触れる珍しく、眠い瞼を押し上げた先にある人影。
いつもなら目覚めたときはほぼ庭園かトレーニングルームで軽く体を動かしている時間だろうに。
寝るときはほぼ常に窓枠のある壁際で追いやられる。
そのせいで、差し込む陽の光が深く眠る男の顔を照らしていた。
(『深く眠る』・・・・・・?)
それこそ珍しい。
彼の、エンカクの提出されたプロフィールには流浪の剣士とされている。
戦場を渡り歩き、報酬によって剣をふるってきたと。
そんな男が、戦場で指揮をとるだけの人間の気配に気づかないはずがない。
はずが、ないのに。
「起きない・・・・・・?」
思わず漏れた声にすら反応が無い。
外勤の任務を頼んであったが、たしか陸路運送の護衛であったはず。
チームリーダーとして任命していたシージからも、とくに問題はなかったと任務後報告をうけている。
昨夜部屋を訪れたときも、特におかしなところは・・・・・・。
「(すこし、いつもよりは容赦がなかったけど・・・・・・)」
手酷く身体を開かれたわけではないが、それでもなかなか終わりがなく。
もう無理だ、と。
幼子のように泣いて懇願した記憶を思い出して、ドクターは少しだけ渋く顔を歪める。
エンカクにもそういう気分の時があるのだろうか。
ストイックに見えるこの男が、快楽に、愉悦に流されることが。
自身も溺れてしまった自覚のある行為を思い出し、身体に残る熱の残滓を必死に振り払う。
熱を散らし、短く息を吐き出して、もう一度眠る男の顔を見上げた。
目元や頬に流れる濃藍の髪を伸ばした指先でつまむ。
存外柔らかくサラサラと散るその髪を尖った耳の向こうへ流す。
顕わにした目元に触れて、そのまま無駄な肉のない頬を伝い、すべるように触れていた指先がその唇手前で止まった。
途端に緩く持ち上がった口端に、指先による戯れの終わりを悟る。
「意地の悪い」
「寝てる相手をベタベタ触れていた奴がよく言う」
「君が、寝ていたからね」
めずらしくてつい。
ゆっくりと触れていた指を離せば、開かれた瞼から焔色の双眸がドクターを見つめてきた。
「・・・・・・」
「ほんとうに、めずらしい事続きだ」
シーツの下。
伸ばされた腕がドクターの痩身を引き寄せたのだから。
少し冷たい硬い尾も、ドクターの足に絡みついている。
どうかしたのか、と。
シージの報告書にはなかった何事かがあったのか、と含んで問うがただ焔色の双眸がみつめてくるだけ。
ただ、それもしばらくしたら再び瞼のむこうに隠れてしまった。
「エンカク?」
「・・・・・・このまま」
「うん?」
「二度寝か、それとも」
「・・・・・・、ッ?!」
腰に回っていた手が、ドクターの臀部をつかむ。
ゆっくりと、押し開くような手の動きに思わず腰を引いた。
「ッ、エンカクッ」
「俺は非番だからな」
好きな方を選べ、と。
笑うその顔の性質の悪さを自覚しているのだろうか。
二度寝という選択肢を提示させておきながら、それを選ばせる気などないくせに。
自分よりもよっぽど策士ではないのだろうか。
そんなことを思いながら、ドクターもまた非番であったが、予定していたスケジュールを少しだけ変更することに決めた。