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    まさよし

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    まさよし

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    アサオズ 現パロです 孤児のアーサーを幼い頃から育てているオズ という感じです ハロウィンの話

     ハロウィンという行事については、アーサーも詳しくはないが知識として知っていた。しかし、自分には関係のないことだと思っていた。ハロウィンでは子どもが街を歩き大人にお菓子をねだり、それがもらえなければいたずらをするのだと、そう聞いていた。アーサーは今年高校に進学した。この歳で街を歩き目についた大人にお菓子を要求して回る、というのは微笑ましいお祭りごとではなく、通報待ったなしの迷惑行為だろう。お菓子をねだられる側にしても、近所に子どもはほとんど住んでいないからおそらく会うこと自体がない。つまりどちらにせよ、アーサーにとってハロウィンは自分とは無縁の行事だった。
     けれど、ハロウィン当日、クラスの女子生徒がアーサーにお菓子を要求してきた。例のまじないのような台詞を口にした女子は、すでに幾人かに声をかけたのだろう、手にお菓子の入ったビニール袋を提げている。アーサーは学校にお菓子を持ってきてなどいなかったので、それを正直に告げると、髪にヘアピンをつけられた。これがいたずらだと言う。そのあとすぐヘアピンは回収されたので、アーサーにとってハロウィンは女子から一瞬ヘアピンをつけられる行事となった。
     その時のアーサーの頭を占めていたのは、いたずらをされたことへの恥ずかしさや不快感ではなかった。ハロウィンは、子どもが大人に行う行事ではなかった。同級生間でも出来るものだったのだ。であれば、私がオズ様にお菓子をねだることだってじゅうぶん許される範囲のことではないか? 帰宅したあとアーサーはどきどきしながらオズの帰りを待った。少ししていつも通りの時間に帰ってきたオズに、同じくいつも通り接しながら、いつあれを言おうか、とアーサーはそわそわしてタイミングをうかがっていた。しかし、なかなか踏ん切りがつかないまま、気づけば寝る時間になってしまった。
    「あ、あの、オズ様」
    「どうした」
     このままでは日付が変わってしまう。ハロウィンは一年に一度しかないのだ。明日になればもう出来ない。そう思い、アーサーはやっと勇気を出してオズに声をかけた。子どものようなことをするな、みっともない、そうたしなめられてしまうだろうか。不安を覚えながらも、アーサーは例の言葉を口にした。
    「トリック・オア・トリート! ……です、オズ様!」
     不安と恥ずかしさの中で、アーサーはオズをしっかり見ていた。ガン見である。こういう時恥ずかしがってもじもじするから恥ずかしいのだ。逆に堂々と振舞った方がいい。そう思ったから、アーサーはオズをしっかり見ていた。ガン見である。
     しかしオズからの返事は一向に返ってこなかった。ただ、その顔には、この歳でこんなことをするなんて……、という軽蔑の色が見えなかったので、おそらく意味がわかっていないのだろうと思った。
    「あ、えっと、これはですね……」
    「知っている。菓子を渡さなければいたずらとやらをするのだろう」
     確かにオズ様はこんなことは知らないのかもしれない、と思いながら説明をしようとしたところ、やっと返事が返ってきた。その上でたしなめられないということは……これが俗に言う脈アリというものなのだろう、とアーサーは思った。アーサーは脈アリの意味をよく知らなかった。
    「はい! チョコレートやキャンディなど……他のものでも構いません、なにかお菓子のご準備はありますか?」
     アーサーはどきどきしながらオズからのお菓子を待った。オズは棚からなにかを取り出してアーサーに手渡した。
    「これでいいか」
     渡されたのはのど飴だった。
     アーサーは、これをお菓子と言っていいのか判断に困った。
     パッケージには咽頭痛に効くことが大きく表示されているだけで、味については一切言及されていない。代わりに、機能性表示食品と小さく書いてある。もちろん飴であることに変わりはないためキャンディと訳されることには間違いないが、法律の穴をかいくぐられたような気がしないでもない。五歳の子どもにこれをキャンディだと言って渡せば、舐めた瞬間泣きながらすねの辺りを殴ってくるだろうと予想出来る。だったらハロウィンのお菓子としては不適当だろう。
    「そ、そうですね……」
     しかし、アーサーはオズ相手におまえふざけるなよと言える立場でもないし、そもそもオズに汚い言葉を使うということ自体一切思いつかなかった。アーサーにとってのオズは敬愛すべき存在であり、オズに怒ることなどはじめから選択肢にないのだ。
    「駄目か」
