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    『えっちの下手くそな左馬刻様書きてえ』から始まりました

    スパダリではない、自分勝手でクソ自己中野郎だけど自分なりにじろちゃんのことを愛している不器用左馬刻様と、初めての経験でなにも分からず憧ればかりが先行するじろちゃんがステップアップするおはなし


    こちらはツイッターの企画『さまじろ逆真ん中バースデー』用に書いたもので支部にもアップしてます

    #さまじろ
    upsideDown
    #R-18

    ジャンキーキャンディーナイト乱れたシーツ、互いが吐き出したものと汗の匂い、高くなった体温と冷めていく興奮。汗がひいて肌寒くなった二郎はブルッと身体を震わせて、毛布を手繰り寄せた。
    さっきまで暖かかった体温がなくなり、身体に巻きつけた毛布の中で二郎はそっと足の間のおさまらない熱をひと撫でする。
    「いたっ……」
    むずむずと駆け上がる熱を治めたいのに、そこを触るとひりひり痛む。得体の知れない感覚が腹の中で一頻り蠢いた後、小さくなっていった。


    山田二郎には恋人がいる。
    人生で初めて出来た、家族以外に大事だと思える人が。
    知る人ぞ知る、ヨコハマディビジョンの碧棺左馬刻。
    人よりも遅い初恋を迎えたのが高校生になってから。それも相手が男だったり兄の因縁の相手だったりと、二人が付き合うまでに一悶着もふた悶着もあってなんとか乗り越えて来たが、それはまた別の話。
    付き合いはじめて半年で初めて唇をくっ付けるだけのキスをされ、大事にされていると思った。それから徐々に触れられる範囲と濃密度があがり、そろそろそういうことをするのだという覚悟と、少しだけ期待もした。
    付き合って一年で初めて抱かれた。
    なんとなく抱かれるのは自分なんだろうなという思いと、相手に自分がそういうことをするという想像が付かなかった二郎は、事前に男同士の性行為について調べた。
    男がそこで快感を得られるようになるには個人差があったり回数を重ねないと上手くいかないと知った。
    なかには痛い思いをしたり、流血沙汰になったりした経験談を読んで怯え、そうならないと良いな、とそれだけを願っていた。
    そうして迎えた初体験は痛い思いをすることもなく、思っていたより呆気なく終わった。
    勿論この上なく恥ずかしかったり(なにせ局部を晒した上に、排泄器官に指を突っ込まれるのだ)、好きな人と触れ合える高揚感や多幸感、恋人の普段は見せない顔を見られる喜びはあった。
    呆気なく、というのは二郎が事前に得ていた情報とは違ったせいだ。
    その多くは実体験を綴ったもので、先述の通りの悲惨な体験談ばかりだった。そしてそれに怯えた二郎は、その反対を探した。
    正反対のもの。つまりは男同士の気持ち良いセックス。
    そういうものを探して行き着いたのはファンタジーの詰まったボーイズラブの小説や漫画だった。
    いきなり突っ込んでも痛がらないどころか悦びまくる受け、解さなくても受け入れる後孔、達するときは必ず二人一緒。
    さすがの二郎もこれには呆れたが、同時に憧れもした。
    何故なら二郎には初めての恋で、初めての経験なのだから。その初めての経験は、気持ち良いという感覚は無かったが、幸せな初体験だった。
    訳の分からないままに最後はペニスを擦られて達したが、いっぱいいっぱいの二郎の記憶には残らなかった。
    それでも、幸せだった。


    初めて抱かれてから半年が過ぎ、なかなか会えない二人だったがそれでも忙しい中を互いの為に時間を作っては逢瀬を重ねた。
    毎週末会うことなど叶わず、月に二回も会えたら良い方だった。だがそれも無理やりに時間を作った合間の一時間が精一杯。ゆっくり過ごせるのは月に一回。そもそも住む世界と生活リズムが違いすぎるのだ。
    それはそれで仕方がないと割り切っている二郎だったが、そうすると会えない時間に左馬刻を想うことが長くなっていく。
    一回目は何も分からないまま流されるように終わり、二回目三回目は二郎からも行動を起こそうとしたが恥ずかしさが勝って無理だった。四回目五回目は二郎からキスをすることが出来て、それだけで満足して終わった。
    いっぱいいっぱいでも経験は経験。
    回を重ねるごとに、自分が漫画で読んだ世界とのギャップが浮き彫りになっていく。勿論漫画や小説の中のセックスがファンタジーなのは二郎も分かっている。だが、こういう風に愛されたい、こんなことをしてみたいと思うのは自由であるし、そういうことに興味を持つのは必然であるし、好奇心旺盛な十代なら当然であろう。
    「左馬刻さんって今までどんなえっちしてたのかな……」
    左馬刻の過去を思うと悲しくなってくるが、自分に経験がないため比べる対象が無い。
    左馬刻は二郎を優しく抱いてくれるが、二郎に経験が無く更に言えば同年代よりも考え方がやや幼いため、そういう行為の時は緊張で強張ってしまう。それに加えて極度の照れ屋なために、痛いとか苦しいとか気持ち良いとか、自分の思っていることを伝えることをしない。
    そして原因は左馬刻にもあった。
    左馬刻は確かに今までの女なんかには一切しなかった気遣いを二郎にはしている。痛くないように、苦しくないように、傷つけないようにと。
    だがこれまでの女は左馬刻に『お願いだから抱いてくれ』と懇願するようなタイプか、仕事絡みの女ばかりで恋人というものを作って来なかった。そのため左馬刻としては女は欲の捌け口程度にしか思っていなかった。
    勝手に濡れる性器に熱り立ったものを挿れてやれば勝手に悦んで勝手に達する。それがこれまでの女とのセックスだった。
    だが二郎と出会い、これまでのようにはいかないと思った左馬刻もきちんと調べ、二郎が痛くないように傷つかないようにとしてきたつもりだった。
    左馬刻は二郎とそうなったことに満足していたし、また二郎も同じ思いでいると思っていた。





