だぶるばにー ふたつ用意されていた。
善逸にはふたつ用意されていた。ひとつが本命で、もうひとつは明らかにジョークだった。それを調達したのが善逸がよく猥談をする相手で、そういえば酒の席で用意されたジョークにまつわる話をしたなと思い出した。
(ノリがいいにも程があるって、前田さん。……うわ、デカ。ってか、クオリティ半端ねえなあ)
などと、巨大なソレを持ち上げて、善逸は乾いた笑いを零した。稼働すると人肌のぬくもりも再現します、と付箋が貼られていて、それにはさすがに顔が引きつる。
禰豆子にはひとつしか用意されていなかった。彼女は困惑した顔でそれを目の前に広げて、真っ白い頬にさっと朱を落とした。それを持つ指先がふるふると震えていく。だけど、次の瞬間、彼女は腹をくくったように顔をあげた。
その様子を善逸は後ろから眺めていた。禰豆子が何を支給されたのか知らない。想像するに、お淑やかな禰豆子に似合った清楚なカクテルドレスといったところだろう。もしかしたらほんのちょっぴりの際どさがあったのかもしれない。──たとえば、膝上ミニだったり、すらりとスリットが入っていたり、背中がさらりと空いたドレスかもしれない。
「禰豆子ちゃんの衣装はどんなのなの? 見せて見せて」
ひょいと肩越しに禰豆子が持つそれを覗き込む。
「ん、うん。善逸さん、わたしはこれなの」
禰豆子が恥ずかしそうにそれを見せてくれた。瞬間、コンマ一秒、我妻善逸の世界は止まった。カチリ、と善逸のはめた腕時計の秒針が刻まれる。
善逸は無言でにっこり、にっこりと笑った。そして、彼はジョークを選ぶ。
ウィール、ポーカー、バカラ、ブラックジャック。それから、クジラ。
ここはクジラが集まるラグジュアリーホテルの中二階だ。クジラとは海に住まう鯨ではなく、カジノにて高額を賭ける富裕層の客のことを指す。ホエールとも呼ばれる彼らは常識では考えられない額を賭ける。故にホエールの狩猟場は一般人が入ることの出来ないVIPルームだ。
そこで、とある暗号が受け渡されると情報がリークされた。鬼狩りの組織、鬼殺隊はVIPルームに耳をふたつ潜入させた。一つ目の耳は超高感度遠方集音器だ。それは禰豆子の愛らしく垂れ下がった左右の『耳』についている。もうひとつは、善逸の超人的な聴力だ。鬼殺隊は科学と自然の力を二通り用意しておいた。
5センチヒールが悲鳴をあげる。分厚い高級絨毯に、5センチヒールの跡が出来る。それは善逸が履いているハイヒールのもので、彼は艶やかに笑顔を振りまいた。
黒いバニーちゃん。バニーガール。胸部はぎょっとするほど大きく、彼──彼女──……我妻善逸が歩くたびにバストはゆっさゆっさと左右上下に跳ね上がる。見てるこちらがハラハラ……もとい、ドキドキしてしまうように揺れ動く。それを支える肩幅もなるほどと納得してしまう広さもあった。にゅっと出ている二の腕もちょっと鍛えすぎではないだろうかと思ってしまうほどに羨ましい。そんな逞しい腕は意外なほどに繊細な手つきで、客にカクテルと差し出してくる。優雅と言ってもいいくらいだ。
「ああ、ありがとう」
と、受け取ったホエールが顔を引きつらせ、善逸の顔を見て、さすがに半歩後退した。
善逸は見事なイエローブロンドをぎゅうと左右で縛り上げていた。その間からにょっきりと生えているのはバニーの耳だ。大きな瞳の目元にはこれ以上かというほど過剰にアイシャドウをのせている。よくよく見れば目尻にはきらきらと星が描かれていた。睫毛は瞬くごとに音がしそうな程、こわい。チークは健康的なレッドで、ホント怖い。しかし、もっと怖いのは夢に出てきそうな真っ赤に塗りたくられた唇だった。
