お酒小話「こんなに色々出来るのに君は驕るとかないね」
耳が超絶に良いソナーマン様からの言葉に、返答が一拍開いた。
この年上の自衛官だった男はなかなかどうして口が重い。こうしてたまに夜に開かれるバーで酒を口にするような時でも、軽い戯言を掛けられるようになったのは実をいうと最近だ。
破壊された石化された人々が完全に接着剤で復元され、復活液に必要不可欠なプラチナがある島に行く船を作るため、急激に増えた人口を養うための食材作りにと奔走しているうちに元来の穏やかな気質が露になってきたように感じる。とはいえ、人の内面を推し量るのは得意分野ではないし、今はそういうことを丸投げしている男は近くにいない。つい先日、鉱山までのドライバーとして駆り出されてしまったからだ。とはいえ、基本的にどの場所もどういうことになっているかを把握するために働き者のメンタリストは自主的にひらひらと動き回っている。言葉にするとまた偽悪的な言葉が返ってくることだろうが。
バリバリと頭を掻く。
やらなくいけないことを考えるとき以外、思うのは一人の男ばかりだ。
「俺だって優越感持ったことくらいあるわ」
「へえ?」
驚いた顔がかなり素だ。珍しい問答といい、実は酔っているのかもしれない。しかし自分から話題を提供してきたのだから、少しばかり付き合ってもらおうじゃないか。
「メンタリスト様がな」
笑う。
わらう。
ああ、語るだけで楽しい。
口端がニイと吊り上がるのを自覚する。
「あのめちゃくちゃプライド高い凄腕マジシャンが、タネ仕込むのを見るの許して俺を優先して構ってくれた時にはこの世の春かと思ったな」
自分の顔なのにどんな筋肉を使っているのか少しばかりわからない。
そうか、酔っているのは自分もだ。
ぱちぱちと目の前の男が瞬きして、それから声にだして笑った。
「そりゃ、すごい」
「すげえだろ」
「優越感持つの当然だね」
「ああ、ゴイスーだからな」
「あはははは、もうこれ以上笑わさないで。今日は僕が奢ってあげるよ。良い肴をありがとう」
「んじゃまあご馳走になるわ」
それから出された水を飲んで部屋に戻る。
自分がいなくなったバーで他にいたメンツが全員尊いと空を仰いでいることなんて勿論知らないことだったし、折よくやってきたバーのオーナーである龍水がご機嫌の恋人を見て更に機嫌が良くなりお持ち帰りしたのはもっと知らない話だった。