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    mikan_hero11

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    mikan_hero11

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    オフの日を過ごす二人
    プロポーズをする話

    「何を作っているんだ?」
     後ろから覗き込むように、キースの手元を見る。その手には包丁と、まな板の上には様々な野菜が並べられていた。
     久しぶりにあわせたキースとのオフ。いつもはどこかに行くことが多いが、たまにはこんな日があってもいいだろう、と1日何もせずだらだらと過ごした。ちょっと散歩したり、映画を見たり、ただ話していたり。忙しい日々の合間、穏やかな時間を過ごした。そんな時間も終わりに近づく、外の日は傾き、遠い空が紫に色づき始めていた。
    「ん~?豚汁でも作ろうと思ってな」
    「豚汁か!」
     それを聞いて改めて野菜を見れば、大根や人参、ねぎなど、それからみなれないものも。
    「それは?」
     気になるものを指す。キースは緩やかに、指を指した方向に視線を向けた。
    「これはな~、サトイモ」
    「サトイモ?」
     つるんと、歪な楕円のような形をしたもの。サトイモ、名前を聞いたことはあるが食べたことはまだない。今から食べるのが楽しみだ。
    「この前、飲み屋でよく会うおっさんにパトロール中に会ってよ、何でもサトイモを作りすぎたからもらってくれって、断り切れなくてもらっちまった。今度会ったら酒の一杯でもおごってやんねえとな」
     言って、楽しそうに笑う。こんな笑顔を自分以外がさせていることに少しの嫉妬をする。自分はいつから嫉妬深くなってしまったのか。
    「そうか…、ご飯を作るなら俺も手伝う、何をしたらいい?」
    「そうだな…、とりあえず人参の皮でも剥いてくれ」
    「わかった」
     ほい、とピーラーと人参を渡される。それを受け取って、キースの隣に立つ。静かに、スッスッと皮を剥く。横からはトントンと、リズミカルに切る音が聞こえる。特に会話もなく、静かな時間、道具が出す音が絶え間なく響くだけ。材料を切って、炒めて、煮込む。その間に、キースはもう一品作ると言って、料理をする手を動かす。俺はテーブルを片付けつつ、食器の準備をする。くつくつと心地良い音に、おいしそうなにおいがし始める。においにつられて鍋の方を見ると、キースにちょいちょいと招かれて、素直に近づく。その手にはおたまと、小皿。
    「ブラッド、味みてくれ」
     渡された小皿には、淡く色のついた汁が入っていた。それを飲むと、口に優しい風味が広がる。ほっ、と息が出る。
    「うまい」
    「うし、じゃあこれで完成~っと」
    「もう食べるか?」
    「他のおかずもできてるし、出来たてのがうまいだろ」
    「そうだな、じゃあ早く食べるぞ、準備は出来ている!」
     言った瞬間、キースがふは、と笑う。自分でも、はやる気持ちが表に出ていたとわかるが、笑うほどでもないだろう、そう思ってムッとする。顔で不満を訴える。
    「悪かったって、ほら飯食うんだろ?準備しようぜ」
     ポンポンと頭を撫でられる。それで許してしまう自分の単純さに呆れてしまう。全部キースの方が悪いと、キースのせいにする。
    「ぶえっくしゅ!」
     タイミングを見計らったかのようにキースが目の前でくしゃみをする。それで少し気分をよくなる。全部キースが悪いからな。
     よそわれた料理がテーブルに並ぶ。本日のメニューは、ご飯、チキン南蛮、ほうれん草のごま和え、豚汁。珍しくビールがない。
    「キース、ビールはいいのか?」
    「あ~、今日はいいや」
     少しぎこちなくキースは答える。不審に思って、声を掛ける前にキースの言葉が続いた。
    「ほら、さっさと食おうぜ、料理が冷めるぞ」
    「あ、ああ」
     キースに急かされるように手を合わせる。
    「いただきます」
    「いただきます」
     いつもの挨拶をして、箸を持つ。最初に豚汁を飲む。体に染みる温かさに心が落ち着く。楽しみにしていたサトイモは思っていたよりも熱く、口に入れたときに内心慌てた。しかし、それよりも溶けるような食感と味がおいしい。熱くておいしい。
    「うまいな、サトイモも上手い。」
    「お~、よかったよかった、おっさんに伝えとくよ」
     キースはまるで俺の感想を待っていたかのように、一言感想を告げてから箸を持った。先ほどから何度もひっかかりながらも、自分の食欲に負けて、そっとする。次にチキン南蛮を食べれば、ザクリといい音がする。甘酸っぱいタレに、タルタルソースが絡まって、箸が進む。タルタルは大きめの卵が入っていて、食べ応えがある。
    「このタルタルソースうまいな」
    「だろ~?」
     嬉しそうに笑うキースに胸が鳴る。こういうところで、俺は、また、キースが好きなのだと、再認識する。
     ご飯を食べて、茶碗が空になってきた頃、キースがそわそわとし出す。その様子にさすがに疑問を投げる。
    「どうした?今日はずいぶん落ち着かないようだが」
    「あー、っと、えーと」
     歯切れの悪い返事に、視線はさ迷っている。煮え切らない態度に堪えきれずに、少し強い口調が出る。
    「はっきりしたらどうだ?」
    「あーっと、ブラッド…さん」
     キースはさ迷っていた視線をこちらに向ける。吸い込まれそうな緑が、まるで俺を捕らえるように、見ている。
    「何故敬語なんだ」
    「その、ですね、」
     言うことをためらってるのか、いつまでもはっきりしない態度をとる。そう思っていたら、いきなり目の前に箱が差し出される。
    「…なんだ?」
    「あー…開けてみてくれ」
     言われたまま差し出された箱を開ける。そこにはきらりと光る銀のリング。それが意味することを知らないわけではない。
    「ブラッド、」
    呼ばれて顔を上げる。そこには顔を真っ赤にしたキース。
    「オレと、結婚してくれ」
     まっすぐと、目が、俺を見てくる。今自分がどんな、どんな顔をしているか分からない。心臓はさっきからずっとうるさい。時の流れが遅く感じて、口が渇く。
    「…キース」
     絞り出してキースの名を呼ぶ。
    「…はい」
     キースがか細い声で返事する。
    「毎日、何か作ってくれるか」
     素直になれなくて、ちゃんとした返事を返せない。キースも想定外らしく、驚いた反応をする。それから、ふっと表情をゆるめる。
    「ああ、作ってやるよ」
    「では、貴様と結婚してやる」
     また素直になれない返事。精一杯の照れ隠し。キースは声を出して笑う。
    「こんな時まで素直になれないとは、難しい性格だな」
    「…うるさい、悪かったな」
    「悪かねえよ、そういうところを含めてお前を好きになったんだからな」
    「っ、」
     真正面から投げられた行為に言葉が出ない。きっと今、俺の顔は赤くなっている。それに気分を良くしたのか、キースの口は弧を描いている。それから、もう一度、真面目な顔になる。
    「じゃあ、改めて言うぞ、ブラッド、今度はちゃんと答えてくれよ」
     それに返事は出来なかった。心臓がずっと爆発しそうなほどうるさいんだ。
    「ブラッド、オレと結婚してくれるか?毎日うまいの作ってやるからよ」
     ひどく緊張している。口は上手く動かないけれど、
    「もちろんだ、これからも末永くよろしく頼む」
     返事を返す。一瞬の沈黙の後、どちらからともなく笑う。忙しい日々の、ほんの少しの幸せの時間。これからもずっと一緒に。
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    Replies from the creator

