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    aoki_log

    @aoki_log 
    一呼吸で読み終わるぐらいの短い話しかかけません。🔥🎴とぱにぐれさん書いてます。
    今はアクナイの炎博が沼

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    aoki_log

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    全てを失って、つなぎとめて、世界の片隅(エン国)でひっそり生きる二人の話。
    片腕を失って、角も折れた炎と、大きな火傷の痕をその身体に残しながら生き残ったドクターの話

    #炎博
    yanbo

    残影こうべを垂れた葉先から溜まった雫が零れ落ちる。
    まっしろに包まれた小さな村。
    炎国の境にほど近いその村は、陽がのぼりきらない内から動き始めていた。
    軒並み村の家にある煙突からは朝餉の煙が立ち昇っている。
    だが、その村からほんの少し外れにある一軒の家。
    まるで隠れるように立つ家は、しんと静まり返っている。

    「んー。おや、おはよう、兄さん。早いねぇ」

    小さな村の唯一の酒場。
    稀に通りがかるトランスポーター向けとも言っていいほどに、大概は暇を持て余した村人の溜まり場と化すそこの店主が戸を開けると、通りがかった上背のある男に声をかけていた。
    店主の声に男は頷いて返し、そのまま村の奥へと進んでいく。
    向かうのは村の片隅にある一軒の家だ。
    その家から生活らしい気配がないことに男はやや不機嫌そうに顔を顰めた。
    ガタつく戸を開けはなち、中へと入る。
    視線を走らせ、歩みを止めることなく向かうのは寝室。
    途中視界に入れた流しはとくに使用した形跡もなく。
    男がこの家を離れたのは三日ほどだが、どうにも嫌な予感がして足早に目的の部屋へと向かった。
    戸を開ければ、硬い寝台の上に横たわる人影。
    規則正しい呼吸に揺れる身体と、とくに荒らされた様子もないことに短く息を吐き出した。

    「・・・・・・おい」
    「・・・・・・ン」
    「おい。起きろ、朝だ」

    深く、静かな声に閉ざされていた瞼がゆっくりと震え、気だるそうに起きた人影はその声にふわりと寝ぼけまなこで笑みを浮かべて見せた。

    「えんかく・・・・・・おかえり」
    「・・・・・・」
    「んー、もう予定の日だっけ?」
    「少し早まった」

    かつて製薬会社にあった二人は、艦が墜ちたあの日にその消息を絶った。
    満身創痍。
    息をしているのが不思議なほどの状態の二人がたどり着いた村がこの村だった。
    どうにか生活できるほどに回復したが、エンカクは左腕の自由を失い、かつて『ドクター』と呼ばれた人物はその身の半分近くに火傷の痕を残している。
    今ではトランスポーターのような生業をしているエンカクだったが、どこかで夜を越えてから戻ってくるつもりが彼の足は無意識のまま此処に向かっていた。
    その事実は告げる必要もなく。
    未だ寝台でゆらゆら動く頭を掴み。

    「ところで、俺が言ったことは忘れたわけではないだろうな?」
    「え、えっと・・・・・・」
    「飯を忘れず食え、それからきっちり薬を飲め、と。散々俺に言ってきたことがまさか守れていないと?」

    なぁ『ドクター』、と。
    かつて戦場に立ち、双剣をふるっていた男の圧が降り注ぐ。
    そういわれて、完全に忘れていた人物はぐっと言葉に詰まりながらノソノソと寝台から身を下した。
    実のところ書物を明け方まで読みふけり、つい先ほど「一人の寝台は心地いいなぁ」と言いながら横になったばかりなどとは言えず。
    エンカクへ「先に湯浴みでもしておいで。その間になんか軽く作っておくから」と送り出す。
    少々無精をしていたために直ぐに食べられるとすれば、粥をつくることぐらいか。
    鍋と米、水と塩を少々。
    それに村人からお裾分けしてもらった人参を細かく刻んで一緒に煮込む。
    煮込んでいる最中に風呂から戻ってきたエンカクが味付けにひと手間加えて、簡単な朝餉の出来上がり。
    二人向かい合わせ、小さなテーブルであっという間に食べ終えて、焔色の双眸がもの言いたげにドクターを見つめている。
    その視線に苦く笑みを返して、戸棚に入れていた錠剤を服薬した。
    飲んだよ、と示すようにベーと舌を見せれば、冷たい一瞥のあとエンカクは食べ終えた食器を片付け始める。
    片手では運ぶまではエンカクの担当。
    あとはドクターの役割となるために、エンカクはそのまま放り投げておいた荷物を解き始めた。

    「荷ほどきより先にひと眠りしてきたら?」
    「必要ない」
    「あーりーまーす。寝ないで帰ってきたんでしょ?」
    「そういうお前も、あまり寝てないのだろう」
    「そこを叩き起こしてくれた君が言うかなぁ」
    「うるさい」
    「ちょっ、わわっ!!」

    相変わらずやせ細った身体を抱き上げて、パタパタ騒ぐのを完全に無視をした。
    そのまま向かうのは先ほど出てきた寝室。
    長い足で器用に開け、そして閉めると寝台に押しやすように細い身体を寝かせる。

    「食べてすぐ横になるのも良くないですー」
    「・・・・・・」
    「・・・・・・えんかくくーん」
    「・・・・・・横にならなければいいのか?」

    深く、悪い笑みを浮かべて見せる男に一瞬固まり、呆れたように「寝て」と頬を軽く叩く。

    「寝て、起きて、ゆっくり今日という日を過ごしたあとなら」

    すきにして、と。
    言い逃げるようにエンカクへ背を向けてしまう『ドクター』であった人物の姿を眺めて、ゆっくりと眠りの中へそのみを委ねていった。
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