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    なまたまご

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    なまたまご

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    ラノベ作家大倶利伽羅さんと家事代行にょたんばちゃん②メイド襲来編です。
    注:大倶利伽羅さんがダサい、結構喋る。
    この話の元ネタはますおさんによるものです!

    山姥切国広という女は、大食らいだった。金がない、と言っていたからよほど切り詰めた生活でもしているんだろう。コンビニでおにぎりを買ってやって、それを食べた後にも関わらず、あまりに食いっぷりがいいから、俺は無意識に何度も追加注文をした。焼売、八宝菜、フカヒレのスープ、エビチリ、小龍包。色取り取りの料理が白米と共に山姥切へ吸い込まれていく様は鮮やかで、翌日の朝でも鮮明に思い出される。
     俺は目をまだ寝ぼけている目を細めながら、フライパンの上の卵を裏返した。朝食には卵焼き、と決めている。実際にはもう11時をすぎているから、昼飯と言った方が正しいだろう。洒落た言葉で言うなら、ブランチと言う奴か。表層だけ撫でたような気取った物事は性に合わない。砂糖と醤油が合わさった柔らかな匂いを胸いっぱいに吸い込み、俺は微睡むような心地に浸った。幸せにもし匂いがあるなら、多分こんな匂いだろうなと幼い頃に思ったことがある。それこそ山姥切は、料理を一口ごとにさぞ美味そうに、幸せそうに食うから、思わずつられて笑みが浮かんでしまった。しかし最後にデザートの杏仁豆腐を注文した頃には、手元に500円玉が二つ残るだけで、俺はそれを少し不憫に思った。山姥切の手元に少しでも多く金が残るようにしてやるつもりだったのだ。けれど会計の時に残金を見た山姥切は特に悲しそうな素振りは見せなかった。俺は安アパートに住んでいるが、金に余程困っている、という訳ではない。だから、俺の金で鶴丸の手当ての補填をしようと思ったのだが山姥切はそれに首を横に振るばかりだった。本人がいいと言うのだから、俺が押し切るのもおかしな話だ。それ故に俺は金のことはそれで終わりにして、あいつをあいつのアパート先まで送った。しかしそれで本当によかったのか、未だにはっきりとしない。
     俺はフライパンの表面と卵焼きとの間に箸を入れた。皿の上へ湯気を纏う卵焼きを移し、ほのかな蒸気へと顔を突っ込む。その後雨に濡れた犬のように顔を振ると、皿を手にして机のある部屋へ向かった。



