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    itono_pi1ka1

    @itono_pi1ka1
    だいたい🕊️師弟の話。ここは捏造CP二次創作(リバテバリバ)も含むので閲覧注意。

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    itono_pi1ka1

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    犬のような生き物(暗喩)をかわいがりたいリーバルと、お節介焼きのリトの戦士たちの話。
    サエズリさんの台詞チェックがまだなので、後々直します。

    ※みんなノリが軽い。
    ※カッコいいリトの戦士はいません。
    ※リーバルが子供っぽい。
    ※捏造120%

    ##リ
    ##リト師弟

    えのころ草より弓鳴り一番「あらま!通り、戦士の皆さん方……ほんとにね!」

     よろず屋スノーホワイトの店主サエズリは、声を高くして異様な風体のリトの戦士の客の一団を出迎えた。煤けた硝煙の匂いがする。いつも羽繕いをばっちり決めて威風堂々カッコつけているリトの戦士たちが、今日ばかりはなんと、誰も彼もボサボサちり焦げの疲れきった様子なのだ。けふっと吸った煙を吐き出すような息をしている者までいる。
     よろりと店主の立つ会計カウンターに縋りついたリトが、嘴もとに翼の甲をやり、ううう、と愁嘆場じみた哀れな声をあげた。

    「いやさもうーて頂戴よ、サエズリちゃん!」

     本日ヘブラ戦線は、戦士の誰もかれもが黒焦げ煤だらけのチリチリ髪な爆発ヘアスタイルが大流行した。
     もちろん望んでのことではない。事故である。
     勇猛果敢に戦場へ翔けたリトの戦士たちは皆、いつもの通りに「おーい援護頼む!」と言って我らが大将リトの英傑リーバルを頼りにした。
     その結果、爆弾矢の雨が降った。
     リトの鋭い鷹の目も仰天して丸くなるというもの。リト族屈指の爆弾旋風“ボンバートルネード”とあだ名のつけられた戦士テバだって、味方のいるところにちょくで爆弾矢をばかすか打ちはしない、ましてやリーバルがそんな大雑把な“うっかり”をするとは誰も思わない。
     戦士たちはとっさに避け退くも爆風の余波に巻き込まれ、煤煙で真っ黒になりながら吹っ飛ばされたのである。

    「まだ火薬の匂い取れね~よこれ……」
    「何?!今日のアイツ、何?!」
    「今日はなんだ?髪切ったのに誰も気づかなかったとかか??」
    「単にオマエが弄りまくる腹いせじゃねえの」
    「“今日は”何も言ってねえって!」
    「エ~日頃の積み重ねってやつゥ?」
    「ンなタマかよ、あの一をナメられたら間髪入れず百倍で返してくる長嘴が!」
    「言えてる」

     ぎゃあぎゃあと言い合っているリトの誰も彼も、ふざけた口調でおちゃらけながら、その目つきは真剣みを帯びている。皆、あの若き大将のことが心配なのだ。

    「なんかあったといやあ、珍しくテバとリーバルが意見が食い違ってたとか聞いたくらいだな」
    「ハァ~?そんだけ???」
    「ってことは、八つ当たりかよ!」
    「八つ当たりとかイライラって感じはしなかったがな」
    「ああ、そうカッカしてる感じじゃあなかった。話を引きずって集中できずに調子が外れたみたいな……尾羽の坐りが悪い感じ?」
    「なんだいそりゃ。それでどうしてオレらが爆弾矢をぼんぼこ食らわにゃならんことになる?!」
    「そんなのこっちが知りてえ」

     肝心の原因がわからないまま、意地っ張りの男たちの心配嘴しんぱいぐちはぺらぺら回る。皆よほど気が動転しているのか、文句や悪態のフリも堂々巡りだ。
     そんな中、「あの~」というのんびり声が男たちの沈黙を集めた。店主サエズリだ。

    「どなたか、出陣前のテバさんとリーバルくんの様子を詳しく見てた方はいないのかしら?」

     冷静な意見舵取りである。ハッとしたように戦士たちは互いの記憶を洗いだし始めた。

    「作戦変更があったのは左翼の陣だったか?」
    「遊撃の隊を分けるのに、テバが前線から外されてたよな」 
    「三番ツバメ隊の奴なら知ってるかも」
    「よし、引っ立ってて来い!」

     年嵩の戦士の号令で、若い下っ端の戦士が駆け出す。人も家も風通しのよいタバンタにおいて、リトの誰ぞを探すのは脚と嘴に翼がついたリトならすぐだ。
     数分後、ベースキャンプの食堂で早めの夕飯を取っていたらしい一人のリトが連れられてきた。
     
