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    hatori2020

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    hatori2020

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    鳴柱ではなくて、兄妹ぜんねずです。

    12月23日ウェブオンリー新作!幼い頃の感情というものは未分化の状態で、成長とともに細分化されていく。
    愛情は快から生まれたように、好ましい感情はすべて快から枝分かれしたものだ。
    禰豆子の、善逸への感情は好ましいだった。そこには禰豆子も薄らとしか思い出せない、産まれる前の記憶が関係していた。たぶんにそれは前世と呼ばれるものだろう。それは善逸も同じようにあった。しかし、前世の記憶は濃厚なリアルにより上書きされる。
    結果として、前世がふたりに及ぼした影響は人格形成と互いの感情だけに留まった。
    禰豆子は家族思いの心優しい穏やかな少女に。善逸は気弱でも気骨ある少年になった。
    この世でかけがえの無い存在はお互いだった。ずっと離れない、と死の床で指切りした約束通りにふたりは生まれてすぐに出会った。
    これが運命じゃなければ何が宿命なの?と、たどたどしい口調であどけない禰豆子が言うと、結婚するしかないってことだよ!と、幼稚園のお仕着せの園服を着た善逸が答える。
    幼い好きは時間を経て、恋情と愛情の果実となる。
    マンチニールという樹木がある。小さな黄色い花をつけ、薄緑色の丸い実をつける。リンゴのような見た目をしたマンチニールの果実は猛毒だ。マンチニールはその全てに毒が含まれている。
    禰豆子と善逸の果実は、マンチニールだった。
    今世、禰豆子と善逸は血を分けた兄妹として、生を受けていた。
    恋情など、兄妹で芽吹かせてはいけない果実だ。エデンの園より追放される失楽園だ。
    それにいち早く気付いたのは、先に生まれた善逸の方だった。
    殺人、人食、そして近親相姦。犯してはならないタブーをこのままでは越してしまうと善逸は悟る。それくらいに禰豆子は恋焦がれる少女だった。
    小学校卒業と同時に、善逸は実家を離れた。要領よく彼は前世の知識を活用して、県外にある全寮制の進学校に入学した。

    善逸が六年生のとき、禰豆子はまだ四年生だった。禰豆子はほんの少しの危機感を持ちながら、それでもまだ子どもで自分の恋情があってはいけないものだと理解出来なかった。だから、禰豆子はひどく泣いて塞いだ。大好きだった兄との会話はなくなり、目も合わせてくれなくなった。兄の中で禰豆子の存在がなくなってしまったように。そして、広がった溝をより深めるかのように、兄は遠くへ行ってしまう。
    禰豆子にとって善逸とは、兄と言うよりも大好きな人という面が非常に強かった。彼女のそれは失恋よりも喪失だった。
    禰豆子も六年生の時に思い至る。兄へ恋情なんて抱いてはいけない。過去世で兄であった炭治郎のように、善逸は禰豆子の兄だ。抱く思いが全く違ったとしても関係性は同質のもの。
    禰豆子は地元の中高一貫の中学に進学した。ストレートに進んでいけば大学まで女子で構成される。少しでも、他の異性と接したくなかった。それが何故かは深く考えない。
    兄はあまり帰省をしない。帰省すると気が緩んで成績が落ちると母に言ったようだ。兄の言葉を受けて母は寂しそうに、「少しくらい顔を見せてくれてもいいのに」と言っていた。
    時折、帰ってきたとしても折り悪く禰豆子が不在の時ばかりだった。兄の3回目の帰省で禰豆子も悟る。兄はわざと禰豆子が不在を狙って帰省してるのだ。
    それほど会いたくないのか。
    ショックを受けた禰豆子だったが、どこかで安堵する自分がいた。
    禰豆子が高一のおわり。善逸は高校を卒業する。寮にはもう居られない。兄が自宅で6年ぶりに帰ってきて、一緒に暮らす。両親は気づいているのか、いないのか。禰豆子と善逸が直に会うのは正に6年ぶりだった。禰豆子のなかで善逸はいつまでも6年生の彼のまま。もしくは、…和服姿のあの人。濃厚なリアルに塗りつぶされていた和服姿のあの人はまるで浮き彫り出されるかのように年々はっきりと姿が見えてきていた。どこか恋焦がれる夢のように。
    優しい面影に甘い笑みと、禰豆子が好きでたまらないと言うように「禰豆子ちゃん」と呼ぶ心地よい声。
    その日、両親は共に買い出しに行ってしまった。禰豆子も一緒に行く予定だったが、宅配が届くので在宅していた。
    リビングでのんびりと雑誌を読んでいたら、うとうとと睡魔が襲ってきた。ほんの少しだけ。禰豆子は長く伸ばした髪をおろした。寝るときに髪を結んでいるのが好きではないからだ。ソファに寄りかかって禰豆子は目をつぶる。とたんに吸い込まれるように夢の中に落ちていった。

    「禰豆子ちゃん」
    善逸がいつものように禰豆子を優しく呼ぶ。何度も見ている夢だ。
    「んん、善逸さん」
    禰豆子が腕を伸ばして抱きつくと、彼は珍しく抱き返してくれない。それが不満で禰豆子はさらに体を擦り寄せた。
    「禰豆子ちゃん、……駄目だよ」
    「うふふ、善逸さんがめずらしいねぇ。……今日はわたし甘えたさんになったらダメなの?」
    「……俺は君のなに?」
    「んふ。善逸さんはぁ、わたしのだんな様だよ」
    「そっか。じゃあいいよね……」
    すると、善逸はようやく禰豆子を抱きしめてきた。だけどその強さと言ったら。まるで長い間会えなかった時間を埋めるような、そんな抱擁だった。
    「キスも、していい?」
    「うん。善逸さん、大好き」
    善逸はいつもその言葉に喜んでくれるのに、今日はどうしてなのか顔を歪めて泣きそうになった。幸せだから泣くのではなくて。
    「どうしたの、善逸さん?」
    「禰豆子ちゃんと出会えたのが嬉しくて仕方ないんだ」
    羽のように唇が優しく禰豆子のもとに落ちてきた。
    (ファーストキスだ)
    目をつぶって口づけを受ける禰豆子はそう思った。何度も何度もキスしてきたのに、どうしてなのかそう思ってしまった。そして、縋るように彼のジャケットを掴む。
    舌先が禰豆子をくすぐる。だから、ひっそりと秘密のように唇を開けて、深くする。
    口付けで魔法は解けるのか、それとも魔法をかけるのか。
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