    「このままじゃダメだよな」
    二郎は学校の帰り道、独り言を呟く。
    というのも、校舎の隅でこそこそと別の学年の女子グループが話す、所謂猥談に耳を傾けてしまったからだ。
    自動販売機の置かれている場所のベンチに固まった女子生徒たちは、そこに自分たち以外誰も居ないと思ったのか、そこそこ大胆な話をしていた。
    足音を立てるのも気不味く、二郎はかちんこちんに固まって棒立ちになっていた。
    そして話はそのうち一人の女子生徒の悩み相談へと変わっていくと、ますますその場を動けなくなってしまった。
    『あのさ、みんな彼氏とのえっちに満足してる?』
    『んー、まぁそこそこは』
    『がっついて来られたらちょっと嬉しいって思っちゃうよね。可愛い〜ってなる』
    『うちは彼氏が初めてだったからちゃんと仕込んだよ!』
    『はは、仕込んだって』
    『いや、あのさ、痛いとか言う?』
    『なにあんたの彼氏ドSなの?』
    『違う違う! ……うーん、なんていうのかな、こう、あんま気持ち良くないのに挿れられちゃったり』
    『あーね、独りよがりなんだ』
    『そう、なのかな……。き、気持ち良いとかも言えなくて』
    『あー、あんま気持ち良いばっか言ってると演技っぽいけど、でもここは良いとかここは嫌だとか、もっとこうして欲しいとかは言わないと』
    『そうそう。言うの恥ずかしかったら大袈裟にあんあん言うとかね』
    『それも恥ずかしいじゃん』
    『あたしは一回いかせてもらってからじゃないと挿れさせない』
    『うわ、欲に正直』
    『はは、でもさ、お互い良くなりたいじゃん。一人ですんのとは違う訳だしさぁ』
    『確かに。二人でするものだしね』
    『本当さ、二人でする意味考えてみなよ、お互いに。勇気出して言ってみるのも考えときな』
    『痛くて嫌で、でも言えないときはそっと腕を突っぱねてみたりしたら?』
    『な、なるほど……』
    なるほど。
    二郎は結局女子生徒たちがその場を去るまで話を聞き入り、納得した。

    左馬刻さんは優しいけど、ちょっとだけジブンホンイな気がする
    オレは受け身なばっかりで自分の気持ちっつーか、こうしたいってのを伝えてない
    せせせせせせ、せ、っくすは二人でするもの……
    確かにな

    二郎はグッと拳を握りしめ、覚悟を決めた。
    季節はもう冬に移ろいはじめている。
    そうすると今月、運が良ければ二人で過ごす初めてのクリスマスが来る。
    去年は左馬刻が仕事、二郎は家族で過ごし、なんとか時間を作った左馬刻が会いに来てくれて、ほんの三十分だけを家から抜け出したパーキングで過ごした。車の中でそっと肩を抱き寄せられて初めての口付けを交わしたのがもう一年前。それから互いに年末年始は忙しく、会えたのは二郎の誕生日を過ぎてからだった。
    クリスマスに何があるわけでもないが、それでも恋人たちがそわそわし出すイベントに、今年は何が何でも自分も参加したかったのだ。浮かれていると言われても良い、恋人らしいことがしたい、と。


    きっかけは二郎が漁っていた漫画にあった見慣れない言葉だった。
    『真ん中バースデー』
    なんだこれ、と調べてみると計算してくれるサイトまである。
    「計算? こんなの使わなくたって左馬刻さんが十一月で〜、オレが二月で〜、……要するに真ん中なら良いんだろ。えっと〜、それなら〜、え、うそ待って、イブじゃん!!」
    二人の誕生日の間の日を頭の中と指とスマホの電卓を使って計算すると、なんとクリスマスイブだった。
    クリスマスイブ。
    二人が初めてキスをした日。
    そう考えるとなんだか運命のようなものを感じた。
    ただでさえ恋人たちの為の日のようなクリスマスイブが二人の真ん中バースデーで、しかも自分たちの記念日(と二郎は思っている)だなんて!!
    二郎はそれを知ってからどうしても左馬刻と二人で過ごしたくなった。
    兄である一郎に、その日は家族でのパーティーは無理だと早めに言っておいたし、左馬刻には滅多に言わない我儘を言って予定を入れないように頼んでおいた。
    普段二郎は予定に関してだったり、あまり会えないことに対して不満を言うことが無かったので、左馬刻は少しだけ驚いたがすぐに了承した。それに加えて最初から予定は空けてあるとまで言ってくれたのだ。
    クリスマスといえばプレゼントだが、友だちに自分のこととは言わずそれとなく相談してみると『プレゼントはワ
    ・タ・シ♡が一番嬉しい』やら『素直でドエロい彼女欲しい』やらで全く参考にならないはずだったが二郎は全てを真に受けた。





