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    shibuki_yu

    進捗あげ用。使い方がよく分かっていない。

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    shibuki_yu

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    類司ワンドロワンライ
    演目:太陽、やっぱり
    暑さにやられてぽろっと告白しちゃう🌟のお話です(両片思い)

    暑苦しいから他所でやって 瞼に突き刺すような真っ白な日差しに、じりじりと身を焦がされる。何重にも鳴り響く蝉の鳴き声がこの暑さを助長して、首筋から汗がじわりと滲み出た。
     体力に自信があるとはいえ、ここまで暑いと、あっという間に底をついてしまう。先ほどまで動き回っていたステージにごろりと寝転んで、ゆっくりと胸を上下させる。触れ合ったところからひんやりとした感触が染みて心地が良く、体内に篭る熱を吐き出すように、そっと息をついた。
     夏。炎天下の中、ワンダーステージでの練習は、当然ながらとても暑い。屋外にあるワンダーステージには、フェニックスステージのような空調設備なんてものは存在しておらず、夏は暑いし冬は寒い。仕方がないことではあるが、なかなかに体に堪える。ショーをしている司たちも相当暑いが、客席も相当暑いだろう。なんとかして快適に見てもらいたいから、これはどうにかせねばなと考えていると、ふっと頭上に影が差した。
    「ふふ、随分とお疲れだね。まあ、この暑さでは仕方がないよねえ」
    「今日は一段と暑すぎるぞ……。類〜、なんとかならんのか」
     客席から演出を確認していた類も、顔に疲労が滲んでおり、ふうと息を吐いて司の隣に腰掛ける。練習でこれでは、本番はもっと大変なのではないか。どうにかならないかと情けない声を出して、無理難題を告げると、類は困ったように笑った。
    「うーん、流石に天気を変えることは出来ないからね。扇風機とかを駆使して、少しでも暑さを軽減させるしかないかな」
    「しかし、この暑さではそれもキツイだろう。オレたちも、観客も」
    「それはそうだけど、ふむ……」
     司の言葉に何か思うところがあったのか、小さくつぶやくと、顎に手を当てて考え込む。そして、なんとか対応策を考えてみるよ、となんてことない顔で司に告げた。

