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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    転生現パロアンぐだ♀、喫茶店マスターの童話作家×常連のぐだち


    転生したが片方しか前の記憶を有しておらず相手の記憶が戻るのかも分からずそれでも……という性癖の話

    2020.2〜

    ##FGO
    ##アンぐだ♀
    ##現パロ
    ##成長童話作家
    ##転生

    最後の恋を、もう一度 蔦の絡んだお洒落なレンガの壁。まるで向こう側には眠り姫がいるみたいに、植物で囲われたその壁の向こうにはわたしの大好きな空間がある。ドアを開けると控えめなベルの音が鳴る。こんな小さな音で聞き取れるのは、店主が地獄耳だからだろうか。
    「いらっしゃいませ」
     この店の店員はカウンター奥の隅っこでコーヒーを淹れている男性一人だけ。ここに通って随分経つけれど他の店員も、さらにはお客さんも見たことがない。友達に話すと狐にでも化かされてるんじゃないか、なんて言われる。そんなことないと証明するために友達と来てみると、何故だかいつも臨時休業の看板。……そんなことあるわけないでしょ、とは強く言えなくなってしまう。
     まずはじめに店主の見目について。青い髪と青い瞳。透き通るような白い肌。背が高い。外国人かハーフだろう。まるで御伽噺に出てくるような、人形めいたその姿。流暢な日本語と、メニューのボードに書かれた几帳面で綺麗な文字。言葉数は少なく、しかし耳に残る低音。
     いらっしゃいませ。かしこまりました。お待たせいたしました。ありがとうございました。――この四つの言葉以外聞いたことがない。
     私は平日の昼は毎日、しかも三ヶ月も店に通っていて。しかも他のお客さんがいない時間に来ているのだから、いくらなんでも顔を覚えてもらえてるのではないかと思っているけれど。
    (お客さんがこんなにいなくてよくお店が潰れないなぁ。……明らかに定年後の道楽って歳じゃないし)
     それとも別の時間帯はお客さんでいっぱいなのだろうか? こんなに綺麗な青年がやっている喫茶店だ。噂になっててもおかしくない。ここはオフィス街の片隅で、しかも大学や高校だって近いのだから。値段だって、これで続けられるの?って位安い。丁寧に作られたピザトーストやフレンチトーストはとても美味しい。几帳面そうな彼らしい味をしていると、何故だか思うのだ……どんな人なのかもたいして知らないくせに。
     席についてコートを脱いで一息ついている間に、水の入ったコップが運ばれてくる。注文はいつも通り、本日のおすすめセットをひとつ。それでも今日は、決意を固めてここにきたのだ。水を運んだ彼がそのままオーダー表を持って立ち止まる。私がいつもすぐに注文をするのを知っているから。
    (本日のおすすめセットをひとつ、ください)――いつもならそう言って、彼は一言、(かしこまりました)と言うのだ。
    「い、いつもの、お願いします……!」