    そして迎えた当日。
    二郎は左馬刻の家のソファに座り、トレーナーの襟に指を引っ掛けて下に引いた。その白い首には青いリボンが不器用にも結ばれている。
    「さ、左馬刻さん……、ぷ、ぷれ、ぜんと」
    頬を真っ赤にしているのにその目は真っ直ぐ左馬刻を見つめている。いつもなら羞恥心からすぐに逸らすのに、今日は違っている。左馬刻もそれに気付き、応えるように見つめ返した。
    「あの、今日は、今日はオレがやりたいこととか……、して欲しいことを、言う、から。だ、から……、だから、」
    これだけを言うのにもいっぱいいっぱいになって言葉が詰まる二郎を急かすことなく、左馬刻は黙って聞いている。そして時々二郎を落ち着かせるように身体をさすってやった。
    「ふふ、オレそれ好きだ」
    「それ?」
    「あの、オレの頭とか、肩とか、ほっぺとかさ、撫でてくれるの」
    そうだったのか、と左馬刻は今更ながらに思った。何の意図も無く、何となく落ち着かせるにはどうしたら、としていた行為が好きだったとは。
    「あとは? 何が好きなんだ?」
    左馬刻が二郎の頬にキスをして訊く。
    「ふ、それも、それも好き」
    「それって?」
    「ほっぺとか、鼻とか、色んなとこにちゅってしてくれるの」
    これも完全に無意識だった。
    「オレのこと、好きだって、言ってくれてるみたいだから」
    ちょっと待て、と左馬刻は思い、そして目をまん丸くして口に出した。
    「ちょっと待て、俺ァそんなに言ってねぇのか?」
    「えっと、なにを……?」
    「お前のことが好きだって」
    今度は二郎が目をまん丸くして驚いた。
    「最初の、ほら……、付き合うようになったとき、あの時だけ」
    「まじか」
    「え、うん……」
    左馬刻は二郎に向き直り、その身体をギュッと抱きしめた。
    「二郎、悪かった」
    左馬刻の突然の言葉に二郎は驚いたが、じっと次の言葉を待つ。
    「俺たちには言葉が足りなかったみてぇだな」
    「……そう、だね。でもオレも左馬刻さんのこと言えないや」
    「でも俺の方が歳も、」
    二郎が左馬刻の肩をそっと押して制した。
    「あのさ、付き合ってんのに歳とか関係ねぇだろ? そりゃオレは学生だからさ、出来ねえこともいっぱいあるけど……。でも、あの、え、え、え、っち、とか、は……、ふ、ふたり、で、するもの、だろ? だから……、」
    「よくねぇのか」
    左馬刻のストレートな言葉に、二郎は思わず下を向いてしまった。
    「……あの、まだ慣れてねぇから、」
    「じーろう」
    「…………いた、い、ときも、ある」
    「そうか」
    「あの、ちんちん、こするの、ひりひりして……、でも終わったあと、いつもずっと腹の奥が、……む、むずむず、して、」
    「うん」
    「優しくしてくれてるのは分かるよ、でも、……あの、忙しいからかな、とか、時間ねぇしな、とか」
    はぁ、と左馬刻がため息をついて二郎は肩を跳ねさせた。
    「俺ァとんでもねぇ自己満ヤローだったってことだな。クソじゃねぇか」
    「そっ、んなこと……!」
    「あるだろ」
    被せるような左馬刻の言葉に、二郎はまた黙ってしまう。
    「勇気出してくれたんだな、こんなクソチン自己満野郎のために」
    左馬刻の大きな手が俯いた二郎の頬を包む。
    「二郎、教えてくれ。俺に、全部」
    左馬刻が二郎の首のリボンに指をかけて引き抜いた。


    「じろう、二郎、どうしたら良い?」
    二郎の髪に、額に、鼻先に、頬にとキスをして、最後に耳元で懇願するように囁く。
    左馬刻の声が普段よりも小さく、情けない声色なのは二郎も分かっていた。だがそれくらい左馬刻も真摯に向き合ってくれているのが伝わり、二郎は歓喜に震えた。
    「オレ、でも、わかんね、……じぶんの、きもちぃとこ」
    「じゃあ探していくか」
    「は、はず、かし……、けど、が、がんばる」
    探す、と言った通り左馬刻が二郎の身体の隅々まで触れていく。壊れものに触れるようにそっと優しく、文字通り手探りで二郎の気持ち良いところを。
    頬にキスをしている左馬刻の髪が二郎の耳に触れたとき、あっと声が出たのを見逃さなかった。
    「二郎、ここは? 気持ち良いか?」
    左馬刻の唇が二郎の耳を甘噛みする。
    「は、ぁ……、あぅ、うん、そこぉっ、き、きもちぃ……」
    耳たぶを吸い、耳殻にそって舌を這わせ首筋まで下りていく。
    「……あぁっ、やだ、そこっ、くすぐった、……は、あぁっ!」
    素直に気持ち良いと告げてくれる二郎が、左馬刻は可愛くて仕方なかった。と、同時に今までの自分を殴りたくなった。
    こんなにも可愛くて淫らな二郎を知らなかったなんて。自分の舌や指先ひとつで乱れる従順な身体を知らなかったなんて、と。
    「じろ、くすぐってぇとこは気持ち良いとこだ、覚えろ」
    首筋をじゅうっと吸い上げ、前よりも強くなった所有欲を記す。
    「あぁっ、……わ、わかった」
    二郎はこれにも素直に返事をする。
    「耳と首と……、あとは何処だ?」
    左馬刻の指が首筋をなぞりながら下に降りて行き、ふくらみのない平坦な胸に触れる。
    「あ、ごめ……、やわらかくねぇ、から……」
    「そんな今更なこと言うな」
    少し怒気を孕んだ左馬刻の声に、二郎の身体が強ばる。
    「あー……、悪りぃ。お前に怒ってんじゃねぇんだ」
    二郎の僅かな胸筋に唇を寄せる。
    「え、じゃあ何怒ってんの……?」
    両胸にぽちんと飾りのようにつけられた乳首に左馬刻が吸い付いて、言い放った。
    「こんな可愛いお前を知らなかった自分に」
    そう言い終わると小さな乳首に優しく噛みついた。
    「あぁっ……!!」
    男が乳首で快感を得るのは個人差があるが、二郎の反応の良さに左馬刻はもしかして、と試してみたくなった。
    「二郎、嫌だったらすぐ言えよ」
    左馬刻に言われた言葉を気遣いと受け取った二郎はにっこり笑って頷いた。
    左馬刻はそれを見届けると、また上に首を伸ばして二郎の首筋を痛くない程度に噛みついた。
    「はぅっ、……え、なに?」
    今度は乳首を指で強めに抓ってみる。
    「ひぁ、ああぁっ」
    耳たぶに歯を立て、同時に乳首の先を爪で引っ掻く。
    「ああぁっ……!! んんっ!」
    左馬刻の思っていた通りの反応に、ますます二郎が可愛く思えた。
    性的なことに不慣れなくせに、性的なことに興味があって、何も無いまっさらな状態のはずなのに、こんなにも末恐ろしい可能性を秘めていたとは。
    「二郎、じろう、可愛いなお前」
    そう言いながら二郎のペニスを確かめるように触れると、そこはもうどろどろに蜜を溢れさせていた。にちゃあ、と指を広げると粘膜の糸が広がる。
    「えあ、うそ、オレ……、なんで」
    左馬刻の手を見た二郎が信じられないといった様子で呟く。
    「じろ、可愛い」
    二郎のペニスを強めに握り、親指の爪を鈴口に押し込んだ。
    「はうっ、あ、あぁ……」
    可愛い、好きだ、可愛い、可愛い。
    左馬刻の口からは甘い言葉が、その手や唇はその言葉とは裏腹に噛みついたり引っ掻いたりを繰り返す。
    「じろう、じろう、可愛いな、二郎。お前のこと全部、俺にくれよ」
    左馬刻が大口を開けて二郎のペニスにむしゃぶりつく。
    「ああああぁぁっ……!! やぁっ、あっあっああぁ……!」
    舐める、というより口の中で優しく甘噛みしてもぐもぐと咀嚼するように刺激してやると、二郎の口からはもう母音しか出てこなくなった。
    これまでに一度、左馬刻からフェラチオをしてもらったことがあるが、こんなにも快感を感じたことはなかった。
    以前の経験では、気持ちいいのは気持ちよかったが羞恥心の方が上回ってそれどころではなかったのもある。
    「やぁっ、ああぁっ! さまっ、さまときさ、……あっあっ、も、でる、」
    身長の割には未発達な可愛らしいペニスの根元をちゅこちゅこと擦りながら、口の中ではあむあむと音をさせて歯を立て、舌は全体に巻きつけるように上下させる。
    「か、かんじゃ、だめ、……きっ、きもちよ、すぎ、……とける、とける、ちんちん、とけ、る、ってぇ……!」
    「やっぱ痛い方が良いのか」
    「わかっ、わか、……ね、ぁあっ、で、でもっ、すきって、か、わいいって、……んぅっ! う、うれし、」


