アシュくんの恋人の話 経営学部1年のアシュヴァッターマンには年上の彼女がいる。
真面目な奨学生には似合わない高級時計やブランド服を着ていたので心配した友人一同が問い詰めたのだ。
自分で言うのもなんだがバスケ部の1年は仲が良い。部活前の更衣室で真顔の俺達に囲まれてアシュヴァッターマンは困ったようにタートルネックの首元に触れた。
「その、恋人がくれたんだ」
少し頬を赤らめて視線を逸らせた好青年に俺達は悟った。
────こういう奴を年上の女性はかわいがりたいんだろうなぁ。
こいつほどの爽やかさも可愛げもない俺達は『恋人とうまくいってます』オーラをだだ漏れさせているアシュヴァッターマンを交互に小突く。
「爆発しろ!」
「彼女の友達を紹介してくれるよな!?」
「もうやったのかよ!!」
「心配して損した!」
「今度奢れ!!焼き肉!!」
小突き回されているアシュヴァッターマンは日頃のしっかりした様子はどこへやったのか、デレデレしている。デレデレしている。デレデレ!している!!!
俺達はしばらく無抵抗のアシュヴァッターマンを口々に罵りながら小突き回していたが、誰かのアラームの音にあわてて着替え始める。
時間までに体育館に行かないと先輩にどやされるのだ。
わたわたと服を脱ぐ俺達の横でアシュヴァッターマンが珍しくインナーを脱ぎ捨てた。
ダセェと何度からかってもインナーを着たままだったその理由が今では分かる。
しょっぱい顔になった俺達の中で、いつもコートの端にまで目が届いている奴がアシュヴァッターマンの背中を覗き込み──顔を引きつらせた。
「どんなひでぇ爪痕がついてんだよ?」
俺も背中を覗き込むと、そこには親指の先ほどの痣が散らばっていた。
いっつも敵チームに真っ先に突っ込む奴がアシュヴァッターマンの前に回り込む。腕をまわした。褐色の背中で指と痣の位置が合致する。
「………」
沈黙が流れる。
誰もが同じ結論に行き着いてしまった。
アシュヴァッターマンの恋人が爪の短い女だとしても背中に痣を残せる程力が強いとは思えない。だからこいつに抱きついていたのは男で。その、体勢的に。
静まり返った更衣室で、アシュヴァッターマンは抱きついていた奴を丁寧に引き剥がした。
「わりぃ、俺が抱きしめるのはあの人だけって決めてるから」
キザな事を言うアシュヴァッターマンの後頭部を俺は叩いた。
「それならそうとちゃんと言え!!」
そうだ!そうだ!!と声を合わせる俺達にアシュヴァッターマンは一瞬目を見張り、柔らかく微笑んだ。
「今度、俺の彼氏を紹介するぜ。──ろくでなしだけど悪い人じゃねぇんだ」
「それ、ダメなやつじゃねぇか!!」