それらが全て調和して、女装バニーの善逸は怖いのにどうしても見てしまうという存在になっていた。だけど、ひとたび口を開けば打てば響くようなウィットに富んだ会話が飛び出してくる。
老年に差し掛かったホエールは、そのバニーと話している内に、少年時代を思い出した。あれは幼なじみのボブと牧場で走り回っていた記憶だ。あの時は、たった1ドル札を握りしめただけで大金持ちになったようだった。それが今では……。老年ホエールは静かに涙を浮かべた。
「君、良かったらまた連絡を取れないかね。これは私の連絡先だ。いつでも構わないよ」
そう言って、善逸に名刺を渡した。ノスタルジーを感じさせるバニーと別れ、老年ホエールは何十年かぶりにボブに連絡をしようと思った。
そんな具合に善逸バニーは3枚の名刺を手に入れていた。話に聞いていた『ウサギ狩り』だ。単にバニーをナンパするだけなのに、わざわざそんな言い方をすることに善逸は鼻白む。
ウェイティングルームに戻って、自分専用のハリウッドミラーの前に名刺を放り投げて、善逸はふてぶてしくアイアンスツールに腰掛けた。
横に座っていたブラウンの巻き毛バニーちゃんに声をかけて、世間話に花を咲かせる。楽しげにクスクスと巻き毛バニーちゃんは口元を隠して笑う。さりげなく連絡先を交換して、巻き毛バニーちゃんと交代するかのように、彼女がウェイティングルームに入ってきた。
「あ、善逸さん。お疲れ様。戻っていたんだねぇ」
「禰豆子ちゃん!」
善逸はパッと顔を輝かせて立ち上がった。
まさに白うさぎちゃん。禰豆子は白うさぎのようだった。善逸と同じバニースーツを着ているので、彼女だって黒うさぎなのに、どうしてなのか禰豆子だけは純白のうさぎを連想させた。
ぽよんと優しげに膨らんだ胸はもちろん天然物で、あまり谷間が見えないようになっているが華奢な肩からなめらかに膨らんだラインは隠しようがない。燕尾服を羽織らせてみたけど、そうすると今度は余計に体のラインが際立ってしまい、意味がなかった。一度も染めたことなどない美しい黒髪は緩く編み込まれて、アップに纏められている。真っ白な首筋は、この国ではセックスアピールとはほど遠いはずなのに、ホエールの男共はごくりと生唾を飲み込む始末だ。
儚げに施された化粧はどこかいじらして、男共の胸をひと突きするほどに可愛らしい。可愛いという感情が保護欲へつながることを、この夜に学んだ男は少なくないだろう。
慣れない8センチヒールに禰豆子は大きなため息をついて、善逸の横にアイアンスツールを引きずってきて腰掛けた。
「ちょっと禰豆子ちゃん大丈夫? 足、靴擦れしてなあい?」
「ふふ。善逸さんのその口調、やっぱり面白いね」
「んっもう、いやあねえ。アタイ、冗談で聞いてるわけじゃないのよう。痛いようだったら靴替えた方がいいわよ」
「うん。でも、お仕事終わるまで大丈夫だよ。うん! もうちょっとだもん。頑張ろうね!」
禰豆子はぴょんと立ち上がった。きゅっとした可愛い小尻についてるふわふわなしっぽがとんでもなく可愛い。
「えっと、善逸さん」
「ん? なにかしらん?」
「──さっきの……。ううん、なんでもない! あ、善逸さんももらった名刺、ここに置いてるんだね。わたしもここに置いていっちゃおう」
そう言って襧豆子もハリウッドミラーの前にそれらを揃えて置いた。二十枚近くある。善逸は唖然とした。
「これもここでいいかな。不用心かな。でも、捨てちゃってもいいって言ってたから大丈夫かしら」
と、言って彼女が置いたのはこのホテルで使用されているカードキーだ。つまりはホテルの部屋の鍵。カードキーは目算で5枚。善逸がもらった名刺の数と一緒だ。だけど、善逸は1枚たりともカードキーをもらってなど居ない。(それもそのはずだ。彼に名刺を渡した客は、男女のあれこれを期待して渡したわけではないのだから)
