白き鬼哭のプロット起承転結の起
烏が帰ってこない村に行く。鬼が、いるのか?
ぜんねずは1月に結婚式をあげたばかりで、新婚早々の怪我をして療養していた。
『いまの状況を簡単に説明。周りの情景と3月の初め頃であることを書く』
(善逸)
村の行くまでの道すがらを描写。海沿いの村。辺鄙なところにある。洞窟を通らないとたどり着けない。松の木などが生えている。
偵察に行った烏が戻ってこないので、近くで療養を終えた鳴柱に行ってもらう。
善逸がぶー垂れるのを、禰豆子がよしよしする。療養は襧豆子も同行していたので彼女も一緒だ。彼女は特異な経歴(人から鬼へ、鬼から人へ戻った)から鬼に狙われやすいので、できるだけ彼女を守れるものと同行している。
『洞窟に入って出て、洞窟が満潮で埋まったこと』
(善逸)
洞窟に足を踏み入れる。中は暗くてじめっとして、潮のにおいがきつかった。波の音がすぐそこまで聞こえる。
善逸、怯えながら襧豆子の手を握る。襧豆子、大丈夫だよと安心させる。
洞窟はそれなりに長いらしくて外の明かりが差し込まなくなってきた。暗くて襧豆子の歩みが遅くなったので、立ち止まってカンテラに火を付けようとすると、足元に海水が引っかかった。ぎょっとする。洞窟は満潮で沈みそうだ。
火を付けるなんて悠長なことやっていられない。自分だったら明かりがなくても暗闇を行ける。襧豆子を抱き上げて、音だけを頼りに洞窟を駆け抜けた。善逸の瞬足でも海は迫ってくる、寄せて返す度に。善逸の膝まで迫ってきた波を振り切って洞窟を抜けた。
『舞台になる村の全容と周りの風景と3月のなのに肌寒い可笑しな村の様子』
(善逸)
洞窟を抜けた先には、果たして牧歌な農村が広がっていた。洞窟を入った時は16時頃で日も出ていたのに、ここはもう闇に沈んでいた。仰ぐとそこには村を覆い被さるような山が聳えていた。
抱き上げていた禰豆子をおろす。無言ではいた日輪刀にふれる。ここは何かおかしい。(鬼が支配しているので、春になっても冬のよう)
「善逸さん、洞窟が海に沈んでるわ」
と、禰豆子。つまりはもう行き来できない。
外は春だったのにここはまだ冬のように寒い村だ。波で少しだけ濡れた禰豆子を気にかけて、自分の羽織を肩にかけてやって自分は襟巻を頭から巻く。奇異な髪を隠す目的もあった。
村を目指して歩いていく。
『村長に会って、しばらく滞在が許可された』
(善逸)
村はしっかりとした村だった。しっかりしすぎている。村と外を区切るようにカラタチの生垣が植えられていた。びっしりとした刺が人を拒む。
これを超えては人もやってこないだろう。唯一開口している方へ向かう。
村というよりは砦である。何かから守るように、それとも何か出さないようにか。
「おい、あんた何もんだ」
村に一歩入ると声をかけられた。善逸は振り向きながら日輪刀を背に隠す。
「どうもこんにちは。俺は司法省人事管理委員会から派遣されてきた我妻と言います。と言っても下っ端なんだけどね、使い走りなんだけど!むしろ日雇いといっていいくらいな!」
早口で本当っぽいことを言うと、村人は自分じゃ判断出来ないから村長のとこに連れていくと言われて連れていかれる。
道すがら見た村は豊かそうだった。
早朝は大きな屋敷を構えていた。善逸が柱を拝命したときにいただいた屋敷に遜色ない。
村長(紫引という名字。鬼だった青年の名前を名字にした)は老人で、傍らに孫娘らしきが座っている。目を伏せて無愛想だけど、それでも目を引く可愛らしさをしていた。
「ひなびたむらに何用ですかな?」
「ええと、さきほども話したとおりに」
「善逸さん、襟とった方がよいわ」
禰豆子に後ろから囁かれて、あわてて襟巻をとる。長い金髪が背に落ちた。禰豆子も襟巻をとる。
「おや」
尊重が驚いた声をあげた。
「これでも日本人ですからね!」と、告げておいてから村人にさっき言った話をする。
「なるほど。それは大変でしたでしょう。どうぞごゆるりと調査してください。村人には協力するように言っておきます。が、申し訳ないのですが時期が悪すぎましたな。調査が済み次第帰っていただきたいのですが、さきほど超えてきた洞窟をご覧になったでしょう。あれの干潮時刻が夜になってしまいました。夜にあそこを超えるのは些かあぶのうございます。丁度空き家もありますれば、何も無い村ですが暫しの滞在をしていただきたい。身の回りの世話する者もつけます。ほれ、ご挨拶しない」
孫娘らしきが頭を下げた。
「じさいおふねと申します。なんなりとお申し付けください」
「じさいと年齢も近そうですし仲良うやってくださいな」
「奥方様は着物が濡れてます。湯殿に案内します。」
「ああ、温泉にしなさい。久方ぶりの客人でお役人様だ。特別に許可しましょう」
と、村長が言う。じさいが複雑な顔をして案内してくれた
『温泉でいちゃいちゃ』
(善逸)
連れてこられた温泉は山の麓にあった。村長の家を横切っていかなくてはならないので、利用者は少ないのだという。雑木林奥が婦人、手前が殿方だという。簡易な脱衣場で善逸は着物を脱いだ。鬼の気配などはしなけど、そもそもこの村には烏の行方を捜すために来ているだけだが、身に染みついた習慣で日輪刀は湯につかぬ手元に置く。一度、苦い思い出があって素っ裸で鬼と戦ったことがあったので、褌は締めておいた。
うっすらとした月明かりだけ。目を閉じると水源が聞こえた。音からするに大岩が男女の垣根になっているのだろう。後ろは女湯へ繋がっているようだ。ちゃぷんと湯が乱れた音も聞き取れた。禰豆子の音もする。彼女が湯に浸かったのだろう。少しだけ静寂。善逸が声をかけようかとしたとき湯が波立つ音がした。
か細く、善逸さんと囁く声が聞こえる。日輪刀を片手に急ぎ大岩を迂回しようとすると、禰豆子の音がこちらにも向かって大きくなった。
大岩のあちらから妻が湯文字だけをつけてあらわれた。ドキリとした。何度か湯を共にしたことはあれど、温泉は初めてだ。色っぽい後れ毛や濡れて張り付いた湯文字。
そんな善逸に構わずに禰豆子が胸の中に飛び込んできた。慌てて抱きとめる。
「どうしたの、ねずこちゃん」
「善逸さん、誰かに見られてるような気がしたの」
「ああああ!?禰豆子ちゃんの俺の禰豆子ちゃんを覗くだとう!!」
彼女を隠すように抱きしめて耳に集中した。いらない音を排除して、後方の女湯の音を拾う。湯の音と葉の擦れる音しかしない。
「うーん、今は何も聞こえないよ」
「ごめんね。あっち暗いから少し怖くなっちゃったのかも。私、戻るね」
「戻らなくていいよ。一緒に入ろうよ」
イチャイチャする。
挿入なしのいちゃいちゃ。キスありあり
『禰豆子ちゃんが焼き餅焼く』
(善逸)
じさいが風呂にやってきた。禰豆子がいないと思って男の露天風呂にやってきて、禰豆子がいたことに鼻白む。
きっちりゆいあげられた髪はたらして、手ぬぐい1枚で体を隠すが、ちろりと薄い色の乳首はみえているし下毛も手ぬぐいからうっすらと透けてひたりとはりついていた。なまじ裸よりもドキリとする。
チラリズムのかたまり。善逸はいけないと思って視線(外す。
じさいがいなくなってから、禰豆子が拗ねた。少しだけ大きくなっていたから。
善逸が慌てて謝るけど、禰豆子は面白くなかった。ここで禰豆子を拗ねさせない。このあと禰豆子に用意されたお酒を善逸が飲むから。
『仮の家につく。善逸が薬で眠らされるけどそれに気付かない』
(禰豆子)
着物を着て善逸が出ると、禰豆子がお盆を持って困ったようにしていた。
女湯にだけ月見酒が用意されていた。でも、禰豆子は下戸だ。用意してもらったのに飲まないの申し訳ないと言う禰豆子の代わりに善逸が飲み干す。結構な高い度数だ。慌てて呼吸で酒が一気に回らないようにした。
用意された家に向かう。村の集落から少し離れた低い丘に家はあった。きちんと整備されていて、さっきまで人が住んでいたようだ。
部屋に入ったとたんに、気が抜けたのか善逸は土間に腰を下ろして、大あくびをした。どうやら眠いみたいだ。
