Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 162

    カルデアアンぐだ♀

    2020.10

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##カルデア時空

    羽根のような彼女 子どもの姿で召喚されたことは、作家である自分にはそうダメージのない話だ。膂力も体格も、必要ない。俺が物書きの端くれに分類される以上、武器とするものは肉体ではないからだ。
     ーー惜しむらくは、戦闘に関することではなく。

     戦闘における『撤退』。手に負えない敵との遭遇において、ただの人であるマスターをすぐに戦地から離す必要がある。一番近くにいたのは俺だったのにも関わらず、マスターを掠め取って運んだのは……他の男だった。

     普段から、マスターを急いで運ぶとなれば、それはマシュの役目だった。他の男性に先輩を運ばせるわけにはいきません! と、マシュが実際に言ったかはさておき、事実その役目が他のサーヴァントに譲られたことはなかった。

     いつもマスターを運ぶマシュが別行動だったから。一番近くにいる俺では彼女を運べないだろうことも分かっていたから。だからその行動はサーヴァントとして正統派の答えだろう。
     筋力Eーーあとひとつ数値が高ければ、彼女を運んだのは俺だったかもしれない。召喚されたのがこんな姿でなければ、不格好にでも彼女を担ぐことができただろうか。

    「アンデルセン、またぼんやりしてる。ひょっとしてスランプ?」
    「このくらいでスランプだと? お前は本当の修羅場を知らないからそう言うんだ。物書きがいつでもペンを走らせてるわけがないだろうが!」

     誰が彼女を運ぼうと大した問題ではない。彼女を戦地から遠ざけるという目標が達成できればいい。……分かっているんだ、そんなことは。

     カルデアは耳早い連中ばかりだ。普段と何か違う動きをすればたちまち何かの噂になる。トレーニングルームなどに俺が入れば、明日は雨かそれとも霰かとセイバーの連中達に言われそうだ。ではもっと手軽なことを、足がつかない方法で。
     例えば人を抱えて運ぶのに必要な腕の力。鍛えるのにダンベルなんてものは必要ない。適度な重さのものを代わりに使えばいい。トレーニング機材だと思われないようなものなら尚更いいだろう。ーーこの用途に水の入ったペットボトルなんかは最適だ。

    「アンデルセン、今日はコーヒー飲まないの? ミネラルウォーターなんて珍しいね」
    「まぁ、そうだな。たまにはカフェインを抜かなければ身体に毒だろう」
    「熱でもあるの? いつもはそんなの気にしないのに」
     マスターは無遠慮に俺の額や首筋やらを触って体温を確かめる。まったく、内状に詳しくなった女はこれだから。
    「たまにはいいだろう。気分だけでも健康的で」
    「いつも酒盛りしてるのに健康的とか言われても……じゃあしばらくコーヒーは飲まないの?」
     少し残念そうに彼女が言った。そこで自分の手抜かりに気がつく。毎日ではないが、彼女がコーヒーを淹れている時もあるのだ。
    「いつもより飲む量を減らすだけだ。結局のところカフェイン中毒からは逃れられない。……今日もそろそろ味気のない水にも飽きたところだ」

     俺の答えを聞くなり、分かりやすく顔を綻ばせる。
    「じゃあわたしが淹れてきてあげる!」
     マスターは嬉しそうに食堂の方へかけていった。
     あんなあからさまな態度をとられたら、飲まないと言うのも酷なことで。それに、あいつはコーヒーを淹れる腕ならそこそこあるのだ。

    「やれやれ、別のトレーニング方法を考えなくてはならなくなった。面倒だな」
     こんなことをしてサーヴァントの肉体に筋力が備わるのか、分からない。いやはっきり言おう、効果はない。気休め程度のそんなことより、物語を行使して彼女を運ぶ算段を身につけた方がいくらか解決が望めるはずだろう。

     今更自分の力で、なんて。ほんの気の迷いだ。
     彼女を軽々と運んだ男が、勝手に膝裏や背中に手をまわしたことがどうにも気に入らない。緊急事態だとしてもだ、もっとどうにか触れずに運べなかったのか?
     平気な顔をして男に姫抱きされていた彼女をもし、自分が運ぼうとしたのなら、少しは動揺するだろうか? ーーそうでなければお付き合いなんて、やっていられない。

     諦めてばかりだったくせして、死後の今になってこんなにも心を持て余して燻らせている。つきもしない筋力を求めよう、なんて狂気的なことを考えているくらいに正気じゃない。

    「作家には不要のものだ」
     分かっていてこんなに無駄なことをするのだから神でも救いようがない。それでも、何かの足しになるかもしれない。……我ながら能天気なことだ。あいつに少し、似たのだろうか。

     もしもこの仮初の身体に僅かばかりの筋力が備わったのなら、真っ先にあいつを抱えて振り回してやろう。慌てて首元に抱きつく彼女の姿が簡単に想像できる。あぁ、そんな様子はきっとさぞ見応えがあるんだろうな。

     夢物語に想いを馳せて、ペットボトルを空にする。この『もしも』に関してのハプニングが起きたのはこれからすぐの話だった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works