    「出陣前のリーバルとテバの揉め事?ああ、あっし覚えてますぜ、丁度テバの代わりに配置換えになったから……」

     右手にカレー皿、左手に先の割れたスプーンを抱えたままのリトはそう言って、爆弾矢事件の前のリーバルたちの様子について語り始めた。

    「たしか、リーバルがちょいとばかし危なっかしい遊撃の配置を決めようとして、テバをメンバーから外したんでさあ」
    「それは知ってる、なんでそれでリーバルがギクシャクしてたのかって話だよ」
    「まあ聞けよ、リーバルのやつは珍しく自分の連れてく部隊からテバを外したんだ。いつも王家からの大きな戦の依頼は、未来から来たやつらの安全のためにも自分がテバを連れ回してるのに、今回はやめた」
    「なんか理由があったのか?」
    「それはあっしも知らね。例の剣の騎士殿が居たらしいし、張り合いたかったんじゃね。……問題はリーバルの判断じゃなくって、テバの反応の方でさ」
    「テバが?キレたとか?」
    「いや、逆。落ち込んでた・・・・・

     普段のテバと言えば、リーバルが何をするにしたって「流石は英傑様」「素晴らしい判断だ」「見事な腕前です!」「俺もいずれこの域に」と物の分かった正の面だけしか見せてこない。意地を張って無茶をするところや件の騎士に青々しい対抗心を見せるリーバルの一面だって、テバも認識しているはずなのだが、あえてなのか、滅多にそこに触れることがない。
     それはこの時代に生きる同胞たちが指摘してやればいいのであって、未来から来た自分の踏み込む領分ではない、と一線を引いているようなのだ。
     だが、今日は違った。

     ──「今回の遊撃任務は出なくていいよ」
     ──「……俺では力不足ですか?」

     あの御仁にしては珍しく、リーバル相手に負の面の食い下がりを見せた。リーバルは呆気にとられたように目を丸くして、言葉を詰まらせた。固唾を飲んで息も止めていたような様子だった。大した会話じゃない、だが初めは気にしていなかったリトたちも、やけにリーバルの沈黙が長かったので、どうも様子がおかしいぞと気にして記憶に残ったわけである。 

    「なかなか珍しい顔をしてましたぜ」
    「リーバルが?」
    「いやどっちかっていうとテバの方。いっつもリーバル様英傑様ってェ模擬戦で負けてもキラキラはしゃいでるのに、あの時は明らかに“悔しい!”ってツラしててさ」
    「へえ~……あの、オレたちの方まで“100年前の先達に学ぶことは沢山ある!”って貪欲な奴がねえ。そいつは確かに珍しいかもな」

     そして青年が何か言おうとする前に、テバの方から「いえ、出すぎたことを言いました。すいません。俺は俺の任務を果たすのみです」と頭を下げて、とっとと配置についてしまったのだという。

    「それで事前の戦備に対して、ミョ~に爆弾矢の持ち出しが多かったな……とは思ってたんですが、ありゃたぶん、木の矢と取り違えてったんですね」
    「はあ?あいつが動揺して、木の矢と爆弾矢を打ち間違えるほど動揺してたってのか?たかだかテバと二言三言話しただけで?!」

     リトたちの半数が渋い顔をした。心当たりがないようであるのが悔しいのである。
     リーバルが、あの客将のテバを気に入っている様子なのは確かだ。年頃の青年には誰も彼もいささか“距離が近すぎる”リトの村から少し離れて、戦士として身を立て一人で暮らすようになったリーバルが、甲斐甲斐しく暮らしの面倒を見て、プライベートな自室に居候を許すくらいなのだから。

    「つまり『息子が一緒に暮らしてる自分よりも、たまにしか会わないのでボロが出てないだけの親戚の叔父に懐いている父親』の気持ちってトコかしらね?」

     店主サエズリの衣着せぬ舌鋒が轟いた。
     ぐっ、とその場のリトたちの何名かが唸る。他の何名かも不自然に目を反らしていたり、嘴や目頭を押さえていたりする。

    「べつに親父名乗った覚えは無いんだけどォ!なんか鋭利なもんが刺さったなァ!」
    「親戚っていうか、テバのあれは大人じゃなくて同世代以下のガキダチ判定されてるだけだし?自然につるんでるのが羨ましいとかじゃねエし??」
    「むしろオレらの方が叔父ポジションなんで、普段からテバから羨ましがられまくりっつーか……なっ……」
    「歳上なのにリーバルくんが素直にかわいがられる甘えられる役どころは、なかなかできるものじゃないでしょうねえ」
     
