「最近大人しいと思ったら、次元の狭間にラボなど作って一体何をしている?」
「これはラボじゃなくてキッチンだよファーさん。まあ実験も兼ねてるし、元来料理は化学って言われてるくらいだからラボって呼び方もあながち間違いではないんだけどさ」
「御託はどうでもいい。何をしていると聞いた。二度も言わせるな」
「ウフフ……ゴメンね。まあ端的に言えば借金返済のためにネタを探してるのさ。今の所、この狭間の片隅に理由を付けて人間たちの魂を呼び寄せて金銭を対価に何かを提供するのが一番スマートかと思ってるんだが」
「……は?」
「ほら、年末の弁当の件で色々と請求が来ててさ」
「踏み倒せそんなもの。そもそも盗み食いなど見苦しい真似をするな」
「絶妙なラインの嫌がらせって結構難しいんだよ。ファーさんだってお土産に持ち帰った弁当モリモリ食べてただろ? まあこの分はミレニアで――」
「エクストラフェスでは感染症対策の為にフードの提供は自粛すると要項に書かれているが」
「…………ファーさん」
「聞かんぞ」
「オレたちにはもう終末ショコラトリーしかないと思う……」
「俺の終末を店名にするな」
「大丈夫、店名は別に考えるさ。ルシフェル達が洋菓子店をやった時みたいに小洒落た名前をさ」
「そもそもショコラトリーとは何だ」
「チョコレート専門の職人のことさ。『恋の媚薬』なんて呼ばれてるカカオを使ったスイーツなんて、オレたちのイメージにピッタリだろ?」
「お前にだけだろうが」
「オレはいつでもファーさんに媚薬を飲まされているようなものなんだが……」
「飲ませていない。言いがかりは止めろ」
「はー……ファーさん最高。思わず射精しちまった」
「付き合ってられんな」
「待って待って、せめてこの試作品のショコラを食べてみてよ」
「射精した男が後始末もしないまま差し出してきた菓子を食べろと?」
「ウ゛ッ」
「退け。自分で食べる。……ふむ、……甘ったるいだけの糖分だな」
「それならこっちも」
「……こちらは僅かに柑橘系の酸味があるな。ビタミンの摂取を考慮したか?」
「オレンジリキュールだから、ビタミンの含有量は微々たるものさ。あくまでもフレーバーを楽しむ為のものだからね」
「他には無いのか?」
「ウフフ……気に入ってくれたようで何より。今のところはこの二種類だが、ショコラトリーとして店を構えるならもっと品数を増やさなきゃね。ショコラを使ったケーキや珈琲、勿論ファーさんの好きな紅茶も用意しよう。アフタヌーンティーセットなんて豪華でいいかもしれないね」
「どうでもい。……まあ、様子くらいは見に行ってやらんでもない。だが俺は手伝わんぞ」
「オーケイオーケイ。実はスタッフとして呼び込む人員に目星は付けててね。ファーさんの手を煩わせなくとも店舗運営は何とかなる算段だよ。ところでファーさん」
「何だ」
「そうやってちゃんと返事をしてくれる所が最高だよ、オレの救世主」