「よーし、頑張るぞー! おー!」
片手をあげて、禰豆子が元気いっぱいに8センチヒールでVIPルームに戻っていく。
「ふ、ふふふふふふ。アタイ絶対、カジノ一のバニーになる!!」
女装バニーはガタンと立ち上がって、拳を突き上げる。僧帽筋と上腕三頭筋が無駄にうなりをあげた。むき。
本気を出したとたんに駄目になった。
善逸はポカーンと口を開けて、のろのろと空のなったカクテルのグラスを下げている。
どういうことなのか。まったく訳が分からない。これでもかと色気のサービスをしたというのにカードキーどころか名刺さえもらえなくなり、挙げ句の果てには支配人から後ろへ下がってくれと言われてしまった。そうなると任務にも支障が出るので泣きついて、どうにか空のなったグラスを運ぶ仕事をさせてもらっているが、納得いかない。
見事なおっぱいを客の腕に押しつけたのがまずかったのか、それとも投げキッスが安っぽく見えたのか。それともそれとも、網タイツ越しにはち切れんばかりの大腿四頭筋に触らせたのがいけなかったのかー!
(すごいねって真っ青な顔で言ってたから喜んでると思ったぞゴラァ)
良質な筋肉は良質なさわり心地だと言う。それを信じたばかりに善逸はえぐえぐと半泣きでグラスを運んでいるときだった。
「っ!」
善逸は足を止めた。すっと瞳を細める。
VIPルームのテラス入り口。観葉植物の影。男と女。ジェントルマンとマダム。
(gu68d-u83tanu4d)
意味は分からない。おそらくランダムの数字だろう。
(gu68d-u83tanu4d)
もう一度、脳裏に刻み込む。これが暗号だ。残念なことに暗号だけの受け渡しだったようで、男女は他に会話をすることもなく別れていく。しかし、両者の声も音も覚えた。例え変装をしていようとも整形をしようとも善逸は見抜く。ボイスチェンジャーで声を変えようとも、体の中の音は変えることは出来ない。
(ま、実際に対面しないと、さすがに判別はできんけどな)
これにて任務終了だ。自分は耳でそれを感知できたが、禰豆子はそうはいかないので、教えるために善逸は会場内を見回した。
標準的な学校の教室が六つ分ほどのVIPルームは狭いと言えば狭いが、人数からすると広い方だと言えるだろう。基準にできるものが学校の教室である平凡さが悲しい。クラブもカジノも数えるほどしか行ったことがない。すべて任務絡みなのが悲しみに拍車をかける。
VIPルームはオーシャンフロントだ。見える限りの出入口はひとつで、ふたつほど非常用の扉がある。テラスは南と西向きにふたつずつ。西側に海が見え、沈む夕陽に照らされながらカジノが始まるという寸法だ。
室内に禰豆子の姿が見当たらないなら、彼女はテラスにいるだろう。人酔いや気分転換(主にツキのなさを嘆くために)にテラスに出るホエールもいた。
テラスが見える窓から窺ってみると、やはり禰豆子はテラスにいた。月の下にウサギが1羽、グラスを片付けていた。
声をかけようとした時だ。禰豆子がそっとため息をついた。ピンクのリップから甘そうだけど、途方に暮れた吐息がもれる。
『どうしよう』
唇はそう動いた。善逸にははっきりと聞こえた。見ると禰豆子の手元にはさきほど以上の名刺とカードキーがあった。
ふと、思い至る。いや、善逸はきちんと思い及ばなくてはいけなかったのだ。
何枚も貰った名刺とカードキーは、禰豆子が集まったうさぎの中で最上という証だ。ここが普通のカジノであるのなら見逃してもいい。だけど、ここはハイクラスのカジノだ。そこで最上バニーがウサギ狩りから逃げおおせるなど許されるだろうか。答えは否だ。
