演繹:反芻のままに「レベッカ?」
珍しくそう呼んだ声は聞き慣れないものだった。
虚空を漂っていた意識が引き戻される。切れた思考を手繰ろうとして、妙な違和感にかき消されてしまった。
顔を上げた先。正体に気づく。
こちらを覗く憐憫の混ざった双眼。
その柔く憂いを含んだ瞳は声色にも反映されていて、一言でいえば、らしくない。
「あんたもそんな顔するんだな」
そう言葉にしてから掛けるべき第一声ではなかったと少し反省した。
弁明のため二の句を継ごうとして、つっかえたように息が詰まった。
静観する眼差しが失礼な物言いも気に留めず、変わらず、じっとこちらを捉えて離さないでいる。
遠くで遅番の隊員が話す声が聞こえる。
もうそんな時間か。そうだ照明をつけないと。ほとんど電灯を点けていなかったせいで窓明かりとわずかな蛍光灯だけが視界の頼りだった。
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