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    黄月ナイチ

    @71_jky

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    黄月ナイチ

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    ヘリオスの葬儀の直後くらいのアマチ博士(とギョーマンさん)(諸々好きなように捏造)

    花のような男グソーバナですか、と尋ねると、温室の主人にはその音は聞き慣れないものであったようだった。
    ギョーマンは戴天市の屋敷の近くに温室を一つ持っている。商会時代に扱ったハーブや香辛料の類のうち、普段使いしやすく育てやすいものを少しずつ揃えているそうだ。彼は露地の庭を造っており、目にも楽しい様子だとか。
    その温室にやってきたアマチを見て、ギョーマンは初めて眉を顰めたようだったが、ケシがあると伺いまして実験用に分けてもらえないかと、と用件を伝えると納得したように案内を買って出てくれた。ハーブ類が料理用とは限らないというわけだ。
    その道すがらにひときわ鮮やかな赤い花を見かけて、話題がてらに口にしたのがそれである。
    「グソウ……?」
    「……ヒビスクス・ローサ・シネンシス。ハイビスカスですね」
    「ああ、うん。お茶にしようと思ってね。酸味が強いけど甘みをつけると美味しいんだ」
    大ぶりの花弁がギザギザとしていて華やかである。つぼみも幾つかほころびかけていて、常に幾つかの花を咲かせているようだ。
    「肌にいいと言いますね。女性ウケがいい。将軍が喜びそうだ」
    「オスカーの悪癖のために育てているわけではないがね……」
    「髪にも良いらしいですよ」
    「オスカーのために育てているわけではないよ?」
    温室の中は少し蒸し暑い。冗談はさておき、アマチは脚を止めてハイビスカスの花に手を伸ばした。みずみずしくすべすべとした感触がする。
    「こちらも少し頂いていってもいいですか」
    ギョーマンは片眼鏡を軽く持ち上げた。
    「美肌に興味が?」
    「ラボに飾ろうかと」
    およそ花になど興味がなさそうなアマチが言うこととも思えない様子で、どこか疑り深い表情である。アマチが肩をすくめてみせると、ギョーマンはまあそうしていてもすぐに萎んでしまうだけだからね、とため息をついた。そのままなるべく茎を長くとってふつりと手折る。


    アマチのラボには戴天党研究開発室というプレートが掲げられた。室長という肩書きは持たされてはいるが、存在そのものが機密に等しい部屋の番人の役割である。
    口止め料とも研究費とも名のつくふんだんな予算には文句のつけようもないが、性質上堂々と存在していられる者ではない。実質はともかく幹部と名乗れる立場でも無くなってしまったが、それについてはこちらの方から願い下げという感覚もある。落とし所としては上等であろう。
    アマチは適当な空き瓶に差した花を日の当たる窓辺に置いた。本来この部屋の主となるはずだった男とのやりとりを思い返す。
    「星へ行くための研究なら『宇宙開発研究部』だろ」
    「そっちは専門じゃないですって……」
    「『不死身研究部』じゃもっと不味いじゃねえか」
    「そんなに具体的にしなくてもいいでしょう?」
    「『宇宙開発研究部相談役』、いい響きだぜ」
    部長じゃなくて良いんですか、と尋ねた時、ヘリオスはうす苦い微笑を浮かべた。相談役の方がイケてんだろ、などと言いつつ。
    不死者は、死ねば不死者ではない。垣間見た奇跡は失われて、再現などもできやしない。残された生体データは異質でも、魔法を失った遺体となったものは全てただの人間の肉と化してしまった。
    奇跡は奇跡のまま、手に届かないまま消え失せた。
    「……」
    死は死だ。不死者にも平等に与えられるもの。魔法にも奇跡にもあっけなく訪れるもの。魔法によってさえ叶えられないものを超える方法を探すのがアマチの「専門」である。
    窓辺に置いた花は空を見上げている。仏桑花、はるか彼方の時代のどこかの地域では死んだ者の後生を祈って植えることがあったとか。
    「後生花、か」
    花のような男であったと思う。天を目指す彼を地に根差したものに喩えるのは誤りかとは思いつつ、しかし花のようだ、と思っていた。その佇まいが男としては華やかで、白磁の肌にかかる艶のある黒髪やくっきりとした黒曜石の眼差しや丸い輪郭の頬が甘やかに整っているから、ではなく、おそらく彼を構成する細胞が植物の方に近いものであったことと再生誘導体の見た目に起因すると思われる。
    もの言いや血生臭さは花のようと言うには程遠く、血生臭せえのはお互い様だろと口を尖らせた表情の小生意気さは見た目の年齢に相応の当たり前の若者のようだった。
    ため息を一つこぼし、アマチは部屋を出た。各種の秘密と共に部屋の鍵をかける。花瓶を買ってこなければならない。
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