禰豆子は病み上がりだから疲れが出たんだろうねと言う。善逸も、禰豆子ちゃんと2人きりになって気が抜けたのだいう。この村は少し可笑しい。見知らぬーー鴉が行方不明になるようなところで禰豆子を連れた善逸が果たして気を抜くだろうか。遠くなる意識の中で、俺が起きるまで家から出ないでと禰豆子に言ったが、それが声になっていたかどうか分からなかった。
思い出して禰豆子は散策に出ることにした。
海辺の近くの林を歩いていると、林の日陰から物音が聞こえた。訝しんで覗いてみると傷ついた鴉が苦しげに羽を動かしていた。禰豆子がしゃがみ込んで抱き上げる(日の光に当たってない)と、後ろから男に声をかけられた。
「それ、鴉だろう。この村では鴉は不吉な存在だ。見たら殺さないとズクさまが殺しにやってくる。ズクさまは鴉を忌み嫌ってる。一緒にいたあんたも殺される。(フクロウ=ミミズクのこと。古語でズクと言って、耳つくと言われていた)だから鴉を渡せ」
鴉を抱いて後ずさる。禰豆子がしゃがんでいることを意識して書く。鴉から禰豆子へ視線を動かした男が喜色に目を輝かせた。
禰豆子に手を出そうとした寸前に善逸が目の前に立つ。
「俺のお嫁さんに何か用ですかあ」
恨めしく目を血走らせる善逸。少しギャグっぽく。
「いいか!!その鴉を殺しておけ!いいな」
と、叫んで男は逃げていく。
「この鴉は」
しゃがみ込んでいる禰豆子の視線にあわせて善逸が鴉の羽根を撫でる。
「鬼殺隊の子だね。翼は折れてないみたいだけど、これ」
禰豆子から鴉を受け取って、善逸がすくっと立ち上がった。朝日が鴉を照らすと、鴉の羽根を貫いていた棘がジュッと音を立てて、とけていった。カラタチの枝に似ていた。
血鬼術だ。
この村には、鬼がいる。
起承転結の承
鬼がいることは分かった。どこにいるのか。そして不穏なことが起きる。
『この村のどこに鬼がいるのかな』
(禰豆子)
この村には鬼がいるのだから慎重にならなくてはならない。
鴉を抱えて借家に帰ると、朝餉を持ってきたじさいがいた。朝餉を食べた後にじさいに村を案内してもらった。
してもらいながら、善逸は偽りの調査をする。善逸が畑で作物を耕す村人に話しをきくために畑にひょいひょいと入っていった。それを遠くから禰豆子とじさいが見ていると、じさいが朝のことをたずねてきた。
「朝、どこにいたのですか。我妻さん、勝手にいなくならないでください。小さな村とはいえ、小さな村ですから警戒心も強いのですよ」
鬼がいるからなのか。禰豆子がそれを思う。
「我妻さんは外の女ですから興味はあるんですよ、村の男は。どうぞ大人しくしてください。村の男のせいで、式亭三馬先生の江戸の水ならぬ天女丸のお世話にはなりたくないでしょう?」
(式亭三馬とは薬屋を営んでいた浮世絵師のことであり、江戸の水戸は彼の店で取り扱っていた化粧水のことである。『天女丸』は同じように取り扱った避妊薬のことだ。眉唾物。だって、避妊できるのに妊娠したければ妊娠促進剤にもなるというものだから呆れたものだ
禰豆子はもちろん知らない。
「あら、もう廃れたのかしら」田舎だから色々と遅れていることを自覚してるじさいは恥ずかしい。
それよりも鴉を保護していることはじさいには内緒だ。
村の主要な場所を案内してもらう。善逸が時折、耳を澄ますように目を閉じる。鬼がいる神社もそれとなく書く。お寺はフクロウ(ミミズク。2人にはフクロウとしか見えないけど、耳があるからミミズク)の手水台がある。
案内してもらっている時に気づいたのだが、じさいは禰豆子を我妻さんと呼んで善逸のことは善逸さんと馴れ馴れしく呼ぶ。
善逸が他の人のところに行ってるときに、
「わたしも禰豆子って呼んでください」
禰豆子が気安く言う。
「そんなの申し訳ないわ、我妻さん」
わざと我妻さんと読んでくるじさい。
「善逸さんって女慣れしていませんね。昨日、露天風呂でわたしを見た善逸さんの慌てよう。ほんに可愛らしい。それなのにあれだけ鍛えられたお体して。…羨ましい」
じとりと薄暗く見られたあと、ガラリと話題が変わる。
「だんな様とは恋愛結婚かしら?それともお見合い?」
「善逸さんは兄の親友だったんですが恋愛結婚です」
「そ。それじゃあ親族からも反対されずに、周りから祝福されたお幸せな事ね。じゃあ、少しくらい味見してかじっても許してくださるわよね。何でも持ってるなら、少し損なうくらい大したことじゃないわ」
「え!?」
と、禰豆子が叫ぶとじさいは気にもせず、善逸の方にあるいていった。
この日は山沿いの家を訪ねることが出来た。どこの村人もおかしな点はない。けど、どこかに壁がある。田舎の人には壁の音がするけど、この村に住む人の閉鎖感はぬきんでている。環境による者かなのか、鬼の影響か分からない。
ざっと村を回ってみたが鬼の音はしない。どちらにしても昼間は活動できないのだ、
一応偽装しているので冊子に村人の名前と家族構成を書いておく。禰豆子とふたりで借りている家に帰ってくると夕方過ぎた。この村は背の高い山のせいなのか日が沈むのが早い。遠くでフクロウ(本当はミミズク)の鳴き声が聞こえる。ひどく不気味だ。
家の軒下に藤の花の香を焚いておく。
禰豆子が用意してくれた夕餉(ご飯に味噌汁に漬け物これはジサイが用意してくれた。干しなすの炒め物)を食べた後に隊服に羽織を羽織る。背中に隠していた日輪刀はきちんとはく。
村に異常はないようだ。善逸が夜、耳を澄ませて出歩いても鬼の音はひとつも聞こえなかった。平和な海辺の村だ。海に沈むような、カラタチに沈み込むような村だ。
『事態が動く。刀発見させる』
(善逸)
次の日、善逸と禰豆子は村の聞き込みを再開する。今日は海沿いの家を訪ねる。山の方が裕福なのだろうかと疑問に思い家族構成を書いていく。そこで女性がみんな髪が短いことに気づく。(ズクに目をつけられてしまうから)じさいだけが長い。
井戸端会議のような話の中で、少女が禰豆子の長い髪を見つめながら、わたしも髪を伸ばしたいと言う。善逸が伸ばせばいいじゃないと言うと、女の子は伸ばしたら死んじゃうの。と言う(ちょいホラーチックに)
いったん家に帰って、朝方こさえておいたおにぎり(中身は梅干し。鮭が善逸がほしかった)と味噌汁を温め直し食べてから、気になっていた神社に再度行く。神社は村からかなり離れた海沿いにある。普通、こんなに海の近くの村だったら神社は津波などの避難場所になるから高台に作るはずだと善逸は思う。海の神様でも祀っているのかと勘ぐる。
鬼の音に似た音が聞こえるが、それは海鳴りの音だ。(海鳴りの音は、「ゴロゴロ」「ゴー」「ゴゴゴゴゴ……」といった表現がなされ、雷にも喩えられる。海から風が吹いている時は大きく聞こえ、逆向き風の時は聞こえないなど、風向きにより聞こえ方が変わる。古来より海鳴りは、天候悪化の前兆とされている場合が多い。海鳴りの後は風が強くなる、または波浪が来るといった伝承が各地に伝えられている)
禰豆子が手水台に彫られたフクロウを見て、これはミミズクだねと言う。あまり気にしないように書く。すぐ他のところを書く。
善逸が気になったのは、神社の本殿にちらりと見えたものだ。炭治郎だったら確信がもてたし、カナヲだったら見えただろうが、善逸は生憎と耳が良いだけだ。
海辺で村の若い者がすすもうのような剣術のような取っ組み合いをやっている。こちらを見て大きな声をあげてきた。海風が音を運んでくれる。
村の若い衆が神社までやってきた。海沿いの家で見かけた青年たちだ。
「あんた、政府のお偉いさんの使いっ走りなんだろう。どうだい、暇そうにしてるみてえだけんど、おれらと組み打ちでもやらんかい。勝ったらいいもん見せてやるよ。都会じゃ簡単に拝めない代物だぜ(奉納刀の日輪刀)そうだな、負けたらあんたの嫁さ貸せよ。ちょいと酌させるくれえいいだろ
「俺の嫁さんにそんなことさせらんない!それよりもいいもんって?