    付き合い始めて一年半になるが二人の歩みは遅く、会った回数も交わした言葉も漏らした本音も圧倒的に少なかった。その数少ない言葉や態度の中で左馬刻は、二郎が女のような扱いをされたり子ども扱いをされるのが好きではないと思っていた。だがそれは初めての恋人に対する二郎の照れであり、付き合い方がよく分かっていないせいであったことに気付いた。
    本当は甘え方を知らないだけの愛されたがりであったことを。
    そしていつも腹の奥が疼いていたのは、その性癖の片鱗であったことを。
    左馬刻の考えが間違っていなければ二郎は軽度の被虐嗜好である。それもたっぷりと愛情を受けながらの。
    今までの付き合い方と考え方を捨てた左馬刻は楽しくて仕方がなかった。
    自分の手で、指で、舌で、身体で、言葉で、二郎を悦ばせることが出来る。
    知らなかった二郎を知ることが出来る、と。
    兄の前でしか甘えた顔を見せず、番犬と呼ばれる通り誰彼構わず噛み付くような男を、こんなにも淫らにこんなにも可愛くすることが出来るのが自分であることを喜んだ。


    二郎のペニスを口に含みながらローションを手に取り、たっぷりと纏わせる。ぐちゅぐちゅと指を動かして温め、二郎の後孔の周りに塗りつけた。
    ひとつひとつの皺を伸ばすようにローションを塗り付けて時々会陰を押してやると、期待するようにきゅうっと後孔が締まる。
    左馬刻にとって、排泄部であるそこをこんなにも愛しく思ったのも初めてだった。
    まるで意思を伝えるようにきゅうっと締まったり、緊張を逃すように息を吐く時には少しだけ桃色の肉を見せてくれるそこが可愛く思えた。
    左馬刻はせっかく付けたローションをそこらにあったタオルで乱暴に拭い、がばっと二郎の足を広げるとその中心に舌を伸ばした。
    「うわっ、なに左馬刻さん、え、えぇっ、そんなとこ……、きたな、あっ、ああぁぁっっ!」
    太腿を上にあげて腰の下に毛布を入れ込み、二郎の肛門に吸い付く。まだ柔らかくもないそこに口付けると、驚いた二郎が抵抗するように足をばたつかせるが、構わずに舌を突っ込んだ。
    「やだぁっ、きたないってば、やめて、やめ、……あっ、あぁんっ、うそ、えぁ、き、もちぃ、きもちぃよぅ、ああぁっ!」
    舌を中に入れてぐるりと回し、にゅぐにゅぐと動かす。それと同時に片手はペニスを強く握って尿道に爪を立て、もう片方の手は乳首をぎゅっと抓る。
    「……そ、な、……ぜ、んぶ、ひゃぁ、あっあっ、ぜんぶ、きもちぃ、……さま、ときさ、オレ、オレ……、こんな、おかしい、いた、いのに、きもち、……きもちいぃっ」
    じゅぽん、と音をさせて舌を引き抜き、再びローションを纏わせた指を肛門に突っ込む。傷付けないよう慎重に、だが勢いよくいきなり二本の指を入れてやると、二郎の足がピンと伸ばされた。
    「ああぁっ……!」
    伸ばされた足が邪魔をして指がうまく動かせない。左馬刻は邪魔な足を捕まえ、その内腿にがぶりと噛みついた。
    「……は、あ、あああぁ、あ、」
    がくんと下された先を見ると、二郎の腹の上はもう溢れてこぼれ落ちそうなほど精液が溜まっていた。
    「噛まれてイったのか、二郎」
    左馬刻が噛み痕に吸い付き、また新たな痕を残す。
    「まだこっちなんもしてねぇぞ」
    指を中でにちにちと動かして拡げる。
    「……んぅ、んっ、ごめ、きもちよく、て、……は、んんぅ」
    「じろ、こん中は? 気持ち良いところ教えろ」
    左馬刻の長い指が二郎の肛門の中で好き勝手に動く。
    「さ、まとき、さ……、の、マイク、もつ、手がさ、」
    「うん?」
    「ヨ、コハマ、の、あお、ひつぎ、……さまっ、んあっ、とき、が、オレの、……ケツんなか、に、ゆっ、ゆび、入れてんの、さいこーに、ぞくぞく、する」
    片足を上げて上半身を起こした二郎が、悩ましげな表情と声で言った言葉に、左馬刻は震え上がった。
    「俺ァにいちゃんにしか甘えねぇ、誰にも懐かねぇブクロの犬っころがよ、こんなにドエロくて可愛いのがゾクゾクするよ」
    「……あは、オレたち同じだ」
    「クソエロ可愛い顔でンな嬉しいこと言うな」
    「ふふ、あ、ねぇ、左馬刻さん、こっち向いて、からだ……、うん」
    互いにもぞもぞと動き、頭と足の向きを入れ替えて横向きになる。
    「オレも……、さまときさんの、舐めたい」
    大きいとは言えソファの上で、高身長の男が二人横になると狭い。だが二郎は構わず、左馬刻のボトムを引き下ろして硬くなったペニスに舌を伸ばす。
    「じろ、待て、お前落ちそうだぞ」
    左馬刻がソファの背もたれを掴んで、もう片方の手を二郎の腰に回す。
    「……んぅ、ふ、落ちね、って」
