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    yanagi_denkiya

    @yanagi_denkiya

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    yanagi_denkiya

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    現パロ時空、四人で初詣に行く話になる予定が気付けば悪役令嬢ファーさんになった。

    面倒くさい男たち 自分と、ルシフェル様と、その兄ルシファーと、昔俺の家の近所に住んでいて今はルシフェル様の同級生のベリアル。ルシフェル様を軸に構築されたこの人間関係は社会人になった今も継続しているーーというよりもルシフェル様がマメだからというのが大きな要因だろう。ベリアルが里帰りすると聞きつけたルシフェル様は、「兄も帰ってきているし初詣は久しぶりに四人で行こうか」などと仰ったのだ。
     毎日カレンダーを数えながら待っていた二人きりの外出の予定に突然厄介を具現化したような男達が混ざって来てしまった。新年早々気が重かったがルシフェル様のお誘いなので断れるはずもない。久しぶりに集まれますね、と、自らの感想を極力排除した言葉を添えて承諾の返事をした。
     そして迎えた新年だ。深夜は混むし危ないから朝早くに行こうとなり(ルシフェル様はいつまでも心配性だ)、ほぼ始発の電車で出発となったわけだ。ベリアルは駅前の店で朝まで飲んでいたとのことで、そのまま店から合流するらしい。
     駅までの通り道にあるルシフェル様の家まで迎えに行き、駅前でベリアルを拾って電車に乗り初詣に向かう。完璧なプランだ。
     今下に着きました、とメッセージを送ると大きな玄関から二人が姿を現した。ルシフェル様がベージュ、ルシファーがブルーの、お揃いのようでいて少し違うチェック柄のコートを着ている。そこまではいい、そこまでは。問題はルシファーがこれみよがしにルシフェル様の腕に抱きついて歩いてきたことだ。遠目にもルシファーは得意げな顔をしていて、完全に俺を煽っているのだと分かる。
     本当に信じられないことにルシファーは超のつくブラコンだ。いや、研究と弟のこと以外全く興味がないと言い換えればあの破綻した性格に可愛げも出るだろう。世間一般的にはマイナスイメージのあるブラコンという属性を付加するとでようやく人間味というエッセンスが加わり微弱にプラスイメージになる程度にはルシファーの性格は終わっていた。
     ルシフェル様の兄でなければ一生関わり合いになってはいなかっただろう。
     どうやらルシファーは俺がルシフェル様と親しくしているのが気に入らないらしく、顔を合わせるたびにこうして嫌がらせをしてくるわけだ。
     これはアレだ。今流行りの悪役令嬢ってやつだ。ルシファーは男だが。
    「おはよう、サンダルフォン。新年明けましておめでとう、今年も宜しく」
    「はい、明けましておめでとうございます。本年も何卒宜しくお願い致します!」
    「ルシファー、君も挨拶を」
    「こいつも俺に宜しくされたくはないだろうからな。さっさと行くぞ」
     ルシフェル様の腕を引っ張るようにしてルシファーが歩きだろうとしたが、それをものともせず逆にルシファーを引きずりながら、ルシフェル様は自然な動作で俺に手を差し出して下さった。反射的に手を取ると、ルシフェル様は嬉しそうな顔をして右腕にルシファーをぶら下げ、左手を俺と繋ぎながら歩き始める。
     するとルシファーは不満をありありと含めたしかめ面をしてルシフェル様の腕から手を離した。そのまま俺とルシフェル様より数歩先の距離で歩き始める。
     不思議に思ったルシフェル様が「ルシファー」と名を呼んでも知らんぷりだ。これは完全に拗ねている。
     ざまぁみろと思ったのも一瞬で、何だか不思議な居心地の悪さを感じた。
     悔しそうに引き結んだ唇は一度も開かれる事なくそのまま駅前まで歩く事数分、改札の前に立っていたベリアルがこちらに気付きーー顔を真っ青にしてこちらへと駆け寄ってくる。
