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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    カルデアアンぐだ♀、ホワイトデー

    バディリングと付き合ってないふたり
    2022.3

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##カルデア時空

    お返しは三倍で「何だマスターか。少し付き合え、丁度休憩するところだ」
     いつものようにコーヒーを持って彼の部屋へ行くと、休憩をとるところだったらしい。最近は特に忙しそうにしていたから、こうしてソファに向かい合って座るのも久しぶりに感じる。
    「今回は順調?」
    「……作家に進捗を尋ねるなど、随分と度胸があるのだな! 締切まではまだ時間がある、作家へ無駄に圧力をかけるのは控えてもらおうか」
     彼はマグカップにコーヒーを注ぎながら悪態をついた。原稿進捗は相変わらずらしい。締切まで時間があるのなら、今日はここでのんびりしていっても良いんだろうか? テーブルに彼が並べたお菓子の缶を眺めながら考える。
    「ところでこんなところで油を売っていてもいいのか? 今日は忙しいだろう」
    「今日はもうレイシフトも終わったしレポートも出したよ」
    「仕事の話じゃない。他に予定はないのか?」
    「何にも予定はないけど……」
    「まさか、今日が何の日か忘れているのか?」
     今日の日付を思い返す。
     三月十四日――ホワイトデーだ。思い当たるのはそれしかない。けれどカルデアのみんなはバレンタインデーの贈り物に対してのお返しをすぐにくれるものだから、今年もホワイトデーの催しを大々的にはやっていない。ホワイトデー当日と言っても特に予定はなかった。
     もちろんアンデルセンからもすでにお返しをもらっている。

     二年目のバレンタインデー。
     わたしはまた今年も日頃のお礼として彼にチョコレートを手渡した。
     彼は去年と違って手慣れたように箱を受け取り、代わりに持っていけとお菓子の入った箱をくれた。
     今日はホワイトデー以外に何かあっただろうか?
    「今日って何かあった……?」
    「まったく、お前の国では三倍返しが主流じゃないのか? 受け取る側が忘れていては話にならん」
    「えっ、やっぱりホワイトデーなの⁉︎」
    「……覚えているじゃないか」
    「だって、カルデアではみんなホワイトデーになる前にお返しをくれるし。その、アンデルセンもお返しくれたよね?」
    「ああ、割に合わないチョコレートの分なら渡したが……これの分がまだだ」
    「!」
     彼が指先で摘み上げているもの。天井からの灯りを反射して眩しく光る金属の輪。――バレンタインデー当日とはわざと日をずらして贈った礼装だった。

    「それは、バレンタインデーの贈り物じゃないよ。ただの礼装で、」
    「だろうな、わざわざ日をずらしたくらいだ。それでもこれを『ただの』礼装と片付けるなど、締切を多数抱えた作家でもそうはやらない」
     それはただの礼装で、偶然アクセサリーの形をしているだけ。好意を表すアイテムではなく戦闘用の補助道具。それでも、渡したのは彼一人だけだった。
    「でも、」
    「『渡した時は何も言わなかったのに』、か?」
     彼が指先で指輪を撫でながら口角を上げて見せる。
    「その、戦闘にも有利な効果があるのは確かだから……深い意味とかは考えなくても」
    「こうも自分の指に合わせた指輪を持ってこられては、流石の俺も戦闘装備で済ませるわけにはいかない」 
    (完全に見透かされてる……!)
     たやすく彼の左手の薬指に指輪が収まるのを見て、いよいよ事態は収拾がつかないところまできてしまう。

     その指輪で何か、わたし達の関係が変わると思ったわけではない。自分の贈ったものが礼装であったとしても、ただ身につけてもらえたらと思って。それでも気づかれてしまった以上、下手な言い訳は彼には通用しない。

    「さて、もう言い訳はネタ切れか?」
    「う……」
     なんだかんだで長い付き合いだ。今更ただの冗談だとごまかすには遅すぎた。
    「何にせよ貰いっぱなしで借りを作りたくない。お前にはこれをやる」
    彼の指がコインを弾くように何かを弾く。それは高く天井を目指すように弾かれ、わたしの手の中に飛び込むように収まった。
    「え、ちょっとアンデルセン、これ……!」
     今彼の薬指にあるのと同じデザインの指輪だった。

    「お前が寄越したものとは違って戦闘には露程も役立たんただの装飾品だ」
     しかも、これは礼装じゃない。
    「……後の予定が詰まってるだの、他の誘いがあるだの言えば『ただの礼装』だったことにしてやったのに、まったく」
    「去年もホワイトデーなんてやらなかったでしょ!」
    「さぁ、どうだったか」
     手の中の指輪を握りしめる。
     見透かされているのに、お返しが来るなんて思ってない。
    「この指輪は、その……」
    「なんだ、お前もあれか、やれ三ヶ月分だのと拘る派閥か? このカルデアにおいて俺の原稿料を三ヶ月分掻き集めたところでろくなQPにはならんと思うが」
    「それって……!」
     指輪と、三ヶ月分の言葉に思わず顔が熱くなる。彼がタチの悪い笑顔でわたしの手の中の指輪を取り上げて、そのままわたしの指へ嵌める。
      
    「――三倍どころか負債にならなければいいが、さて」

     左手の薬指、サイズはピッタリ。
     目眩がするほどの出来事にまだついていけないまま。
     
     わたしはただ、嵌められた指輪が光るのを眺めていた。
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