偽装交際とあるラジオ番組で突如発表された、大・爆・殺・神ダイナマイトによるヒーローデクとの交際宣言。
それは瞬く間に日本中に広がり、歓喜と祝福と混乱の渦を巻き起こした。
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「なんか…毎日報道されてるね。僕らのニュース」
「ほっとけ。そのうちモブ共も飽きンだろ。そもそもお前から言い出したんだろが。『僕たち、付き合ってる事にしちゃいませんか』ってよ」
「それはそうだけど…こんな大事になるとは思わないじゃん…」
テレビを消し、出久はソファに腰掛けて溜息をついた。
出久の部屋を訪れていた勝己が窓の外を見上げて「いい天気だな」などと呑気な事を呟いている。
ダイナマイトとデクの交際は、事実ではない。
ではなぜ勝己が出久との交際を公言したのか。
その背景には、二人の利害関係があった。
「よく分からんモブ女達の売名行為で熱愛報道(ガセ)流される俺と、モブとの見合い話持って来られるお前。まだお前と偽装交際しとった方がマシだと思ったから俺はお前からの提案に乗ったんだ。今更後悔しとるとか言い出すんじゃねェぞ出久」
「後悔とかじゃなくて…その…かっちゃんに迷惑かけちゃうなって思って。僕、そこまで考えてなかったからさ」
ソファの上でクッションを抱きしめ座る出久の髪を掻き乱すと、勝己はハッと強気に笑った。
「モブ共と変な噂流されるよりよっぽどマシだわ。おら、ンな事より出かけるぞ。オールマイトのノンフィクション映画、観に行くんだろ」
「行く!行きます!待って!オールマイトのアクスタ持って行かなきゃ!」
慌ただしく準備を始める出久に、勝己は小さく笑みを浮かべた。
勝己の言う通り、人々の興味の的は日々変化していくようで。ひと月もすれば勝己と出久の交際について大きく騒がれる事はなくなった。
世間を欺く事に出久は若干の罪悪感を感じているようだが、勝己にはそんなものどうでも良かった。
そもそも出久から言い出した提案だし、どちらかに大切に想う存在ができたら、その時は破局したと世間に公表すればいいだけの話だ。
こんな嘘の関係などいつでも簡単に終わらせられる。
勝己も出久もたしかに、そう思っていた。
◇