    左馬刻のペニスに食いつくようにして離れようとしない二郎の腰を寄せ、同じようにして言い放った。
    「お前落ちる時に噛みちぎるなよ」
    そう言って二郎のペニスにかぶり付き、指を肛門に挿し入れた。
    「んあっ、んむぅ、ん、ん、んぅ」
    拙い舌遣いで口に含んだ左馬刻のペニスをちろちろと舐める。くすぐったいような感覚がもどかしいが好きにさせてやる。
    そして左馬刻は二郎のペニスを咀嚼するように愛撫しながら、指で中を探る。以前はあまり気にしていなかった、男が気持ちよくなれるところーー前立腺を探すために。
    温かい肉が指を包み込み、二郎が力を入れるたびにきゅうっと締まる。締まった肉の腹側を重点的に探っていくと、ほんの僅かに指にあたる感覚が違うところがあった。
    「二郎、ここな、前立腺。なんか感覚違うか?」
    「……んむぁ、ん、わ、かんね、ちょっとだけ、なんか……、違う気が」
    「んー、まだそんなもんか。じゃあここに意識集中しろ」
    指先でこりこりとそこを擦ったり押し込んだりするが、いまいち反応は良くない。もっと二郎の乱れた姿を見たい、もっと二郎に気持ちよくなってもらいたい、と左馬刻は完全に以前とは変わっていた。
    二郎の太腿に頭を乗せてペニスを舐めしゃぶり、片方の手は乳首をきゅっと摘んだりかりかりと引っ掻いて可愛がる。もう片方の手は前立腺を刺激しながら拡げる作業を行なう。
    「……んぁ、んんんぅっ、んむ、ん、んおっ」
    二郎は左馬刻からの甘い攻めに溺れながらも、初めてするフェラチオに夢中になっていた。
    二郎の拙い舌遣いでも左馬刻のペニスがビクッと震えると嬉しく感じ、ますますその行為に溺れていく。左馬刻の巨大なペニスに浮き出る血管を舌でなぞり、溢れ出る先走りを舌先ですくって味わい、鼻に届く汗や精液の匂いを吸い込んだ。二郎の口の中でペニスが動くたびに、えも言われぬ感覚が襲った。それは喉奥にペニスの先があたったり、十分に酸素が行き渡らずに苦しくなったときに訪れる。
    試しに二郎は左馬刻のペニスを喉奥深くまで咥え込んでみた。
    すると苦しさと共に、左馬刻に征服されてるような喜び、左馬刻を好きにしているという喜びが同時に湧き上がってくる。
    支配されて、支配している。
    そんな相反する感覚が同時に二郎の中に生まれて、どうしようもなく身体が反応する。
    その時、左馬刻の指先がぎゅうっと強く締め付けられた。
    「んんんんぅ……! んぅ、んっ」
    左馬刻の口の中にぷしゃっと精液ではないものが広がり、驚いて口を離すとぷしゅっ、ぷしゃっ、と音を立てて左馬刻の胸を濡らし続ける。
    「お前……」
    ペニスの先が喉の奥にきゅうっと包まれた感覚がしたと同時に二郎が達した。と、言うことは。
    「二郎、お前やっぱり可愛いな」
    左馬刻の二本の指が二郎の前立腺を挟んだ。
    「喉奥、犯されて、感じる、なんてよっ……!」
    一語ずつ吐き出すごとに腰を突き立てて二郎の喉の奥を責める。
    「んぐっ、んおっ、んぶっ、んぁっ」
    左馬刻が腰を動かすたびに二郎の中が締まり、またぷしゃっと左馬刻の胸に温かいものが広がる。
    「まだ感覚の分かんねえ前立腺責められて、喉奥犯されて、乳首つねられて、ちんこの先噛まれて……、なぁ、二郎? 気持ち良いなぁ?」
    「……んあっ、んぼっ、んっ、んむっ、んんんぅ……!」
    「あぁ、じろう……、さいっこーに気持ち良い、クソ可愛い、二郎……、喉の奥、締まって、ドロッドロのつばが……、は、あぁっ」
    腰を二郎の腰に打ち付けながら、指を休めることなく前立腺をとらえる。
    「なぁ、二郎、ケツん中に指突っ込まれて、口ん中犯されて、でもな、お前俺の急所咥えてんだぜ? それってよ、最高に……、クる、よな」
    美しく気高く気性の荒い、狂犬と呼ばれる左馬刻を、兄弟にしか甘い顔をせず兄を盲信し、番犬と呼ばれる二郎を、お互いがお互いの急所を委ねてみっともない姿を晒しあっている。
    「んむぁ、あぶ、……んあっ、ん」
    「あぁ、じろ、クソ可愛い二郎……、も、いくぞ、喉に、くれてやるからっ……、な、……ふ、うぅっ」
    腰の動きが速くなり、二郎の口から唾液と呻き声が漏れ出す。溢れ出した唾液が喉元を伝って鎖骨に溜まってはまた、零れ落ちる。それと同時に二郎の喉奥に左馬刻の熱い精液が放たれた。
    ぬぼぉ……、と左馬刻のペニスが二郎の口から出されると、唾液と混ざって泡立った精液が口端から流れる。
    左馬刻は自分の手をタオルで拭ったあと、うっとりと恍惚の表情を浮かべる二郎の顔を別の清潔なタオルで拭ってやり、精液と潮でびしょ濡れになった腹を拭き取る。