     オズは特に悲しむわけでもなく、淡々とアーサーからのど飴を回収した。アーサーは、ではもしかして、いたずらを……? と一瞬思ったが、オズは今度は冷蔵庫からなにかを取り出した。
    「作ったものがある。見た目はよくないが……レシピ通りに作ったつもりだ」
     その言葉を聞いた瞬間、アーサーは大きく胸を高鳴らせた。信じられない思いだった。オズの手料理自体は珍しいものではない。未だに、休日にパンケーキを作ってもらうことだってある。しかし、こういった行事のために、特別なものを手作りしてもらうのははじめてだった。
     アーサーは、その皿が手渡されるほんの少しの時間に、これまでにないほど考えを巡らせた。手作りのお菓子といえば、やはりクッキーだろうか。チョコレートかもしれないし、もしかしたらケーキかもしれない。期待に胸を躍らせながら、とうとう皿を受け取った。
     そこにあったのはかぼちゃのミートパイだった。言われたとおり形は崩れているが、オズなりに努力したのだろうと見て取れた。オズ様の手作りのパイが食べられるなんて、とひとしきり感動したあと、アーサーは、これをお菓子と言っていいのか判断に迷った。
     ミートパイである。ミートがお菓子として扱われることはほとんどないだろう。かぼちゃがあるからお菓子かもしれないとも思ったが、ミートに比べるとお菓子寄りであるというだけで、野菜である。野菜がお菓子として扱われる例としてキャロットケーキなどが挙げられるが、キャロットケーキに使われるニンジンはケーキとして生きる道を選んでいる。このかぼちゃはミートパイに付属しており、お菓子として扱われようという気概がまるで感じられない。
     ハロウィンに出される食事としては満点だが、あくまでも食事としての満点である。たとえばピザやチキンでお祝いしたあとに食後のデザートとしてこれが出てきたら、九割の人間がツッコミ待ちであると考えるだろう。残りの一割も「この人、これをデザートだと思ってるんだ……世の中いろんな人がいるなぁ」と多様性として受け入れているだけなので、やはりお菓子として扱うのははばかられるというのがアーサーの答えだった。
    「そ、そうですね……」
     しかし、アーサーはオズ相手におまえ寝ぼけてんのかと言える立場でもないし、そもそもオズに怒ることが選択肢にないように、ツッコミを入れることも選択肢になかった。
    「駄目か」
     オズは特に悲しむわけでもなく、淡々とアーサーから皿を回収した。アーサーは、今度はなにが出てくるのだろうと思って待っていたが、オズがなにかを取りに行く様子はない。
    「あの、オズ様……?」
    「もうない」
    「え?」
    「菓子はもうない。いたずらをするといい」
     オズはなんでもないことのように言った。自分の用意したものがことごとくお菓子として扱われなかったことへの不満などは感じられない。早く寝なさい、と言う時と同じトーンでいたずらをしろと言っている。
     アーサーは戸惑っていた。困ったことに、いたずらを考えていなかった。
     というのも、この家にはいつも、いくつか、というか大量のお菓子が用意されていたからだ。アーサーはもうお菓子をねだることなどほとんどなくなったのに、オズはアーサーが小学生の時、それも低学年だった時の感覚で買ってくるからだ。食べ切るよりも補充されるスピードの方が早く、棚という棚にお菓子が詰め込まれてようやくオズは買うのをやめる。それをずっと繰り返していた。アーサーは、こんなことはやめた方がいいのは火を見るより明らかだが、それでもオズ様がこれを繰り返すのにはきっとなにか深い考えがあるのだろう……となにか進言することはなかった。オズは、アーサーはなにも言わないからこれで正しいのだろうと思っていた。ハイコンテクスト文化の悪い例であった。
     なので、オズがお菓子を用意出来ない、というのはアーサーにとって予想外の出来事だった。アーサーとしては、家にあったお菓子を適当にひとつ渡されて終わり、それでよかったのだ。ハロウィンというものをオズとやってみたい、形式だけでもいいからふたりでお祭りごとを楽しみたい、というだけだった。
    「……いえ、あるはずです!」
    「アーサー?」
    「このアーサー、オズ様のために必ずお菓子を見つけてみせます!」
    「アーサー……?」
     少し考えてみたが、やはりいたずらなど思いつかなかった。それに、もし思いついたとしても、それでは「オズがお菓子を用意出来なかった」ということになってしまう。オズ様にそんな恥をかかせるわけにはいかない! アーサーはそう思った。アーサーがお菓子をねだりアーサーがお菓子を見つける、マッチポンプ方式のハロウィンがここに誕生した。
    「オズ様、ビスケットがありました!」
     ほどなくして、アーサーは棚の奥からビスケットの箱を見つけ出した。さあ褒めてくださいと言わんばかりの笑顔を浮かべている。
    「そうか」