     ついに言ってしまった。あまりにそっけない店主の態度に、このセリフはまだ早いんじゃないかなんて毎回思って数日。でもそろそろわたしだって、「常連」だと言えるくらいだと思うのだ。
    「…………」
     かしこまりましたが聞こえない。え、もしかして顔を覚えられてない? いつものって何だよコイツ、みたいな? やっぱり言わなきゃ良かった……! 恐る恐る青年の顔を確認する。きょとんとした顔は普段よりも幼く見える。たった一瞬、何故だかわたしよりも幼い少年の姿を思わせるような。そんなわけ、ないのに。
    「……かしこまりました」
    「!」
     強気で得意げな顔。ほとんど人形みたいな普段の表情が嘘のように思える。こんな顔するんだ、けどこちらの方がしっくりくる。まるで見慣れているみたいに。さっさとカウンターに戻って給仕の用意をし始める彼はいつもと何ら変わりのない様子。紅茶を用意しながら、具材の乗ったパンがトーストする。生野菜のサラダが綺麗にボウルに盛られる。一連の流れるような動き。通い始めてから何度も見たはずなのに、彼が料理をしている姿はなぜか毎回珍しいものを見たような、初めて見たような気持ちになるのだ。新しい一面を知ったような、そんな気持ち。
    「お待たせいたしました」
     ありがとうございます、そう言おうとして運ばれたプレートを二度見する。本日のおすすめセットの紅茶はダージリン。ストレートだ。なのに運ばれた紅茶には薄切りのレモンが添えられている。……レモンティーはこの店のイチオシなのか、ちょっとだけ値段が高いのだ。たかがレモンだなんてとんでもない、とても美味しいのだから。(あれは何か特別なレモンなのかもしれない)
    だからわたしは本当にたまに、ご褒美が欲しい日にレモンティーを頼む。
    「あの、今日のおすすめセットはストレートティーですよね……?」
    「あぁ、そうだな。何、こんなささやかな店の常連客に出す出がらしのオマケのようなものだ。お前がこの店に落とす金と比較すればそう大したものでもないだろう。料金をとるほどのものでもない」
    定型文以外を初めて聞いた。青年は思いの外おしゃべりらしい。それはもちろんそうに決まってる。……どうして? とにかくとてもお客とした扱われてるとは思えない態度が妙に似合って、その口調が何だか懐かしくて、嬉しかった。
    「あ、あの、ありがとうございます! マスター!」
    「……マスターはやめろ」
    「店長さん……?」
    「まぁいい。どうぞ、ごゆっくり」
     ごゆっくりだなんて、定型文のようで初めて聞くセリフ。それきり、いつもの興味のなさそうな人形のような雰囲気に戻ってしまう。さっきのおしゃべりだった姿なんて夢だったみたいで、やっぱりわたしは狐に化かされてるのかもしれない。トーストを齧りながら、まさかこれも葉っぱで変化したやつだったりして? この美味しいトーストはやっぱり偽物だなんて思えなくて……おしゃべりで表情の豊かな彼が幻だなんて思いたくなくて。――不思議なマスターと常連客の私の交流は、ある日こうしてスタートしたのだった。