    「じーろう、じろ、大丈夫か?」
    二郎の頬に何度もキスを贈りながら労ってやると、ぼんやりとした顔の二郎が自分の腹を撫でた。
    「……この奥、足んねぇから」
    ねえ、と左馬刻の腕をそっと掴んだ二郎が見上げる。
    「体力だけはありやがるな」
    呟いた左馬刻が二郎の身体を横たえ、ペニスにローションを塗りつけた。
    「今度ソファ買いに行くか」
    ぬちぬちとペニスが二郎の排泄部である肛門に飲み込まれていく。
    「……んぅっ、く、……そふぁ?」
    ぐぽっ、ぐじゅっ、と音をさせて先の部分だけを浅く抽送させる。
    「ああ。二人で使うなら思ったより小さかったからな」
    ぐぽん、ぢゅぶ、ぬぶ、と段々深くなっていく。
    「あぅ、ん、……でも、おっ……、きい、じゃん、んんっ」
    ぬちゅ、と角度を変えて腹側を抉りながら奥深くまで挿し込む。
    「これはこれで、良い、けどよ、……もうちっと、大きめで……、カバーの掛け替えられる、……のが、良い」
    熱り立った先でしこりを探りながら何度も往復する。
    「ああぁっ、あっあっ、……な、んか、さっき、と、ちがぁっ、あぁ!」
    ぐちゃっ、ぢゅぷっ、ぢゅぼっ、とローションが泡立つ音がして、その速度が上がっていく。
    「ほら、もう、ぐっちゃぐちゃ、だし、な、じろうっ、お前の、ザーメンでよ、どろっどろだし、……どのみち、買い替え、だ」
    片手は二郎の太腿を抱え、もう片方の手は二郎の乳首をきゅっと抓る。
    「ああぁっ……! あっ、それぇっ、きも、きもっ、ちいぃ、ああぁっ」
    左馬刻が二郎の手を掴んで、その可愛らしいペニスを包むように持たせてやると、恥ずかしがらずにちゅこちゅこと上下に擦り始めた。
    「あーっ、あっあっ、ぜ、ぜんぶ、きもちぃ、さまときさん、さまときさん、……すき、すきっ」
    もう互いを阻んでいたものが取っ払われた二人は、欲に素直に、己の感情に逆らうことなく愛し合う。
    「ああ、二郎、俺も、お前が可愛くて仕方ねぇ、可愛くて、ドエロくて、素直で、こんなに綺麗で、……さいっこうに、ぶっ飛んでやがる」
    「腹、ん中……、もっと、して、ちくび、も、ちんこも、気持ち良い、痛いのも、気持ちいぃ、好きって、かわいいって、うれし……、からぁ、あぁ、あっ、んあっ」
    「二郎、好きだ」
    ごちゅん、と左馬刻のペニスが二郎の前立腺を抉る。
    「ああぁっ!」
    「かわいい、可愛い、二郎、こんなに可愛かったんだな、お前」
    二郎を愛する気持ちに変わりは無い。愛していなければこんなに面倒な相手を恋人に選ぶはずが無いからだ。
    でも、やはり確実に左馬刻の二郎への見方が変わっていた。
    ひと言で、いやふたことで言うならば『以前の自分を殴りたい』『勿体ないことをした』だ。
    まあ何を言っても今更なのだが。
    「なぁ二郎」
    二郎の片足をソファの背もたれに掛け、もう片方の足首を肩にかける。
    「自己満クソチン野郎で悪かったな」
    二郎の腰を持ち上げ、上から串刺しにするように穿つと二郎のペニスからびゅくびゅくと精液が放たれた。
    「……は、あああぁぁっっ、あーっ」
    「はは、お前まじで……、っとによぉ……、あーあー顔びっちゃびちゃじゃねぇかよ」
    自分の精液でびしょ濡れになった二郎が左馬刻を見上げた。
    「……んぁ、あ、さま、……きさ、も、きも、ちぃ?」
    「ああ、搾り取られそうだ。でもよ、もうちっと頑張ってくれや」
    肩に担いでいた方の足を二郎の胸に押しつけ、結合部が丸見えになる。
    「……あぁ、こうして見るとまじで喰われちまってんな」
    ペニスを咥え込んだ肛門がてらてらと光り、時々きゅうと縮んだり、くぱっと開いたりするのが捕食している様に見えた。
    「ふふ、……喰いちぎってやるよ」
    達したばかりではぁはぁと息もおさまらない二郎が、赤い顔で淫らに笑う。
    「おっまえは本当、クッソ可愛いしクッソエロいな……、まじで勿体ねえことした」
    「これから、いっぱい、しよ?」
    「…………はぁ〜〜、まじで覚悟しとけよ、お前」
    精液を吐き出して萎えた二郎のペニスをぎゅうっと握る。
    「今度ここに似合うの買ってやるよ」
    親指の先で鈴口をぐりっと抉って解放した。
    「お前の中にぶち撒けさせてくれ」
    そう言って両手で二郎の乳首をきゅっと抓り、抽送を開始する。
    「んあああぁっ! だめっ、だめ、そこっ、やあっ!」
    親指と人さし指でくりくりと乳首を捏ねながら、ペニスの先で前立腺ばかりを狙って穿つ。
    「やあっ、あーっ! また、また勃っちゃうから、あっあっ、ちんこ、また、……んあっ、あっ」
    「またイけば良いだろ、ほら、だめじゃねえだろ、気持ち良いから勃つんだろうがよ」
    余裕ぶった口ぶりだが、左馬刻もいい加減我慢の限界を迎えていた。
    がらっとイメージの変わった二郎の淫らな肢体に加え、前立腺を穿つときに責める亀頭は左馬刻の(男なら誰にも該当するのだが)弱点である。
    「あぁ、じろ、俺もちんぽ溶けそうだ、……やべぇ」
    「あっあっ、うれし、さまときさん、きもちいいの、うれしい、オレ、オレ、も、きもちいぃ、ね……」
    左馬刻は二郎の言葉を聞いて、たまらず覆い被さった。
    唇を喰うようにかぶり付き、舌を絡ませる。にゅぐにゅぐと別の生き物のように絡み合う舌が、互いの口内を行き来して唾液を交換し合う。
    「……んむぅ、ん、ふぅ、んぅ」
    息継ぎの下手な二郎が喘ぎ声と共に息を吸い、その合間にはちゅくちゅく、ちゅぷ、じゅるる、にゅく、と粘度を持った音が聴こえる。
    「んぅっ、んっ、んっ、んうぅっ」
    二郎の息継ぎの音がリズム良く聴こえるようになると、パンパンと肌のぶつかる音もそれに倣う。
    ぐちゅぐちゅと舌の絡まる唾液の音、肌のぶつかる乾いた音、ペニスが肛門を行き来する粘着質な音が合わさる。
    「んぁ、は……、んぅ、じろ、じろ」
    「さま、あっ、……とき、さ、んぅ」
    名前を呼び合い、唾液を交換し、快楽を分け合う。
    「も……、出す、ぞ、二郎っ」
    「はぁ、んっ、だ、出して、なかに、ぜんぶ……!」
    二郎の腰を抱え上げて打ち付け、目の前にゆらゆら揺れるふくらはぎに噛み付いた。
    「あぁっ、ああぁぁっ!」
    二郎が叫び声にも聴こえる嬌声と共に、ぷしゃっと潮を吹く。左馬刻もそれを見届けて二郎の腹の奥に精液を吐き出した。
    「……あー、あ、ぁ、びくびく、してる……、さまときさん、の」
    「すげ、止まんね……、やべぇ」
    「いっぱい、出てるの? まだびくびくしてるよ」
    「あー、すげぇ気持ちぃ、今」
    「ん……、オレも、すげぇ幸せ」
    「俺の方が幸せだ」
    「オレの方が幸せだもんね」
    目が合って笑い合い、額をぶつける。
    鼻先を軽く擦り合ってキスをして、また笑い合う。
    あんなに淫らに歪んだ欲をぶつけて求め合った二人なのに、今はお互いうぶな子どものように笑っていた。





