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    パラロイ時空のミスオエ。本編の1000年後に過去の世界に旅行に行くお話。背景がウザくて読めない人向け。

    #ミスオエ
    misoeye

    『二十億光年の孤独』

     そのツアーとやらは、100年先まで予約で埋まる程の人気プログラムなのだという。
    「チケットを取るのにものすごく苦労した」
     というオーエンの半ば呆れたような、それでもどこか誇らしげな様子を横目で見ながら。
     ミスラ自身はこのバケーション・パッケージツアーの良さを全く理解できなかった。

     アシストロイドに“人権”が認められて久しく1000年は軽く過ぎた現代。
     人間達の寿命もその肉体年齢に縛られなくなった、それでも。「死」そのものまでは克服に至らない今。人類は新しい病理に悩まされるようになっていた。
    「もう二度と会えないあの人にもう一度」
     素朴ながら切実な願いはありとあらゆる“サービス”として商品化されている。このパッケージもその一つだ。
    「数千年前の地球を眺める事で、その時代に居たもの達を観測する。そんなのスクリーンで過去の映像を映し出すのと何が変わらないっていうんですかね」
     気怠げにそう吐き捨てるミスラに、少しばかりオーエンはムッとする。
    「なんだよせっかくペアでとっておいたのに」
    「別に俺は頼んでませんけど」
    「このポンコツ。せっかくのカルディアシステムも、お前に搭載した所で猫に小判だったみたいだね」
     その言葉にもミスラは特に腹は立たない。実際、ミスラには“心”と呼ばれるものがなんなのか。よくわからなかったからだ。
    「そんなお前の為に僕が色々教えてあげる。お前だってそのセンサーに直に“フローレス兄弟”の姿を視認すれば少しは情緒が揺らぐんじゃないの?」
     フローレス。
     その単語はミスラの耳に爽やかな春の風のように響く。何かきっかけがなければ思い出しもしない。懐かしの日々。
    「まさか本当に俺のためにチケット取ってくれたんですか?」
    「そんな訳ないだろ。ただのついでだよ」

     小型ポットの中は狭いながらも子綺麗で、昔写真で見た「プラネタリウム」とかいうドーム状のシアターに酷似していた。
     ゆったりとソファーに横たわりながら首のコードを任意の場所に繋げる。
    「……、バイタル異常なし。各種機能正常に起動中。…、ようこそ“メモリアル・ハネムーンツアー”へ。あなたを思い出の場所までご案内いたします」
     電子音を変換しただけの安っぽい女性の声が旅の出発を祝福する。「ハネムーン」とはよく言ったものだ。
     このツアーはオーダーがあった時代の光がちょうど届く場所までポッドを移動させ、太陽光から読み取られたデータを元にあたかも「その時代にタイムワープしたかのように」全景シアターと立体ホログラムを使って映像を映し出す。というものだ。
     別に、当時の映像なら自分のメモリーの中に保存されているし。ちゃんとバックアップと取ってある。はずだ。その気になればその記憶を映像化する事だって難しくない。
     それでも、このツアーを経験した後。「懐かしの風景」を求めて宇宙を彷徨うアイストロイドがある程度存在しているのだという。
    「今回行くのは1000年前の地球。僕が生まれてそれほど経ってない頃だね。お前は下町でフローレス家の召使いをしてた頃だ」
    「召使いじゃありません。家族ですので、用事をこなしていたのもお手伝いです」
     この辺妙に頑ななのにミスラ自身は気がついていないらしい。このこだわりがカルディアシステムによるものなのか、それともミスラの少し単純すぎる情報処理能力が故なのかは分からない。
    「この頃の僕は外の世界が楽しくってさ。あんまりあの街に滞在してなかったんだよね。気がついたらあっという間に住んでいる人間も、ロイドも、風景も変わってて。ちょっと残念に思ってたんだ」
     もののついで。というのは本当の事らしい。
    「あの立派な千年桜ももう一度見れるよ。ほら、もう直ぐその場所に着く距離だ」
     ゴーンゴーンと、古時計の鐘の音の様なサインが鳴ると、ゆっくりとドームの明かりが落ちていく。このポットは窓が無いせいか、外の世界が静寂な宇宙であると言う実感がまるで湧かない。その事をオーエンに訴えると「確かに」と素直にうなづき。
    「帰りはドームの窓全開にして帰ろう。ワープの時、星が飴細工みたいに伸びて物凄い速さで流れていくの見てるの好きだし」
     呑気にそんな会話を交わしているうちに、ドームの中では少しずつ薄紅の花びらが舞い始めた。

