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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    現パロアンぐだ♀、竹中先生×社会人ぐだち

    2020.8

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##現パロ
    ##同棲
    ##成長童話作家
    ##転生

    四畳半一間の恋人達「もう、アンデルセンってわたしがいない時、ちゃんと栄養のあるもの食べてるの? 今はサーヴァントじゃないんだからね」
    「食べてなかったら今頃死んでるだろう、そう気にするな」
     生前の評価はさておき、まだ駆け出しの作家業では書き続ける他に選択肢がない。俺は常に暇人でありたいが、何をするのにもこの世は金が必要だ。

     貯蓄を成功させるには、目標を立てるのがいい。あれがほしい、これが食べたい、何でもいい。俺の場合はなんてことはない貴金属を一つ、買いたいだけだ。

    「一昨日作ってあげたミートソース、もう全部食べちゃったの? たくさん作ったつもりだったのに。アンデルセン、そんなに細いし、書き始めたら集中してずっと食事もとらないのに……どうしてこんなにすぐ食べ物がなくなるの?」
     早食いも大食いも体に良くないんだからね、とあいつが怒ってくる。そんな大食漢でもないのだが、俺に食べ物を届けるという理由でこいつはここにきているのだ。食べ物が減らなければ、この部屋に来なくなってしまうだろう。

    「今日は何が食べたい?」
    「この間食べたチキンカツレツがいい」
    「もう、ダメだよそうやって揚げ物ばっかり! 今日は焼き魚ね」
    「もうメニューが決まっているのならリクエストを求めるな!」
    「ふふ、カツレツは今度作ってあげる。ちゃんとお肉が安い時に材料買って作るから」
    「……ん」
     ここに来ては家政婦よろしく食事を作り、俺の顔を見てはちゃんと寝てるの? また痩せたんじゃない? 母親でも何でもない、敢えて言うならそうだ、俺達は恋人だと言うのにこの有様。
     こいつを腹一杯にして、不自由なく生活させる財力がない。正直な話、俺よりもこいつの方が安定した収入を得ている。それを分かっていて……どうして俺と一緒になってくれだなんて言えようか。

     いつか、こいつを養うだけの収入が得られるようになったのなら。いつもはアクセサリーの一つもつけないこいつの薬指に、飾れる指輪を贈れるだけの作家になれたのなら。結局そんなものにはいつまで経ってもなれないまま、それでも俺は彼女を手放すことはできない。


     真夏の真昼間、うだるような暑さと将来への焦燥感。……俺はそんなものを抱えながら、仕事が忙しくて最近はあまりここに来られなくなってしまったあいつのことを考えて気を引き締める。それが良くなかった。
     やる気の出力を間違えて、休息も食事も……水分すら摂らずこの真夏日に扇風機しかない部屋にカンヅメ。

     当然の結果、倒れた俺は運良く原稿の催促に来た担当に発見される。あと数時間遅ければ命はなかったかもしれない、そう説明を受けたのは数日後のことだった。

    「アンデルセン!」
    「な……お前どうしてここに」
    「担当さんが連絡くれたの。どうして、教えてくれなかったの?」
    「それは……」
     そんなこと、こいつに言えるわけがない。自己管理もできずに倒れたのだ。最近普及してきたエアコン一つままならないあの部屋で、俺はお前が来ないだけでまともな生活の一つもできなかった。ーーその事実を知られたくなかった。何より、自惚れかもしれないが俺が倒れたと知ったらこいつは絶対病院に見舞いに来る。実際に、来ている。これは仕事が忙しいこいつがわざわざくるほどの大事ではないのだ。
     それにしてもあの馬鹿鬼畜担当が。こいつには知らせないでくれと、あれほど頼み込んだというのに。

    「こんな大事なことも、わたしには教えてくれないの?」
     まずいな。経験上何となく感じとる……これは泣くに違いない。
    「アンデルセンのバカ! わたしのことなんだと思ってるの!?」
     ああほら、やっぱり泣いた。まだ回復していない体調に、彼女の姿はさらに打撃を与える。
    「もうわたしはマスターじゃないの、分かってる? 家政婦かなんかだと思ってるの? 違うでしょ? わたし、アンデルセンの恋人なのに……」
     泣きながら、しかしこちらを睨んでくる彼女はかつてないほどに怒っている。
    「そっちがその気なら、わたしにも考えがあります!」
    「っ!……待て、立香」
    「もう知らない! 今日はこのまま帰る!」
     
     ピシャリと病室のドアが閉じる。
     この流れは、まるで『実家に帰らせていただきます』、だ。実状は夫婦でもなんでもないのだが。この場合は、自分を信頼してくれない恋人など捨ててやると言ったところか。ーーそれは困る。俺はいつかきっと、こいつを幸せにできる男になるのだと、そんな浅はかな夢を見てまだ捨てられずにいる。しかし今、幸福にしたいと思う本人から、それを叶えられるだけの度量がないと、叩きつけられて捨てられるのだ。

     こんなことになるのなら、もっと安定した職に就くべきだった。それでも俺には、この道しかなかったのだ。自分の作品を好きだと言ってくれる彼女の隣に、自慢の作家として……夫として立ちたかった。