「そいつはぁ勝っての楽しみだな
禰豆子に酌をさせようとするんで負けらんねえなと善逸は承諾する。
「すもうとやっとう、どっちがいい
「すもうはやったことないし、やっとうも竹刀持ったことないよ。
「一応職務の中に乱闘に巻き込まれたさいの逃げ方を教え込まれてて、良かったらそれでもいいかな。
「鬼ごっこか。構わないぜ。俺たちが鬼で構わないな
構わないよと鬼殺隊の柱は答えた。
浜辺に向かう途中でじさいに出会う。彼女も若い衆に呼ばれたらしく、簡単に説明すると、珍しく慌てた様子で思いとどまるように説得された。
若い衆の中に、ひとり体格の良い男がいた。そいつは剣の腕を見込まれて、大阪のさる有名な剣術道場で学んでいたというのだ。しかし素行が悪く破門されてしまったが、腕前だけは道場を継げるほどだったという。
「鬼ごっこに剣の腕なんて関係ないよ。足にはちょっと自信あるよ。禰豆子ちゃんに酌なんかさせらないからねえ!」
「ふふ。旦那さまを信じてます。
「えへへ。禰豆子ちゃんにそう言われたら嬉しいな
浜辺に降り立つと足元がひどく悪い。禰豆子がきゃあと足を取られるのを片腕で抱き留めた。
棒きれを持った青年が楽しげに笑って待っていた。
音が少しだけ違うやつがいる。そいつが件の破門やろうだろう。
善逸は近くに落ちている流木を手にして、大きな円を描いた。大きければ善逸が有利になる。
手をぱんぱんと払って砂を落とす。
「この円の中で鬼ごっこしよう。五分間俺は逃げるから掴まえたらそっちの勝ちで、俺の負け
こうして鳴柱VS若い衆の鬼ごっこが始まった。
『禰豆子が心配する』
(禰豆子)
善逸のすごさを禰豆子はよく分からない。
円の中央にいる夫はいつものように優しい顔をしている。
誰かの合図で、円の中心にいる善逸に若い衆が飛びかかった。つかまっちゃう!と、禰豆子は思ったけど、善逸はひらりと男の後ろに降り立っていた。そうやってあれを抜けたのか。
五分間脱げ切れたら善逸の勝ちだ。彼の懐中時計を持っているじさいが驚いて見ていた。
飛び跳ねたり、しゃがみ込んだり、背を逸らしたり、善逸は上手く避けていく。あまりカッコイイとは言えないが、男衆の誰も善逸の髪さえ触れられなかった。
じさいが大声で、「あと一分!」
男共が躍起になった。
「あ!」
件の男が落ちていた流木を拾い、善逸の背に斬りかかっていた。じさいとふたりで悲鳴を上げる。善逸はそれを見事に避けて見せた。合図があったわけではないが、件の男はにやりと笑って再度斬りかかる。善逸も走りながら落ちていた棒を拾い上げて、ついでに掴まえようとしてきた男の腕をかいくぐって、斬りかかってきた男の棒を棒で受け止めた。
両手で棒をもってかかってくる男に対して、善逸は片手で棒を持っている。他の男の攻撃もかわしていく。いつの間にか若い衆はみな棒きれを持って、善逸にかかっていた。それらを躱していく。
すごい。じさいが呟いて、ようやく禰豆子も目が覚めた。時間は!?は聞くととっくに過ぎていたらしくジサイが「試合終了」と叫んだ瞬間。ひとりの男が棒を大きく振りかぶった。それがすっぽ抜けて、禰豆子のほうは飛んできた。目をつぶって両腕で自分を庇うようにしたが、衝撃はやってこなかった。あれだけ離れた場所にいた夫が目の前にいて、禰豆子を守っていた。棒は真っ二つに折れて地面に落ちていた。誰かが納刀した音を聞いた気がした。
神社の中を見せて貰えることになった。外には男衆がいる。
中は昼間のあかりが少しだけ。ホコリが待ってチラチラしてる。
奉納台にあった刀をすらりと抜く。目にも止まらない抜刀だ。
「錆びてる」
と、善逸が言う。それからよく眇めて、これは日輪刀だと断言した。
🎀なんで日輪刀がこんなところに?
⚡️分からないけど、俺たちの世代のものじゃない。作刀が違う。じいちゃんの刀でも見たことない。かなり古いよ。
刀は錆びているけど、刃こぼれしていない。
🎀日輪刀があるってことは昔鬼がいたのかな?一度鬼が退治された村にまた鬼がやってきた?
⚡️うん。たぶんそうだと思う。一応、本部に問い合せてみようか。
外にいる男達を気にして、さっと戻った。
刀を戻して、外に戻った善逸がちゅん太郎を呼ぶ。
🎀ちゅん太郎ちゃん大丈夫?鴉が襲われたみたいにならない?
⚡️大丈夫だよ。どうもこのあたりは本当に鴉だけを駆逐するようで雀は対象外みたいだよ。ほら、朝方ほかの雀も鳴いてたでしょう?
本部に、ここ100年辺りこの村に鬼殺隊が来たかどうかを問い合わせる手紙をその場で書いて、ちゅん太郎に持たせた。
(善逸)
家に帰るとじさいが待っていた。夕方に村長の家でささやかな歓迎の宴を開くのでお越しくださいと言うことだ。
招かれてやってくると、ささやかと言われればその通りにささやかな酒宴だった。
村長に村長の息子(四十路すぎて五十路に差し掛かるのにまだ独り身だ。ちなみに禰豆子ちゃんを好色な目で見てる)、じさいともう一人は禰豆子が鴉を助けたときにいた男だ。
和やかに話す。基本、善逸と村長と村長の息子が話す。
ふと件の男が禰豆子に、あのカラスは処分しましたか?と聞いてくる。あのカラスはふたりの家に保護してある。禰豆子が答えようとすると善逸がさらりと、手遅れでしたよ。と、うそぶく。
俺は妻から聞いただけなんですが、この村では鴉は不吉なのですか?と聞くと、まるでチャンスだと言うように村長が話し始めた。
(禰豆子)
我が村はミミズクさまが守り神なんです。
すすきみみずくをご存知ですかな?
江戸、いえ東京の雑司が谷にあるお寺の鬼子母神の逸話がありますでしょう。
ああ、あれですか。善逸は知っているようだ。禰豆子が首を傾げると、彼が簡単に説明してくれた。
お金が無くて、病気の母のための薬が買えない娘が鬼子母神に祈ると、すすきで出来たみみずくを作って売りなさいとお告げがあって、その通りにすると飛ぶようにミミズクは売れて母の薬を買えるようになったのだという。
我が村にも似たようなお話がありましてね、善良な男の恋女房が疱瘡にかかり、男が疱瘡神に祈った。すると神が夢にあらわれ、赤いミミズクを拝むと治るだろうと告げた。男は言われた通りに赤いミミズクに祈ると、妻は見る見るうちに回復して、それ以来この村ではミミズクを祀るようになったのですよ。
なるほど。
んで、疱瘡神に妻はこのとおりに健康ですよと報告するために春分と秋分のまつりに若い男を神社で不寝番させる。
ちょうどX日後が春分でして、良ければ我妻さんに不寝番をやっていただきたいのですが。
「俺なんかでいいんですか?」
「いやはや。昔は神主がいたが、それもいなくなってしまって形のみの男が務めることになってるんですよ。去年はほれ、わしが務めていましたがさすがに年老いてきましてなぁ」
「んー、じゃあ努めさせていただきます。困っていたらお互い様ですし。おうちもお借りしていますしお易い御用です」
善逸は快諾した。
宴も終わりに差し掛かる。件の男が村長の家にある温泉のことを話す。
「どうせでしたら若いもんで風呂にでも入ってくれば良いですよ」と、村長に言われて男3人(善逸と件の男と村長息子)と女ふたりじさいと禰豆子が風呂に向かう。
こういう時の善逸は上手に立ち回って男二人の聞き役に徹している。5人で外にある露天風呂に向かう途中、善逸に禰豆子は引き止められた。髪に糸くずがついてると立ち止まる。善逸が禰豆子の髪をいじりながら、こそっりと忠告してきた。
──なにか出されても決して飲まないで。
(禰豆子)
脱衣場は書かない。めんどいから。お風呂シーンからはじめる。
禰豆子とじさいが湯に浸かってるシーンからはじめる。
🎀いいお湯。あ、今日は少しだけ波の音がするんですね。
🥺わたし、波の音きらい。わたしの家からいつでも聞こえるのよ。だって一番海に近いんですもの
禰豆子は考えた。村から一目置かれ、こうやって村長の家にも呼ばれるようなじさいが何故海の近くに住んでいるのか。
🥺ねえ、それよりも我妻さん。ここって波の音も聞こえるけど他の音も聞こえるんですよ。ほら
耳を澄ますと、隣の男湯に善逸たちがはいってきたのだろう。会話が聞こえてきた。
件男 村長の温泉はいいですなあ
⚡️ほんといいお湯ですね。
息子 ……我妻さん、見た目よりも体すごく鍛えてるじゃないですか。お役所仕事ってそんな体を鍛えないと無理なんですかい?
