バレンタインデーにチョコをもらえなかった。
でも、俺は気持ちを伝えたい。だから。
そう自分に言い訳をしながら、可愛らしく包装されたお菓子のプレゼントを用意したクジンシー。
ホワイトデーらしさを表現しているラッピングを眺めながら彼女を探すと、ロックブーケは一人で鍛練をしていた。
物陰から様子を伺っていると、一生懸命頑張っている彼女の姿に感動を覚えると同時に後ろめたさを感じ始めた。
彼女はワグナス一筋、それは痛い程知っている。
他人に好かれても割り入られても、迷惑でしかないだろう。
そもそも俺なんかにもらっても嬉しくないよな、嫌がるかな、とネガティブな気持ちがドンドンわいてきて、クジンシーはこのまま帰ろうと踵を返したその時。
「ちょっと」
声をかけられ、飛び上がるクジンシー。
「さっきから何?気が散るんだけれど」
どうやら気づかれていたらしく、つかつかと近づいてくるロックブーケに、クジンシーは慌ててプレゼントを背中に隠す。
「い、いや!別にこれといって何も……」
「ふーん」
あわあわするクジンシーの様子を見て、ピンッときたロックブーケ。
「あーあ、訓練していたら疲れちゃった。
何だか甘いものが食べたい気分だわ……
すぐにでも口にしたいのだけれど、どこかにないかしら」
「……っ!!あ、あるよ!!」
これ幸いと言わんばかりに、サッとプレゼントを渡すクジンシー。
あらどうも、と受け取るロックブーケ。
しなやかな指先で解かれる包装、出てきたのはふんわりとしたマドレーヌ。
一つ取り、口にするロックブーケ。
ふーんと良いながらも味はお気に召したらしく微笑むロックブーケに、胸を撫で下ろすクジンシー。
「じゃ、じゃあ俺はこれで……」
ここにいた理由等を聞かれる前にトンズラしようと試みたクジンシーだが。
「クジンシー」
「ん、何……むぐっ」
名前を呼ばれ、反射的に顔を向けると別のマドレーヌを口に押し込まれた。
「あんたに借りを作りたくはないの」
もぐもぐごくんっと彼が飲み込んだのを確認して、顔を覗き込みながらロックブーケは目を細める。
「一ヶ月遅れになるけれど、これでおあいこって事で……良いわね?」
小悪魔的に笑う彼女に、何も言えず真っ赤になってコクコク頷くクジンシー。
じゃあね、とお菓子を片手に彼をその場に残し立ち去るロックブーケ。
「ズルい……可愛い……」
やっぱり好きだぁ……とぼやきながら、両手で顔を覆いしゃがみ込みうーあー唸るクジンシーであった。