    握りしめたチケットの行き先 2021.2

    「いらっしゃいませ。……あぁ、またお前か」
    「ちょっとマスター! 一応客なんだからもうちょっと歓迎してくれてもいいでしょ」
    「お前こそ、その『マスター』というのをやめろと何度も言っているだろう。話を聞かないやつだ」
     喫茶店のマスターと仲良くなってから数ヶ月が過ぎた。わたしは相変わらず平日の昼にここに訪れている。敬語はいらない、という彼の言葉に甘えているけれど、彼のことは「この喫茶店のマスターである」ということくらいしか知らない。――でも、彼が店で猫を被って過ごしていることは知っているのだ。
     雑談の最中に店のドアが開いて客が入ってくる。通い始めた頃にはマスターと二人きりの日しかなかったのに、ここ数ヶ月はこうして客が入ってくることが多い。繁盛してるのは良いことだけど……少し寂しい。
    「いらっしゃいませ」
     いつもの営業用の無表情でそう言うと、彼はカウンターに戻ってしまう。入ってきたばかりのお客さんは女性三人組。チラチラとマスターを見ている。そりゃあ、彼の見た目なら女性には苦労しないんだろう。けれどこんな風に女の人に好意を寄せられているのを見ると、失礼ながら違和感がある。……あの口の悪い彼を知っているのが私だけだと思うとほんの少しだけ、勝手に優越感に浸ってしまうのだ。
    「店員さん、お名前聞いてもいいですか?」
     女性客は注文するのかと思いきや、そんな風に言ってきゃあきゃあと騒ぎ始めた。それを聞いて私はまた、こう思う。
    (これで何度目だろう)
     当然、この後の展開だってお見通しだ。
    「失礼。僕の仕事には関係のないことですからお答え致しかねます。それで、ご注文は?」
    (これだもんなぁ……)
     色めき立っていた女性客の熱が一気に冷めていく。あぁ、今日のお客さん達は結構美人だったのになんて思いながら、彼女達を冷たくあしらったマスターに安心する。――けれど私だって彼の名前を知らない。常連客というだけで、彼女達とは大した差もないのだ。その女性客達は耐えられなくなったのか、注文もせずに店を後にした。確かにあんなやりとりの後では気まずすぎてここにいられないだろう。
    「最近は冷やかしばかりで困る」
     また二人きりになった店内で、彼はやれやれとカウンターに腰掛けた。
    「わたし、マスターに彼女がいないのそういうとこだと思うんだけど」
    「何だ、いきなり説教か。失礼なやつだ、誰でも良いわけじゃない。俺は女の好みにはうるさいぞ?」
     きっと彼は理想が高い。すらっとした金髪の美女とかが好みなんだろうなぁ、と勝手に予想している。だからその辺の女の子のアプローチは全部粉砕するんだ。
    「でも、名前くらい教えてあげても……」
    「興味もない人間に個人情報を晒してどうする。お前すら俺の名前を聞かないだろう」
    「え、だって、」
     何故だかとっさに「名前は知ってるし」と言おうとした口を閉じる。何でそんなことを考えたんだろう? 名前は知らないんだって。
    「……マスターは、マスターだし」
     言い淀んだ途端に彼が怪訝そうな目でこちらを見るから、たまらず言い訳をする。
    「――竹中だ」
    「えっ」
     さっき個人情報がどうの、と言ったばかりなのに。
    「竹中、アンデルセン」
    「あんでるせん……」
     その名前に妙な聞き覚えがある、気がした。
    「いい加減『マスター』はやめろ。その呼び方は、些か俺には重すぎる。名前を教えてやったんだ、そちらの方で好きに呼べ」
     そんなにマスターという呼び名が気に入らないんだろうか。
    「それから、俺ばかりが個人情報を開示するのもいただけない。等価交換が必要だとは思わないか?」
    「!」
     つまり、それって、わたしの名前が知りたいってこと……? そんなの、今までマスターに声をかけた何組もの女性客よりもずっと、ずっと特別みたいだ!
    「ふ、藤丸立香です!」
    「まぁ、知っていたが。自己紹介を受けるとまた感じが違うな」
    「何で⁉︎ 教えてないでしょ!」
    「お前……そんな物をぶら下げているくせにプライバシーを守れると思うのか?」
     彼は私の胸元を指さす。……首にかけたままの社員証とカードキー。
    「ともかくこれから休み時間はそれを外すことを勧めるぞ、藤丸立香」
     ふん、と鼻で笑いながら彼はそう言った。その憎たらしい表情といったら……! さっきのお客さんには紳士ぶっちゃってカケラも見せなかったくせに! でも何だか、短い付き合いなのに不思議とそれは彼らしかった。そちらの方が何だか長い間見ていた顔の気がするのだ。
    「あのね、マスター」
    「お前、耳に粘土でも詰まっているのか? 名前で呼べ」
    「……アンデルセン、」
    「!」
     彼は好きに呼べといったけれど、名前を呼ばれたことに驚いている様子だった。なぜだか名字より名前の方が馴染みがあるような気がして、呼ばずにはいられなかったのだ。
    「お店、日曜日はお休みでしょ? それでね、もし、時間があったら、なんだけど……」 
     握りしめた映画のチケットがくしゃくしゃになっている。最初はただの常連客がこんな風に誘うのはどうかと思ったのだ。だけど、毎日のように女性客に声をかけられるマスターを見ていると、いつか彼の好みの人が現れてしまうんじゃないかと……そんなことばかり考えてしまって。常連客じゃなくて、お友達に。……ひとまずは、私が目指したのはそんな関係だった。