⚡️いやぁ、俺の部署はちょい特殊でしてねぇ。
件男 うわ、腕の筋肉えげつないですね。ん?これ……な、なんだか刀傷のように見えるんですが…
⚡️え!? ああ、これねぇ〜、ええ実は刀傷なんですよ。禰豆子ちゃんに言いよったクソ害虫を駆除したときに負った傷でしてねえ。んだから、あんた!もう禰豆子ちゃんに近寄んじゃないよ!
件男 ひ!あ、あのときのことまだ根の持っていたんですね。仕方ないじゃないですか。あの時は禰豆子さんが人妻だとは知りませんでしたから。だいたい、我妻さんももしも禰豆子さんと出会った時の彼女が結婚していたらやっぱり同じように見惚れちゃいますよね
⚡️ね、ねずこちゃんが俺以外のお、およめさん。…うっ、吐き気がしてきた。そんなの想像でも辛すぎんだわ!しぬよおれは!(件男と善逸の会話はコミカルに。息子は極力話さない。、そのあとに禰豆子を襲うから)
息子男 禰豆子さんお綺麗ですもんな。じさいも綺麗だか、禰豆子さんは同じくらいに美しい。(美しいから餌になる的な意味)
じさいが突然声を上げた。
🥺ありがとございます。お三人のお話し聞こえていましたよ。ええ、わたしなんかよりも禰豆子さんの美しさったら本当に素晴らしいものなんですよ。
🎀ちょ、じさいさん!
🥺あら、恥ずかしがらなくても良いと思いますわ。この真っ白な肌に細い体ときれいなお乳。乳首のお色も人妻とは思えないほどに純でいらっしゃる。ほんと、男ウケなさいそうね。
⚡️ま、まったあああ!!!禰豆子ちゃんの裸を連想させ。、ああ!!!あんたら想像してんじゃねえぞおお!!!
善逸が風呂の向こうで騒いでいる隙に、禰豆子はじさいの腕を引いて、男風呂から距離をとる。
めずらしく眉を上げた。
🎀はずかしいです!
🥺褒めたんですけど?善逸さんだけに毎夜愛でられる体なんでしょ。なんの恥ずかしいことがあって?
🎀そ、そ、それを言うならじさいさんのほうが綺麗な体してます!わ、わたしよりもお胸大きいし…
🥺ええ、知っております。うふふ、我妻さんはお綺麗なお胸してますけどそのぶんだと紅葉合わせできないんでしょう。善逸さんはお可哀想に
🎀もみじあわせ?
🥺ええ、「もみじあわせ」ですよ。うふふふ。善逸さん以外の男の人に聞くと良いですね。ああ、そうだ。お酒用意してありますが飲みますか?
善逸が口にするなと言っていたことを思い出して首を振った。
🥺では失礼していただきますね。んー、おいし。
手酌で酒を煽るじさいに禰豆子はそろそろ風呂から出ると言うと、脱衣場に肌に良い化粧水を置いてあるからそれを塗ってもいいと言われる。少し躊躇う禰豆子の背を押すように、わたしも胸が小さかったんですがその化粧水を塗るようになってから大きくなったんですよと言われた。
脱衣場で体を手ぬぐいで拭いてからその化粧水が目に入った。ガラス容器にとぷりと入っている。栓を抜くと甘い匂いがした。手のひらに垂らしてみると匂いはさっと消えてしまう。二の腕に伸ばしてから、そのまま肩まで延ばす。反対側も同じようにしてから、今度は少しだけ多めに手のひらに垂らした。恥ずかしさをこらえて、そっとふたつの膨らみに塗る。ひんやりとした液体に乳首がぴくんと反応して、ツンとそそり立ってしまった。
あとは足のふくらはぎと太もも。それからおしりにも軽く伸ばす。太ももの内側を塗るときに少しだけ恥ずかしいところに触れてしまった気がした。このあたりから禰豆子ちゃん発情して少し頭の回転が遅くなっている
温泉で体の芯からほかほかと温まったからなのか。少し体が火照っている。着てきた着物を着るのは少し億劫だ。そう言えばじさいが寝巻きの浴衣があるからそれを使ってもいいと言っていた。浴衣を着て、湯冷めしないようにいつもの羽織を羽織る。
風呂敷に着てきた着物を包んでいると、じさいが風呂からあがってきた。
🥺ねえ、その化粧水とても良いでしょう
🎀ええ、とても気持ちが良いです。
🥺そうそう、善逸さんだけど男風呂から我妻さんに伝言よ。脱衣場出て、右のカラタチの奥で待っているって。
禰豆子が返事をする前にじさいが手を伸ばしてきた。ぼんやりとしてそれを見つめていると、じさいは禰豆子の着物の襟に手を突っ込んで膨らみを優しく揉んだ。
🎀きゃ!
🥺やわらかーい。化粧水が良い具合に馴染んでますよ。
🎀え、えっと、
🥺確かめてただけですよ。ほら
指先でツンとした乳首を摘まれてしまう。
🎀ぁん!も、もう!じさいさん!!
じさいと別れて禰豆子はカラタチぞいを歩く。じさいに触られた胸が敏感になっている。恥じらいなく言うなら物足りない。
こんな外でこんなこと禰豆子は考えたことなかったのに、未だ固くなっているソレを口に含んで欲しかった。それから「禰豆子ちゃん」と、低い声でささやいてほしい。
(モブ男)
敏感になって火照っている体の禰豆子を発見する。まるで誘われているみたいだ。
禰豆子はのぼせているようで、白い頬にうっすらと赤みが差している。紅もさしていない唇は売れた果実のよう。
緩い着付けに、甘そうな息を吐く。
「ごめんなさい。少しのぼせてしまったようで。あの、夫がこちらに来ると伺っていたのですが」
「あ、ああ」
真白い首筋を禰豆子がさらすように、気だるそうに傾けた。
後れ毛が絡みつくように禰豆子の細い首筋に。
我慢できなかった。吸い付けば良いにおいとしっとりとした感触が味わえることだろう。
風呂場でじさいが言っていた言葉を思い返す。
首筋だけでも白いのに、この奥はもっと白いのだ。綺麗な乳もみてみたいし、人妻とは思えない乳首をそうでなくしてしまうほどきつく吸い上げたい。
「…!」
そして気付く。
禰豆子の浴衣の胸の部分がツンと押し上げていることに。
手を伸ばす。
伸ばした腕は禰豆子にふれることはなかった。音もさせず、たた上から降ってきたような男の腕につかまれた。
「俺の妻をどうも」
善逸がきて、禰豆子は助かる。
『エロ』
(善逸)
禰豆子を家の連れて帰る。禰豆子は体がうずいて仕方が無い様子だ。
結婚したといっても、実はふたりの交接はまだ数えるほどしかなかった。と言うのも、柱の激務のせいだ。
体を重ねるのは自分の家でしかなかった。はじめて出先で致す。
男共が禰豆子の身体を想像したことだろう。
禰豆子、はじめて中でよろしくなる。
もみじあわせを聞いちゃって、それを善逸にする。
起承転結の転
『じさいが仲間になる。善逸に惚れてしまう』
(善逸)
禰豆子と行為を終えた善逸は頭を冷やす。なたぼただったが、今思えば危機感のないことだった。禰豆子が絡むとからっきしポンコツになる。禰豆子が絡むからこそ冷静にならなくて。
まだ夜明けにはならない。三月の月の下。
着流しに日輪刀をはいて、髪は肩口からおろす。懐に手を入れ鬼の音を聞くために目を閉じた。
じさいが襲われる音がした。彼女の家はこの崖の下だ。飛び降りて助けに入る。
なんで襲われたのか彼女は分からない。何か企みのある音はしなかった。あったのは野蛮な愛なんてない欲の音だ。
「大丈夫?
