変わった女だ、というのが第一印象だった。幼体成熟らしく、己の半分ほどに見える小柄な体躯。いつ見ても垢抜けない出立ちに使い古されたカバン。
魔法の才覚を請う軍部の誘いを再三断っては大学に居残り続け、益体もない研究を続けているというその幼体成熟の女は、めったに来られないという田舎の喫茶店でめったに食べられないという大盛りのデザートを肴にぺらぺらと喋り続けていた。
その店に彼女を連れてきて、何でも頼むと良いと鷹揚にコーヒーを注文したピロに物怖じすることもなく、『何の研究をしているのか』という質問に答えて。
入隊を断り続けてはいるがその療術の才は確かだそうで、どんな形であれその才覚をもって国へ貢献してほしいのだ、との情熱をもった人事部が、とうとう救国の雄であるところのピロにスカウト役を依頼することになったのは偶さかその変わり種の話題がピロの興味を惹いたからだが——
「で、ですね。予算の都合がついたらもう少し長時間の潜航を試みてですね」
「溶けるぞ」
背の高いグラスのてっぺんで輪郭をふやけさせているアイスクリームを指してそう言うと、女は慌てて指の代わりに行儀悪く振り回していたスプーンを動かし始めた。
大きく掬い上げたひとかたまりをひと口に招きいれ、その甘さに大きな両目が大仰な喜びを示す。
ピロは彼女の瞳孔に星が宿っているのを見る。子供のようだと思う。きらきら、きらきら。
「その予算はつく予定があるのか」
生クリームや果物、中に敷き詰められた焼き菓子の欠片を次々と平らげていくのをひとしきり眺めたあと、冷めたコーヒーの安い味に辟易としながらピロは尋ねた。う、と言葉に詰まり、耳が下がる。
「今しばらくは……」
「金にならん趣味の調べ物に出てくる金は無い、か」
「そうなんですよね……他の研究に関連づける形でなんとか……とは思ってるんですけど」
明らかに勢いの鈍ったスプーンの動き、俯いた顔を覗き込めば目の中の星は明らかに威勢を失っている。ピロは鼻で笑う。
陰鬱なため息を聞かされながら、それでもやがてデザート用のグラスは空になった。
「軍属であれば予算の融通が効くぞ」
それ見計らうようにして頬杖をついたピロが囁いた言葉に耳が立つ。顔が上がる。星を湛えた眼差しがこちらを向くのは悪くない気分だった。