「…その全部だ。」 ──これで最後だから教えてやろう。
この花を見て俺は幼い日に聞いたあいつの言葉を思い出したのだ。
毒を飲まされ意識が朦朧とした中で聞いた言葉を俺はずっと幻だと思っていた。カルデアに来るまでは。
「とっとと用件を話して帰れ」
そう吐き捨てるドゥリーヨダナの部屋は豪華な調度品で溢れている。カルナとアシュヴァッターマンを下がらせ、ソファでくつろいでいるドゥリーヨダナを俺は見下ろしていた。
「姫君は憎いから、音楽家は運命だから、戦乙女は英雄だから。──お前はなんで俺を殺そうとするんだ?」
「…そんなもの。おまえが邪魔だからに決まっている」
うそぶいたドゥリーヨダナに俺は匿名で贈られてきた白い花を突きつけた。
故郷ではどこにでも咲いている八重咲きの花だ。
「おまえが贈ったんだろう?」
「知らん。証拠はあるのか?」
しらを切るドゥリーヨダナに俺は黙ってその花の細い茎を折った。滲み出る白い液を舐め取る。
「ばっ!!」
ソファから立ちがりかけたドゥリーヨダナはすぐに俺のスキルを思い出して腰を下ろした。
「おまえが、俺に飲ませた毒と同じ味だ」
この花は美しい見た目に反して、いや、だからこそ毒がある。
「それがどうした?」
「毒の花を贈るのは殺意だろう?カルデアで俺を殺したいのはお前しかいねぇ」
俺の言い分にドゥリーヨダナは一瞬紫の目を見開いた。幼い印象のそれはすぐに悪辣な笑みに沈んでしまう。
「お前は毒では死なんだろうが」
「そうだな。もう毒では死ねねぇな」
俺の微妙な言い回しにドゥリーヨダナがわずかに目を眇めた。
「改めて聞くが。姫君と音楽家と戦乙女が殺したい相手の事をなんと言うか知っているか?」
答えに思い至ったドゥリーヨダナが顔色を変える。
「この花を見て思い出した。昔、俺がお前の毒に倒れた時。お前は言ったよな」
「黙れ!」
勢いよく立ち上がったドゥリーヨダナが俺に掴みかかる。
その手を逆に掴んで、俺はあの言葉を告げた。
『──これで最後だから教えてやろう。俺はお前を愛しているぞ。ビーマセーナ』
愛しているなら何故殺そうとするのか。
それが分からず俺はずっとあの言葉を幻だと思っていた。
だけど、カルデアで出会った姫君が音楽家が戦乙女が謳うのだ。
──愛しているから殺したい、と。
「憎いから、運命だから、英雄だから。──おまえはそのどれで俺を殺したいんだ?」
ドゥリーヨダナの表情が歪む。折れた白い花は床に落ちて、呻くような声が告白した。