どんなきみも受け止めるよ(ファウネロ♀)「おい、ファウスト先輩だぜ」
「あの学園を革命したっていう……?」
「引きこもってたんじゃないのか」
自分が通りかかっただけでざわつく学園の廊下を歩きながら、ファウストはいらつきを隠せなかった。
「くそ……一度炎上して顔がバレた人間に人権はないのか」
刺さる視線に不満を感じ、ぶつぶつとそんなことを言いながら、ファウストは大股で購買部に向かう。手に持っているのはブルーのクロスに包まれたランチボックスだ。勉強を教えてくれるお礼にと、元不良校の女子生徒であり今はフォルモーント学園の後輩であるネロが、ファウストに昨日お弁当を作ってきてくれたのだ。控えめに言って、どんなシェフが作るフルコースよりも、ファウストにとっては絶品の料理ばかりだった。
せめて弁当を洗って返す、と譲らないファウストに、ネロは笑って「じゃあ、また明日」と言ってくれた。
嬉しかった。ファウストは学園に登校しても図書室に引きこもっているので、ネロから会いに来てくれることが殆どだった。
だが、そのファウストが図書室を出た。
ネロに弁当を返すためだ、とファウストは言い聞かせて、廊下を行く。ネロと会ったらなんと話そう、美味しかった、と感想は昨日伝えてあるから、ありがとう、と感謝を重ねて伝えるべきか。
きっとネロは笑って、照れてかわいらしく頬を染めるんだろう、と想像で頬を緩ませたファウストの耳に、怒号が飛び込んできた。
「待ちやがれええええ!!」
「許して下さいネロさぁぁぁん!」
は、と前方を見ると、はるか先の廊下をこちらに向かって走ってくる男子生徒を、ネロが鬼の形相で同じように走って追いかけている。
「購買部のパンを盗むとはいい度胸だ! 回し蹴り喰らわしてやるよ!」
「ひええええ!」
叫んでいる内容で事情は分かったが、ファウストは何とか止めなくてはとその男子生徒の身体を正面から受け止めた。
ネロのスカートは女子高生らしく、短い。回し蹴りなんてしては、下着が見えてしまう! ファウストは必死だった。
「は、離してくれよお!」
もがく男子生徒をファウストは押さえつける。ばっとネロの方を向いた。
「ネロ、回し蹴りなんてしては……!」
「そこ動くんじゃねえぞ喰らえーー!」
どん、と、こちらも必死で逃げる男子生徒に押されて、ファウストの身体が前に押し出された。
「え」
「はぁっ!? ファウスト……ッ!? あぶね……っ!?」
狙い澄ました回し蹴りが、ファウストの顔面の横を凄まじい速度で空ぶった。(きっとネロが当てないようにわざと外してくれたのだろう。)
ファウストの顔面に迫る、ペールブルー。そしてやわらかい感触。重み。
「うわあああああ!?」
ネロの回し蹴りの勢いで、ファウストは下敷きにされてネロとともに廊下に倒れ込んだ。ガチャーン! と勢いでランチボックスがバラバラに散らばる。
「い、てて……」
そう言ってネロが身体を起こすと、顔面を尻に敷かれているファウストは余計ネロの恥部を顔に押し付けられてしまう。
「ーー……ッ!」
「え……? ふぁっ、ファウスト!? ご、ごめん!!」
慌ててネロが身体を跨いでいたファウストの上から退ける。
仰向けに倒れていたファウストの身体を、優しく抱き起してくれた。
「ま、回し蹴り当たんなかった? ご、ごめんな、ちゃんと外したつもりだったんだけど」
そう言って、申し訳なさそうにしている。
「い、いや、僕こそ、すまない、きみの……」
下着をまともに見てしまった。ペールブルーの色を思い出し、そして顔面に座るようにされて押し付けられたネロの大事な場所の柔らかさを思い出し、正直に鼻血が溢れてしまう。
「うわぁっ!? ファウスト、鼻血出てる! ごめん! 保健室いこ!」
ネロに担がれるように立ち上がらせられて、ファウストはとりあえず鼻を摘んで抑えた。
「す、済まない、ネロ……」
嫁入り前のきみの、大事な場所に触れてしまうなんてーー……!
「俺こそごめんなぁ、くっそ、あの野郎後で絶対シメるから」
二人の会話が噛み合ってないなぁ、と外野の居合わせた生徒達はほんのり思っていた。