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    素数ちえり

    素数は数えないタイプの素数です

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    素数ちえり

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    幽霊のobtくんと結婚すると言い出した六代目様の幸福を喜びたいけど喜べない七班の話。

    しあわせなのに悲しい話「そろそろお前に継いでもらおうと思ってるから。そういう話も真面目にしていかないとね」
     
     オレは、なんだかんだいって。カカシ先生が六代目として火影でいてくれたことが嬉しかったから。
     このまま先生が火影でいてくれて、長く平和が続いていくなら。
     自分がおじいちゃんになってからの就任でもいいかな。なんて思っていた。
     いや、父ちゃんみたいに若くして継ぐのもカッコイイとも思っていたけど。本音をいえば、そっちの方が強いけど。
     でも、信じてたから。カカシ先生のこと。先生が作る、里の、幸せの形を。
     
     だからそんなことを、いつもの穏やかな笑顔で先生に言われた時。
     
     
     ――嗚呼、この人は死んじまう気なんだって思った。
     
     
     *****
     
     
     木ノ葉隠れの里は今日も平和だ。
     空に浮かぶ雲も少なく、晴れといっても過言ではない。暑くもなく、寒くもなく。穏やかな風だけが心地よく吹いている。
     
     だが、甘味屋で向かい合って座るオレたち七班の心も顔も浮かばれなかった。
     サクラちゃんは大好きなあんみつを頼んだってのに手も付けない。サスケも、苦めのお茶を渋い顔で啜るだけ。オレも、団子を頼んだけど……食べる気にならない。
     
    「あんなの、真面目な話をする人の顔じゃないわよね……」
     
     誰も口を開かないまま、どれだけの時間が経ったのだろうか。団子の表面が乾き始めた頃、サクラちゃんが耐えきれなくなってそう呟いた。
     それに、オレとサスケは頷く。
     
    「あいつが情けない顔をしているのは昔からだが。それにしたって、あれはないだろうあれは」
    「カカシ先生。本当に死んじまう気なのかな……」
     
     サスケが困惑したような表情で、言葉を選びながら口にしたセリフに。つい口を衝いた。
     露骨に名前を出してしまったので、サクラちゃんが人差し指を口に当てて、すごい顔をして首を振る。
     誰に聞かれてるかわからないでしょうが! と怒られているのがわかったので、オレは慌てて口を噤んだ。
     
    「……場所を変えるぞ」
     
     重苦しくなっていくばかりの空気で、何も言えなくなったのに痺れを切らしたサスケがそう言って立ち上がった。
     そのまま店を出ていくので、頼んだものに全然手を付けてないオレとサクラちゃんは慌ててそれを包んでもらって、サスケの背を追い駆ける。
     どこに行くんだか。と思っていたが辿り着いたのは……演習場だった。
     なにも考えずに、でもカカシ先生のことを考えていたら自然と……。だったのだと思う。サスケも。
     多分、オレもサクラちゃんも同じところに着いたと思う。
     
    「な、ナルトあんたねぇ! 死んじゃうつもりか? なんて冗談でも言わないでよ!」
    「ご、ごめん……! で、でも……」
     
     周りに誰もいないのを確認したサスケが頷いたのを見て、サクラちゃんがオレの胸倉を掴んできた。
     今にも泣き出しそうな顔で詰め寄られて、つい反射で謝ってしまったけど。
     でも、と言葉が続いたのは……この場にいる全員が同じことを思っただろ。とわかっているからで。
     だからこそ、サクラちゃんは悔しそうな表情を浮かべ、オレの体を突き飛ばした。
     
    「誰に言ったって信じてもらえない話で。カカシ先生を引き留めてくれなんて言えないだろ……」
     
     地面を強く踏み締めながらも。湧いてくる悔しさに、歯痒さにそんな言葉しか出てこない。
     助けてくれなんて誰に言えるんだ。言ったところで信じてくれるのか。信じもしない言葉でカカシ先生が救われてくれるのか。
     
    「……幸福でないなら。やめろと言ってやれる」
    「バカ野郎! 言えたら苦労してねえ!」
    「わかってる。だから、なにも言えないんだろ。ここにいる、誰も」
     
     サスケは、相変わらず正論ばっかり言う。わかってることを、当たり前みたいに言う。
     腹が立って怒鳴ったら、そんなオレに返したサスケの声が……ずっとずっと、落ち込んでいて。やっぱりなにも、言い返せない。
     オレの目からも、サクラちゃんの目からも。涙が溢れてきた。
     