    飯を食いながらパソコンのキーを叩くのはもはや日常になっていた。一人暮らしの俺に、行儀についての小言を言う奴はいない。大学の講義で一緒になる友人の一人に、実家から通学している奴がいて、そいつはしょっちゅう食事中にスマホを触っていると喧しく言われると愚痴を溢していたのを思い出す。それはそれで幸せなことであると俺は思ったけれど、言わないでおいた。生い立ちに同情されるのはごめんだ。それはともかく、俺は一人暮らしに孤独を感じていたわけではない。何にも縛られないこの生活は、ずっと変わらず充実していた。だからその日常に特に変化は求めていなかった…のだけれど、出会いはラノベのように突然訪れるらしい。あの女が俺の部屋へ来るのは一体いつからなのか。鶴丸は俺に家事代行サービスの社員との顔合わせの日程しか告げていなかった。俺は俺でその日に詳しい話を聞く物だと思っていたので、追求はしなかったのだが、昨日そういった話は全く出て来なかった。俺から鶴丸に聞くのも何だか癪で、そうすることもできない。俺は箸を皿の上に置いた。早いところ、洗い物が自動化されて欲しい。欠伸をしながら、準備運動がてらに恋愛描写を書き殴っていた手を止める。部屋の外で来客の足音を聞いたからだ。平日の午後12:00目前、こんな日時にのこのこやってくるバカなセールスはあまり居ない。いや、俺は未だに大学生だと思われているのか。何年生になると思っている。大学10年生か?笑わせてくれる。インターホンが鳴らされて、俺は仕方なく立ち上がった。ドアを開けた先にいる奴が、もしセールスなら俺は大学10年生の無職だと告げよう。或いは怪しい宗教の勧誘ならば、神は死んだと告げるのだ。この世に神がいるなら、俺はラノベ作家になる前から人生をやり直させてもらいたい。転生するのだ、ラノベ作家らしくな。俺は農家にでもなりたい。萌え萌えだの、美少女ハーレムだの、ラッキースケベだの、馬鹿馬鹿しい。それでも就活をして日々満員電車に揺られるよりはマシだと思ってしまった。今でもそう思う。ドアを開けると、そこに立っていたのは哀れな信者でもなく、馬鹿なセールスマンでもない、二次元から飛び出して来たような、ミニスカメイド美少女だった。
    「お邪魔する、カラチャン先生。」
    「……。」
    意味がわからない。俺は頭から爪先まで須くフリルとリボンに塗れた金髪碧眼の女を言葉もなくただ見下ろした。国民的猫型ロボットが所持している、物体を大きくする便利なライトをフランス人形にでも照射したのか。
    「ああ、ええと。挨拶が必要だったか?おはようございます、カラチャン先生。俺は本日より配属された山姥切国広。得意料理は…」
    俺は頭を抱えた。
    「まず部屋に入れ。」
    「承知した。」
    俺は好き好んでラノベ作家になった訳ではない。愛読書はニーチェの「ツァラトゥストラ」、アニメや漫画に元々興味はなく、職業柄仕方なく編集に言われて半ば嫌々見ているだけで、娯楽というより作業で”萌え“と美少女に触れている。そもそも言ってしまえば、俺は”萌え“という概念が何を指すのかすら未だに理解していない。その俺がラノベ作家になったことは罪だと言うのか。この世にはラノベ作家とかいうものに、成りたくて成りたくて仕方がない人間がそこそこいる。そいつらを押し退けてその座についた俺を、そうなれなかった屍たちが呪っているとでも言うのか。俺に突如降りかかったとてつもなく面倒くさそうな厄介ごとは、それの精算だとでも言うのか。玄関の扉を閉めた音は心なしか、独房のそれを閉めたかのような重々しい音に聞こえた。