    mikan_hero11

    DONEご飯キスブラ開催おめでとうございます!
    キースが作ったり、ブラッドが作ったりして、それを食べている話。自分の書きたいままに書いているため、寄り道をたくさんしています、ズレがあるかもしれませんが、頭を空っぽにして読んでください。
    どうでもいいと思いますが、料理に関しての持論は目分量でも案外何とかなるです。
    作る理由は ブラッドとオフが被った。運良く重なったのか、ブラッドがこっそり調整したのかは分からないが、いずれにしろオフが重なるのは本当に久しぶりだった。いや、実際には何度か被ってはいたが、緊急出動なり、もともと被っていたがどちらかが急に仕事だの用事だのと神様にいたずらにもてあそばれていた。
    そんなわけで、オフが重なっている日の1週間くらい前からオレはらしくなく、ティーン顔負けなほどにそわそわしていた。ジュニアからは気持ち悪い、フェイスからは変な物でも食べた?と、ディノからは通常運転ラブアンドピースと言われた。ルーキーからの扱いがいささかひどくないか?という言葉はぐっと飲み込んでおく。さらにこの1週間は、さながらブラッドのご機嫌取りでもするかのように非常に真面目に職務に取り込んだ。変なことでオフの時間を侵食されてはかなわないからな。そんなオレにブラッドは、頑張っているなとか、そんな労いの言葉がないどころか、変な物でも食べたか?と。兄弟はこういうところでも似るんだと変に感心してしまった。そんなこんなで、オレはブラッドとのオフを誰にも邪魔されずに過ごすため、あくせく働き、謎に禁酒までしていた。オフの前々日には、ジュニアに本気の心配をされた。それくらい、自覚はあったがいつもと様子が違っていたらしい。
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