拝啓、ヒーロー!「俺のこと、楽しませてね…? 変身!」
目の前には、空想上の天馬を想起するバケモノ。その非現実的な光景とうらはらに訪う確かな死。それを吹き飛ばしたのは鮮烈な雷光と軽やかな緑風だった。
「だいじょーぶ? おねーさん」
「ローズル、あっちにまだ敵だ!」
「りょーかい! そんなわけだから今のうちに早く逃げちゃった方がいいよ」
目を白黒させているうちに、緑色の仮面とスーツを纏ったひとは言う。
あらしのようなひとたちと、襲ってきたばけものが消えて、ぼうっとしたまま家に帰り、そこでようやく自分が九死に一生を得たことを実感したのだった。
あれは確か、夏の終わりのことだった。そうして季節はうつろって、再び燦々とした陽光と共に暑い夏が来た。
バケモノがクラフトという名前であり、それと闘う人々を仮面ライダーという。
それを知ったのも、最近のことなのだけれど。
私はあの日、その仮面ライダーのふたりに助けられた。
いつからか、度々現れては人を害していたクラフトはとんと見かけなくなって、敵がいないのだからそれと闘う色とりどりのライダーの姿も見なくなった。それは平和のあかしで、きっと陰に日向に闘ってきた彼らの奮闘の証明だったからよいことではあるのだろう。それでもあの雷電をそのまま落とし込んだような戦士と、そして軽やかな風のような。――仮面ライダーローズルの勇姿を目にする機会がなくなったことを残念に思う気持ちもあった。
けれどそれは己の身勝手な悔恨だったから、やはりそれでいいのだと納得させていた。
そんな夏の日。永遠とも思える蝉時雨のなか。何人かの男性の集団。その中のひとり、青年が少し歳上の男性に頭を撫でられている、そんななんてことはない風景。だからなんてことはなく通り過ぎるはずだった。
「ちゃんと帰る目標くらいは、見失わないようにする」
「それでよし!」
それは、忘れようもない。
記憶とは違って随分穏やかだったけれど、確かにあの日私を助けてくれた声音だった。
振り返ってももういない。
「あのとき助けてくれて、ありがとう」
自己満足でしかない感謝の言葉。それはもちろん、いつか直接届けばいい、届けようと思うのだけれど。
彼らもあの夏から日々が続いているのだと、それだけで胸がいっぱいになって。
スキップする心地で、帰路についた。