     ずん、と空気を沈ませる重い一撃が放たれた。リトの女は唄に秀で、磨き上げた言葉の一刺しで夫を叩きのめし、夫婦のパワーバランスを保っている。伴侶のいるいないにかかわらず、嘴下手な意地っ張りたちは尻に敷かれるが華である。
     
    「サエズリちゃん、サエズリちゃん、あの、ちょっと……ちょっとは手加減サービスしてほしいんだが」
    「うふふ、手心スマイルは15ルピー以上の商品お買い上げから無料になりますのよ」
    「あっはっは、さすがは商売人だなあ~!騒いですいませんでしたマックスドリアンください」
    「まいど、ありがとうございま~す~」

     切りますね~とマックスドリアンの籠を抱えた店主サエズリが店の奥に引っ込んでいった。リトたちは誰がドリアン代金を奢る払うかせっせとじゃんけんをして決めた。

    「しっかし、やっぱりテバが原因なのは確定か……」

     ドリアンを待つリトたちの誰かが呟いた。 
     あの白いとさか頭の戦士とつるむリーバルは、なんたって機嫌がいい。リーバルの技術をなんでもよく観察し、褒め称えながらも覚え取ろうという研究向上心のぎらついた立派な戦士が、堂の入った英雄様扱いをしてくるのである。そりゃあ、あの自負心の強い若者にはまるで自分に追い風が吹いてくるかのような調子のいい心地に違いない。リトの戦士たちだって、長年リーバルの実力と技量を確かに認めて褒めてきているが、外からやって来たあの御仁の態度は“新鮮”で“期間限定”で、常にない流行旋風ブームがリーバルのなかに到来しているのだろう。
     テバの前では、当然といった態度で少し眉動かすだけだが、その後の戦場の動きが顕著だ。
     一人ちょっと嘴の端上げて「気分が乗ってきたぞ」と呟いた次に敵とまみえた開幕には、必ずド派手な大技をかますのである。まるで見えない気合いゲージが一瞬で満タンにチャージされたかのようなその現象を、リトたちは必殺技日和リーバルバイオリズムと呼んでいる。
     そしてその現象を、テバの他に再現できた奴は未だリトにはいないのである。

    「素直じゃないのがまる分かりなのは、変わんねえなあリーバルも……」
    「あれを見せられて、からかい嘴の一つ二つでサッと引き際を見極めてるテバの方が手練れすぎるんじゃねえの?」
    「他人の怒りの核に触れるラインを絶妙に回避してんだよなあの白いの……リーバルの怒りの緒自体はブチ抜きまくってるのに……」
    「虎の尾を踏んだ後で怒りの猛攻を凌ぎきって場を持ち直してるのはもう一種の才能だろ」

     戦士たちが僻みから感心のフェーズに入った。優れたものは褒めて伸ばす、そうして背中をバシバシ叩かれてのびのび育った筆頭があの自信溢れる孤高の英傑リーバル青年である。それに憧れるテバや若い戦士たちだって、雨後の筍のごとくのびに伸びた素直な奴らが多い。

    「……からかわない、って選択肢はないのね?」

     いつの間にか戻ってきた店主サエズリの問いかけに答えられるリトの戦士は、ここで黒焦げになっていないのである。ううん、と悩ましげな唸り声が落ちた。

    「しょうがないわね。ほらほら、みんな元気出して。ドリアンが切れたわよ。甘~いので頭を切り替えていきましょ」
     
     はいどうぞ、と店主サエズリが大皿に盛り分けたマックスドリアンを差し出す。おやつの登場に戦士たちも正直に湧いた。なにせ任務帰りの煤まみれの身体を温泉で浄めるよりも、心配が勝って、真っ先に店主に愚痴りにきたのだ。空きっ腹を抱えたままなのである。
     会計カウンターだけでは狭いので、店の隅で暇をしている棚や机をガタガタと男たちが引っ張ってくる。

    「おーサンキュサンキュ」
    「煤臭くて鼻が利かないから、ドリアンの匂いも気にならないのは良いな」
    「フォークが足りないから、楊枝も使ってね~」
    「あっしはスポークあるから大丈夫~」
    「おい馬鹿やめろ、カレー食ったスポークでドリアン皿に侵入しようとすんな!味が混ざるだろうが!サエズリちゃーん!こっちにも楊枝くれ!」

