雨天決行 エーテルが揺らぎ、周囲の景色が揺らぐ。
地脈とエーテライトを用いた転移が正常に行われた感覚だ。
目的地であるその街を表す極彩色が見え――次いで、空に開けた天井から強風で叩きつけられる大粒の雫の感触が、エメトセルクの顔面を襲った。
「あ~、降られちゃった。天気予報聞いてくればよかった~」
哀れっぽいがどこかのんきな声が、傍らのかなり低い位置から聞こえた。
見ればミコッテの娘は耳を伏せて目元に両手を掲げ、大して役に立ちそうもない庇を作って流れの早い雲を見上げている。
そうこうしているうちに全身濡れ鼠になりつつあった。最早ため息をつく間も惜しい。
いつもの旅装ではなく、薄い織物を羽織った娘の肩を抱くような格好で促しながら、エーテライト・プラザから最寄りの路地に駆け込んだ。
「まったく、天気の確認など行軍の基本だろうに……」
「行軍じゃないもん。でもうっかりしてたや、浮かれてたみたい……あ、待って」
娘から待ったがかかり、エメトセルクは濡れた衣服や髪を手っ取り早く乾かしてしまおうと掲げた指を止めた。
何故だ、路地の陰に人目は無いし、こんな不快な状態はさっさと解決してしまったほうがいいだろうに。そう思って片眉を上げた表情に、いたずらっぽく、少しの照れまじりに娘は笑い返した。
「とってあるんだ、宿。太守様がいつでも使っていいって言ってくれてるとこもあるんだけど、今日はちょっと、特別なとこ。せっかくだからさ、一緒にお風呂入ろ」
「構わないが……後の予定は大丈夫なのか」
何くれとなく飛び回っていることのほうが多い彼女のことだ。この急なサベネア行きに伴われたことも、何か厄介ごとの前兆で、もしも素直に頼ってくるのであれば、多少、ほんの少し、永年の知見からくる意見を述べるくらいはしてやらんでもないと思っていたのだが。
「うん、大丈夫。後の予定、デートだから」
「は?」
「ラザハンでね、デート。きみと、したいなって」
ダメ?
上目遣いにほのかな色すらのせて、そんなおねだりの仕方をいつの間に覚えたというのだろう。南国の雨粒で、しっとりと指に吸い付く薄物の感触が、徐々に彼女の体温を伝えてきている。
返事代わりに彼女の肩を抱き直し、行き先を手短に問うた。
断る理由は、あるはずもない。