    「それにしても何で言おうと思ったんだ?」
    シャワーを浴びた後、ベッドに座る二郎に水のボトルを渡しながら左馬刻が訊いた。
    「お前なら言わなさそうなのによ。いや言ってくれて助かったけどな」
    左馬刻が素朴な疑問を口にすると、二郎は顔を真っ赤にして首をすくめた。
    「……あのさ、笑わねぇ?」
    「内容によるな」
    「ま、そうだよな」
    あのさ、と二郎が事の始まりを話して聞かせた。女子生徒のそういう明け透けな話を聞いたこと、友だちの話を真に受けたこと、そしてーーーー。
    「それにさ……、き、きねんび、だったから……」
    恥ずかしい、と二郎は顔を隠してベッドをゴロゴロと転がる。
    「記念日?」
    「……ううぅ、覚えてねぇな?」
    毛布の間から目だけを覗かせた二郎がキッと睨んだ。
    「クリスマスイブだろ? ならアレか、初めてキスした……」
    左馬刻がそう言うと、二郎はまたゴロゴロと転がる。
    「もおおぉ〜〜、覚えてんじゃん!」
    「いやだってよ、年末のクソ忙しい時にわざわざあんな三十分やそこらの為に車飛ばしたら覚えてるわ」
    「うぅわぁぁ〜〜、もう! すき!」
    オレの彼氏かっこいい! と叫ぶ二郎から毛布を剥ぎ取って左馬刻がその身体を抱き寄せる。
    「そんで? 他にもあんだろ」
    耳に直接入る声に逆らえなくなってしまう。
    「…………ガキくせぇって笑うなよ」
    「内容による」
    さっきと同じ答えに二郎はしばらく黙り込み、口を開いた。
    「ま、んなか、バースデーって……、知ってる?」
    二郎の言葉に今度は左馬刻が黙り込んだ。
    「……左馬刻さん?」
    二郎が左馬刻の顔を覗き込むと、その耳は仄かに赤く染まっていた。
    「え、ちょ、どうしたの?」
    「…………いや、んでどうしたよ」
    二郎は左馬刻が自分のことを笑いもせず、先を促してくれたことに嬉しくなって話を進めた。
    「あのさ、真ん中バースデーであってさ、左馬刻さんとオレの真ん中バースデーがなんと今日なんだぜ! 凄くね? イブでさぁ、しかも記念日!!」
    「ほぉん」
    「だからさ、オレからも左馬刻さんになんかしたくて……、女子の話きいてさ、本当にそうだなって。え、え、っち、はさ、ふたり、で、……する、ものじゃん? だから……」
    「初チュウ記念日の真ん中バースデーだから勇気出したって訳か」
    「左馬刻さんがちゅうだって! ……ん、でも、そう」
    はぁ、とため息をついた左馬刻が二郎に向かい合ってその肩に頭をぼふんと乗せた。
    「……俺とお前のは六月だ」
    「左馬刻さんとオレの、って……、真ん中バースデー?」
    二郎の肩先で左馬刻の頭が揺れる。
    「お前が二月で俺が十一月だろ」
    「そう、だからその間だろ?」
    「遡る向きが逆だ」
    「えっ! そうなの? てか左馬刻さん詳しい……、てかなんで知って、」
    驚いた二郎が左馬刻の顔を見ようとすると、固定されるように力を入れられる。
    「いてぇっ! なに急に、いてててて、さこつ、鎖骨折れる……!」
    首を傾けた先に見える左馬刻の耳はさっきより真っ赤になっている。
    「なに左馬刻さん、耳真っ赤、」
    「ねむの、」
    「へ?」
    「……昔、合歓が読んでた漫画にあった、その、真ん中……、バースデー」
    ぼそぼそと呟くようにして言った左馬刻の首が二郎の肩に沈む。
    「あれ? 知ってたんだ、じゃあオレが間違ってたのも知って……、え、じゃあ、あの、初めてえっちした日って……、もしかして、」
    肩にかかる重さがますます重くなっていくだけでなく、腰に回された両腕がみしみしと絞まる。
    「さまっ、……いてぇ、てか、くるし、……こんのっ、馬鹿力っ!」
    腕の中で暴れてようやく緩くなった隙間から逃げ出した二郎が左馬刻を見ると、その顔は瞳と同じくらい真っ赤に染まっていた。
    「……あの、左馬刻さんさ、もしかして真ん中バースデー知ってて、……そんで、オレとの初めての時にその日を選んだってこと?」
    何も言わない左馬刻の髪に二郎がキスをする。熱くなった耳に、頬に、汗まで浮かんできた額に。
    「ねぇ、左馬刻さん。オレこんな可愛い左馬刻さんが見れて嬉しいな、まじで。ちゃんと考えてくれてたんだな。嬉しい、し、照れてる左馬刻さんすげぇ可愛い」
    はああああぁぁ〜〜、と盛大なため息を吐いて左馬刻が諦めたように顔を上げた。
    「……お前のが可愛いっつーの」
    二郎はにんまりと笑って、その薄い唇にキスをする。
    「でも今の左馬刻さん可愛いよ。抱きたいくらい」
    「うるせぇ。ちんこは挿れさせねぇぞ」
    「ははっ、想像つかねぇな! でもさ、碧棺左馬刻の急所を喰えるのはオレだから」
    「確かに」
    ふぅ、と身体の力を抜いた二人はまた向かい合い、抱きしめ合った。
    「セックスってすげぇなぁ……」
    「なに、左馬刻さん今までちんこ乾く暇も無かったんじゃねぇの」
    「あんなんオナニーと一緒だ。……そんなクソみてぇなのとは違ってよ、まじで惚れたヤツとするのは……、うん、なんかちげぇし、凄え。ヤクやってるヤツも愛のあるセックスすりゃ良いんだ」
    「あは、語彙力! それにヤクと一緒にすんなし! でも、……うん、でも、なんか、わかる」
    「童貞なのにか」
    「うん。童貞非処女だから、オレ」
    「その言い方やめろ。なんかすげぇ犯罪臭がする」
    「半分犯罪みてぇなモンだろ。ガキに手ェ出してんだからさ」
    「確かに」
    「確かにじゃねぇよ! でもさ、オレ言って良かったな。じゃなきゃこんな話、今出来てねぇもん」
    「おー……、そうだな。んじゃガキにはこれが似合いだな」
    左馬刻が二郎の手元にポイッと小瓶を投げた。
    「なにこれ? 飴? キラキラして綺麗だし、なにより美味そう! 左馬刻さんサンキュー! 確かにオレら二人初心者みてぇなモンだしさ、ステップアップしていこうぜ」
    「おー、言ってろ。俺のテクで目眩く快楽を与えてやっからよ」
    「……うぅわ、すげぇ今のオッサンみてぇで嫌だ」
    「……お前まじで覚えてろよ」
    「怖え〜。てかさ、クリスマスっぽいことしようぜ。さっきプレゼントの飴は貰ったけど」
    「クリスマスディナーにイルミネーションにケーキか?」
    「うーん……、外出んのか。つーかさ、正直さみぃし腰痛え〜……」
    「……とりあえず今日は家で鍋食って寝て、明日起きたら一日中するか」
    「鍋最高!! でもするって? 何を?」
    「ステップアップ、だろ?」
    言葉の足りなかった二人、気付いた途端互いを所有したがる二人の身体は、どこまでも甘く溺れて溶け合えば良いと願いながら、またベッドに沈んでいった。
    未来への願いを込められた銀の輪が小瓶の中でその時をじっと待っている。それを二郎が見つけるのは、まだ先のこと。