     やいのやいのと言いながら、戦士たちは甘いドリアンに食いつく。生で食べるのは回復効果が薄いが、滋養強壮に良いマックスドリアンの濃厚クリーミーな甘みは戦働きで小傷を抱えた戦士たちの疲労に心地よく染み入った。
     リトたちが甘味にほっと一息ついたところで、からんからんと来店者を知らせるベルが鳴る。

    「食堂に誰もいないと思ったら……皆して店主にナンパしてたのかい?」
    「んあ?リーバルじゃねえか!」

     噂をしていれば本人だ。リーバルは翼で鼻腔辺りを押さえて顔をしかめながらも、リトたちの集まる会計カウンター周りへとやってくる。

    「うわっドリアン臭いな」
    「お、リーバルじゃん、昼飯ごちそうさん」三番隊から引っ立てられてきたリトが咥えていたスポークをひらひら振る。
    「ああ、別についでだったし……」リーバルは興味なさげに頷く。
    「え、何?おまえのカレー、リーバルの奢りなの?」
    「あっしがっていうか、今日はリーバルが“詫び”だってんで戦士の飯代持ってくれてたんすよ」

     詫び、という言葉でリトたちはピンときた。戦士たちの黒こげ姿に思うところがあるのはリーバルも同じだったらしい。

    「あ、だから食堂からこっちまでオレらのこと探しに来たのか?」
    「そーそー、あんたら探してうろうろしてるとこに声かけて、あっしはおこぼれに預かっただけ」
    「そこ、うるさいよ。感謝してるなら黙ってて」

     眉を寄せつつも、否定もしない。ずいぶんしおらしい態度だ。古馴染のリトたちもどよめく。流石に調子が外れる。

    「なあ、どうしちゃったんだよ!今日のお前!!」

     テバも連れてないし、という言葉をリトたちは飲み込んだ。もし、万が一にもケンカをしたというのなら、この素直じゃない青年にこちらから肝心の話題を吹っ掛けるのは悪手だ。
     リーバルはもぞもぞと重たげに嘴を開く。

    「ちょっと……悩んでることがあって」

     言い淀むリーバル。ざわつく店内。夏雲夕立の過るがごとく。
     この意地っ張りの見えっ張りではヘブラいちの表面張力を持つ自信家の青年が、素直に年上の同輩たちを頼ってくることなど、リリトト湖に降る雨よりも珍しい。
     にわかに真面目な顔つきになって傾聴の姿勢を取るリト達が、リーバルを取り囲む。

    「何、どうしたんだよ。オレたちに応えられることだってんなら、何でも言ってみな」

     リーバルはためらうように目をそらし、そして深刻そうに頭を抱えて嘴を開いた。

    「普段僕がいなくても一人で元気に翔け回ってるのに、僕が“ついてこなくていいよ”と言ったら恐る恐る裾を掴んで“一緒に行きたい”と訴える生き物を見た時の、全身の血が逆流するかのような感情って、何なんだい?」

     リトの仲間たちの頭上には一斉にハテナマークが浮かんだ。

    「人類はそれを“カワイイ”と名付けてんだよ」
    「何?犬でも飼い始めた?」
    「ペットの世話をする余裕なんかないよ。ただでさえウチには今、居候が居てスペースもないし」
    「つってもな、最近は出ずっぱりのおまえに限って、ガキのお守りで親バカの気持ちになったわけでもなさそうだし」
    「まあ……うん……そうだね……?」
    「あとはもう、誰かさん・・・・から直接そう告白された人間関係の相談を受けているとしか思えんが?」
    「違う!」間髪を入れずリーバルは否定する。
    「じゃあ何に対しての感情なのかハッキリ言えばいいじゃねえかよ」リトたちはジト目で返す。
    「ぐっ……それは……その……」

     そうしてくちごもったリーバルからの説明は、普段の彼の嘴達者ぶりに比してひどいものだった。あからさまに“誤魔化し”にまみれていた。ハッキリ話すと事情が即バレする、だが何としても“このリトたちには”悩みの真実正体を悟らせたくない、という年頃の少年の必死さが滲んでいた。最早、対象が生物であるということしか察することができないレベルまで情報をぼかす徹底ぶりだった。
     そこまでやられると、古馴染のリトたちには却ってリーバルが“何を”隠したいのかハッキリ分かってしまう。分かってしまうから、力になってやりたくとも何も言えなくなってくる。
     ううむ、と唸ってまたもや嘴が開けない男たちを横目に、ドリアンを配膳し終えた店主サエズリがにっこりとリーバルに話しかける。

    「リーバルくん、いらっしゃい。うちの店に寄ってもらうのは久しぶりよね」
    「あ、うん……皆で押し掛けて騒いで、悪かったね。邪魔になってないかい?」
    「丁度お客さんも少ないタイミングですから、大丈夫よ~。それより……リーバルくん、聞いてもいいかしら?」
    「……えーっと、何を?」