    「だってカカシ先生は! あんなに、幸せだって顔してんだぞ! 好きな人と一緒にいられるんだって、あんな顔で言われたら! 死んじゃわないでくれなんて言えないだろ! 先生が、やっと、得られる幸せなんだぞ! でも、なんで、それが、死なんだよ!」
     
     感情が、ぐっちゃぐちゃになって。叫び声にして出していくしかこのぐちゃぐちゃをどうにかする方法を思い付かなかった。
     わあああああ! って声を上げて泣くオレの、隣でサクラちゃんも泣いてる。
     片腕だけになったサスケが、オレを手招いたあとサクラちゃんをその腕で抱き寄せた。オレは、自分の両腕でサスケに抱き付く。
     
     自分の尊敬する、恩師を。
     彼の望む幸せを、手に入れてもらうために。オレたちが与えられるのが【死】だけであることを。
     喜んでやってやれるわけない。
     
     
     *****
     
     
     カカシ先生の隣に、そいつが視えるようになったのは。カカシ先生が六代目に就任してから、それでもだいぶ経った頃だと思う。
     ある日突然、その隣にあった姿。見覚えがあった。
     
     最初、自分だけにしか視えてないのかと思ったけど、カカシ先生には視えていたから。先生と関わりがある人には視えるのか? と思ったらシカマルには視えていなくて。
     ガイ先生も、ヤマト隊長にも視えていなかった。
     もしかしてカカシ先生とオレ以外には視えていないのかと思ったら、サスケとサクラちゃんは見えてて。サイには視えていなかった。
     
     多分、そいつの最期を見たのがオレたちだけだったからなんだろう。
     
     そいつ、は。姿を現してからずっとカカシ先生の傍にいた。カカシ先生も、当たり前みたいにそいつと話をする。
     それはオレたちには視えているとわかっているからだけど。
     火影室にずっとこもっているような生活をしているカカシ先生は、時々。オレたち以外の前でもそいつと会話をしていて。
     
     それが、次第に。
     六代目を心配する声に変わっていった。そりゃあ、目には見えないものと話しているんだと思われてたら当然だろう。
     オレも、視えていなかったら同じことを思っていただろう。先生、どうしたんだ? って聞いてた。
     
     それでも、そんな中でも。カカシ先生は、火影としての仕事はきちっとこなしてて。ああ、そういう真面目なところカカシ先生だな。なんて思ったけど。
     でも、オレにだってわかるほど。目に見えて二人の距離は近付いていて。よく知っている光景だ、と思うようになった。
     オレやヒナタのようだ。サスケとサクラちゃんのようだ。サイといのみたいだ。
     
     ――そうだ。アレは好き合っている二人の光景だ。恋人の、それだ。
     
     それに気付いていたのはオレだけじゃない。サスケもサクラちゃんも気付いていた。
     そしてそれが、よくないことだっていうのも。
     
     こどもの頃は気付かなかった。カカシ先生は、オレたちが弱いから。それを守るつもりで前に立ってくれていたのだと思っていた。
     でも、違う。
     この人は、【生きている間ずっと生き急ぐような人】なんだ。自分の身で、誰かを救えるなら死を望むような男。
     だから、そうじゃなくて。
     
     先生が、自分の願いで。
     好きな人と幸せになりたいって言うんだったら。仕方ないって。
     思いたかった。思えるような人間になりたいと初めて思った。
     
     今、先生が望む死を遠ざけるということは。
     先生から、幸福を奪うのと同じだ。
     
    「オレ、オビトと結婚するんだ」
     
     そうだって心の底から幸せだって笑った人に、「死なないで」なんてどうして言えるだろう。
     本当に望んでいることをわかっている人が、傍にいるんだとわかっているのに「連れてかないで」なんてどうして言えるだろう。
     
     
     *****
     
     
     嗚呼、夢が叶うことは幸せなことだと思っていた。
     オレが七代目火影になる。火影は、オレがガキのころから見ていた夢だ。
     でも、その夢が。幸福が叶うと同時に。恩師を失う。
     
    「どちらかしか選べないなら」ガキのころから、いつも二者択一を迫られた。
     オレはそれにいつも「どっちも選ぶ方法だってあるだろ」って返していたと思う。事実、いつだってそうしていた。
     でも、どうしたって叶わないことだってあって。
     
     今、またその選択に迫られている。
     否、どちらを取ったって。オレが、火影にならなくたって。カカシ先生はいつか、近い内。その手を取るだろう。
     
     嗚呼、あの人は。
     オレたちには死神にしか見えなくなってしまった男の手を、幸せそうな笑顔で取るのだろう。
     
     
     それが、それが。どうしようもなく幸福なことで。どうしようもなく悲しいことだというのだけは。
     ばかなオレにだってわかるよ。
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