    「それで?何だその格好は。」
    俺と山姥切は昨日と同じして机を挟んで向かい合っていた。目のやり場に困って、俺は僅かな挙動だけで揺れる山姥切のアホ毛に注視した。昨日も思たが、幼い顔立ちの割に胸がやたらと発達しているので下心はなくともつい目線がそちらへ行ってしまう。スーツによって、その豊満さは幾分か抑えられていたらしく、今日はその制御がないからか、はち切れんばかりにその広大さを主張していた。
    「何とは…制服だが。」
    「ふざけたことを…。」
    以前あいつに見せられたサービスの紹介に、こんな服を着た社員はいなかった。制服と言えば、簡素なエプロンに家事代行会社の社名『つるの手』がプリントされているだけだったはずだ。
    「…ああ、社長はこの制服を見てカラチャン先生は驚くかもしれんはっはっは、と言っていた。」
    何もかも、考えるのも面倒くさい。
    「来年から制服チェンジオプションというサービスを付け加える予定らしい。この制服はその候補だそうだ。カラチャン先生には事前モニターとしてその開発を手伝って貰うのだと…社長が言っていた。」
    そんなもの、聞いていない。何処からどこまでが本当なのか。俺が小学生五年生の頃、あいつが何の仕事をしているのか聞いたことがある。あいつはインド像の調教や、サンタクロースの斡旋、空飛ぶ魔法の絨毯を売っているのだと真剣に話した。当然、俺はあいつへの信用を失くしただけで終わった。
    「…というか、カラチャン先生はやめろと言ったはずだが。」
    「ふむ。社長が、カラチャン先生がやめろと言ったことは大体、本当はそうして欲しいことだから、やめずにそうしてやるのがいいぞウインク、星マークと言っていたが。」
    「……。」
    鶴丸の人をおちょくった態度には慣れているが、山姥切のそれは何処となく鶴丸と異なっている。平然とした顔で出された茶を啜るメイド服の女に、俺は眉根を寄せた。
    「もういい、それであんたは今日何時までいるんだ。」
    「俺は19:00までいる。今はまだ使えないが、研修が開ければ21:00まで深夜料金で延長可能だ。」
    「…は。」
    鶴丸がグレーな事業にも加担しているのは知っていた。だが、家事代行のサービスと風俗とを混同するのは、時代柄咎められるべきではないのか。
    「カラチャン先生専用コースらしい。」
    「…フン、馬鹿らしい。」
    鶴丸の冗談をこいつが間に受けただけだろう。そうだとは思うが、後から確認しておく必要がある。
    「あんたさっき研修がどうのと言っていたが…。」
    「ああ、本社で研修を受ける日とカラチャン先生のアパートで仕事をする日がある。カラチャン先生のところに来るのは週3日だ。研修は1ヶ月あるが、それが終われば週5にも替えて頂ける。よろしくどうぞ。」
    週3、火木金で人を寄越して欲しい。そう鶴丸に頼んだのは確かに俺だった。パソコンのモニターを見て、今日が火曜日だったことを知る。なるほど、自分が言い出したことならば文句もつけられまい。
    「…考えておこう。」
    山姥切は何かいいものでも見つけたとでも言うように、微笑んだ。愛想笑の一つもない奴だと思っていたが、笑うこともあるらしい。その笑顔を見た時、また胸に不思議な温かさが湧いた。これは、一体何なのだろう。
    「では、カラチャン先生。俺はまず、湯呑みとそちらの朝食だったらしき皿を洗うとする。その後は昼飯を作るつもりだが、希望はあるだろうか。時間指定もあれば承る。」
    無遠慮にこちらへ歩み寄ってきた山姥切に俺は後退りした。一歩踏み出す度に揺れる乳が眼前まで迫り、その何たる恐ろしいことか。何のためにこのような侵略が行われたのかと思えば、山姥切は俺が朝食に使った茶碗や皿を手にしていた。こいつは…本当に何なのだろう。
    「…焼きそばが、食いたい。13:00過ぎに食えたら、有難い。」
    「承知した。」
    山姥切はアホ毛を左右に揺らすと、奥の簡素なキッチンへと消えた。なぜ焼きそば食いたいと言ったのかわからない。人に作ってもらうなら、焼きそばがいいと思った。国永は、俺が幼い頃珍しく家にいる時、昼飯に焼きそばを作ってくれた。その頃から俺はあいつに疑念を持っていたが、子供心ながら嬉しかった。それをふと思い出したのかもしれない。俺は皿が洗われる流水音を聞きながら、パソコンに向かい、エンターキーを叩いた。