     ぎこちなく目を逸らしたリーバルを、逃がさんとばかりに店主サエズリはぐっと身を乗り出した。

    「さっきのかわいい生き物さんの話よ!その子はどういう時について来たがるの?」
    「別にかわいいってタイプじゃないけど……まあ、何て言うか僕が出かけるときは大体……動くのが好き、みたいだからね」
    「あらあら、元気一杯のヤンチャさんなのね。どこへいくのにも着いてくるくらい体力があると、手綱を取るのも大変じゃない?」
    「まあ、少しはね。思い立ったら一直線なところがあるから手はかかるけど……僕の指示や考え方をよく理解して動こうとする筋の良い奴だよ。僕が一緒だと張り切ってる。ちょっと技を見せつけてやると、何でもすぐ覚え……真似しようとして、頑張ってるよ」
    「一生懸命でいいじゃない!ああでも、その分、置いていくのが辛くなったり?」
    「別に辛いことはないよ。ただ、いつもあんまり嬉しそうにするもんだから。何だか子供の純粋な思慕を裏切って病院に連れてった時みたいな気持ちになるっていうか……」
    「わかるわ~うちの子も一緒。懐いて甘えてくれてるのが嬉しい分、いざというときのために厳しくして、その期待を裏切っちゃったらって思うと心苦しくなるのよねえ」
    「僕の場合は庇護対象ってわけじゃないけど……でも、気持ちはわかるよ」

     そうよねそうよね、とサエズリが頷きながらちらちらと視線を向ける。リトの仲間たちは顔を見合わせた。店主サエズリからの目配せ、もう乗るしかないこの波に。

    「犬の話じゃん」
    「犬を初めて知った人?」
    「うちの大将が犬のかわいさに陥落してる」

     おまえがそんなに犬が好きだったとはなあ、などと言って、リトたちはやれ犬の人形だ、犬を模したかたちの菓子だなんだとあちこちの棚や物資箱を漁って持ちより始めた。
     店主サエズリが、ここぞとばかりにカウンターに商品を置く。

    「今ならカカリコ村から仕入れた犬張り子が50ルピーぽっきりよ!」
    「よし、買った!」
    「ちょっと、要らないってば」

     リーバルが待ったをかけるが、リトたちはお構いなしでお犬を話の波に乗らせる。どこそこの馬宿に懐っこい賢い犬がいる、犬のセーターを編むのが上手い婆さんはラテラー台地の向こう、ハイラルラブリードッグコンテストの開催は二週間後。リトの情報網はハイラルいちである。
     リーバルは次々と押し付けられる犬系商品の群れからもがき出て、叫んだ。

    「いやだから違……犬……いや犬じゃない!」
    「え?じゃあ特定個人の話だったのかよ?」

     リトの一人がズバリと切り込んだ。リーバルは時が止まったように抗議に振り上げた手と表情筋とを固まらせた。

    「……犬の話だ」

     言い直した青年の顔は、明後日の方向を向いている。

    「ほーん……犬(っぽい誰か)の話ね……」
    「犬(のような忠実さ)の健気可愛さにやられたワケね」
    「まあ見るからに尾……っぽ振ってる懐き具合だしな」

     こちらもリーバルとは別方向にしらっと目をそらした先で、まるで思い当たる特定個人の知己の顔が浮かんでいるような態度で、リトたちはコメントした。
     リーバルは眉をひそめる。

    「いま何かおかしな含意が無かったかい?」
    「「「いや、全然」」」
    「……そう」

     リーバルは釈然としていない様子で引き下がった。嘴を揃えてすっとぼけているリトの仲間たちには、裏があろうと無かろうと何を言っても無駄だと長年の経験から知っているのである。

    「まあ、あれだ、おまえも疲れてんだよ。身体が癒しを求めているってやつ?」
    「そうそう。いっぺんかわいい犬っころとふれあってこいよ、ほら、最近ほかにもろくに休みを取らねえで忙しそうにしてるやつがいたろ、休むのも仕事だって、その気の置けないを誘って遊んでこい」

     対して、へブラの若大将の悩みの原因解明を終えたリトの仲間たちは、安心したようにいつもの鷹揚な態度だ。

    「犬と遊ぶって……馬宿にでも行けっての?」

     リーバルは疑問を呈した。態度は渋々そうだが、話題を続けるということは意外と乗り気である。“犬の話”で誤魔化したい心づもりもあるだろう。
     そこまでつっついてやるほどリトたちの意地も悪くはない。