「ええ。汚されたけど、何かされたわけじゃないです。それにもう処女じゃないし(自己放棄気味に。天女丸もあるから平気よ
「あれは眉唾だよ。じさいちゃんは可愛い女の子だよ。お風呂わいてあるからお家においで(さりげないけど、限りない優しさ。
じさいを負ぶさって家に戻る。彼女がいるからゆっくりと歩いているとじさいがしゃべり出した。
うまれはここではなかった。遠い記憶に雪の降る景色を見たことがある。ここは寒いけど雪は降ったことがないから。気付いたら養母と暮らしていた。養母は必死な女だったが美しかった。でも、必死さも間に合わなかったようで、ある朝起きたら養母はいなくなっていた。その日から、じさいがじさいと名乗るようになった。
「美しい子を産みなさいと村長に言われたの。それまではわたしはズクさまの嫁なんですって」
「ズクさまは、鬼?」
善逸は悩んでから、自分の素性を明かした。
じさいは鬼の存在を知らなかった。彼女はズクにあったことがないからだ。
夜に生きて人を食う。殺せるのは日輪刀と陽光のみ。
それに、藤の花を嫌う。
藤の花にじさいがびくりとした。
ズクさまは見たことないけど藤の香がするわ。
では、それはズクではないのだ。善逸が考え込んでいる間に家に着いた。寝所では禰豆子の安らかな寝息が聞こえる。
ズクが鬼だか分からないけど、この村にいる鬼は善逸が倒すしかない。柱はどのような鬼でも倒す。だから、鬼殺隊を支える柱なのだ。
「俺がいるから。じさいちゃんは安心してお風呂に入ってよ。俺、あんま強くはないけどやるときはやるから!」
「…まもってくれるの? 今日、奥さまを守ったように?」
善逸は返事をしなかった。
(じさい)
風呂をもらいながら、じさいははじめて守って貰えることに驚いていた。
最初は善逸の見目に惹かれていた。
美しい子を産まないといけないじさいは手頃な男では駄目だった。でも、都会風のはっきりとした二重の善逸はかっこよかった。遠目からでも目立つ金の髪もよかった。だから、欲しくて画策した。
初日に禰豆子に用意した酒に即効性の眠り薬を仕込んで、その隙に善逸と懇ろになろうと思った。なぜか禰豆子は飲んでいなかったようで失策になってしまったが。
昨夜は手違いで禰豆子が媚薬を使ってしまった。よい機会だと思って他の男と姦淫させようとした。
ここにきて、じさいは自分の作戦がすべて禰豆子へに悪意になっていることに気付いた。
だって、人を陥れること以外でどうやって欲しいものを手に入れればいいのか。
「善逸さん、いますか?」
「んー、いるよ」
外から声が聞こえた。
「…わたし、禰豆子さんにひどいことしてきました。謝罪する気持ちはさらさらないけど、善逸さんはいやですよね?」
「やっぱりね。…禰豆子ちゃんは俺の命だから。謝る気がないっていうのはしゃくにさわるけど、白状したってことはもうしないってことだよね」
「善逸さんに嫌われたくないです。好きになって欲しい」
「お風呂、ゆっくり入って。君の家に行って着替えを適当に持ってくるよ」
善逸は返答してくれなかった。嫌っていないよと答えてくれると思い込んでいた。
(禰豆子)
布団の中で禰豆子は息を殺していた。
少し前に起きて、二人の会話がずっと聞いていた。
じさいが善逸のことを好きで、本当に好きで自分に嫌がらせをしていたようだ。だけど、昨夜をのぞいてその悪意は禰豆子に届いていなかった。
それに、彼女はそう言っていたけど、良くしてくれた方が断然に多かった。
恨む気持ちはこっちだってさらさらないのに、心の奥から湧き出てくる悲しみに胸が痛い。
だって、今話しをいているふたりは我妻善逸とじさいのふたりきりの関係だ。そこに妻の禰豆子は全くの無関係だ。
のけ者にされたと感じることの方がおかしいのに、さみしいほどに善逸が恋しかった。
わたしの夫なのに。
それが独占欲だと気付いて、禰豆子は夫のぬくもりがなくなった褥に手を伸ばす。
結婚してからも、善逸は禰豆子に近づいてくる男に牙をむいていた。もう結婚したんだよと禰豆子は苦笑して言っていたけど、それは道理だけで収まるものではない。
善逸を好きになったじさいと、彼女の思いに答えなかった善逸。これはふたりだけの関係性だ。
さみしい。
目を閉じた睫毛の間から熱い涙がこめかみを一度濡らした。
(善逸)
禰豆子が目を覚ます。彼女のけぶるような睫毛が開かれると世界が輝くようだと善逸は誇張なく思っていた。
「おはよ」と囁く。結婚して数日間は興奮のあまり叫んでいたけど、最近ようやく落ち着いてきた。
「昨日ね、禰豆子ちゃんが寝てからちょっと色々あってね、じさいちゃんに俺の素性を話したんだ。彼女は鬼を知らないみたいだ」
「ん」
禰豆子がすり寄ってくる。朝は比較的弱い彼女だけど、こうやって甘えてくることは少ない。抱き寄せて、「朝風呂わかしてあるから一緒に入ろうか」
と聞くと、小さくうなづいてくれた。
どうやら本格的に甘えたなようで、善逸が抱き上げて湯屋へ連れて行っても嫌がらない。試しに浴衣の帯をほどいてみたら、彼女はほんの少し羞じらっただけで、すとんと着物を肩から滑り落とさせた。
昨日、あれだけ慈しんだ禰豆子の裸体だ。ちゅうと首筋を吸い上げても、禰豆子は嫌がりもしなかった。
善逸も着物を脱ぎ捨ててて禰豆子を抱き上げて風呂に入った。
『疑問点の纏め。あの日輪刀はなんだろう?』
(善逸)
後ろから柔いからだを抱きながら、昨日あったことをぽつりぽつりと禰豆子に話した。
「この村には確かに得体の知れない者がいるけど、鬼の音は聞こえない。そのズクさまっていうのは藤の花がするみたいだし、鬼じゃないようだけど他は鬼と合致するんだ
「でも、ズクさまって疱瘡を治してくれた神さまなんでしょう。それにもし、鬼がずっとこの村にいるとしたら、どうして村の住人は生きていられるの?鬼の食欲は優しくないよ」
「そうなんだよなぁ」
夜になっても犠牲者が出ない。鬼がいないからなのか。
鴉を忌み嫌う村の守り神ズクは、鬼の嫌う藤の香りがする。
村の女はみな髪が短い。長くすると死んでしまうと言われ、ズクの嫁だと言われているじさいだけが長い髪をしている。
村の守り神のズクはきっと昔からこの村の守り神だったんだろう。神社にミミズクがほられた手水だいもあったことだし。あれはざっとみて百年くらいはたってるはずだ。
では、ズクはやはり鬼ではない。もしも鬼だったら、この村はとっくの昔に鬼に食われ尽くされている。
だけど鬼がいなかったわけではない。神社には日輪刀が奉納されていた。
とりあえず、今日はこの日輪刀のことを調べよう。そろそろチュン太郎が答えを持って帰ってくる頃だろうし。
(禰豆子)
風呂から出て身支度をしていると、じさいがやってきた。
この村に来た日と同じように朝餉を持ってきてくれた。
「昨夜はありがとうございました。その、お礼です」
昨日とは違う様子だ。ほんのりと頬が赤い。それから禰豆子を向いて、頭をさげた。
「ごめんなさい、禰豆子さん。禰豆子さんにひどいことをしてきました。許してくださいとは言いませんし、許してくれなくていいです。でも、これからは絶対にあんなことをしません。信じなくてもいいけど、わたしが善逸さんに想いを寄せていることだけは信じてくださいね
にっこりと笑ったじさいに、ふたりはぽかんとした。
食べ終わったら神社に来てくださいね。と、颯爽と去って行くじさい。
善逸を見ると、苦虫をかみつぶした顔をしていた。
「善逸さん、知っていたの
「ん。うん。昨日、音が聞こえてきたからねえ
困ったように特徴的な眉が寄る。そういった顔をするからいけないんだわ。ちょっとだけほっぺが赤くなってるのもなんだか腹立たしい。
「善逸さんは優しいからじさいさんが好きになっちゃうの仕方ないけど、でもわたしの旦那さまだよ
「っ、禰豆子ちゃんから聞こえてくる音がさいっこうに可愛い!!
