おっぱいの日にならなかったなんだか今日はすごくウルフウッドからの視線を感じる。
ほら、また。僕がウルフウッドを視界から外すたび、じとりと湿度の高い視線を投げかけてくる。恥ずかしくてつい気付かないふりをしてしまったけれど、好きな人にこんなに見つめられたらどうにかなってしまいそうだ。
「なあ」
「っな、なに!?」
わ、わ、声がひっくり返っちゃった。どうしよう、変に思われちゃう。
「おどれちょっと、コート脱いでみ?」
「えっ!?」
ちょっと待って、僕たちまだそんな関係じゃないのに脱げだなんて。確かに宿に泊まれるのは久々だし、車の中で寝るのと違ってふたりきりだけど!
焦っている僕のコートに、煙の匂いが染み付いたウルフウッドの指がかかる。
待って、待って、ウルフウッドに脱がされちゃうなんてそんな、僕どうされちゃうの、もしこのままベッドに押し倒されでもしたら、そんな、心の準備もできてないのにっ……!
トレードマークの赤いコートを奪われて、あまりの心許なさに思わず体を縮こめる。少しでもウルフウッドとの間に盾がほしくて、注がれる視線を遮るように体の前で腕をうろつかせた。
「なに赤なっとんねん。隠すなや」
「や、うるふうっど……!」
黒いスーツに包まれた腕がしなやかに伸びる。
胸を、触られるかと思った。
「あっ」
思わず固まった腕は常人ならざる力によってあっさりと割り開かれ、ウルフウッドと僕を隔てるものはぴちりと肌に張り付く黒いシャツ一枚。腕を掴まれて、きっと僕がひとりで体を熱くしているのが伝わってしまったに違いない。うるさいほどにばくばくと跳ねている心臓の動きが服の上からでさえわかってしまいそう。
どんな目で、見られているのだろうか。
どんなふうに、見えているのだろうか。
それなりに鍛えてはいる。だらしない体をしているつもりはなかった。それでも見せたことのない服の下の傷まで見透かされているような気がして。
ますます顔を赤くして俯いた先ではやはり心臓が大暴れしている。
「双子いうても似てへんもんやな」
感心するように呟かれたその言葉は不思議と優しい音で僕の胸に染み込んだ。
僕とナイは双子だから瓜二つ。そう思っていたのにウルフウッドは似てないと言ってくれる。僕を僕として見てくれているんだ。うるさかった心臓が今度はきゅうんと締め付けられるように切なく鳴いた。
だというのに。
「兄ちゃんの方がよっぽどええカラダしとる」
ガン、と頭を殴られた気がした。心臓はぴたりと鼓動を止めたのかと思うほど静かになり、熱かった体が末端まで冷えていくのがわかる。
「あのカラダかっこええよな、胸板なんかごっつ分厚くて。どないなトレーニングしとんのやろ」
「ぅ、う……ウルフウッドのばか!!」
次の日から僕は日課のトレーニングを倍に増やした。主に胸筋のトレーニングを。