よすが今日はバロックと一真、二人そろっての休日である。
このところ慌ただしく、業務以外でともに過ごす時間も少なかった。
そのため久しぶりに連れ立って街に出ようという話になった。
「身支度はすんだか?」
一真がバロックの寝室のドアを無遠慮に開ける。
部屋の主はドレッサーの前で、最終確認とばかりに前髪の先を整えていた。
不躾な侵入者を怒るでもなくその姿を上から下へと眺め、胸元へと視線を戻す。
視線に気がついた一真は、そこに着けているループタイの留め具に手を添えた。
「似合うか?」
「ああ。……玄真の着けていたものに似ているな」
「そうだろう。だから買ったんだ」
一真の父、玄真がつけていた家紋をかたどったそれは記憶に残る姿にもあり
とても印象深いものだった。先日、似たものを骨董品店で見つけた折に
少々値は張ったがどうしても欲しくなり購入した。
赤いタイを通せば、今や記憶にしかない父の姿がよぎる。
「俺は玄真のようだろうか?」
ただじっと見つめるばかりのバロックにしびれを切らし、問いかける。
バロックは困ったように目をそらした後、少し考え込んでから答えた。
「容貌は似てきたが……彼はもっと大人の余裕があったように思う」
「当時の自分がどれほど若かったか考慮にいれろよ」
つい、低い声で返してしまったが想定していた内容ではある。
彼の中の玄真はいまだ憧れの年上男性であり覆ることはないだろう。
一真にとって、尊敬する父であることが揺るがないように。