善逸は見目はそこそこだけど、彼の良さは人が助けて欲しいと心の底から思っているときにきちんと手をさしのべてくれる優しさだ。そんな優しさだから、恋の奥の奥まで入りこんで、もう決して抜けてくれない。鬼の箱のときから禰豆子の心はもうずっとそうなっていた。
(善逸)
神社に行ってみるとじさいが待っていた。件の日輪刀がある神社の中に入る。改めて日輪刀を手に取ってみた。さび付いてわからないが、しっかりと水色の刀身をしている。水の呼吸だ。
「ここで善逸さんは春分の日に一夜過ごすんだね」
「え、禰豆子さんそれは違います。善逸さんが過ごすのはこっちのお社じゃなくて、裏のお社です。確かそっちが本殿って聞いたけどよく分からないわ
外に行くと、神社の裏の森に隠れるようにひっそりとくたびれた社が建っていた。
「え。俺、こんなのところで不寝番するの!?嘘でしょう!
善逸が悲鳴をあげる。
「でも中は外観ほど酷くないはずです。わたしもそんなに入ったことないけど
裏の社に入ると、音が聞こえた。隠していた刀を片手にふたりを背に庇う。
善逸の足元には日の光。だけども音はする。
「鬼がいる。かすかだけど鬼の音だ。
しかし、次の瞬間にはパチンと切れるように音はなくなった。
シンとした社。善逸は中央へ歩み寄った。
二カ所。この社には二カ所可笑しな点がある。
奥に長い空間がある。おそらく下へのびている。
もうひとつ。
パシンと柏手を打つ。反響した音がおかしいのは足元だ。刀で床板を切りつけると、そこには古めかしい手記が眠っていた。
手記を持って家に帰る。本当は奥の空間を調査したかったが、自分が中に入ってしまえば禰豆子が無防備になる。せめて藤の花の守りだけでも身につけさせたかった。
手記はこの村に住んでいた者(女が書いたものだけど男っぽく書く)だった。
以下手記
鬼が出た。
鬼が出た。
人が食われていく。遊ぶみたいに、ひとりひとりと家からさらわれて消えていく。白羽の矢のように、昨夜食べたひとのかけらを次に食う人の家に置いていく。
この村は、海と山に閉ざされた村は鬼の遊び場だ。
ひとりの剣士(女。名前は雫。でもここでは伏せる)がやってき。長い髪を無造作に束ねた剣士はたった二日でこの地獄絵図を消してくれた。剣士自身が流した血で。
剣士はしばらく村で療養することになった。
その剣士の面倒をみさせていた村人(ズク。しずくから「し」を引いてズク)はほどなく恋仲になった。みやこびとと付き合っても長続きしないと忠告しても馬耳東風だった。剣士は鬼狩り。鬼がいなくなって傷も癒えたら村を去って行く。その通りに何も残さずに鬼狩りは洞窟をくぐって、あちらに戻って言ってしまった。
村人は日に日にやつれていった。健康的で快活とした様はなくなり、しっかり結われていた髪も落ち武者のようで、それはまるで幽鬼のようだった。
鬼が出た鬼が出た。
また人が食われていく。さみしいさみしいと人が食われていく。
あれは鬼になった。鬼狩りに文を出した。間に合うのか。今日は自分の番だ。
ああ、鬼が来る。夜が来る。しにたくないしにたくないくわれたくないしにたくないどうしてこんなことになっただれもなにもしてないのにこうなんてするほうがばかだしにたくないくわれたくないきていたいもうじかんががないよるがいやだ(男が書いたように書く)
(善逸)
善逸は手記を閉じた。この村人が助かったのかどうか分からない。
禰豆子とじさいは厨で昼餉を作っている。
これはふたりには見せない方がいいだろう。
つまり。
善逸は縁側に座って景色をぼんやり見つめながら情報を整頓する。
禰豆子が先日話していたとおりに、この村には一度鬼が出た。そして、鬼狩りが来てこの村の者と恋に落ちたが、鬼狩りは去って行った。村の者はそれがさみしくて、鬼になった。いや、鬼にされたのだ。鬼狩りに恋した人間が鬼になる。自分と真逆だ。鬼狩りが恋した鬼が人に戻った。禰豆子をちらりと振り返ると、じさいとなんだか言い合っている。聞こえる音は柔らかだから心配ないだろう。
鬼がいる場所はわかった。
丁度、今宵は春分の日で、善逸はあの神社で一夜を過ごす。呼ばれたなら応じてやらなくては。こちらとてもう駆け出しの隊士ではない。舌なめずりした。
(善逸)
夕方に村長の家に行くと、簡単な禊ぎといって近くの清水で体を清められる。真っ白な白装束が居心地悪かった。
村長は俺が食われると知っているのだろう。どこか期待する音が聞こえて、善逸は鼻白んだ。
「ズクさまを殺しても構いませんよね」
「へ? はは。ご冗談を。
「冗談じゃないです。この祭りの意味は俺には分からないけど
白装束の上に隊服をばさっと羽織った。滅の文字が夕闇に浮かぶ。そうして日輪刀をはく。
「鬼殺隊として、職務を果たします
村長から聞こえる音はよく知っていた。冷めた吊り目で村長を一瞥して、目にも留まらぬ一閃。
「平凡な村の村長が仕込み杖なんて異常だ
と、村長の持っていた杖がふたつに折れた。
「どうか抵抗はしないでください。必要じゃない暴力は嫌いなんですよ
ひらりと笑って、その場を後にした。
禰豆子はじさいと一緒に家にいる。
裏の神社にいる。しっかりと夕日が沈んだ。社には蝋燭の炎がふたつ。善逸は目を開いた。
鬼狩りの時間だ。
鬼はよほど我慢強いらしく、動く気配はない。不意に外からチュン太郎の音がした。善逸が招くとチュン太郎は欲しい情報を持っていた。
この村に出向いた隊士は、女の隊士だ。つまり鬼になったのは男。手記も書いた人の性別は書かれていなかった。それに思い出してみれば、じさいの名前を聞いたときに可哀想だと思った。彼女は、ジサイなのだ。舟にまつわる名前をもって名字がジサイならば、それ以外に思いつかない。
遠くで鬼の音が聞こえた。鬼の狙いは男じゃなくて女だ!
(禰豆子)
じさいとふたりで家にいる。
他愛ない会話をしていて、ふとこの家がしっかりと管理されていたことを思い出した。まるでこの間まで誰か住んでいたかのようだ。
「このお家、とても綺麗なんだけど」
「ええ、そうですよ。このお家はたまにやってくる方に貸してるから」
「たまにやってくる?えっと観光目的とか」
「いいえ。よく分からないんだけど温泉かしら。夕方までわたしがお世話するんだけど、いつも早朝に挨拶もしないで帰ってしまうの。村長はそれでいいって言うんだけど
なんとなく禰豆子は引っかかった気がした。
「禰豆子さんはこっちで寝ていたの。板敷きより畳のほうが寝やすいなの
「善逸さんがそちらは駄目と言ったの
「どうしてかしら
ふたりで奥座敷に入ってみる。入ってなかったので少し不気味だ。木の陰になっているようで薄暗い。怖い。
ガタンと家が揺れた。ふたりで抱き合う。
とたんに、ふたりが立っていた床が抜けた。落ちる瞬間禰豆子は見た。自然と床が抜けたのではなくて、誰かがくりぬいた落とし穴に落ちたんだと。
落ちた衝撃で息が出来ない。じさいの方が落ちたときに体勢がよかったのか、禰豆子の名前を呼んでくる。かすれた声でここだと禰豆子は囁いた。真っ暗で見えないが、うっすらと明かりがある方向があった。
「ねずこさん、あっち行きましょう(じさいは罠だと思ってない
「じさいさん、これは罠だよ。
光りの方に行かない方がいいけど、見えなければ何も出来ない。手探りでじさいと手をつないで、光りへ向かう。
そこはぽっかりと開いた空間だった。
竈門の家が二軒くらいすっぽり入りそうな空間だ。どこからからか月の光が差し込んでいた。だからよく見えた。
空間の中心にあった、おぞましさ。
藤の花だ。
藤の鬼だ。
鬼から藤が生えていた。いや、藤から鬼が生えているのか。
どっしりと地下に根をはった藤の幹から鬼が枝分かれしたようになっていた。鬼は骨だった。しかし、人ではない。歌川国芳の『相馬の古内裏』のがしゃどくろのようだ。ない目のくぼみが禰豆子を見ているようで、ぞっとした。
「…」
骨は舌のない口が動き出す。おぞましいことに、骨はゆっくりとゆっくりと肉を纏いはじめた。
再生し始めているのだ!