    「最近タバンタ大橋向こうのベースキャンプあたりに、避難中に飼い主とはぐれた犬や迷子の野良犬なんかを保護してる施設があんだよ。人懐こい犬ッころは隣接のカフェで、お客と遊んでやるサービスをやってるんだとさ」
    「お客は金を出すだけで飼わなくてもかわいい犬と遊べて、店は犬の保護費の足しにできるついでに飼い主や里親を探せてってな、結構うまくやってるみたいだぜ」
    「あ、オレこないだ宣伝用にって、割引招待券もらったから、おまえにやるよ」

     リトたちが水を得た魚のように、嘴ぐちにお膳立てをしていく。こういうとき、リトの風通しが良すぎてウワサも何でも筒抜けコミュニティは強い。情報網の共有と信頼の担保が回るスピード感はハイラルいちだ。
     リーバルも、リトたちの仕事のプライドもかかっているその領域に、悪意や欺きがないことはよく承知している。

    「……まあ、誘ってみるよ」

     リーバルが割引招待券を受け取るのを見守って、リトの仲間たちはやれやれ良い仕事をしたという風に満足げな表情を浮かべる。このやり取りの間もずっと爆発煤まみれの頭がずらりと並び、全く格好がつかないことなどは、誰もがすっかり忘れていた。
     これにて一件落着、と店主サエズリがぽんと柏手を打つ。

    「ではでは、 店内にまき散らした煤ぼこりのお掃除代金分は、たっぷりお買い物してってくださいね~!」



     それから数日。リトの部隊が預かる任務が一旦の落ち着きを見せ、戦士たちも息抜きの時間が取れた日のこと。

    「第二部隊、テバ。モーリ橋防衛戦より帰還した。何か手伝えることはあるか?」

     戦士たちの詰め所に戻ってきたテバを出迎えたのは、存在してはいけないものを見たようなリトの戦士たちの異様な驚き声だった。

    「え?!なんでテバおまえが居んの?!!!」
    「リーバルはどうしたんだよ??」
    「? リーバル様なら、リンクやミファー様を誘ってどこか遊行に出かけられるご様子だったが」
    「リンクってェ……あの退魔の剣の?」
    「ミファー様と言ったら、あのゾーラの英傑のミファー様、だよな?」
    「そうだ。歳の近い若者たちで、気が合うんだろ。よく食事だの訓練のアイディアが思い付いたなんだのと一緒に居るのを見かけるぞ」

     テバはさも当たり前のように言ったが、英傑たちの集まりにまで着いていくことのないへブラのリトたちには、あまり聞き馴染みのない話だ。

    「へえ~……リーバルのやつ、へブラの外でも友だち付き合いできてんだなあ」
    「おまえは誘われなかったのか?オレらァてっきりおまえと行ってくるもんだと……」
    「誘われはしたが……俺が行ってもなあ」
    「へえっ?断ったのかよ?リーバルの話を始めたら朝日が昇るまでついて止まないおまえが!」

     信じられない、と目を丸くしたリトたちの視線が大量にテバを刺し囲む。

    「担架で運ばれてても『リーバル様の活躍を見逃すなんざ!』ってえ暴れだしてメディック総員から殴られてたおまえが!?」
    「いやそれは!たまたま配給の気付け薬が普段のよりキツくて、理性がトんでただけであってなあ……!」
    「理性もトんでないのにリーバルの誘いを断ってるのが信じられねんだよ!」

     つくつく指差し、嘴つつき、リトたちはテバが偽物になったのではないかと疑った。最近は幻影がどうたらとかいう、英傑にそっくりなヒトガタの魔物も出ているらしいので、このおかしなテバもその類かもしれぬ。そういう建前で、折角のお膳立てしてやった交流機会を贅沢に蹴った男に八つ当たりをしたいだけである。
     白い翼がばさ振り飛びはね、やめろやめろと振り払いながら、テバが弁明する。

    「いや、だってリーバル様が行かれた施設は、犬だか猫だかと一緒に過ごして可愛がるとかいうやつだろう?それも、人に慣れているとはいえ、猟犬や軍用犬のように躾けられているわけじゃあるまい」
    「そりゃそうだろ。民間で飼われてる犬を保護してるんだから。何が問題なんだよ?」

     頷き合うリトの戦士たちを二度三度と見比べて、テバは怪訝そうな顔をする。

    「相手は、鼻の効く犬だぞ?普段から爆弾矢の火薬の匂いに手入れ脂が羽に染み付いちまってるリトの戦士が行っても……よっぽど、犬の方が逃げちまうだろ」
    「……あっ」


