選択ある物事から、一つだけ選ぶと言うのが苦手だった。俺は世に言う優柔不断というやつで、誰かの指示の元でその通りに動く方が気が楽だった。
その分それなりの成果を出せるように努力していたが、やはり選択の時というのは回避しようがない場面が出てきてしまう。
この世の終わりというわけでも無いのに、選択を迫られると息が苦しくなって、逃げ出したい衝動に駆られる。
「ほう、選択が苦手か」
「はい。...申し訳ありません」
いや、謝らなくていい。よく話してくれた。と言う鶴見中尉はふむ、と考え込む。
自分の優柔不断不断さのせいで、誰かを。ましてや目上の人間を困らせるなんてと居心地の悪さを感じてきていたところで、彼は口を開いた
「よし。それではこれから私が教育してやろう」
「教育、ですか」
「そう緊張しなくていい。選択肢を選ぶ、と言う行動を徐々に慣らしていく」
初めは単なる遊びか暇つぶし程度から始めてみるとするか。と微笑む中尉に、「よろしくお願いします」と返事を返した
最初は、飴だった。
味は同じで、包み紙の色が違うと言うもの。二つのうちから一つを選び、選ばなかった方は鶴見中尉が食べた。
「よくやった。大きな一歩だな」と言う彼の称賛と飴の甘さは、俺の中の緊張をほぐすのには十分すぎた
少し経ってから、手の中に隠してどちらかを選んだり、包み紙が同じで味がちがうものを選んだりした。
次は紅茶だった。
こう言うものに疎い俺は、それの入れ方や味、風味や匂いなども含めて学ぶことが多かった。
初めは菓子があらかじめ準備されていて、紅茶の茶葉を選ぶように言われた。
「どちらを選んでも、今回用意した菓子には合うものだ。勘でも、香りが気に入った方でも、容器が好きな方でも。選考基準は様々だ。」
少し難しいが、これも訓練だ。試飲してみるのもいいだろう。気分という判断基準も、立派な選考だ。
それから何回もの小さな選択を乗り越えていった。
鶴見中尉は、「最後の練習だ」と言って、俺を連れ出した。
案内された暗い部屋に光が灯った時、最後の選択で何を選ばされるか、わかってしまった
最後は、人だ
この頃には、選択することに迷いも緊張もなく、冷静に選択できるようになっていた。
けど、ここに到達した時に、選択しない。選ばず、枠に囚われない。と言う選択を取れなくなっていることには気が付かなかった。
選択できてしまう事が、必ずしも良いことではないと気づくには遅すぎた。
目の前の光景をただ見ることしかできない俺の肩を叩き、彼は微笑んだ。
「君なら、選べるはずだ」
君は、私と彼。どちら側につく?
「おれは、」