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    清(せい)

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    清(せい)

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    タル鍾ワンドロワンライ 「手紙」のときに書いたものです。

    #タル鍾
    gongzhong

    手紙文字を書き連ねては、丸めて捨てた。
    また別の単語を並べて、結局くしゃくしゃと丸めて、捨てた。
    何枚無駄にしただろう。
    紙は貴重で、そう簡単にくしゃくしゃと丸めて捨てれるものではないのだが、最近凡人になったばかりのその男は、ものは使えばなくなるという感覚がいまいち掴めていない。


    目の前の紙きれに向いていた視線が宙に向かう。
    何かを見ている訳では無い。


    その頭の中ではたくさんの単語が引き出しから取り出され、これは違う、これも違うと、言葉が散らかっていた。



    あの明るい髪の恋人に
    何かを伝えたい


    そう思ったのに。




    この気持ちはなんだろうと、筆を持った手は止まったまま。



    あいしてる? そうだけど、何かが違う。
    ありがとう? …それだけでもない。
    ごめん? いやいや、ちがうな、これは。


    引き出しは少なくないと自負していたのに
    あれこれ考えてみても 何かが足りないし、
    言葉を並べれば並べるほど
    何だか嘘っぽくて、何も書けない。






    はぁ、と小さくため息をついて
    何も書かれていない紙をもって部屋を出た。






    この気持ちはなんだろう。
    どうして言葉にできないんだろう。





    そんなことを考えながら夜の街を歩く。
    ほんの少しだけ港から漂ってくる湿った空気が、
    夜の風に冷やされて少し肌寒い。





    そこに、想い人がこちらに向かってくるのが見えた。
    仕事終わりだろうか。
    彼もこちらに気づいて、小さく手を挙げた。




    「やあ、先生。こんな時間に出歩いてどうしたの?」

    「公子殿を探していた。」

    「ん?何かあった?」

    「手紙を…」

    「手紙?」




    おずおずと紙切れを差し出す。

    受け取ったタルタリヤは表と裏を確認して
    どちらもまっさらなただの紙切れに
    頭上にはてなを浮かべた。



    「何かを伝えたくて、手紙を書こうとしたが
    言葉に出来なかったんだ。」





    心の中を全部透かして、見せられたらいいのに。




    「あはは、鍾離先生でもそんなことあるんだね。」

    「こんなことは初めてだ。」

    「そっか。何も書かれてないけど、嬉しいよ。ありがとう。」



    「…公子殿」



    小さく呟いて
    両頬に手を添える。


    引き寄せた彼の唇に、呼吸を止めて、数秒間。
    自分のそれを重ねてゆっくりと離れた。





    不安げな顔で、小首をかしげて問う鍾離。


    「………伝わったか?」

    「せんせ」


    充分伝わったよ


    優しい表情で微笑むタルタリヤに
    腰を抱かれて今度は自分が引き寄せられる


    言葉に出来ないこの気持ちも
    触れ合った部分からじわじわと
    溶けて混ざり合うように伝っていく気がした。

    きっと、自分も彼も、
    同じ気持ちなのだと、そう思う。

    夜の街の真ん中で
    寄り添う2人を月だけが見ていた。
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