    「オイオイ、マジかよ! こんな事になるなら一度家に戻るべきだったな!」
     舌打ち混じりに吐き捨てたベリアルは、俺たちへの挨拶もそこそこにルシファーの両手を包み込むように握った。
    「ゴメンよファーさん、オレのせいでキミに不愉快な時間を過ごさせてしまった」
    「要らん。そもそもおまえがーー」
    「飲みになんて行かなければよかったね。珍しい酒と旧友との思い出語りなんてものにぐらついてしまったばかりに……」
    「勝手に俺の内面を作り上げるな」
    「向こうに戻ればファーさんとはずっと一緒だから……一晩くらい、なんて浅はかな判断をした俺を罵ってくれ」
     完全に話が噛み合っていないように聞こえるが、これで二人は約十年大きな喧嘩もなくやって来ている。多分人とは違う次元に生きているのだろう。
     このまま機嫌取りで数分取られるのかと思っていると、ベリアルはスマートにルシファーの横に並ぶ。
    「オレじゃ代わりにならないって? 分かってるよ、弁えてるって。でもキミの冷え切った手くらい温めさせてくれ」
     歯の浮くようなセリフを連発したベリアルは、そのままいそいそとルシファーの左手を掴み自分のコートのポケットへと入れた。
     ようやく改札を通り歩き始めたものの、ベリアルの怒りは納まってはいないようだった。
    「四人で初詣に行こうという提案だったのに、キミたちはファーさんを除け者にしながら仲良くおてて繋いでデートかい?」
    「いや、初めは三人で手をーー」
    「三人で!? ルシフェル、キミって本当に強欲なやつだな! 両腕にファーさんとサンディを侍らせて歩くなんてさ!」
     この通りーー昔はただの仲良しグループだった筈の俺たちは、すっかり複雑怪奇な関係性へと変貌してしまった。
     その原因の半分はベリアルだ。昔は気のいい近所の兄ちゃんだったはずが、ルシファーと出会ってからはすっかり様子が一変した(ベリアルに言わせれば、俺もルシフェル様に出会って変貌したらしいが)。最早信奉レベルでルシファーの事を尊敬しており、ベリアルの優先順位はいつだってルシファーだ。たが件のルシファーは弟しか眼中になく(それでも地元を出てベリアルと二人上手くやっているようだが)、ルシフェル様は皆を平等に好いている。そして俺はルシフェル様の一番になりたいわけなのだが……先行きは暗い。
     皆に優しさを振りまくそのーー結果的に八方美人になってしまっているのが事態を非常にややこしくしている。だがルシフェル様がルシファーをすっぱりと切り捨てる様子は……やはり見たくないなともおもう。そこでふと、無意識に自分がルシフェル様に選ばれると確信してしまっている自分を戒めた。
     まだぐちぐちとルシフェル様に絡むベリアルに「もう止めろ」と間に入ると、ベリアルは肩をすくめて「これだからサンディは。昔は可愛かったのに」といつもの捨て台詞を残した。
     始発前後の混み合う駅内で手を繋ぐのは流石に迷惑というくらいの常識は持ち合わせている。ベリアルは手を名残惜しそうに離すとルシファーの後ろに着く。ルシファーは目的地を外れてふらふらとどこかに行く事があるから目を離さないためにはこれがいいのだろう。
     ルシフェル様は人波を掻き分けるため先頭を歩き、自動的に俺がその後ろになる。180センチオーバーに挟まれる形になった俺は何となく居心地の悪さに目を泳がせ、ルシファーは当然だと言わんばかりに涼しい顔をしていた。
     最早己のパーソナルスペースが保証できぬほど混み合った車内では、ベリアルは嬉々としてルシファーを抱きしめている。ルシファーも他の知らない奴に押し潰されるよりはマシだと思ったのか、両腕を力なく垂らしながらされるがままになっている。ルシフェル様は俺を気遣い押されないよう壁になってくださっている。それは非常に嬉しいーーうれしいのだが、ルシフェル様は公明正大であって欲しいという俺の厄介な願いが顔を出す。可能ならこの車内の全員を救っていただきたい。
     自分も十分この滅茶苦茶な関係性に一役買っているなと自覚しつつ、このまま来年も何らかの形でまた皆で集まるのだろうなとも思った。
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