Drop it 前編「もうホームズ気取りの探偵ごっこは辞めろ」
きっかけは降谷のその一言だった。
その時の言い草ときたら読み飽きた三日前の新聞を放り投げるようにぞんざいで、その声ときたら投げやりな上に取りつく島もなく乾いていて、挙句の果てには視線すらこちらに向けず無表情で言い放たれたものだから、流石の真純も即座に反応することが出来なかった。
「……なんで」
たった数秒。しかし沈黙としてはそれなりに長い時間が流れてようやく絞り出した台詞がそれかと、脳味噌の回転不足を真純は呪った。何故今、どういった理由で、アンタは何を思ってその言葉を口にした?
「なんで? 明らかだろ」
この男は言語野がそこらの人間よりよっぽど発達していて、本人すら気づいていない本音を言葉の裏から読み取っては薄い唇から甘い言葉を紡いで意のままに相手を操ることにすら長けているくせ、そのスキルを真純に対して発揮しようとしたことは一度もなかった。今だって真純の拙い疑問文に納得するのに充分な装飾を付けた解答を用意するなんてこの男にとっては造作も無いことのはずなのに、放たれたのは匙を一つも二つも投げた成れの果ての言葉だけだった。
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