     天井に青空が広がり、ビル群が遥か彼方まで続く。ここはどこかの大通りだろうか?うるさいくらいにケバケバしいネオンの看板が懐かしい。
     その風景は、確かにミスラの知っている。1000年前のフォルモーントシティの姿だった。
     確かに、ここまで精密で複雑な情報はロイド一体分のメモリーには収まりきらないだろう。その映像は下手な再現映像よりもよほどリアリティがあった。
     目の前をエアバイクが過ぎ去っていく。正直なところ。ミスラはこの映像自体の出来は素晴らしいものだと判断しても、さほど浮かれ気分にはなれなかったが。オーエンの方はウキウキと嬉しそうに目を輝かせている。
    「ねえ!どこ行く?僕ラボの方に行きたい。パパフィガロに会うんだ」
    「あっちの方はなんかセキュリティが入ってて行けそうに無いですよ」
    「え、嘘。あー。本当だ…」
     機密事項が多い場所には安易に入り込めないらしい。明らかにシュンと肩を落としたオーエン だったが、すぐに気を取り直して地図を表示させエリアを入力する。
    「ならパパラスティカに会いに行こう。あそこならクロエもヒースクリフもいるし、シノもいる。まだほとんど犬みたいだった頃のシノだよ。僕この頃のシノの方が好きだったな」
     本人が聞いたら眉を潜めて抗議するだろう。元々新しいもの好きのオーエンは、器用にデバイスを動かしてあちこちと散策を始めた。
     ラスティカのラボに向かう途中にも、あちこち寄り道をするつもりらしい。シティで一番大きいショッピングセンター、CBSCの移動ワゴン、下町の商店街、広場の千年桜。

    「あ!ほらあそこ!!ルチルとミチルじゃない?」
     その言葉に思わず息を飲む。確かに、そこにいたのはフローレス兄弟だ。それから。
    「あはは、ミスラが二人になった」
     1000年前のミスラ。まだ、“心”が搭載されていなかった頃の自分。
     三人は目の前にいる二人をまるでいないものの様に、(実際に彼らにとっては存在してい無いのだけれど)。なごやかに側を過ぎ去っていった。
     ミスラは思わず振り返る。その背中は見ず知らずの他人同士みたいだった。
     オーエンが意地悪く顔を歪めながら呟く。
    「ねえミスラ、今お前がどんな顔しているか。教えてやろうか?」
    「はあ……。どうでもいいです」
     改めて、ミスラはこのツアーの何がいいのか。理解できないと思った。こんな、昔の映像なんて眺めていても虚しいだけだ。
     もう過去には戻れない、過ぎ去った人々とはもう。話すことも、触れることも、一緒に自宅へ帰ることもできないのだから。

     呆然とするミスラに何か溜飲が下がった様な気がするオーエンは、さらに気のむくままにデバイスをいじくり回す。気まぐれに散歩を楽しむ様に座標を動かして遊んでいたその時、一台のエアバイクが道の端に止まっていた。
     道に迷った子供に親切に語りかけるその人は、オーエンのメモリーに残るその姿そのままにそこに居た。
    「カイン……」
     当たり前だ、フィガロやラスティカが居る時代なのだから。彼もそこに居るはずなのだ。けれど、オーエンは何故かその事を考えもしていなかった。
     忘却の彼方に居る間は、まるでカインがまだ生きているかの様に感じていた。でも、この過去の思い出の中に実存しているカインの姿を目の当たりにすると。
    「もう二度と会わないかもしれない」
     そう、過去の自分が口にした言葉が今更になって重くのしかかってくる。
     ホログラムで出来たカインの影は子供をサイドカーに乗せ、どこかに走り去っていった。あわてて追いかけようとして。デバイスを取った手を、そのまま膝に落とす。
    「オーエン?どうしたんです。じっとシティポリスを見つめたりして」
     何も知らないミスラは心底不思議そうにオーエンに声をかけた。

    「ようこそ、この世界へ。この夜も、あの月も、春の風も、あんたたちのものだよ。ベイビーたち、全身で感じてくれ」

     あの太陽みたいに明るい声はもう聞こえない。決して交わらない黄金の瞳はまるで蜂蜜の様に甘かった。
     スイート・ハニームーン。無垢で無邪気で何も知らなかった。幸せだった時代の思い出。
     ああ、きっと。この影法師に囚われ、宇宙を彷徨うハメになったと言う過去の旅人たちは。この夢の甘い毒に捕まったんだろう。
     こんな風に実感するまで、もう戻ることの無い時代に置いていった“誰か”について、今までこんなに考えてみたこともなかった。

     ドームの中のフォルモーントシティはもう黄昏時だ。夕日に染まる桜が美しい。なのに、オーエンは景色なんて興味ないみたいな顔で地面を見つめていた。
     そんなオーエンを見つめながら、遠い宇宙の彼方まで連れ回しておいて、突然気まぐれを起こされても迷惑だ。そんな風にミスラは考えていた。所詮はただの映像でしかないこの街では、機嫌直しに何か甘いものの店に連れ込む訳にもいかない。
     日の落ちかけた広場は人影もまばらだ。薄いクレープ生地みたいな月が桜並木の向こう側に浮かんでいる。その時ミスラはあの黄金色の月に惑わされた様な気分で、そっとオーエンの手を握った。
     オーエンは少したじろぎ、そっと伺う様にその握られた手の相手の方に目線を向けると。よく磨いた翡翠の瞳が落ちてくる。
     