     しかし、オズは喜ばなかったし褒めなかった。そもそもオズがお菓子を欲しがったわけではない。アーサーが欲しがり、アーサーが見つけたのだ。オズは完全な第三者だった。
     アーサーはその反応を見て、ようやく冷静になった。一連の流れに、オズが一切関与していない。ふたりで楽しみたい、そう思って始めたことだったのに……。アーサーはビスケットの箱を棚に戻して、そろりと口を開いた。
    「あの、オズ様」
    「どうした」
    「その、やはり、いたずらをしてもよろしいでしょうか?」
     あらためて言うのも恥ずかしかったが、それでもアーサーは、オズとふたりでハロウィンを楽しんだ、そんな思い出がほしかった。けれど、今さらこんなことを言っても怒られるかもしれない。アーサーはそう思ったが、オズはその言葉を聞いて、怒るどころか一瞬微笑んだように見えた。
    「構わない。私も、おまえの考えるいたずらというものが、どんなものか知りたいと思っている」
     え、とアーサーは固まってしまった。私がどんないたずらをするか、オズ様が知りたいと思ってくださっている。そう思った瞬間、驚きのような、喜びのような、恥ずかしさのような……なんとも区別しがたい感情が心を埋めて、どう返事をしたらいいのかわからなかった。
    「……おまえは子どもの頃、よく私の靴を隠した。その時はどうしてそんないたずらをするのかと思っていたが……」
     アーサーがなにも言わないまま固まっているのを見て、オズはゆっくりと言葉を続けた。アーサーは、ただでさえ心がいっぱいなのに、その言葉のせいで忘れたいと思っていた過去の記憶までよみがえってきて、ますますどうしたらいいかわからなくなった。
    「今思うとあれはいたずらではなく、私が仕事で家を離れるのが嫌で、子どもなりに知恵を振り絞った結果だったのだろう」
     それを聞いて、アーサーの心を埋めていたものがすべて消え、代わりに「恥」の一文字がそこを埋め尽くした。図星だったからだ。幼い頃のアーサーは、靴がなければオズは外に出られないはずだと、だからずっと一緒にいてくれるはずだと思っていた。どうか忘れてください、と叫びたくなった。いっそ本当に叫んでしまおうかと本気で思った。しかし叫ぶ前に、オズがアーサーに歩み寄った。
    「おまえは、理由のないことは……いたずら、と呼べることはしなかった。少なくとも、私の目に映る範囲では」
     だから知りたい。そう言いながら、オズはアーサーの頭を撫でた。慈しむような優しい触れ方をされて、幼い頃によくこうしてもらっていたことを思い出して、アーサーはどうしてか泣きそうになった。それから、少し迷ったあと、意を決して話し出した。
    「……オズ様は気づいておられませんでしたが。ひとつだけ、していたことがあります」
     そう言って、アーサーは少し背伸びをして、オズの頬に口づけた。
    「本当にたまに、オズ様が私より先に眠ってしまった時……いつもこうしていました。理由のない、いたずらです」
     アーサーは言ったあと、うつむいてしまった。オズの顔を見るのが恥ずかしかった。そして、それと同じくらい、怖かった。なんだか、今ならなにをしても許される気がしてこんなことをしてしまったけれど、やめたほうがよかったのではないか。ああ、絶対にやめたほうがよかった。だってオズ様はなにも言ってくださらない。きっと、気持ちが悪いと思われているのだ。アーサーは、さっきまであんなに幸せな気持ちでいたのに、今は抱えきれないくらいの後悔の念がのしかかってきて、つぶされそうになっていた。
     うつむいているアーサーに、オズはようやく声をかけた。
    「……子どもが親に口づけることくらい、当たり前のことだ。いたずらではない」
     言いながら、オズはアーサーの頬を撫でて、少し迷ってから、かがんでそこに口づけた。アーサーは、はじめ、なにが起きているのかわからなかった。それから、なにが起こったのか理解した瞬間、思わずオズに抱きついていた。この歳になってこんなこと、と思わないわけではなかったが、そうせずにいられなかった。それからオズがアーサーの背を優しく撫でてくれて、アーサーはますますうれしくなって、顔のゆるみを止められなくなった。
     オズ様は、私を家族として受け入れてくださっていた! アーサーにとってそれは、テストで百点を取ることなどとは比べ物にならないほどうれしいことだった。
     孤児である自分を、どうして独り身のオズが育てているのか、アーサーは知らなかった。オズが教えなかったからだ。だからどこかで、なにか断れない事情があり、やむを得ず自分を育てているだけなのかもしれない、と思うことがあった。だが今、オズは確かに、アーサーを子どもだと、自分を親だと言った。これはまぎれもなく、家族だということだ。
     アーサーは思った。私はオズ様が好きだ。オズ様といろんなことがしたい。そうだ、家族という意味では、親子も夫婦も変わらないのでは? 私は、オズ様と親子だったのだ。だったら次は、オズ様と夫婦というものにもなってみたい!
