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    cantabile_mori

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    cantabile_mori

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    進捗②です

    魔羅除霊っ!② 夜も更け、京の都の人々も寝静まった頃。
     左京区のある一角には、悪名高き鬼や数多の夢枕に立ち悪夢を見せた悪霊たちが蔓延っている。陽が沈む前にはもう人っ子ひとりいないといった場所で、下手な陰陽師が足を踏み入れれば瞬く間に足を掬われ食われてしまうだろう。水害の起きやすい箇所でもあり人が住むにはあまりに向いていない、そんな一角に無謀にも足を踏み入れる男がいた。
     太刀も佩いていない、狩衣姿の丸腰の男。ざり、ざり、と音を立ててやってくる。
     振り向く悪鬼や怨霊たち。鋭く光る双眸と昂る陰の気。それを物ともせずに男──安倍晴明は静々とした顔つきで魑魅魍魎どもの巣窟となっている中心で足を止めた。
     あっという間に敵に囲まれてしまう晴明。敵たちの下卑た笑いが響く中、ふ、と晴明は笑みを浮かべる。
    「……気に食わぬ」
     崩れ落ちた家屋の屋根に胡坐をかいていた一匹の鬼は──おそらくその風貌、魔力からしてこの魑魅魍魎どもの鬼の首魁であろう──その皺くちゃの顔をさらに歪ませて言った。
    「ほう。人語を操ると」
     晴明が顎に手を当てて、さも純粋に驚いたといったように呟く。その言葉にも鬼の首魁は憤り頭を振り回してこう叫んだ。
    「気に食わぬ、気に食わぬ! 顔の良い人間が来たから酒の肴にして骨までしゃぶってやろうと思ったがその余裕の笑みが気に食わぬ! 我らに恐れ慄け、跪け! 貴様ら、泣いて乞うまでやってしまいな、泣いても血の一滴まで啜り尽くすがなァ!」
     鬼の首魁の号令を聞き魑魅魍魎たちが一斉に晴明を取り囲み、襲い掛かろうとしたその時、晴明は──股布をくつろげさせる。
     そして、それは現れた。
     天へと聳え立つ赤黒き巨塔。血管が浮き出てドクンと脈打ち、反り立った頭は真っ直ぐに聖天を仰いでいる。巨棒の茎は長大で大の人間の腕よりも太く大きい。ぬらりと立ち上る熱気は怒気すらも感じられて、どんな氷山も、永久凍土すらも溶かしてしまうだろう。およそ人間の携えるモノではないのだが、そこに存在しているという事実が恐ろしい。禍々しい全貌は見る者すべてを畏怖させ、慄かせている。だが不思議なことに聖なる気すらも放っていて、魑魅魍魎どもは目を奪われるしかない。出現した雄の化身、神すら平伏す魔羅を。
     つまり、それは勃起しているのだ。
    「なッッ……‼︎」
     鬼の首魁は驚愕の一音しか喉から発せられない。それもそのはず、今まさに襲い掛かられるといった場面で己の急所たる男根を露出させたのだから。けれどもその魔羅に気圧されているのも事実。何たる豪快、何たる暴挙。そして屈辱を、魑魅魍魎どもは味わわせられていた。
    「ひッ……!」
    「ぎゃ、ぎゃああぁああぁッ‼︎」
    「なんだあれは、いやだ、くるな、くるなァッ‼︎」
     悲鳴を上げて逃げ惑う低級の鬼たち。そして悪霊たちはびりびりと震え出しその魔羅の威圧だけで消え去らんとしていた。
    「こんなものでは終わりませんよ。私の新術、心して刮目せよ」
     安倍晴明は啖呵を切って己の巨悪の化身である魔羅に両手を近づけ──晴明の股座は、聖なる光に包まれ輝き出した。
    「グ、グアアアアアア‼︎」
    「びゃ……────ッ」
     一瞬のことだった。
     階級も関係なく鬼どもは恐れ慄き背を向けて逃げようとするがその煌々たる魔羅の光により塵芥となり、悪霊は叫びながら成仏した。
     鬼の首魁もまた例に漏れず何の声も発せられないまま光に呑まれ、消えていった。
     ここに除霊は完結する。
    「ふむ。名付けて、そうですね……魔羅除霊、といったところでしょうか」
     聖なる光は収まったが未だ勃起を続け、その赤黒い巨塔を晒している自分の股間を見下ろしながら晴明はひとりごちる。そして周りを見渡せば。
     こびりつくほどの陰の気配はすでに全く無く、ただそこにあるのは無のみであった。人を惑わし殺し尽くす鬼も、呪い殺さんと近づく怨霊も存在をただ一本の身の毛もよだつ魔羅によって消し尽くされてしまったのだった。
     ふむ、と安倍晴明は顎に手を当てる。発光による除霊はやりすぎてしまったか。ただ見せつけるだけでも魑魅魍魎たちは怯え撤退を始めていた。無闇な殺生はいけない、あまり殺し尽くしてしまえば自然界のバランスというものが崩れてしまう。晴明は人と人あらざる者の狭間に生きる者であるが故に、それが理解できてしまう。行使してしまう。だからあまり敵たる鬼などの殺戮を積極的にしておらず、人間側に多大な被害を出している事件などに顔を出しているに過ぎない。安倍晴明は、そうやって人とその間の生を生きていた。
     ふ、と晴明は一人の男──心根もうつくしい男を思い出し笑みを浮かべる。
    「この私にずっと食らい付いてきているのは、彼奴だけだなァ」
     ああ、なんたる幸せなのだろう。狭間に生きる者は誰にも理解されず生きていくもの。それが定めであるはずなのに、彼に出会ってしまった。こんなに幸せで良いのだろうかと思ってしまうくらいに幸福なのだ。ぎらりとこちらを睨みつけ己の喉元に食らいつかんと爪を伸ばすその姿は、晴明にとってとても魅力的に見える。さあ、もっとこちらに来て欲しい。私の元へ、高みへ手を伸ばして欲しい。孤高の存在であるべき私にその瞳をさらに見せつけて欲しい。