無言でさっと踵を返して、グラスを厨房へ持って行く。料理人に指示を飛ばしていた支配人に退勤すると伝え、返事を聞く前に善逸はVIPルームから飛び出した。
目的地は34階だ。用意されていたもうひとつがそこにある。
善逸は早足でエレベーターホールを横切った。エレベーターがくるのをちんたら待ってる余裕はない。
非常階段の扉を開け放ち、全速力で駆け上がった。が、1階も上れずにパキンと無情にもヒールが折れる。
「ちっ」
煩わしげに舌打ちした筋肉バニーはヒールをぽいと投げ捨てた。
34枚の名刺とカードキーは7枚。
禰豆子は眉を寄せた。
1枚たりとも受け取るべきではなかったのだ。知らないではもう許されない数だ。
そもそもバニーガールの役割は接客とウェイトレスだと禰豆子は考えていた。だから、そのようにグラスを運んだし、お客様を席へも案内した。だけど、このVIPルームでは、暗黙のルールが敷かれていた。十四人以上から声をかけられた場合、バニーガールに新しい役割が付け加えられる。
3+6+5=14
三百六十五日、一年中発情するうさちゃん。
十四になったうさちゃんは必ず、その中からひとりを選んで、ハンティングされる。選ぶ権利がバニーにあるだけ良心的だけど、選ばなかった場合、カジノらしく賭け事の商品になる。
事情を話して、何事もなく開放してくれそうな人を禰豆子は選ばなくてはいけない。
(だけど、もう誰がどの方なのかわからないよ)
へにゃりと下がり眉をさらに下げた。
十枚目までは把握していたのに、十一人目のひとたちが悪のりで一度にわっと渡してきて、そこからさっぱりと分からなくなってしまった。
渡してくれた初老のひとが、「亡くなった妻によく似ていて、少しだけでいいからお茶をしたい」と、言ってくれた。愛妻家のひとだったら大丈夫だろう。記憶をたぐるけど、自信がなかった。
知らない人について行くのは、とても怖い。物怖じしない性格だと自覚はあったけど、このカジノは普通ではない。一円でも安い牛乳を求めて遠くのスーパーに買い出しに行く禰豆子からすると、このカジノの金銭感覚は異世界のものだ。
ウェイティングルームを覗いて、禰豆子は不安げに会場内を見回した。
(善逸さん)
いつの間にか彼の姿が見えなくなっていた。カジノには任務のために赴いていて、何かトラブルが起こって、善逸はその対処に席を外しているのかもしれない。
ぎゅっと胸元で両手を握った。とたんに、バニーガールの恰好がひどく心もとないように感じてきた。
胸を強調するエナメルのビスチェ。ばっくりとお尻のぎりぎりまでさらけ出された背中。際どいハイレグに黒のパンストにハイヒール。腰に付けられたロゼッタの個人情報丸出しなネームプレートは間が抜けている。
(なんでだろう。善逸さんと一緒の時は全然恥ずかしくなかったのに。どうしよう。……こわい)
一枚を選ばなくてはいけない。一枚、つまりは男をひとり選ぶ。バニーガールの恰好で、禰豆子は男をひとり選ぶ。あなたがいいですとその場で示す。
そんなの禰豆子にはひとりしかいない。
壁際の男性四人組が禰豆子に合図をする。禰豆子はわずかに緊張して、朗らかにグラスを運んだ。
その結果、四人組は愉快そうに禰豆子にカードキーを一枚渡した。スイートルームを四人でリザーブしているという。意味は、……わかりたくない。
ふと、禰豆子が給仕する近くのテーブルに誰かが座った気配がした。
(いけない。今はお仕事しないと)
「こんばんは」
柔らかくて優しい声だった。
「え」
禰豆子が顔をあげる。
「何か浮かない顔をしてるけど、どうしたの?」
そこにいたのは姿の見えなかった善逸だった。
だけど、さっきの可愛いけどちょっといかついバニーちゃんではなくて、VIPルームによく似合いのスーツを着こなしていた。