     まともな人間が聞けばドン引きするであろう急展開だ。信じられない思考回路であるが、アーサーは本気だった。アーサーには常識がなかった。オズが教えなかったからだ。
    「では、これからもしてよいのですか?」
    「……?」
    「当たり前のことなのでしたら、これからも、毎日、毎晩、キスをしてもよろしいのですか?」
    「いや……それは子どもの頃の話で……」
    「ではもう、私を大人だと思っていらっしゃるのですか?」
    「あ、ああ、そうだ。おまえはもう立派な……」
    「では今、大人の私がキスをしても、オズ様は振り払わなかったのですね?」
    「アーサー? さっきからなにを言っている……?」
    「ではこれからは、大人として、いたずらではなく、オズ様とキスさせていただきます!」
     オズはなんと答えればいいのかわからなかった。そんなぴかぴかの笑顔で、させていただきます! と言い切られても困る。そもそも「では」とはどういうことだ。自分はなにを言っているのか聞いただけのはずだ。しかしその返事はなく、代わりに謎の決意表明が行われた。一体なにが起きている? オズは完全に困惑していた。けれど、その言葉を否定し、とがめるようなことはしなかった。
     アーサーの性格はわかっている。アーサーは、人を憎むことを知らない、美しい心の持ち主だ。自分の信じたことを信じ続けられる強さも持っている。しかし、自分とともに過ごしている時だけ、どこか遠慮がちだった。どうしてかと思っていたが、今ようやくその気持ちを知った。アーサーは、眠っている自分にこっそりと口づけるくらいに愛情に飢えていて、それを悪いことだと思うくらいに愛されている自覚がなかった。
     我が子のように可愛がっていたはずのアーサーをそんなふうに不安にさせていたことに、オズは罪悪感を覚えないわけではなかった。幼少期に甘えられなかった分を取り戻したいのだろう。子どものような存在とはいえ、この年齢の子に頬に口づけられるというのは気恥ずかしいが、気が済むまでやらせてやろう。オズはそう思った。

     その夜、アーサーは「夫婦 キス」で検索した。夫婦のキスは頬ではなく口にするものなのか。出掛けたり出迎えたりするたびにするのか……思っていたより回数が多いな。セックスをしている時はディープキスを……? そうか、夫婦は性行為もするのだな。性行為のやり方と、このディープキスというものもなんなのか調べておかねば。思っていたよりやることがたくさんあって大変そうだ。だが、オズ様からはもうお許しをいただいたから大丈夫だろう。これからはいっそう励まねば! アーサーはそう思った。アーサーは、自分の信じたことを信じ続けられる強さを持っていた。
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    Replies from the creator

    まさよし

    DOODLEオーカイ 現パロ 社会人してる
     日付が変わってもう小一時間経っている。予定通り進んでいれば今頃はとっくに家に帰ってベッドの中に入っているはずだったのに、現実の僕はほとんど通ったこともないような路上で寒さに震えそうになりながらゆっくり歩いている。原因は隣にいる酔っ払いで、ゆっくり歩いているのもこいつの歩幅に合わせているせいだ。
     カインのことはずっと前から気に入らなかった。第一印象から最悪だった。就活で神経をすり減らしたのだろう陰気な雰囲気の両隣のやつらと違って、まぶしいほどの笑顔で自己紹介を始めたときからずっと。実際に働き始めてからも、例の陰気そうな同期の連中に明るく声をかけて、初対面らしいのにあっという間に仲良くなっていた。先輩や上司からの印象も、ノリのいい元気な、仕事の飲み込みも早い将来有望な後輩、といったもので固まっているようだった。が、もちろん僕はそんな感情は抱いていなかった。僕はあいつに対して、弱みを見つけて壊してやりたい、その評価をなんとかしてどん底まで落としてやりたい、そんな気持ちしか持っていなかった。そのために面倒な仕事をめちゃくちゃな納期で押し付けても、あいつは、勉強になります、の一言で受け入れた。しかも僕の大嫌いなあの太陽みたいな笑顔すら浮かべているのだから最悪だった。
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