     
     その後の顛末について、リトたちが知るのは伝聞のみだ。
     リトの仲間たちに背を押され、同年代の英傑たちを誘って犬カフェへと赴いたリーバルは、やはりテバの懸念通り犬たちから大いに避けられてしまったらしい。
     犬たちの一番人気はリンクだった。大型犬も尻尾をふりふり、小型犬はくるくる周りを駆けて、順番待ちをするほどだった。「彼からリンゴの匂いがしたせいかもしれません」とゼルダがフォローしたり、小型犬を抱き上げたミファーが「ワンちゃん、ほら“鳥さん”にタッチ」と小型犬の前足を持ってリーバルの翼にぽんと肉球を触れさせたりもしたが、一度曲がったリーバルの機嫌はそう簡単には矯めようがない。
     結局のところ犬たちがくうくうと甘えたように鳴いて寄り添うのはハイリアとゾーラの彼らに対してだけで、リーバルとは一定の距離を保っていた。
     ゼルダに着いてきていた卵形の白いガーディアンは、最初こそ姫にじゃれつく犬が爪や牙を立てぬようにとうろちょろと警戒に走り触腕を振り上げていた。しかし笑顔で犬たちとふれあうゼルダの姿を見ているうちに、危険がないことを学習したのか、すぐに所在なさげに室内をうろちょろするばかりになった。
     むしろ自身のガーディアンボディが、好奇心旺盛な犬たちには“新しいオモチャ”と勘違いされ、たじたじとクモ歩きで壁際に追い詰められかけていた。
     リトたちの興味を引いた話はここからだ。
     犬たちの獣臭さ溢れる舌ベロから逃げ回りながらも、ぽぺぽ……とまるで孤高のリトを気遣うように機械音を鳴らした白いガーディアンを、リーバルはむんずと捕まえて膝に上げたのだそうだ。
     それからリーバルはずっと黙って、友人たちが犬と戯れるのを椅子に座して眺めていたらしい。
     犬の舌による舐めしゃぶり袋小路から助けてやった恩義に報いてか、白いガーディアンは身体を揺らしたり、歌のように機械音を鳴らしたり、愛嬌のある仕草でリーバルの膝の上をなごませた。そして姫の隣で犬に乗りかかられる執政官インパが羨ましげな視線をちらちらと向けていた。
     その後、代金を支払った分の利用時間が満了するまでの間、白いガーディアンは大人しくリーバルの膝の上で撫でられて過ごしていたという。
     無茶をしがちなリトの戦士の治療のかたわらで、ゾーラの英傑の少女がこっそりと、しかしどこか嬉しげに話し聞かせてくれたことである。その可憐な微笑みは、さる人によれば、かわいがっている弟君の思い出を語るときの顔にも似ていたとか。



     さて、リーバルは犬カフェから一本の犬毛も着けずに帰宅する前人未到の快挙を達成した。嬉しくはない。旧い飛行訓練場は留守番を頼んだ居候によって既に火が焚かれていて、気温の低いへブラの麓だというのに、カフェにいた時より温かく感じる。寂しい気持ちに引っ張られているせいだろう。

    「……ただいま」
    「お戻りになりましたか。今日の息抜きはどうでした?」
    「……僕は犬より鳥が好きだね」
    「はは、リーバル様の場合、厩舎で乗馬訓練をなさる方が面白かったかもしれませんね」

     「夕飯は仕込んでおきましたよ」と居候……テバが囲炉裏の鍋の蓋を開けた。サーモンと貝類、そしてエビ、それからごろっとした野菜に角切りのハイラルダケを新鮮な植物油に入れて火にかける、魚貝オイル煮込みだ。香りの強いネギ科の鱗茎のスライスをたっぷり入れたオイルに、ハーブや岩塩、スパイスといった香辛料のを独自にブレンドしたシーズニングで味を調整した煮込み鍋からは、ゴロンの香辛粉やポカポカ草の実とはまた違ったスパイシーな香りが立ち上る。匂いだけで嘴のなかに唾のわき出すような心地よい刺激に、くう、と腹が鳴った。
     主食として、別茹でしていたらしいネジ状のパスタが投入される。リトの嘴は啜ることが難しいので、細長い麺状のものよりもショートパスタが食べ慣れている。あとは村の飯屋で出来合いのものを貰ってきたらしい串焼きやサラダが皿に盛られて出てきた。「デザートにひんやりスイカがありますよ」とまで言われて隙がない。
     古代技術の利用で食物の輸入も簡便になっているとはいえ、山がちなへブラで海鮮素材を揃えるのは思い付きでできることじゃない。予め目星を着けてあちこち買い物に出たのだろう。
     リーバルはじっとりとした眼差しを向けた。