     携帯電話という最近新しく出回っている品物は俺には高価で、とても手が届かない。まったく、不便な時代に生まれ直したものだな。
     だから、仕事には必要とどうにか家につけた電話機だけが俺の通信手段だ。あんなボロアパートでも、彼女への連絡手段があるだけで、幾分マシな自分の城。結局、連絡も取れない上に見舞いにも来なくなってしまった彼女のことを思いながら、俺は数日間を過ごすことになるのだった。


     普段の不摂生を看護婦や医者に散々ぐちぐち言われながら、どうにか回復して退院をしたのが今日の午前。ここの入院費用だって、俺を見つけた担当が仮払いしている。あの金を返すまで、何にせよ俺は働かなくてはならない。
     もう彼女の隣で作家として生きることはできないかもしれない。ああ、それでも結局俺に残ったのはやはり、執筆という選択肢なのだ。

     玄関の鍵を開ける。こんな安っぽいアパートの鍵など近代の泥棒なら簡単に開けてしまうだろうな。だが、盗む物の乏しい我が家に泥棒など入るわけもない。
     まずは早速、電話機で彼女に連絡をとりたい。電話に出てもらえるかも、分からないが。このまま捨てられたのだと連絡も取らずに諦められるようなものなら、俺は生まれ直してなどいない。

     安っぽくて建て付けの悪いドアの蝶番を軋ませながら、玄関へ入る。その瞬間に、部屋の中の異常を知る。
    「なんだ、これは……?」
     唯一持っているよそ行きの靴がピカピカに磨いて整えられている。床がオンボロなのは変わらないとして、塵も埃も砂の一つもない。慌てて室内に駆け込む。

     アパートの中が涼しい。とても個室の風呂なし和室一部屋のくらしとは思えないほどの快適な空間。ここで倒れるまでにあったはずのぐちゃぐちゃの紙切れや脱ぎ散らかした服、干したままの洗濯物すら見えるところにはない。……そして、狭い部屋の中心で座布団を枕にして眠る恋人の姿。

    「立香……?」
     身体を悪くしたから、幻でも見ているんじゃないだろうか。大袈裟なことではなく、最悪、もう会うことは許されないかもしれないと思っていたのだ。幻ではないと確かめたくて、そっと頬に触れてみる。
    「ん…………アンデルセン? 帰ってきたの?」
     触れた頬の感覚に気がついて、彼女が目を覚ます。寝ぼけた目を擦って、こちらに抱きつき擦り寄る彼女の体温。どうやら、彼女は本当にこの家に来ているらしい。

    「おかえり」
    「!」
     いつか、この家で聞きたいと思っていた台詞だ。
    「……ただいま」
     ああそうだ、いつかはこうやって同じ部屋に二人で暮らして、帰りを迎えてほしい。まぁ、作家ともなれば俺はほぼ毎日家にいるのだろうが。

    「あ、わたし今日からここに住むから」
    「……は?」
    「でもここ、ホントにお風呂ついてないんだね。近場の銭湯までは五分だっけ? 私、畳の部屋に暮らすのって久しぶり!」
    「い、一体何を」
    「だってアンデルセン、放っておくと具合悪くなってもわたしに教えてくれないし」
    「それは、」
    「ご飯だって毎日作りに来られるわけじゃないし……だったら一緒に住んだほうがいいでしょ? ここから仕事に通えなくもない距離だし」
    「お前の家の方が、職場に近いだろう!」
    「そうだね。でも、もう解約してきちゃった」
    「っ! 何を馬鹿なことを!」
    「住む家がなくなったのに、追い出すの?」
     その顔は、絶対追い出されない自信があると語っていた。
    「こんなところに住むなんて、正気の沙汰じゃない」
    「アンデルセンは住んでるじゃない」
    「エアコンも、風呂もない」
    「エアコンはわたしの持ってるのをつけたし、銭湯が近くにあるでしょ。あとあの壊れかけてる冷蔵庫はわたしのと替えたから」
     涼しいのはそのせいか。それに冷蔵庫まで。いや、そういう問題ではない。

    「ここはお前が、幸福を掴めるような場所じゃないんだ」
     そうだ。ここはお前に何もしてやれない、甲斐性なしの城だ。認めたくはないが、事実を伝えなくてはならない。
    「ホントにアンデルセンって……」
     ため息をついた彼女が、呆れた目でこちらを見る。

    「わたしは、ここにいないと幸せになれない」
     得意の人間観察はどうしたの? そんなことも分からない? 挑発するように彼女が言った。
    「生活は、生きるのに必要なものが揃ってれば何とかなるよ」
    「無茶苦茶なことを言うな、お前は」
    「わたしがマスターだった頃は、明日生きられるかどうかも分からなかったよ」
    「そんなものと一般人の生活を比べるな」

    「ずっと一緒にいたい。勝手に、死んだりしないでよ」
     俺の服の裾を掴んで、シワになりそうなほど握り締めている恋人。
     俺は彼女を養うだけの財力がなくて、甲斐性なしだ。けれどもう会えないかもしれないと思った彼女が目の前にいて、ここに住むなどと、言っている。それを追い返せない。これだから、ろくでなしだと言われても仕方ない。

     こうして俺と彼女の同棲生活は、ある日突然スタートしたのだった。……俺がこの時勢いで求婚してしまえば良かったと後悔したのは、それからすぐ後のことだった。
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