金の髪はさらりと前わけにして、形の良い額が見えている。バチバチのアイメイクはすっきりと落とされて、いまは流れ星のようなシャープな瞳が禰豆子を捉えている。細身のダークスーツは引き締まった体躯に沿って、長い足を際立たせる。金髪と黒のスーツはちょっと心臓に悪いほど相性が良かった。金と黒のコントラストが異性の目を引く。
「え、な、んでもありません。あ、飲み物お持ちしますね」
「ううん。いいよ。今はいらないよ」
そう言って善逸はゆるりと指を組んで、禰豆子を見つめてきた。しゃわしゅわとグラスに満ちたシャンパンの色をした瞳にドキドキする。
視界の隅でマダムがこちらを見て、ひそひそと囁き合っている。ちらりと見ると、善逸はどうやら何を言っていたのか聞こえたようで、マダムにひらりと手を振っていた。その指先に禰豆子はドキリとする。
(ぜんいつさん、スーツがとっても似合う)
「俺が気になるみたいだね、さっきのひとたち。もうちょっとしたらこっちに来るよ。その前に移動するよ、俺」
「善逸さん、着替えてたんだね。居なかったから驚いちゃった」
「うん、ごめんね。不安にさせちゃったね。俺が居ないあいだ、大丈夫だった?」
「大丈夫だよ、何もなかったよ。あ、でも任務」
「ああ、それはもう大丈夫。ちゃんと果たせたから。もう引きあげてもいいよ」
「良かったぁ。一安心だね。じゃあ、わたしも……そろそろ帰る準備を」
「待って、禰豆子ちゃん」
優しい手つきで善逸が禰豆子の頬に触れてきた。驚いて目を大きくする。
「……本当はね、ここで禰豆子ちゃんを口説きたいんだ。でも、ほらさ」
彼がちらりとウサギの耳を見た。そうだ。そこにはマイクが仕込まれている。
「だから、禰豆子ちゃんに受け取って欲しい物があります」
そう言って善逸が胸ポケットから取り出したのは、一枚のカードキーだった。
「……受け取ってくれる?」
「ううん、受け取らない」
「え! う、うけ、受け取ってくれないの? さっきも禰豆子ちゃんには負けっ放しだったから?」
「ひとつ、教えて。わたしの勘違いだったらごめんなさい。……他のバニーの女の子と連絡交換したの?」
「うん。さっきの子、たちの悪いバックがいるみたいで、ちょっと気になってね。……もしかしたら他の案件に関係があるかもしれない」
「そっか。ふふ、善逸さんらしいね。あのね、善逸さん……。カードキー……ここに入れてくれる?」
そろりと禰豆子は目を落とす。黒いビスチェの白い谷間。
今宵のバニーのハートはあなたのものです。と言う証。
「……ん、うん。ちょっとだけ、ごめんね」
善逸が谷間に指をかけた。彼の指が沈み込む。恥知らずなハートがばくばくと高鳴る。きっと真っ赤になっているのだろう。
冷たい無機質なカードキーが禰豆子の乳房の合間に挟まって、ちょっと照れながら微笑む。
三十四枚の名刺と八枚のカードキーはダストシュートに投げ込まれた。
エレベーターの中、ダークスーツの青年と黒髪バニーがキスをする。
だめとバニーの禰豆子が弱々しく、スーツの善逸の胸元を押す。あんなに情熱的なキスをしてたのに意外にも禰豆子の言うことを聞いて引き下がる。
ふたりきりのエレベーター。鏡に映るバニーの後ろ姿。きゅっと持ち上がった小さなヒップ。
ジャケットを脱いで禰豆子の肩にかける。可愛いお尻は隠れたけど、綺麗な脚の線だけは隠しようもなかった。
「あのね、善逸さん」
「ん?」
ワイシャツのカフスを外しながら生返事をしていると、禰豆子がそっとささやいた。
「わたしね、善逸さんの髪の毛くしゃくしゃにしたいの」
その言葉通りに、禰豆子によってセットされた髪はくしゃくしゃになった。