     こうして新術を編み出したのも彼の勢いに目を見張り気圧されたからだし、内弟子だった彼が出奔したからでもある。彼が強くなるために出て行ったのであればこちらも頂にいる者として更なる高みに足を踏み入れなければならない。きっと彼は驚くだろうな──そう心躍らせていた晴明の耳に、ガサリと草むらから音が聞こえてきた。
    「何者かな」
     す、と右手を草むらに向けると、音を立てた人物がよく見えるように草むらが左右に分たれた。そして現れたのは──。
    「道満?」
     今さっき思いを馳せていた彼、蘆屋道満であった。
    「………っあ、……」
     道満の表情は凍りつくように固まっていた。こんな表情見たことがない。晴明は道満の異常な状態から目を逸らしそのかんばせに見入る。
     普段慎ましく閉じられている口はあんぐりと開けられ、尻餅をついた姿はまるで敵に見つかったかのよう。あわわ、と見つかったことに関して道満は晴明の凍てつくような──ただその珍しい表情に見入っているだけなのだが──視線に縫いとめられて動くことができない。そしてほんのりと頬が上気しており、まるで幾度か身体を重ねた夜のような顔をしているのだった。ああ、なんと、これは。むくり、と魔羅が疼く。
    「素晴らしいね」
     歓喜するように呟く晴明に、ようやく道満は喉から音を発することができた。
    「は、……せ、せいめい、どの、それは……それは、その……」
     ふるふると震えながらあげられる道満の人差し指の先には、腰布をくつろげさせた先に出現している、あの魑魅魍魎どもを除霊した怒張、巨大な魔羅があった。
    「それが、せ、せせせ晴明どのの魔羅であらせられるのですか……?」
    「ええ、そうですとも。おや、おまえには何度も見せ、味わわせて差し上げたでしょうに」
     おかしいですね、と晴明が首を傾げるが一つ思い当たることがあった。
    「ああ、もしかしていつも帷も灯りも下ろして致していたから私の魔羅の全貌を知らなかったのでしょうか?」
     こくり、と弱々しく道満が頷く。道満は知らなかったのだ、いつも道満が受け入れていたそれが、こんなにも強大で、巨大で、赤黒くて、まるで怪物のような怒張だったなんて! そんなの嘘だ、虚偽に決まっている、そう思っても目の前の晴明の魔羅が真っ向から否定してくる。そんな、洗練潔白であるはずの晴明の男根がこんなに禍々しいわけがない!
    「そ、それが新術なのでしょう? 晴明殿の魔羅をそのように巨悪化させ、鬼や怨霊を除霊するという新術なのでしょう。本来の貴方の魔羅はもっと落ち着いたもののはずで……」
    「いえ元からこの大きさですよ?」
    「そ、そんな!」
     ついに顔を両手で覆ってしまった道満はこの世のすべてに絶望した。心の中で何かがぽっきりと折れたような音もした。だってあの晴明の魔羅が、こんなだったなんて!
    「そんな顔をしないでおくれ」
     尚も信じようとしない道満に、晴明は眉を下げて悲しげな顔をした。己の魔羅は確かに魑魅魍魎を除霊するほどの力を持っているが、想い人を絶望させるための力は欲しくなかった。故に、道満にはわかってもらう必要があった。
    「道満。こちらにおいで」
    「い、いやです」
     首を左右に振って現実を受け入れようとしない道満を前にして痺れを切らした晴明は、ズンズンと近づいて道満を俵のように肩に持ち上げた(股間は露出したままである)。
    「晴明殿⁉︎ 下ろしてくだされ‼︎ 一体何を」
    「そんなに怯えないでください。いつもおまえの中で、おまえを気持ちよくしているのはこの魔羅なのだとわかって欲しいだけなのです」
    「わかりたくありませぬ!」
     ばたばたと足をばたつかせる道満の抵抗は意味を成さない。晴明はずんずん先へと進んでしまっている。
    「あんなに優しくしていたのも、最後まで挿れていなかったのもおまえのためを思ってのこと。それが裏目に出るとは……、責任をとっておまえが満足するまでわかってもらいますからね。ええ、ええ、これはおまえのためを思ってのことです」
    「その新術を試したであろう魔羅でですか⁉︎」
    「ええ。私はこれを『魔羅除霊』と名付けました。いかがでしょう」
    「いかがでしょう、ではありませぬ‼︎ なんですかそんな出鱈目な、荒唐無稽な新術がありますか‼︎」
     今度はポコポコと道満は晴明の背中を叩き始めた。修練を重ねた法師陰陽師である道満の『ポコポコ』は背骨に罅が入るほどなのだが、晴明はものともしていなかった。
     道満はその抵抗が無意味に終わっていることに気づき、陰陽寮での己の言葉を思い出す。
    『……晴明殿であれば、とても美しく清らかな、見るものを瞬かせる素晴らしい秘術を生み出されたのでしょうな』
     ああ、なんということなのだ。己の憧憬は跡形もなく砕け散ってしまった。はぁ、溜息を吐き、道満は晴明に担がれてこれから何をされるのか。そんなもの明白だ。
    (これから拙僧は、あの魔羅除霊なる新術を披露した魔羅で貫かれてしまうのだ……!)
     必死の抵抗も無に帰してしまうこの状況。己は未だ晴明に勝てた試しがない。すなわちこの俵のように担がれ晴明の屋敷に連れていかれてしまうという屈辱は覆すことができないということ。
     道満はその美しい顔を青ざめさせて、最近くるりと毛先が巻きはじめた黒の長髪をゆらゆらとさせながら──道満の髪は担がれると地面に届くほど長いので晴明の式神たちが持ち上げている──これから起こることへ思いを馳せることをやめたのであった。





