Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    翠蘭(創作の方)

    @05141997_shion
    一次創作/企画/TRPG自陣&探索者のぽいぴく
    一次創作の設定等はべったーに

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 40

    翠蘭(創作の方)

    ☆quiet follow

    華軍企画内企画、「彼岸(悲願)の向日葵」の自宅の話、三話目 疑念の話

    #華軍
    warrior
    #自宅
    onesHome

    幸せな夢を断つ話 三 五月の連休明け以降、月待つきまち依宵いよと共に行動することが増えた。最初は依宵が勝手に着いて来たり、戦闘に割って入ったりだったが、いつの間にか、ひつじから彼女の側に行くことが多くなっていた。
     交流を重ねるうちに、依宵の両親は、彼女と妹を庇って死んだのだと教えてくれた。相手は人間ではなく化け物だったが、周りに言っても信じてくれなかったという。相手のことが怖くて、そういう風に見えたのだろうと。しかし、五社に来て、それが『神擬しんぎ』だったのだと知った。
     神擬とは、成り損ないのなにか。詠手の血を求めるしんとは違い、人間の血肉をむさぼるモノだ。学生には殺すことが出来ないが、大人であれば対応が出来るという。五社よりも本土での目撃が多いが、そもそもの数は少ないため、都市伝説程度の扱いを受けている。
    「十八歳を過ぎた舞手や、神擬を狩る狩手が神擬に変質することもある。あの神擬も、人だったのかもしれないと思うと、悲しくなるの」
    「どうして」
    「好きでそうなった訳じゃないでしょう? それに、神も神擬も、常人が殺すことは出来ない。死ねないの。それはあんまりだわ。私は彼らを殺して、救いたいの」
     そんな風に考えたことは一度もなかった。神を殺すことが五社にいる意味だと、未はそう考えていたから、依宵の考え方に驚いたのだ。
    「慈悲と、憐憫れんびんと、少しの憧憬しょうけいを持って、神を狩るの。そこに情けも躊躇ちゅうちょもあってはいけない。これは弔い。私たちが手をかけて、ようやくあれらは死ねるんだ」
     というのが、依宵の持つ信念だ。確かに、彼女が神をほふる時、例えそれが人間に近い形であっても、知人に似た容貌ようぼうをしていても、彼女は躊躇ためらいなく切っ先を向け、迷い無く切り捨てる。そういう戦い方をしていた。軸にその信念があるからこそ、そういう風に戦えるのだろう。
     それでも、彼女は多くの後輩に心を砕いていた。一度共闘しただけの生徒や、たまたま保健室まで肩を貸した後輩のこと、近くにいたからお菓子をあげた同学年の人、全てに優しかった。優しすぎた。その優しさが、いつか彼女をむしばむのではないかと、恐怖を感じるほどに。

    「ねぇ、未」
     ある日の放課後。
    「明日、一緒にお昼食べない?」
    「いいですよ、先輩」
    「ありがとう! どこがいいかな」
     にこやかに話す彼女は、最近やたらと怪我をすることが多かったのだが、今日は問題無さそうだ。
    「怪我、治ったんですね」
    「え? ……あ、うん。そうなの」
     ぎこちない返答に、少し違和感を覚える。
    「またすぐにすると思うんだけどね、この間、久々に会ったすだま君にも言われちゃったの。先輩はドジですねって」
    「それは兄の言う通りだと、思います」
    「未もそう思うの? 心外だなぁ」
     ドジかどうかはともかく、依宵はよく怪我をしている。指先のかすり傷から腕の骨折、まれに頭に包帯を巻いていることもある。昔からそうなのだと、本人が言っていた。
     あはは、と笑う依宵に、気をつけてくださいと声をかけて別れた。廊下の窓から見える外は、日が傾きはじめた空が広がっていた。入ってくる風が気持ちいい。
     こういう、何気ない日常を幸せと呼ぶのだろうか。
     自分達は非日常とも呼べる学生生活を送っているけれど、その中にも在り来たりな日常は垣間見える。それが、とてもいいなと、未は感じていた。
     依宵は今年度には卒業してしまうけれど、それまでは、こんな風に過ごしたいと、そんなことを思う。
    (──本当に、そんな生活を送れるのだろうか)
     ざわりと、心が波を立てる。最近、やけに多い。
    (なにか、大事なことを、忘れている気がする)
     一体何を忘れているんだろう。大事な、大事なことのはずなのに。
     また外に目を向ける。日は少しずつ傾いて、空は徐々に薄黄色を帯びていた。
    (荷物を取りに行って、帰ろう)
     引っかかる疑問を押し込めて、教室へ向かう。日の落ちる速度は思っていたよりも早く、校舎を出る頃には黄色と赤のグラデーションが頭上を染めていた。

     ──未。
     ふと、声が響く。
     見渡しても近くには誰もいない、それでも確かに、彼女の声が聞こえる。
    「──未、もし、私…………ら、私の……と、…………て……」
    「先輩、どこに、っぐ」
     声をあげた途端、頭が割れんばかりに痛む。その場に立っていられなくなって、未は膝を着いた。その言葉を、知っている。あの時の依宵の顔を、覚えている。あの時って、いつだろう。いつ、そんな会話をしたんだろう。わからない。視界が揺れる。最近もそんなことがあった気がする。どこで?
    (わからない、もう少し、で……)
     思い出せそうなのに。
    「せん、ぱ、い……!」
     手を伸ばす。目の前にいる誰かは揺れて、浮いていた。
    「お願いね」
     泣きそうな声が聞こえる。
    (そんなことを言うくらいなら、もっと早く、教えてほしかった)
     知らない自分の声がする。
    (僕は、貴女のこと、なにも知らなかった、聞かなかった。なにか、出来たかもしれない、のに、僕は、そうしなかった)
     もう少しで、なにか思い出せそうなのに、もう少しなのに。

     黄金色の世界が、花紺青はなこんじょうのベールに包まれるまで頭痛が治まることは無く、未はしばらく、その場にうずくまることしか出来なかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works