アシュくんに花が降る話 フィナーレは高らかに。
人理修復を終えたカルデアの記録を英霊の座で受け取ったアシュヴァッターマンは微笑んだ。
喚ばれる度に応えるのは、人理を守るという意思の他にあの人に会えるかもしれないというかすかな希望があったから。その願いが果たされたカルデアでの記録をアシュヴァッターマンは広げる。
──カルデアに召喚されたドゥリーヨダナに出会った時の驚きを。
──生前のように受け入れられた歓喜を。
──共に戦い、笑い、人のように過ごした輝かしい日々を。
食い入るように記録を読むアシュヴァッターマンの眼の前をひらりと何かが落ちていった。
花だ。
薄紅色の蓮の花びらがぽとり、ぽとりと雨だれのように降っている。
喉が震えた。
『マスターの故郷では、死者を想う度にその相手に花が降るそうだ』
そう教えてくれたのはドゥリーヨダナだった。
あの人の座にはいつも花が降っているという。アシュヴァッターマンがあの人に似合うと贈った花が。
想う度に大切な人に花を降らせる事が出来るならば。それはなんて幸福なことだろう。
花が降る度に大切な人が自分を想ってくれるのだと知ることが出来るのは、なんて幸福なことだろう。
ふわりふわりと散るように降る花びらは、アシュヴァッターマンの手で容易く捕まえられた。
もう二度と奇跡は起きないだろう。
高らかにフィナーレは鳴り響き、人理修復の旅は終わった。数多の英霊たちがひとつに集う夢のような日々も。
今後、もしドゥリーヨダナと再会出来たとしても。聖杯戦争では敵同士だ。
その出会いを純粋に受け入れることも、生前のように受け入れられることも、共に戦うことも。もうないだろう。
アシュヴァッターマンは降り注ぐ花びらを集める。
想われている喜びを積み上げる。
花びらはあの人のようにひらひらと自由に揺れ、集めても集めても束ねることなど出来はしない。
それでもアシュヴァッターマンは振り続ける花びらを集め続ける。
もう二度と会えないだろうあの人が、自分を想ってくれているという証を。