    睦み合うなどできませぬ!


     さて、安倍晴明の屋敷にそのまま招かれた道満といえば。
     あれよあれよという間に入浴の間に連れていかれたのであった。
     平安の世には湯浴みの習慣がない。けれどもそれは不衛生である、不衛生であることは淀みとなり呪いの元になるというのが晴明の持論であり、その先見の目をもってして識っていたのかはわからないが、道満もまたこの湯浴みの習慣は気に入っていた。元より修行で滝行をしたり水浴びをよくしていたため、晴明の屋敷で内弟子として住み込んでいた頃にはとても良い思いをしていた。
     しかし、夜に湯浴みをするということは、単なる汚れを落とす意味合いであるわけではない。もう一つの意味合い──つまり、まぐわう前の儀式なのである。
     ちゃぷ、と大きな桶の中で温かな湯に浸りながら、道満は天井を見やる。
    (ああ、本当に晴明殿にこれから抱かれてしまうのですね。弟子をやめて早数ヶ月、出奔したあの夜から身体を重ねていない。果たしてあの鬼の如し魔羅が拙僧に、……そもそも挿入るのであろうか?)
     ハッとして道満はもう一度隅々まで身体を洗おうとする。石鹸なるものでぬるぬると身体を滑らせていけば道満の肌は玉石の如くきめ細やかになっていく。これから晴明に抱かれるのであるのだから、万に一つも汚れが残っていたらその場で道満は自害してしまうだろう。安倍晴明という男を若干神聖視し過ぎているきらいがある、内弟子から一人前になったばかりの道満は何度も何度も肌を擦り、晴明が触れるであろう秘部もひたすらに洗った。お湯の希少性など知らぬと言わんばかりに頭からお湯を被るのも、晴明の式神がお湯を無尽蔵に提供してくれるからである。そういう甲斐甲斐しいところというか、変に気を回してくれているところというか──つまりはこちらの心境を見透かされているというところが気に食わない。そう、道満の晴明への想いは屈折しているのだった。
     ばしゃり、とまた頭からお湯を被り黒髪を濡らす。
     こうやって大人しく抱かれる準備をしているのにも、道満が自分を強制的に落ち着かせようと思ってやっているという理由がある。あの魔羅を思い出してはいけない、思い出してはいけないと念仏を唱え心頭滅却をしながらお湯をたっぷりと含んだ長髪を絞り、髪をお団子のようにする。ちろりと出た頸にかかる短い髪の毛がまた劣情を唆るのだということを知りもせずに、道満はお湯の張られた大きな桶から立ち上がった。
     晴明の人型をした式神が大きめの衣を持ってやってくる。その式神の精巧さにやはり目を見張りながらも衣を受け取り、身体を拭き取る。
    「あの香はありませぬか」
     そう道満が尋ねると、人型の式神は少し考え込んだのちに湯浴みの間を出ていって、それからすぐに練り香を持ってきた。
    (内弟子だった頃、こうして晴明殿に贈られた香をつけたものです)
     それは晴明の自己中心的考えからきたものであったし、自分の贈った香の香りをさせている想い人を目の前にすると嬉しくなるという単純な恋慕の思考でもあったのだが、道満からしてみれば『そんなことあるわけがない』と全く伝わっていない様子であった。それでも香をつけようと思ったのは、内弟子だった頃を思い出した習慣というやつだった。





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