    皿が洗われる音はすぐに食材を切る音に変わった。小気味のいいそれを聞きながら、パソコンに文章を打ち込む。もう何年も一人で居たから、同じ空間に誰かが居られるのはもう少し違和感を感じるものかと懸念していた。しかし案外その心配は無用だったらしい。フライパンの上で食材が焼ける音、食欲をそそるソースの匂い、それらを感じながらモノを書くのは存在心地いい。あんなにも億劫だったご都合展開の恋愛も今ならいいものが書けるかもしれない。
    『風にスカートが捲られて、薄桃色の生地が露わになる。いかにも少女の好みそうな小花の柄、そこの下腹部にはフリルがあしらわれていて…』
    これは所謂パンチラのシーンだが、この描写ではやや固いだろうか。俺はふと思い立って、パソコンのキーを打つ手を止めた。男が喜ぶといった表現が、男ならわかるだろう、そんな風に編集に諭された。深く考える必要はない、ただそれを書けばいいのだという彼なりの励ましだったのだろう。しかし、俺にそれが分かっているなら今まで苦労はしていない。性欲がないとは決して言わないが、あれもこれもと無駄に夢を見たりはしない。…いや、俺に今交際している或いは交際したい女がいないからそうなのか?
    ふとパソコンのモニター越しの視界に、妙な動くものが映った。不思議に思い、よくよく見てみると、そこにあるまじきものが映った。女の尻、いやパンツである。
    「っな!」
    俺は思わずパソコンをぶっ叩きながら机に身を乗り出してしまった。
    「む。どうしたカラチャン先生。」
    不埒な尻の主、山姥切国広は俺を振り返りもせずに、我儘放題な尻をぷりぷり振るっているだけだ。
    「どうしただと…!?お、お前…。」
    怒りのあまり声が震えてしまう。むっちりと肉付きのいい尻は、純白の生地を飽食し、尻が下着を履いているのか下着を尻が履いているのかわからない。尾骶骨に当るであろう位置で、無意味なスカートの裾がちらちらと尻の上へ被さったり、反対に上へ持ち上げられたりしていた。まるでその動きは、こちらを誘って、苛つかせるような有様だ。そこまで考えてから、俺は慌てて顔を逸らした。
    「その、見え…お前は何をしている。」
    「何って…飯を作り終わったから掃除でもしようかと。手始めにここらにかかっている洗濯物を片付けようかと思い、」
    出来るだけ山姥切を見ないように其方を向くと、確かに山姥切の先には洗濯物があった。俺ですら腕を少し伸ばして掛けたから、山姥切にしたら相当高い位置になるだろう。それで…尻を無闇矢鱈に露出していたのか。
    「そこは…後で俺がやって置く。」
    「ふむ…。なら他にやるべきことはあるだろうか。」
    「いいから、ちょこまか動くな。」
    「しかし…仕事をしなければ、タダ飯食らいになってしまう。」
    「…いいと言っている。少し大人しくしていろ。昼飯を食ったらあんたにさせることを考える。」
    「?…ああ、わかった。」
    山姥切はようやくむちむちとうるさい尻をスカートの中に閉まった。俺はなぜだか無性に疲れて、暫し頭を抱えた。パソコンのモニターは無常にもスリープモードへ入り、暗くなったスクリーンには頬の色が未だ赤い男の顔が映った。萎える、女に振り回された自分の顔を見せられるのは。俺は焦ってマウスを掻き回し、モニターをがむしゃらに起動させた。何も知らない山姥切は、あいつの定位置になったのか、俺が座る向かいへと座った。こいつのいる前でパンチラがどうの、胸がどうの、と書かなければならないのか…。前言撤回しよう、やはり他人が部屋に居るのはかなり落ち着かない。かなり、とてつもなく、言い表わしようもないくらいに、だ。
    「カラチャン先生、俺のパンツ見たか。」
    「はっ…!?」
    「別にパンツくらい減るもんでもない。」
    「何…を、」
    「気にしなくていい。まあ、いずれ慣れる。」
    慣れて堪るものか。何だ、何なのだこの女は。俺は俺の目の前で体育座りをする無表情なメイド服の女を訝しげに見た。
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    なまたまご

    TRAININGラノベ作家大倶利伽羅先生と家事代行にょたんばちゃの話2ndシーズンドキドキ温泉旅行編
    序です。

    ※この話はますおさんによる設定をもとにした三次創作です。
    山姥切と初めて会った日、鶴丸は山姥切を俺に舞い降りた天使だと形容した。今となって考えると、それもあながち間違いではなかったかもしれない。

        ◇

     山姥切と出会ってから気づけば2年ほど経っていた。俺の初めてのヒット作、『俺ん家のエロすぎる無表情エルフメイドをどうにかしてくれないか』通称えるどうはアニメ化が決まった。毎度頭を悩ませられるお色気や、恋愛要素を増やしたことが功を奏したのだ。巻数は8巻に届き、発行部数も伸びて毎月の貯金額が少しだけ増えた。全ては順調、なのだろう。そう全く思えないのは2年もこの女と居るというのに、いつまでも振り回されているままであるからだ。それは恐らく…俺がこの女に好意を抱いているらしいと自覚したからという原因も関係しているだろう。誠に遺憾である。しかし、だから何だというのだ。俺はそれをあいつに告げる気はなかった。言ってどうなる?あの女が作る飯は嫌いじゃない。あの女がただこの部屋にいる時間がもはや当たり前だ。無闇にそれを壊すくらいなら、何もしないほうがいい。
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