも表情に常に憂いを帯びていたパーンが、やけに幸せそうなほほえみをたたえていた。それに魅入って思わず言葉のとおり右手を出す。
    「不格好で、ごめんなさい」
     小さくはにかむようにして笑いながらパーンはオスカーの右手をとって、冷たく骨ばっていながらも形の整った薬指になにかを滑らせる。
    「……これはなんだ」
     見ればどうやら指輪のようだが、奇妙な模様が入っている。一般的なものと比べればずいぶんと幅も大きい。
     ……渦巻くような模様にはすぐ察しがついた。金属の板を曲げたような作りにもすぐ納得がいく。
    「スプーンリング、ってものを前、本で読んだことがあったんだ。ほんとうは、作るだけで渡すつもりはなかったんだけれど」
     スプーンリング。その名のとおりスプーンの柄を切り取り、曲げて、指輪として仕立てたものだ。たしかにそれがある時代、特定の層で流行したとは聞いたことがあったが、まさかパーンが自作してしまうとは。
    まず最初になにを指摘すべきか、とオスカーがあっけにとられているうちに、パーンも手のうちに隠し持っていたもう一つを同じように右手の薬指につけた。
    「あなたは、誰か他の人とお揃いのシグネットリングを使っているんでしょう? だから、その、僕も、そういうものが欲しかったんだ」
     また言葉がオドつく。目線が泳ぐ。これもまた嘘なのだろう。
    パーンの出身、否、パーンの造物主が生まれた国では婚約指輪や結婚指輪は右手につける。オスカーの出身では両方左手であったため最初は気づかなかったが、そういった意味を帯びた贈り物とみるべきだろうか?
    「これは……」
     言葉に迷いつつオスカーはパーンを見る。パーンは困ったような目でオスカーを見る。
    「ふむ。君はこれからどうやって食事を摂るつもりだ」
     水色の髪の毛がぴょこんと揺れた。目をみれば丸く広がっている。やはり、考えていなかったらしい。
    「あぁ…………」
     みるみるうちに身体ごと表情がしぼんでいく。
     なんだ、まるっきり身体が大きいだけの子供ではないか、とオスカーは笑った。
    「はは、君という男は……食器の類は自ら持ち込んだものだったな。責めはしない。うちにあるものを貸してやる。……だからそう落ち込むな。この稚拙な指輪も受け取ってやろう」
     パーンの表情がまた明るく花咲いた。
    「ありがとう、今日のご飯もがんばって作るから待っててね」
     子供のままごとに付き合うような感覚であきれ混じりの笑顔を浮かべながら、オスカーは散歩に向かった。
     パーンも無論、自分の行動は本気にはされていないということを承知のうえで喜んでいる。
     ただ単に、受け入れてもらえたという事実が嬉しい。誰かの唯一無二になれるのかもしれないというありえない希望をかみしめることが、楽しい。
     カーリーにはロキがいた。ロキにはカーリーがいた。オスカーにも手紙をやりとりする相手がいるし、手紙の相手がシグネットリングの主でないのであればもっと別に特別な知人がいる。昼間の物言いから察するに過去には愛し合う誰かもいたのだろう。

     それでも今、オスカーと生活を共にし同じ空気を吸っている者はパーンしかいなかった。

     これ以上を望むつもりはなかったが、パーンはどうしても確かめたかったのだ。オスカーはパーンの存在を疎んではいまいか。現状を許容してくれているのか。素直に聞くような勇気はなかった。
     その懊悩の最中に転がり込んだシグネットリングの話題に着想を得て、ためしにお遊びのような愛情表現にはしった。児戯として一笑に付されたようではあるが、拒絶はされていない。きっと、オスカーはパーンの存在を受け入れている。

     その事実が、ひたすらに嬉しかった。
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    DMDMGN210

    MOURNINGキャプションは一個前のやつ読んでください。本当はこのあとに本題が来る予定だった。本題も書ければ書きたいね。*****

     彼は、ログハウスの屋根裏で目を覚ます。数十年繰り返してきた平凡な朝。窓から差し込む陽光で自然に目を覚ますような非常に健康的な目覚め。それとは裏腹にベッドのうえは読み止しの本や寝ぼけまなこで記した乱雑なメモが散乱している。
     窓を開け放って、家の正面にある湖畔を見やる。霧が出ていたのか空気はひんやりと湿り、寝起きの肌に心地よかった。数分そうして窓の外を見た後で、彼は窓を閉める。寝間着をベッドの上に放って、クローゼットからシャツを引っ張り出した。寝起きゆえだろうか、表情は締まりがない。のろのろとシャツのボタンをしめ、かけちがい、それを直す。またクローゼットを開いて、ズボンを出し、一瞬転びそうになりながらそれを履く。長い髪の毛をうっかり巻き込む。そびき出す。
    そうして軽く身なりを整えて、ふたたびベッドのほうに戻った。枕元に置いていた眼鏡を手にとってかける。昨日ベッドの上に放り投げて床に落ちてしまっていた肩掛けを拾って軽くはたく。それを手に持ったまま階段を下りる。部屋の中はひどく散らかっていた。
    彼は書類や本の山を気にかけることなく石窯へと歩み寄る。さすがに火のそばは物が少なか 8702

    DMDMGN210

    MOURNINGこのリンクを踏む者は一切の希望を捨てよ。
    100年前if同棲時空のパーオス原稿の一部です。原稿を凍結させてしばらく離れる決意をしたので報告がてら、的な。
    推敲もおざなりかつWordからそのままコピペなので各種不具合あると思いますが流してくれ。
    *****

     パーンが買い出しの仕事にも慣れ、オスカーもパーンの存在を受け入れ始めたとある日の昼食時のこと。
    「ずっと気になっていたんだけれど、それはなに?」
     不意にそんな言葉が投げかけられた。パーンが指さしたものはオスカーの左手。
    「……この指輪のことか」
     小指になにやら幅広の指輪がつけられていた。問いかけの主はその確認に頷く。
    「食事時だが外すのを忘れていたな。シグネットリング、という名を聞いて理解できるか」
     握っていたフォークとナイフを一度置くとオスカーはそのシグネットリングを丁寧に外し食卓の端へと置いた。パーンは密かにその場所を記憶する。オスカーはのちのちそれを失くしたと言ってこの散らかった家を大捜索することになるだろう。
    「あ、えっと……聞き覚えは、あるような。スタンプみたいなもの、だっけ?」
     オスカーはその返答に小さく感心した。パーンはやはり情緒や実年齢に見合わぬ知識を有しているように見える。知に貪欲なことは良いことだ。
    「概ねその認識で間違いはない。封筒に落とした封蝋にこれで印をつけると、それがサインの代わりになる。紋章をあしらった一点ものが多いな」
     私のもの 4290

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