ビールでええんちゃう「あっ!きたきた!チヒロ君きた!」
騒がしい店内を覗き、入口で戸惑っていた俺を、薊さんは手を上げて呼んだ。
「とりあえず、座りな」
薊さんは俺をスマートに引き寄せ。座ったのと同時にメニューを渡した。流れるような無駄のない動きだった。
「なんか飲む?」
「ビールでええんちゃう?」
「柴はちょっと黙っておきなよ。ビールでいいなら、これは来たばかりで誰も口をつけてないから飲みな」
受け取ったジョッキを口に運ぼうとして、薊さんに止められた。ちょっちょっちょっ、ちょっと待って。
慌てて机の端から飲みかけのグラスを持ってきた薊さんは、それを俺のジョッキにコツンと当てた。そうか、これが乾杯ってやつか。
「乾杯。大晦日に急に呼び出してごめんね」
2020