     ──という会話をした、二日後。暑さ対策の装置が完成したんだと言われ、ワンダーステージに足を運ぶと、何やら見覚えのない装置がいくつも並んでいた。これが類の言う、暑さ対策を施した装置だろうか。それにしても、作るのが早すぎやしないだろうか。まさかまた徹夜でもしたのかと類に問うと、笑って誤魔化されたから、きっと徹夜をしたのだろう。司の言葉ひとつで無茶をさせてしまったのは申し訳ないが、こんなにはやく完成するなんて思ってもいなかったから、有難いことだと思った。
    「……で、だ。これはなんだ? 何やら細長いパイプのように見えるが……」
    「ああ、これはミストシャワーだよ。水源は着ぐるみくんたちの方で用意が出来るって言われたから、作ってみようと思ってね」
    「作ってみた、だと……⁉︎ これをか⁉︎」 
    「そうだよ。ふふ、試してみるかい?」
     それ、と類の声を合図にスイッチが押され、程なくして細かい霧のようなものが降り注ぐ。なるほど、これは確かに心地が良い。正直、せいぜい出来て客席に傘のような日除けを設けることぐらいだと思っていた。二日間なんて短い時間で、しかもショーの演出を考えながらなんて、大掛かりなものは作れないだろうと。そんな司の考えは、簡単にひっくり返されてしまった。この錬金術師のような男は、本当になんでも生み出せるのではないだろうか。
    「これが客席用で、こっちがステージ用だよ。小型にしてみたから、大道具で隠せると思うんだ」
    「なるほどな……。ん? このスイッチはなんだ?」
    「それは自動冷却スイッチだよ。範囲内に熱源を確認したら、もっと冷えるようになっているだ」
     もう一度類がスイッチを押すと、ほんの少しの稼働音がしてから、ひんやりと冷たい冷気が二人を包み込んだ。これはすごい。なんてものを短時間で作ったんだと感動の瞳を類に向けると、くすくすと面白そうに笑って、金色の瞳をゆるく細めた。
    「どうだい? 君のお気に召すものだといいのだけど」
    「涼しくて、心地が良いな……。すごいぞ、類! これがあれば快適にショーが見られるな!」
    「ふふ、ありがとう。……これで、司くんのお悩みは解決できたかな?」
     ぽん、と頭に手を置かれて、髪の質感を楽しむようにサラリと撫でられる。普段だったらやめろと苦言を呈しているところではあるが、ここまでやってくれたんだ。今はされるがままになっておくことにした。
    「ああ! ありがとう、類! 本当に助かったぞ」
    「どういたしまして。そんなに喜んでもらえるとは、僕も作った甲斐があるものだよ」
     金色の瞳を蜂蜜を溶かしたように柔らかくして、ふわりと笑う。そんな類の笑顔を見て、司も釣られて頬を緩めた。
     それにしたって、この男、いささか司に甘すぎやしないだろうか。寧々は司のことを、類を甘やかしていると言うけれど、類だって、司のことを甘やかしていると思う。以前にもショーの人手が足りなくて、なんとかならんかと類に溢した時に、タイムマシンなるものをあっさりと作り出していたし、今回も規模こそ違うが、司が困ったと告げたら、あっという間にミストシャワーを完成させていた。これを甘やかしていると呼ばずに、なんと呼ぶのだろう。
     甘やかしたり、甘やかされたり。時折幼い子どものようにわがままを言ったり。……まあでも、そういうところがあるからこそ。
    「……うん、やはりオレは、類のことが好きだなあ」
     類の手を取って、衝突して、もう一度、掬い上げて。苦難を共に乗り越えた仲間に抱いてしまった感情。胸の中で燃えたぎる想いを、目の前の男に告げるつもりは毛頭ない。だって、優しく触れる手を取ってしまったら最後、離せなくなることが目に見えている。
     類から、友情を超えた想いを寄せられていることは、なんとなく気が付いているけれど、司がそれに応えてしまったら、果たしてハッピーエンドで幕を下ろすことが出来るだろうか。遠くもない将来、お互いにショーに身を投じていくのに、好き合っていても、互いの存在が足枷になる時があるかもしれない。そうなってしまうことが、類の迷惑になってしまうことが、幸せを、奪ってしまうことが、とても嫌だと思った。だから、役者と演出家の関係でいようと、強く心に誓ったのだ。その思いを噛み締めるようにぎゅっと目を瞑って、ゆっくりと開いてから、なぜだか固まって動かない類と改めて向き合う。
    「類、お前は本当に最高の──」
     演出家だなと、そう、続けようとした。けれど、出来なかった。視界に紫色がいっぱいに広がって、ほんのりとした熱が伝わってくる。……今、一体何を。ぱちくりと見開いた目をきょろりと動かすと、肩口にサラリとした何かが触れて、ピシリと体が固まった。
     ──まさかとは思うが、これは、類に、抱きしめられている。
     なんで、どうしてこうなったと声を大にして言いたいが、残念ながら唯一の常識人である寧々はえむとセカイで練習中のため不在だ。じたばたと藻掻くが、力が強くて引き剥がせない。
    「お、おい、類! 暑いぞ、離れろ」
    「いや」
    「何を言っているんだ、いいから離れて、」
    「やだ。もう一回言ってくれるまで離さない」
     幼い子どものような物言いに、これは離してくれそうにないなと、ふっと体の力を抜いた。しかし、類にしては珍しく、先が見えない話し方に、どうしたんだと首を傾げる。
    「類、もう一回と言うが、一体なんの──」
    「さっき、言ったよね?」
    「だから何を、」
    「僕のことが好きだって、君はさっき、そう言ったよね?」
     信じられないような言葉に、は、と吐息のような声を溢す。もしかしなくても、これは声に出ていたのだろうか。ということは、司の気持ちも、確実にバレている。それはまずいと、自覚した途端、ぶわりと一気に冷や汗が湧き出る。どうにかして誤魔化さなければ。これでも役者なのだから、演技には自信がある。ほんのりと熱くなったような頬の熱を冷ますように口を開いて、取り繕った言葉を並べる。
    「いや、聞き間違いだろう。好きだなんて、オレが言うはずが」
    「そんなはずないよ。だって君顔真っ赤だし」
     否定の言葉に被せるように指摘されて、びくりと肩が跳ねる。こんな反応してしまったら、はいそうですと肯定しているようなものだろう。なんとかしないとと思っても、口から出るのは嘘だとわかるようなことばかり。
    「うう〜〜っ、これは、暑いからだ! いいから離せ!」
    「いやだよ。それに、さっき涼しいって言っていたじゃないか」
     ぶすりと不貞腐れたようにそう呟いて、さらにぎゅっと抱きしめられる。類の香りが身体中を覆って、頭がおかしくなりそうだ。ああ、こんなことになるから、暑いのはダメだと思ったのに。暑さで頭がやられて、類にわがままを言って、隠していた想いも、全部伝えてしまって、どうにかなってしまいそうだ。
     これもそれも類が甘やかすからだと、八つ当たりのつもりで見上げると、いつも余裕そうに微笑んでいる頬をだらしなく緩めて、怪しく光る瞳を柔らかい色に染めていた。こんな顔見てしまったら、……司への愛おしさに溢れた顔を、見てしまったら、文句も何もかも、頭の中から飛んでいってしまう。頭がぼすんと沸騰したせいで半ば投げやりになり、類の胸に顔を押し付けると、ふわりと笑いながら頭を撫でられた。嬉しそうに笑われるのが嫌で、グレーのパーカーの袖を引いて、小さな抵抗をするも、これまた嬉しそうな声色で、だーめと耳元で囁く。

    「きみが好きって言うまで、離してなんかあげないよ」
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