「じさいさん、逃げないと!」
魅入られるように禰豆子とじさいはそれを見ていた。
僥倖だった。
禰豆子が腕を引っ張っると、ジサイは腰を抜かしてふたりしてすっころんだ。瞬間、ふたりが立っていたところに下から尖った岩が生えていた。だだだという勢いで岩の柱がふたりを囲むように生えてきた。岩の牢獄だ。
振り向くと骨の鬼は肉をまとっていた。下半身から再生したのはふたりに近づくためだ。一歩一歩と鬼は近づいてきた。
ぎょろりと眼孔にひとつ目玉が作り上げられて、それが禰豆子とじさいを認めた瞬間、鬼は恐ろしい速度でふたりに迫ってきた。
じさいを抱き込んで横転するように転がる。岩に髪が引っかかって禰豆子の髪結い紐がほどけた。(ここは長い髪がほどけたとは書かない)
位置的に、じさいのほうが鬼に近い。だけど鬼は足元に転がるじさいにめもくれずに、長い髪をした禰豆子に迫ってきた。
「逃げてぇ!」
跳ね起きながら禰豆子はじさいに叫んだ。じさいがいやいやと頭を振って座りながら後退る。それから禰豆子を振り切るように顔を背けて、立ち上がって光りの方へ逃げた。(刀を取りに。この間みかけた日輪刀を取りに)
鬼のもう片方の目玉が再生する。禰豆子をひたりと見た。
「…ずく」
と、ズクが口にする。
鬼が間違ってもじさいの方へ行かないように禰豆子はわざと反対側に行く。が、すぐに鬼は回り込んだ。
殺されるわけには行かない。食われるわけにも行かない。禰豆子の血はもとは鬼だった者だ。しかも太陽を克服した鬼の血だ。良い方に作用して、鬼の力が薄まればいいが、逆にこの鬼に太陽に対する抵抗力がなくなってしまえば恐ろしい証左になる。
反転した禰豆子の手首を掴み、軽く空中へ放り投げた。
落とされた場所は藤の花がたくさん落ちているところだ。まるで藤の花の褥のようだ。鬼がのしかかってきた。
食われる。
耳元に鬼の牙が触れ、鬼は囁く。
「あいしているよ」
再生したばかりに舌が愛のことの葉を作る。
鬼は禰豆子の首筋を味わうように、舌を這わせる。食うためではなく、明らかに違う意図を持つ舌の動きだ。禰豆子がたったひとりにしか許していない。
「い、いやあああ!」
やだやだやだ。食われるのも嫌だけど、それよりも善逸にしか許していないことを鬼に無理矢理踏み入れられてしまう。あの時、鬼が下半身から再生させた理由が今となって分かった。
骨が禰豆子のむき出しに膝下をなぜる。骨の指がずずずとそのまま上に上がっていく。着物の裾が乱される。
ふっくらとして、善逸が優しい顔で寝転がっていた太ももに骨が容赦なく触れて、ぞっと太ももの間に骨が落ちて、(禰豆子ちゃんは何もされない)
鬼は吹っ飛んだ。
目の前には黄色い旦那さま。清廉な納刀音が禰豆子を落ち着かせる。
「禰豆子ちゃん!」
「ぜ、ぜんいつさ」
隙間無く抱きしめられるが、善逸はすぐに禰豆子を離してしまった。
「まだ鬼は倒せてない。首を狙ったのに、的をずらされた。」
言われて近くに岩の柱が突き出されていたのに気付く。
「禰豆子ちゃんは逃げて。たぶんこいつは藤の花は利かない。
「禰豆子ちゃん、あっちの光りのほうが出口みたい。かすかにじさいちゃんの音が聞こえる。
「善逸さん、気をつけてね
禰豆子が走って行く。それを追いかけるように鬼が立ち上がったが、善逸がその前に立ち塞がった。
(なんかカッコイイことを言わせる)
(善逸)
鬼の攻撃は地中から尖った岩を生やしてくるものだ。
未だ体の半分は骨だが、これに肉と筋肉がまとったらそちらでも攻撃してくるだろう。
岩の攻撃は耳の良い善逸には脅威ではない。迫り出てくる一瞬、地中から音がするのだ。それを聞いて避けることなど、善逸にとってどうってことないものだった。
しかしこの岩の強度は厄介だ。切れば刃毀れどころではない、刀が折れる。
天井と地上を足場にして、鬼に切りつける。しかしこの空間は狭い。善逸の戦い方は広さを生かした戦い方だ。そして、何よりも鬼が血鬼術で岩を生やすごとに足元から嫌な音が聞こえていた。崩落するかもしれない。自分一人だったら助かるが、この洞穴は蟻に巣穴のように村中を這い巡っている。
つまり、この場所でこれ以上戦うのは危険である。
右肩を薙ぐ。くそ、また首を逸らされた。
善逸は背を向けて、鬼を外に誘導させる。禰豆子とじさいがいるほうではなく、もうひとつ外に続く音がする方だ。善逸がいた神社の奥だった。神社には人家が近い。海だ。敵の攻撃を避けながら浜辺を目指す。血を流しすぎた鬼は腹を空かせた様子で善逸の後をおってきた。
(善逸)
浜辺までおびき出すと、洞窟の中では見えなかったものが見えた。鬼が出してくる攻撃の柱には鈍く光る石が見えた。おそらく宝石だ。これは宝石の原石だ。
「うわああ!」
と、叫ぶ声が聞こえた。鬼に気を取られていて浜辺に人がいたのに気付かなかった。パッと見ると先日、鬼ごっこをやった若い衆が腰を抜かしていた。
善逸と若い衆だと、若い衆の方が近い。飢餓状態の鬼は近い方に食らうはずだ。鬼が飛んだ。
やばい。食われる!
と、思ったが何故か鬼は村人には目もくれずに、善逸の方へ向かってきた。それを躱しながら、村人に「逃げろ!」と叫んで鬼を蹴った。
さっきの一瞬は鬼にとって好機だったはずだ。村の男に食らい付けばわずかでも回復できたはずなのに、刀を持つ善逸に向かってきてた。
善逸の伸ばした長い髪に鬼の爪が伸びた。怪訝に思った。
違う。鬼は髪を掴もうとしたのだ。ふいに女の子が行っていた言葉が思い出された。
─長い髪をしていると殺されてしまう。
これか。この村で長髪は善逸とねずこと、じさいだけ。
そこで善逸はぞっとした。山に住んでいるものたちがこちらを監視するかのようにこっそりと盗み見ている音が聞こえてきたからだ。
(これを知ってるのか…!)
そうだ。一件一件調査をしていて、奇妙な偶然に気付いたのだ。山間の家がみな親戚同士なのだと。
鬼はあらかた肉と爪をまとって、しゅとうを繰り出してくるようになった。せり上がってくる石の柱と爪の攻撃。
鬼が砂に足を取られた。
雷の呼吸、壱の型 霹靂一閃!