     ジャンキーキャンディーナイト 終
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    chirohipu

    DONE『えっちの下手くそな左馬刻様書きてえ』から始まりました

    スパダリではない、自分勝手でクソ自己中野郎だけど自分なりにじろちゃんのことを愛している不器用左馬刻様と、初めての経験でなにも分からず憧ればかりが先行するじろちゃんがステップアップするおはなし


    こちらはツイッターの企画『さまじろ逆真ん中バースデー』用に書いたもので支部にもアップしてます
    ジャンキーキャンディーナイト乱れたシーツ、互いが吐き出したものと汗の匂い、高くなった体温と冷めていく興奮。汗がひいて肌寒くなった二郎はブルッと身体を震わせて、毛布を手繰り寄せた。
    さっきまで暖かかった体温がなくなり、身体に巻きつけた毛布の中で二郎はそっと足の間のおさまらない熱をひと撫でする。
    「いたっ……」
    むずむずと駆け上がる熱を治めたいのに、そこを触るとひりひり痛む。得体の知れない感覚が腹の中で一頻り蠢いた後、小さくなっていった。


    山田二郎には恋人がいる。
    人生で初めて出来た、家族以外に大事だと思える人が。
    知る人ぞ知る、ヨコハマディビジョンの碧棺左馬刻。
    人よりも遅い初恋を迎えたのが高校生になってから。それも相手が男だったり兄の因縁の相手だったりと、二人が付き合うまでに一悶着もふた悶着もあってなんとか乗り越えて来たが、それはまた別の話。
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