     普通、こういう時は目を瞑るものだろうに。そんな的外れな事を考えながら、二人とも見つめあったまま唇を重ね合っていた。ぎこちなく喉を鳴らして、元々必要としない吐息の行方を探して指先を絡め合わせる。
     陽が落ちて桜がライトアップされる。その影に隠れる恋人達みたいに過ごしている今。オーエンとミスラだけが。音も匂いも無い、触れることも出来ないこの世界で唯一無二の“現実”だった。
     ジョギングをする市民がこちらにやってくるのが見えて、慌てて二人は距離を取る。そんな無意味な反応を含めて、この世界の何もかもが。下らない茶番の様に思えてくる。
    「帰ろうか、地球へ」
    「そうですね」

     ポットから外に出ると。季節は夏、時刻はお昼を少し回ったあたり。
     どこにも桜なんて見当たりやしない。雑踏の中人々の話し声が響き渡る街中では、あちこちで賑やかにバカンスの広告が映し出されている。
     本当なら向こう1週間は「1000年前の地球」に滞在できたはずが。結局は気まぐれで1日も経たずに戻ってきてしまったオーエンとミスラは。突然暇を持て余す事となった。
    「せめて食事くらいは済ませて置きたかったですね」
    「そうだね。あ〜あ、チケット代。馬鹿にならなかったのになあ」
     愚痴の割には随分とスッキリとした物言いだった。
     二人の間に季節風が吹いて、髪が乱れる。ふと思いついた様にオーエンは悪戯っぽく。
    「このまま海でも行く?」
     なんて、言うものだから。
    「冗談でしょう?近場のプールでいいですよもう」
     とミスラは呆れ顔で答える。

     空には真昼の月が薄い銀色で輝いていた。
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     そのツアーとやらは、100年先まで予約で埋まる程の人気プログラムなのだという。
    「チケットを取るのにものすごく苦労した」
     というオーエンの半ば呆れたような、それでもどこか誇らしげな様子を横目で見ながら。
     ミスラ自身はこのバケーション・パッケージツアーの良さを全く理解できなかった。

     アシストロイドに“人権”が認められて久しく1000年は軽く過ぎた現代。
     人間達の寿命もその肉体年齢に縛られなくなった、それでも。「死」そのものまでは克服に至らない今。人類は新しい病理に悩まされるようになっていた。
    「もう二度と会えないあの人にもう一度」
     素朴ながら切実な願いはありとあらゆる“サービス”として商品化されている。このパッケージもその一つだ。
    「数千年前の地球を眺める事で、その時代に居たもの達を観測する。そんなのスクリーンで過去の映像を映し出すのと何が変わらないっていうんですかね」
     気怠げにそう吐き捨てるミスラに、少しばかりオーエンはムッとする。
    「なんだよせっかくペアでとっておいたのに」
    「別に俺は頼んでませんけど」
    「このポンコツ。せっかくのカルディアシス 4632

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    DONEファウスト先生が呪屋の仕事をするお話。
    モブがいっぱい出てくるし胸糞の悪い話なのでご注意。
    私だって先生がお仕事してる姿を書いてみたかったんです。
    『真夏の夜の夢』

     あれから、どのくらいの間彷徨い続けて来たかわからない。
     ただ昔馴染みから「嵐の谷に行くといい。あそこには腕のいい呪屋がいるから」と声を掛けられたのだけを覚えている。
     男はその言葉だけを頼りに自我を保っていた。その一筋の希望がなければ、とっくの昔に彼は憎しみに我を忘れ。怪物にでも成り果てて居ただろう。
     呪屋が住むと言うその場所は。
     その名に反してひどく穏やかで、暖かかった。

    「とにかく何か口にしなさい」
     全身黒ずくめの呪屋は、まるで客が来るのがわかって居たかのようだった。
     待ち兼ねるように小屋の扉の前で自分を迎え、招かれるまま椅子に付くと。爽やかな琥珀色の飲み物をすすめられた。机の上にはオートミールのクッキーまで置いてある。
     久しく嗅いでいなかった日常の匂いに、少しばかり心が凪いでいく。
    「そういえば暫く何も口にして居ませんでした」
    「魔法使いとはいえ絶食は良くないな。粥でも拵えてやろうか?」
    「…、いえ。結構です」
     クッキーを口に含み水分で唇を潤すと、ようやっと自分が何をしにここにやって来たのか分かってきた。
     そうだった、自分は誰かを呪いたくて 3231

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