逃さずに鬼の頸にひたりと刃をいれた時だった。
これではない、と善逸の中で音がした。
鬼の頸は半分だけ斬っていた。鬼がとれかけた首をくっつける。
「ず、く……」
鬼が声を出した。
「!」
その名前の意味をようやく善逸はわかった。チュン太郎が持ってきた文に書かれていた。
自分の持つ刀で果たしてそれは叶うのか。
「善逸さん!」
禰豆子とじさいが浜辺にやってきた。禰豆子が奉納刀を持っている。
「禰豆子ちゃん!刀を!」
刀が投げられる。禰豆子とじさいに向かって鬼が飛翔した。善逸は刀を受け取って、はじめてのその呼吸を使った。
鍛錬で何度も見たことはある、聞いたこともある。配下にその呼吸を使う隊士はいるし、炭治郎のもうひとつの呼吸でもある。
雷の呼吸とは違う。柔軟に形を変えて、
水の呼吸、㯃の型 雫波紋突き
この日輪刀を持っていた隊士がもっとも得意とした技。そして、その隊士に名前でもある技。
日輪刀は鬼の喉を貫く。
鬼がゆったりと笑った。
「おれはこれがずっと食べたかった。しずく、あいしているよ」
雷の呼吸 霹靂一閃。
一閃のもと、鬼は崩れ去った。
海辺の情景と疲れてやりきれない善逸の様子。
起承転結の結び
(禰豆子)
夫が鬼を屠るのを見ていた。悲しいのに、それを美しく感じてしまった。きっとそれは村を覆っていたカラタチの花が一斉に形を崩していったからだ。カラタチの檻、今だったらそれが檻だと禰豆子は分かった。檻は村人をこの村から出さないようにするためか。それとも。
「ズクの愛した鬼殺隊隊士、藤村雫をこの村から出さないようにするためだよ」
それに答えたのは善逸だった。彼の後ろの海からゆっくりと朝日が昇ってくる。
海辺の村は一等先に日が差し込んでくる。遮る者がないからだ。
「この日輪刀、どうしたの?」
「あ、うん。じさいさんがわたしが鬼に襲われてたから武器を取りに行ってくれて」
「はは。そりゃ勇ましい。じさいちゃん、俺の禰豆子ちゃんをありがと。おかげで助かったよ」
「え、は、はい」
じさいは座り込んで、善逸をぼーと見つめていた。
禰豆子だって善逸のその姿に見惚れてしまう。じさいだって同じだろう。悋気は起きなかった。たぶん、彼女は今混乱しているだろうから。
「殺してしまったのか!?」
村長が血走った目で走ってやってきた。
善逸がきつい眼差しで睨み付ける。
「鬼殺隊なんでね。鬼がいたら殺します。あんたらが飼ってた鬼は殺しましたよ。
「飼っていたのではない!こうでもしないと自分たちが標的に
「で、村人が殺されないように外から女を招いて食わせてたってわけか。鬼の攻撃は地中から鉱石を呼び出す者だ。その鉱石をうっぱらって生計をたてたくせに飼ってないっていうわけね
「仕方が無いだろう。この村は
「漁業が出来ない。この村に来てからずっとおかしいと思ってた。浜辺には舟が一艘もない。食事に海産物がひとつも出ない。海辺の村なのにさ。それにこの静かな海。ここは海の音を聞くに海流や潮の流れ的にひどく穏やかすぎる海なんだろうね
「だから、仕方なしに我らはあの怪物が人を食う時に出す鉱石から金剛石を売って生活していたんだ
善逸は冷ややかに村長を見た。
「それにしてはずいぶんと効率よく金剛石を手に入れてたみたいだけど。じさいちゃんは、その名前の通りにじさいなんだな。
「ああ
「美しい子どもを産めばお役目ご免。ってことは、贄になる女の子は綺麗であればあるだけ質の良い金剛石が手に入ったってことか。もういい。
ふと、善逸は思いだした。この鬼になった若者の名前は「しびき」だ。この村長の名字もまた「しびき」だ。彼の鬼が人だった時の名前を名乗っていたのは忘れないためか、それともしびきの家から鬼が出たからなのか。
カラタチの木がなくなると、朝も焼けから鴉が数羽やってきて頭上で鳴いた。
炭治郎の鴉だ。心配で文を持たせたのだろう。禰豆子に寄り添う鴉。
(オリキャラだから2ページくらいにおさめる。くどくど書かない)
藤村雫のお話。
鬼殺隊の隊士であった雫は村人に恋をした。村人は装剣金工師だった。美しい鍔をつくった。しかし今、鬼殺隊の隊士は殺されてしまって少なくなっていた。自分が抜けるわけには行かない。恋を振り切った。彼が作ってくれた鍔をはめて戦場に戻ったのに、彼は鬼にされてしまった。殺そうと思った。
村の洞窟に身を潜ませている彼を見るまでちゃんと殺そうと思ったのに、彼はずっと自分の名前を口にしていた。その声を聞いたとたんに無理だった。彼の優しい言葉しか言わない唇が雫の喉元に食らい付いていた。彼の糧になるならいい。泣きながら雫を喰いながら、彼が雫のために作った金剛石がきらきらと落ちていく。必死になって血まみれの手を動かして懐に入れておいた狂い咲きの藤の種をばらまく。地下でもこの藤は芽吹く。雫の無念を吸い上げて藤は開花する。鬼になった青年に絡みつくように。それだけが鬼殺隊の隊士として出来ることだ。
嘘。
食べるならわたしだけを食べて。あなたの優しい唇が他の女の子に触れることなんて許しません。
雫は事切れ、鬼は最愛を探し求めることになった。眠りに落ちた鬼の足元には雫に贈るために加工された金剛石がきらめいていた。
それが、この村を栄えさせる循環になる。
腹一杯になって眠りにつく彼の背後にあるふたりで植えたカラタチの木が見えた。
(前を書いてから、そのテンションで視点決める)
鬼を倒したその日のうちに鬼殺隊が海から船でやってきてくれた。隊士の役目は鬼を滅するまでだ。あとの事後処理や村長の処遇は柱が決めることではない。隠が村長になにやら問い詰めているのを遠巻きにして、善逸は禰豆子を連れて村から去って行く。
「待って!
じさいがふたりを呼び止めた。
「禰豆子ちゃん、先に行っていて。すぐに追いつくから
「うん。じさいさん色々とありがとう。息災でいてくださいね。お手紙送ります
と、禰豆子が先に行く。
「…
「じさいちゃん、話があるんでしょう。黙ってちゃ分からないよ
「善逸さん、どうしてわたしにここまで優しくしてくれる?さっき隠って人にわたしのこれからを聞いたわ。わたしの生家を探すように善逸さん…鳴柱っていうのね、が手配してくれたって聞いたの。生家がなかったら勤め先も斡旋してくれるって。そんなの、そんなの期待しちゃう!善逸さんがわたしのことを好きなんじゃないかって。結婚して禰豆子さんがいても、わたしのこと好きなんじゃないかって思うわ
善逸は優しく、さみしく目を細めた。
「うん。じさいちゃんの声が、声だけは禰豆子ちゃんに似ていたんだ。その声で俺の名前を呼ぶから…
「…酷い人。嘘でも好きだよって言ってくれればいいのに。どうせ禰豆子さんはここにいないんだし
「嘘は心に響かないよ。じさいちゃんも体を大切にしてね。あまり無茶しないように。自分を粗末にしないで
ひらりと手を挙げて、善逸は禰豆子の方に歩いて行く。もう振り返ることはない。だってこの村にはもう鬼はいないのだから柱は次の夜を見据える
(禰豆子)
鬼殺隊の所有する蒸気船に乗せてもらった。この蒸気船は四国からの任務帰りで、途中で善逸と禰豆子を回収してくれた。
横浜港で見かけた豪華客船ほど大きくはないものの、個人が持つには優雅な船だ。隠や隊士が忙しく甲板を行き来するのを禰豆子は船室の窓から眺める。その中に夫もいた。難しそうな顔で何かを指示している。一度禰豆子に手を振ってから二階の船室に行ってしまう。船の揺れとあたたかな日差し、それから昨夜寝ていなかった疲れから禰豆子は船をこいで、そのまま寝てしまった。
目を覚ますと、そこは見慣れた鳴屋敷だった。ただし、寝室ではなくて善逸が書き物をする書斎に布団をしかれて寝ていた。目の前には文机に向かっている夫の大きな後ろ姿。
「おはよう。禰豆子ちゃん」
ちらりと肩越しに見てくれる。障子から見える太陽は夕日だろうか。
「疲れたみたいだね。港に着いても起きないから、そのまま家に連れてきちゃったよ。本当にごめんね、今回こんなことになっちゃって
「ううん。わたしこそ足手まといでごめんなさい。
「禰豆子ちゃんがいるから俺はがんばれるんだよ。さてと、お風呂入ろうか。ちょっと前に湯を沸かせたからちょうどいい湯加減だと思うよ
「善逸さんは、今日は任務は?
「今日はないよ。明日にはでかけないといけないけど。だからさ、おいで禰豆子
「善逸さん…!
抱きしめられる
「鬼に組み敷かれた禰豆子ちゃん見たとき、頭の中真っ白になった。…悔やまれるな。あの時もっと冷静になってれば一撃で首を落とせたのに
「善逸さん…」
キスしながらお風呂に連れて行って。そこでする。
エッチのときにじさいのことを話す。天女丸のことも話す。善逸が、そんなもの無くても孕ませるからと言う。
(禰豆子)
ふわふわとしたまどろみの中で禰豆子がうっすらと目を覚ますと、さっきと同じ光景が見えた。やはり同じように文机に向かって書き物をする鳴柱の後ろ姿。
彼は誰かを一人でも守るために刀を握る。どれだけ鍛錬を詰んでも震える指先と足元。だけど地を蹴る瞬間、彼はすべてを禰豆子でさえも置き去りにして命を乗せて剣を振るう。
悲しいほどに優しいから愛おしくて、とてもこわい。
ひとり静かな海で日輪刀をもって、佇んでいた夫の横顔を思いだして禰豆子は愛をこぼした。