    「君、わかってて来なかったろ。何で言ってくれなかったんだい」
    「ああいうのは、“友達と行く”ってのが大事なんです。期待通りの満点の経験にならずとも、思い出になるもんですよ」 

     君は友達じゃないのかい、と嘴をついて出そうになったのが、何だかシャクで、顔を背けた。また歳上の大人みたいにテバが笑う。リトの村のオッサンたちどころか、ジジくさいくらいの静かな笑い方。
     ますます顔を合わせてやる気が失せてきて、背を向けて座った。腿に片肘を立てて頬杖をつく。

    メシは食べてください」
    「わかってる」

     器を渡されて、片手で受けとる。野菜はほろりと煮崩れそうなほど味を染み込ませていて、パスタは少し固めの茹で具合。出汁と香辛料の味が煮つめられたオイルは、カリッカリに焼き直した小麦パンに塗りたくなるが、それは明日の朝ごはんにお預けだ。
     「味は大丈夫でしたか?」と聞かれたので「悪くないね」と答える。嬉しそうに息をつくのが聞こえてきて、背を向けていてよかったかもなと思う。
     そのままお互い黙って食べていると、「そうだ」と思い付いたようにテバが嘴を開いた。

    「次の遠征の後、資材運びを手伝って、馴染みの馬宿に行くんです。リーバル様も一緒に行きましょう」
    「なんで」
    「山麓が近いので、猟犬として躾けて狩人と一緒に依頼を受けている犬がいます。そうやって馬宿で仕事をする犬なら、俺たちにもそう怖がらない」
    「それが何?……君が、一人じゃ運びきれないって言うの?」
    「手早く仕事を済まして、俺も犬と遊べる時間・・・・・・・が欲しいので、利発で、仕切るのが得意で、ついでに人びとからの信頼の厚い屈強な助っ人に来てもらいたいんですよ」

     どすっと身体を後ろに倒して、自分よりも少し高い位置の肩に背をもたれかける。そのまま肩を枕に首をそらして上に向けると、まるで嘘も取り繕いも無い涼しい顔をしたテバの横顔が見える。……イケ好かない。

    「君がそんなに犬が好きだなんて知らなかったな。僕の誘いは断ったくせに」
    「その分の埋め合わせをさせてください、というつもりも半分ほどあります」
    「もう半分は?」
    「俺もリーバル様と遊びに出掛けてみたいので」

     ふう、とため息ひとつ。僕ばっかりが気を揉まされている。でも、こんないじけた気持ちをずるずる引きずりたくないのも本当。乗せられてやろうじゃないか。

    どうしても・・・・・?」
    「“どうしても”」

     男はさらりと言った。リーバルは片手をついて身体を起こした。食器を置いてから、うんと伸びをして、肩と背中をほぐす。

    「はあ。仕方がないな。僕も行くよ」
    「ありがたい。俄然楽しみになってきましたね」

     待ち合わせはここで、何時には向こうへ運びきって、と当日のスケジュールをテキパキ示し語るテバは、微塵も面倒くさそうな様子を出さない。自分がそうしたいから誘ったという建前と本音がぴったりくっついていて、どうも意地っ張りの機嫌の取り方が手慣れている。

     ──今、かなり子供扱いされてるんじゃないの。

     リーバルはムッとして、リトたちに割引券を押し付けられた時の釈然としない気持ちを思い出した。それからふと首をかしげる。

     ──そもそも、なんで“代わり”にする必要があったんだっけ?

     それで、脈絡なく「……お手」と手を突きだした。
     「えっ」と腑抜けた低い声がする。意に介さず、掌をぐいと突きつける。
     辺りをきょろきょろ目線だけで見渡して、対象が自分しかいないと確認したテバが、疑問と不本意そうな訴えの混じった微妙な顔で、そっと手を乗せる。余裕そうだった大人の顔がぽろりと剥がれるのはちょっと気分が良い。
     握手のように重ねられた白黒翼をきゅっと包んで獣の手のように指を丸めさせて、掌に置き直す。テバは相変わらず微妙な顔で首をかしげつつ、リーバルに好きなようにさせている。
     とうとうリーバルは笑った。今日一番の機嫌の良い笑声だ。ゲージにして1.5本分ほどか。
     ──僕に懐くくらいの根性がある奴の方が可愛がり甲斐がある、とリーバルはようやく満足そうに喉を鳴らした。


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