「前、よろしいかな」
仕事終わりのエールのジョッキを傾けていた男は顔を上げた。
声をかけてきたのは、ミルクティー色の、淡い茶髪の男だ。その隣には、大人しそうな顔をした、黒髪の男がいる。2人連れのようだ。
「席がなくて」
「ええ、どうぞ」
いかにも困ったように言う茶髪に、にこやかに微笑んで、前の席を促す。
この時間はどこも混雑している。相席になっても致し方ないだろう。
茶髪と黒髪は丁寧に礼を言うと、いそいそと席につき、やがてやってきたメイドにドリンクを注文していた。
男はジョッキ越しに彼らを観察する。
2人とも、同じ神殿騎士団になれば誰もが支給される、簡素なローブを着ている。が、見たことのない顔だった。一応、皇都に配属されている神殿騎士団員は、実戦に出ない聖職者を含めて全員1度は顔を合わせているはずだが、見落としていたようだ。
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