「我ら『百王子』!」「復讐を望む者は残れ! そうでないものは去るがいい!!」
15にもならない『兄貴』が車椅子の青年を従えて叫んだ時。集められた僕達の涙は止まった。
新年で全員集まっていたカウラヴァグループの大人達が襲撃されたのは数日前。僕の両親だけでなくほとんどの大人達が殺され、かろうじて生き残った人も目が見えなくなったり歩けなくなった人ばかりだという。
両親が死んだことも悲しかったが、これからどうなるか分からなくて姉さんとふたり抱き合うように泣いていた自分達を連れてこさせたのは、直系の『兄貴』だった。
「ヴィカルナ、あなたはどうするの?」
「姉さんは?」
問いかけると泣き腫らした目で姉さんは首を振った。
「私はもう、怖いのは嫌」
その時、どよめきが上がった。壇上の『兄貴』の方を見るといつも意地悪するドゥフシャーサナが『兄貴』に頭を下げたところだった。
だから、ドゥフシャーサナは『次男』になった。
次々とあいつに続く子供達に遅れまいと僕が歩き出すと、姉さんも僕に背を向けたのだろう。ずっと聞いていた小さな足音が遠ざかっていく。
結局、『兄貴』の元に集ったのは男ばかり100人と何もわからず懐いていた『兄貴』にくっついてきた幼いドゥフシャラーだった。
そして『兄貴』は去っていった他の子供達にも寛容だった。決して少なくない彼らを善良な家庭と養子縁組してカウラヴァグループとは関係がないように取り計らったのだ。
◆
「だからさ、今更『姉さん』にちょっかいかけるとかないわー」
厚い壁。人気の無い倉庫街の大きな部屋。数年前は冷凍物流に使われていた冷凍室に連れ込んだ男に僕は話しかける。
椅子に縛られた男はそんな僕に唾を吐きかけて笑う。
「俺ひとり捕まえたところで意味など、」
「ヴィカルナ、他は全部潰してきたぜ」
重い扉を押し開けてドゥフシャーサナがやって来た。あれから数年、特訓に特訓を重ねて僕達は皆戦えるようになった。
「ありがとう。悪いね」
「俺も他人事じゃねぇからな。──こういうのは元を潰しておかねぇと」
「『百王子』が! 子供がいくら拷問の真似事をしたって俺は仲間を売ったりしねぇぞ!!」
男の強がりに僕達は顔を見合わせて笑う。
ドゥフシャーサナが冷凍室の隅に置いてあったポリタンクを持ち上げる。
「まあ、確かに俺達は育ちがいいから拷問なんて品の無いことは苦手だけどさー」
そのポリタンクを受け取って僕はその中身の男の頭から注いだ。キツイ匂いが鼻につく。
「僕は『百王子』の中でも優しい方だと自負しているんだ。──だからあんたに選ばせてあげるよ」
安っぽいライターを後ろ手の男に握らせると、僕達の意図を掴めないのだろう男が振り向こうと椅子をガタガタ鳴らせた。
「気化熱って知ってるよね? 大人なんだから」
ガソリンの気化熱は周囲の熱を容赦なく奪っていく。そしてここは冷凍室だ。
凍死か焼身自殺か、好きな方を選べばいい。
「俺は燃えてくれた方が後始末が楽で助かるんだけどなー」
「確かに」
ドゥフシャーサナと言い合いながら出口に向かう。
重い扉を開けて、閉める。その寸前に男が叫んだ。
くすくすと僕とドゥフシャーサナは笑みを交わし、そのまま扉を閉め、冷凍のスイッチを入れる。
厚い壁は何の音も通さない。
僕達『百王子』は復讐者だと知れ渡っている。それが元の家族に手を出した者を許すはずがない。
明日になってから死体の回収に来ればいい、そう判断して倉庫の外に出ると見慣れたピカピカの車が俺達を待っていた。
「兄貴っ!!」
甘えた声でドゥフシャーサナが兄貴の広げた腕の中に飛び込む。手招きされて僕もその隣に収まった。
「お前達が無事で良かった。よくやった!さすがわし様の『弟』だ」
頭を撫でられて僕は兄貴の胸に体を預ける。僕達『百王子』は地獄の果てまでこの人について行くと決めたのだ。