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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    カルデアアンぐだ♀、ぐだちの絆リセット事案

    2020.10

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##カルデア時空

    もう一度最初から始めるとしたら サーヴァントには目視できない『マスターの絆レベル』。数値のリセットとは一種の記憶障害にも似た状況だった。サーヴァントとの思い出を全て有している。共に戦った記憶やカルデアで過ごした穏やかな時間も、共に理解を深めた記憶すら残っている。それが、感情にうまく結びつかない。いつもと態度が違うことくらい、全てのサーヴァントがすぐに気がついた。

     廊下を歩いていると、遠くからこちら側に歩いてくる彼女と目が合った。手を振る仕草は明らかにぎこちない。いつもはもっと警戒心のなさそうな顔で駆け寄ってくるだろう。彼女は人見知りなどしないが、付き合いが長くなればそれなりに態度も変わっていたのだと今更体感する。
     ゆっくり近づき、何事もなかったかのように彼女とすれ違うと心がざわつく。いつもは廊下で会えば少しばかり立ち話をするか、その後彼女の部屋に招かれる。
     当たり前になりすぎた習慣に、たかが会話の一つが失われただけのことに、彼女との交流が絶たれたくらいの状況に、心乱れている。失ってから初めて気がつくなんとやら、なんてフィクションの話だけで十分だ。

     相変わらず毎日レイシフトに付き合い、会話もする。俺からの態度と行動は変わったわけではない。今までは、自分から彼女に近づかずとも彼女から自分に話しかけてくることが多かった。いや、決して自惚れだとかそういう話ではない、はずだ。

     偶然に廊下ですれ違う機会が減った。会ったとしても軽い挨拶程度しかない。彼女の部屋に招かれることがなくなった。彼女が俺の部屋を訪ねてきて、淹れたてのコーヒーを振る舞うことだって、ない。
     この環境は今まで彼女の行動を当たり前のように享受していた自分を嫌というほど自覚させてくる。
     
     廊下で話し込む時間が少なくなったから、さぞ原稿が捗るだろうな。……そう思ってみても、あの無駄なおしゃべりの時間が、目が覚めるほど熱いコーヒーの香りが失われたこの部屋で、考えるのは彼女のことばかりで。それでも感情の記憶を消し去ってしまった彼女に、自分から接触することもできない。

     頭を冷やすように冷たいシャワーの雨に当たってみても、その後ろくに身体も拭かずにシーツの海に飛び込んでみても、ただのマスターの少女の姿が消えない。

     ーーこれは、こんな感情は、持っていてはならないだろう。

     それからしばらくして、記憶喪失のような状況を解消するために付き合いの長いサーヴァント達が彼女と話をすることになった。マシュが俺を呼びに来た時には、他にもっと適任がいるだろうと言ったのだが、渋々協力する羽目になったのだ。

    「ごめんね。話をしろなんて困るでしょ?」
    「まったくだ。お前は今までに起こった出来事は全て記憶に残っているのだろう? こんな会話をしたところで心が蘇るものでもない」
    「本当に、迷惑かけちゃってごめんね」
     いつもなら、笑って流すことができる程度の会話だ。心底申し訳なさそうにした彼女に、居心地の悪さを感じる。
    「別に構わない。解決する手立てがないのならなりふり構っている場合ではない。それで? 俺に何か聞きたいことがあるのか?」
    「それじゃあ、あの……アンデルセンと私ってどういう関係?」
    「……何だと?」
    「だって、アンデルセンは他のサーヴァントのみんなより私と一緒にいることが多いでしょ」
     共に過ごした時間が多いという事実を認識しているくせに、「なぜ」一緒にいたかという感情の記憶だけが残っていない。俺の知らない「なぜ」の答えを求められたところで、どうしろと言うんだ。これは拷問の一種か?
    「ただのマスターと、そのサーヴァントだ」
     俺の個人的な理由はさておき、事実はそうだとしか言えない。

    「どうして私といつも一緒にいるの?」
     悪意のない質問が刺さる。それを俺に聞くのか。
    「……お前が俺に声をかけるからだろう」
    「もしかして私って、アンデルセンのこと好きなの?」
    「馬鹿め! そんなのは俺が一番知りたいことだ! …………」

     失言だった。
     俺に懐いていると表現しても良いくらいだった彼女の態度。それが弟を可愛がるようなものだったのか、あるいは父親に甘えるようなものだったのか、はたまた……いや、俺には何も分からない。予測に願望を挟むようなことはろくな結果にならない。

     目の前には照れて伏し目になっている彼女。こんな態度は見たことがない。それを考えると、今まではあれだけ懐かれていようがやはり、彼女にとっての俺は『素敵なお兄様』止まりの存在だったのだろう。だが、俺が彼女の良き兄であったという記憶は、今や脳内から消えているのだ。その割に過去の彼女がやたらと俺に構っていたという事実だけは記憶に残っている。
     どれだけそこに恋愛感情などなかったとしても、『他人』から見れば状況は変わってくる。客観的に自分のやっていたことを思い返せば、これは何というプラシーボ効果か。そこに恋愛感情があったような気分がしてくるものだろう?

    「とにかく。記憶を戻したいのなら、失う前と同じように過ごしてみればいい。前のように廊下で俺と話し込んだり、部屋に俺を招いたり、俺の部屋に淹れたてのコーヒーを持ってくればいいだろう。同じ行動をすれば思い出すかもしれないぞ?」
     彼女が感情の記憶を取り戻すまでにどれほどの時間がかかるかは分からない。こんな非常事態に託けて、誑かそうだなんて。

    「いきなり呼んだりしたら迷惑じゃない?」
    「俺にとってはいつもとなんら変わらないルーチンワークだ」
    「それじゃあ……しばらくお世話になります」
     少し赤い顔の彼女は勘違いをしている。

     ーーこの人を好きだったのかもしれないーー

    「俺とお前は初対面のようなものだ。改めて自己紹介でもするとしようか」

     感情の記憶が戻りきってしまうまでに心を揺さぶることができるか。またただのお兄様に戻るのか、全てがこれからの行動にかかっている。
     賭事は始まったばかり。これは彼女が感情の記憶を取り戻すまでの、ほんの些細な日常の出来事だった。
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