    了承は好意ゆえ 2021.8

     彼はぐちゃくちゃになった映画のチケットに苦笑した後、なんてことない顔をしてあっさり了承してくれた。喫茶店のマスターと、映画を見に行く。常連客の自分が彼を誘うのは、好意を打ち明けたもの同然だ。でも彼は店で毎日女性客のアピールを受けているのだから、わたしだって負けていられない。そう、これはデートじゃなくて。まずは常連客よりお友達になれるように頑張らないと……!
     待ち合わせ場所には時間より少し早く着けそうだ。直前に何度も服や髪型、メイクを確認したのに気になってしまう。店に行く時はスーツだから、私服で彼に会うのは今日が初めて。そういえばマスターも喫茶店の制服以外を着てくるんだ。どんな服を着るんだろう? あんなに脚が長いんだから、きっと何を着ても様になる。ホントに、惚れたからの贔屓ではなくて。
    (え、もう来てる……?)
     遠目に見ても彼の姿は目立つ。すらりと長い脚を持て余すようにして壁に寄りかかっている。着ているのはシンプルなシャツなのに、何かのブランドじゃないかと疑うほとだ。立ってるだけですごく絵になる。洗練されて見えるのだ。それはもう、周りの女の人がちらちらと彼を見ているのも納得で。今さら、再認識する。――やっぱり、彼はものすごくモテるのではないか、と。……わたしが隣を歩いて大丈夫だろうか? 声をかけるのをためらっていると、とうとう彼が女の人に話しかけられるのが目に入ってしまった。
    (いや、こんなのお店で何度も見たし……!)
     店内での彼は話しかけてきた女の人にも冷たくあたる。今日だってきっとそうだろう。こっそりと様子を見ながら、声をかけるタイミングを見計らう。女の人は道を教えてほしい、と彼に話しかけている。……この人、道を聞きたいんじゃなくて彼に興味がある人だ。喫茶店で見慣れているからわかる。
    (な、なんて答えるのかな……)
     道を聞くくらいなら答えるだろうか。彼は流暢に返事をした。わたしのよく知らない言語で。
    (今の、何語?)
     英語だったら少しは聞いたことがある。こんなにも分からないのはもっと別の言語だからだ。その返事を聞いて、女の人は諦めて離れていった。それを見て思う。……あぁ店の外ではこういう躱し方をするんだ。喫茶店ではそうはいかないのだろうけれど、彼の顔立ちならたしかに言葉が通じないフリで通せそうだ。女の人が彼から離れるのを見送っていると、不意打ちのように彼と目が合った。
    「あ……」
    「まったく、到着したなら早く声をかけないか」
    「ごめんね、その……声をかけにくくて」
    「誘ったのはお前の方だろう、藤丸立香」
     やれやれとため息をついて、今度は流暢な日本語で喋り出す。
    「マスター、いつもさっきみたいに女の子のこと躱してるの?」
    「どうやら始終見守られていたらしいな。余計なお世話だ、放っておけ」
     その反応、ホントに慣れてるみたいだ。
    「あの! 声をかけてきた女の子の中でいいなって思ったりとか、それで仲良くなったりとかした事ないの?」
    「……今日ここに来ているだろうが」
    「えっ」
    「そんなことはいい、映画の時間には間に合うのか?」
    「あっ」
     気がつけば上映まで後少し。
    「ほら、さっさと行くぞ。チケットを無駄にしたくないだろう?」
    「ちょっと待って、マスター!」
    「何度も言ったはずだ、マスターはやめろ! 大体ここは喫茶店じゃないんだ」
    「……アンデルセン」
     さっきの、どういう意味? 急かされるまま、映画が終わるまで回答はおあずけ。上映はもうすぐ。まずは頭を切り替えて、映画を楽しもう。……そう思おうとしても、わたしは映画より隣に座る彼のことで頭がいっぱいだった。
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