4/24(🎮BDネタ) もうまもなく、俺、茅ヶ崎至の誕生日が迫っているわけである。
とっくに成人している社会人なので、というかだいぶん良い年なので学生じゃあるまいし、いい加減誕生日くらいではしゃぐというわけでもないけれど……。いや、ウソですね。ウソつきました。
結構、誕生日を五分後に控えてそれなりにワクワクしている。
そもそも学生時代に誕生日だからって楽しみにしていたのは親にゲームを買ってもらえる事くらいだったわけで。なぜならぼっちを極めていたからである。
家族以外に盛大に祝って貰えるなんて事になったのは、劇団に入ってからなのだ。そう思うと、人生何がどうなるかわからないよなあと思うのである。
夕食も風呂も終えて、梯子を登りベッドに潜り込んで、スマホでソシャゲの周回をしながら、一度スマホのホームに戻り俺は日付変更までの残り四分を時間表示で確認した。
「茅ヶ崎、電気消すよ」
劇団の寮で同室の、会社の先輩でもある千景さんに声をかけられて、俺は視線をスマホに向けたまま「はぁい」と声だけで返事をする。会社で、もし他の先輩にだったらそんな態度は勿論取らない。というか、劇団のやつ以外には俺がオタクでゲーマーだという事を隠しているのだから、俺のこんな姿を知っているのは家族以外では劇団のみんなだけだ。それに日々、誰よりも直面しているのは同室である、先輩なのだけど。俺がまともな大人として私生活がとっくのとうに終わってる事を知って、それでも先輩は俺との同室を嫌がったりしなかった。片付けろ、って定期イベントは発生するけど。
そんな事を考えながら周回していたら、間もなく残り二分という所だ。
オタクの誕生日は忙しい。今時のソシャゲなら、当然ユーザーの誕生日設定が出来るので、誕生日当日には運営からプレゼントとして無料石10連分の配布とか、直に10連回せるとか。
そして登場キャラクター達からの毎年更新される誕生日限定お祝いボイスなどなど。キャラクターが膨大なソシャゲなら、そのボイスを回収するだけでもなかなかの量だ。
各種無料10連は咲也に毎年お願いしていて咲也も最近は慣れてくれている。
さて、そろそろ日付跨ぐな、とスマホのホームで時間を見れば23:59。
やはりご縁的にも自分の来歴的にも、ナイランのソシャゲでランスロットから誕生日お祝いメッセージを一番に貰うのが良いだろう、とナイランのソシャゲを立ち上げる。画面の下でグエンのシルエットがきらきらくるくる可憐に回り、アプリ立ち上げのメーターがぐぐぐ、とパーセンテージを増していく。
するとその時、俺の頭上で千景さんがごそりと布団から動いた。
俺がそれに気付いていながらまあトイレかな、くらいで特に何も言わないでいると、千景さんは、俺とのベッドの境目の柵を乗り越えてきた。
え。
ちょ。え、あれ?
え、先輩なんか今日そういう気分ですか? 的な。
俺は、会社の先輩であり、かつ劇団の仲間であり、そのあたたかさを家族と言って憚らない中で、先輩といわゆるそういう関係になっていた。この部屋で最初、先輩と恋人になった事でだいぶ盛り上がって抑えの効かないことになって十代の若者でもないのに声やら物音やらがエスカレートしていったら、隣の部屋から「夜中ドンドンうるさい」的な苦情が出たりなんだり。咲也にまでその情報が行ってしまった事を知って、先輩はその後しばらく寮の中でいちゃつくのをめちゃくちゃ避ける時期もあったりしたけど。当時は、怒ったの半分、照れてるの半分、みたいなむくれた先輩を宥めすかして、今はそれなりにうまくやっていた。まあ、そういう時は派手に音を立てないように、というくらいのだが。
俺がスマホの画面から先輩へと視線を向けると、部屋の灯りが消された暗闇の、スマホからの画面のわずかな光の中で、先輩が俺の上に陣取った。そして、先輩が劇団の家族にしか見せない、と俺の知る、柔らかな笑みで俺を見て言った。
「茅ヶ崎、おめでとう」
俺は驚きすぎて、寝転がって千景さんを見上げたまま、間抜けな顔をしてしまっていたと思う。いや、冷静じゃなくて、正直あまり良く分からないけれど。
スマホが、ブン、ブン、と震えてメッセージが入った事を俺の頭の横で告げている。俺のリアル誕生日を知っているゲーム仲間からのメッセージかもしれない。今はもう日付を超えて、俺の誕生日になっているんだろう。
先輩が、少し距離を詰めた。先輩のいつも整えられている前髪が俺の眉間あたりに触れて、そして先輩の眼鏡のフレームが俺の頬に触れるか触れないかのところで、先に互いの唇がふに、と触れた。
先輩が「前に寝る前まで言わなかったらお前拗ねてたしな」と。まるで言い訳みたいな事を付け加えた。
確かに、「おめでとうも言ってくれないんですね」と俺が自分の誕生日が終わるその間際に言ったことが、ある。その時の先輩は少し驚いた顔をして、「日が変わる直前に言おうと思ってた」と言ったけど、俺は「別に今更そんな言い訳しなくていいですよ」と……。なんというか、ひどく、子供っぽい拗ね方をした。
「今年は一番乗りだ」
先輩の身体が俺の仰向けの身体に重なって、俺は先輩の背中に腕を回して息を吐いて、回した腕でぎゅっと先輩を抱きしめる。
「ノーロマン返上します?」
誕生日に、一番乗りでおめでとうを言うとか。そんなの、ラブコメ漫画のそれみたいじゃないか。
俺がふざけて言うと、先輩は「そんなこと俺に言うの、もともとお前だけだろ」と俺の肩口に顔を伏せたまま笑った。
俺は先輩の首筋に顔をすりつけて、あと下半身も少し腰をあげて、先輩におねだりした。
「ねえ、先輩、寝かせてあげられないんですけど。そんな可愛いことされたら」
千景さんは、俺の上に乗っかったまま、たぶん少し恥ずかしくなってきたのか、ぎゅ、と身体に力を込めたようだ。
「……今日、平日だけど。週の真ん中だし」
俺は先輩の髪を唇で掻き分けて、その耳を唇でふにふにと挟んだ。
「我慢出来ないですよ、こんなの」
「……ソシャゲで、いろいろ回収しなくていいの」
伏せていた顔を上げた先輩の顔は、期待の色を含んでいた。
「それは後からちゃんとやるんで」
「体力持つの?」
「はは、じゃあ先輩に、腰振って貰うのお願いしようかな」
背中に回していた腕を下げて、身長の割に細い千景さんの腰を撫でると、千景さんは俺の頬を両手で包んだ。その表情は、とっくに俺しか知らない千景さんの顔だ。
「……お祝い、だからな。今日だけだぞ」
「はぁい」
触れてきた先輩の唇に、俺も優しく舌で触れた。