祓本のぐだぐだウォーク ゲスト 七海建人回 祓本のぐだぐだウォーク
今をときめくお笑いコンビ祓ったれ本舗の夏油傑と五条悟がゲストを呼んで街をブラブラ歩いて遊んだり、ご飯を食べたりするだけのバラエティ番組だ。
ただ、それだけの番組だが、深夜帯だが高視聴率をマークしている。
——やっぱ祓本なんだろうな。
ADの矢口は思う。
まず、祓本の容姿。これが頗る良い。
2人とも180を越える高身長、それだけで見栄えがするし、2人ともタイプの違う美形だ。
夏油さんは黒い長髪をお団子で一纏めにしたスタイルで切長の目が印象的だ。優しそうな笑顔や柔和な物腰、それを裏切るような流し目で色気を振りまいている。鍛えているのかガタイがよく、Tシャツを着るとそれが顕著になる。それがまた色っぽいと評判だ。羨ましい。
付き合いの長いスタイリストの時任は夏油さんの着替えを見て、思わず札束ねじ込みそうになったとのこと。いや、それはただのヤベェ奴だよ。
対する五条さんは白い髪に大きな目、すっと通った鼻筋、細長い手足、全体的に色が白く日本人離れしている。蒼い目と薄桃色の唇だけが色彩を放っている芸術品のような容姿だ。
神様がいるならその手間暇掛けて作ったんだろうなって位。俺にもその手間を分けてくれ。
ちなみに時任は五条さんにコンシーラー塗る時目を瞑っていわゆるキス待ち顔をされて、プルップルの唇にむしゃぶりつかなかった自分を心底偉いと思ったらしい。めちゃくちゃ尊敬したし、なんなら飯奢った。
それだけじゃなくトークも上手く、キャラもある。2人とも頭が良いのだろう。トークもテンポ良く進めるし、番組の内容上素人の方と絡むことも多いのだが、夏油がうまく緊張を和らげ、五条さんがふざけて場を掻き回して見せ場を作っていく。
運動神経もいいのでスポーツさせたらいい画が撮れるし、五条さんのお金持ちトークという鉄板ネタもある。
ただ、五条さんは何でもズバズバ言うので共演NGになった人もいるし、食べ物もマズいものはマズいとはっきり言うので夏油のフォローと編集が大変なのだが。
色々大変な現場だが、やりがいも感じているし、楽しく仕事をしている。
そんな番組の今日のゲストは俳優、七海健人である。
舞台が中心の為今まではテレビの出演はなかったが、祓本の事務所の後輩で新作の舞台の宣伝も兼ねてゲスト出演となった。
ゲストに、と推薦したのは時任である。七海健人は時任の推しだそうだ。ディレクターに打診するため七海建人の魅力を聞いてみたが、
「七海健人の魅力?そりゃああの筋肉よ。夏油傑もいい筋肉してるけどね。また質の違った筋肉なのよ。筋肉はみんな違ってみんないい……。矢口、あんたも鍛えて筋肉つけたらそれはそれでまぁ、ごま油の次に私は愛してあげるわ。」
時任、お前ごま油好きって聞いたことないけど?俺。あとすげぇ筋肉フェチだな。
その流れで何でゲストに呼べたのかは全然分からないんだが、七海建人はゲストに決まった。
そんな会話を思い出していたら件の七海建人現場に入ってきた。
どれどれ、挨拶しつつ、筋肉を拝んでくる……か……。
ヒ、ヒェェェ〜〜〜〜〜!い、イケメンじゃねぇか!
七海建人の顔を見た瞬間、口に手を当てて固まってしまった。
夏油傑の人を誑かす様な感じでも五条悟の様な引き寄せられる美貌でもなく、落ち着いた大人の魅力じゃーん!オーラあるぅ。
高い身長に男らしい骨格、鋭い目つき、海外の血が入っているのかくすんだ金髪に緑色の目、彫りが深くて鼻が高い。メガネを掛けているがまたそれが落ち着いた魅力を出している。身体は厚く腕も太い。筋肉があるのがベージュのスーツ越しにもわかる。
「あの、スタッフの方ですか?」
すっかり七海健人のイケメンっぷりに圧倒されてたら声掛けられた。クソっ声までいいのかよ……あ、祓本もだったわ。
「あっ。ADの矢口です。本日はよろしくお願いしますね。」
「こちらこそ、テレビの出演は初めてなので至らない所もあると思いますが、よろしくお願いします。」
そう言ってお互いお辞儀をする。おいおい……いい人じゃないか……。五条さんだったら間違いなくここでお菓子買ってきてーだぞ。
「今夏油さんと五条さんのお二人が打ち合わせしてます。そちらにご案内しますね。」
「はい。お願いします。」
うーんあんまり笑わない無愛想な感じだけど、誠実さが伝わる態度だな。これは売れるなぁ。
まぁ、そんな事俺が考えてもしょうがないので誘導する。
「七海健人さんでーす。七海さんこちらで今日の撮影の流れとか確認してもらってもいいですか?ってあれ?五条さんは?」
のど乾いたからってココア買いに行きましたー。スタッフの1人が教えてくれる。
「えっ。まじで?ココア買っておいたのに。」
矢口さんいないからって買いに行っちゃいましたー。またもスタッフが教えてくれる。いや、止めろよ。いや、ごめん五条悟は止めらんねぇわ。今日はマネージャーの伊地知さんも居ないし、探しにいくかーっと動こうとした所、七海さんと夏油さんの会話が聞こえた。
「やぁ。七海。3週間ぶりだね。元気かい。」
「ええ。おかげ様で、この間はお土産ありがとうございました。五条さんと美味しくいただきました。」
「悟にあげたお土産だったんだけどね。」
夏油さん。目、笑ってなくね?俺が間違ってママって夏油さんのこと言っちゃった時に向けられた目と同じだぞ?
七海さんは表情筋を一切動かさず答えている。2人の背後に龍と虎がいるのは気のせいか?気のせいですね。はい。……五条さん探しを口実にさっさと戦線離脱しよう。
そう決めた所、
「あっ!七海じゃん。おつかれサマンサ〜。」
五条さんが帰ってきた。
何で?いっつも、もっと時間かけて戻ってくるじゃん!早く帰って来れるなら帰ってきて!でも今日は遅くて良かった!
と、脳内で五条さんへの文句を言っている俺の横を通り過ぎ、五条さんが七海さんへ絡みに行く。
「なーなみっ!七海のテレビ出演これが初めて何だって〜?七海くんの、ハ・ジ・メ・テもらっちゃった〜!」
七海さんの肩を組んで、頬をつついて笑いながら五条さんが絡んでいく。
七海さんは、やめてください。つつくのは。と言って、五条さんの耳に手をあて何か耳打ちした。
すると五条さんは顔をみるみる真っ赤にして、囁かれた耳を押さえて七海さんからさっと離れていった。そして大股で夏油さんの所へ行き、
「すっ傑!打ち合わせしよう!ロケ始まりこの店だろ!?店内見てこよう!」
夏油さんを引っ張って五条さんは行ってしまった。夏油さんの、七海。あまり悟を揶揄わないでくれ、という注意と共に。
七海さんは何故か本気ですが、と呟いた後、スタッフの説明を聞きに行ってしまった。
……何だったんだ?今の?疑問に思っていると高いヒールをカツカツ鳴らしながら時任がやってきて俺に話しかける。
「どう?矢口。七海健人は?」
「いや、すげぇイケメンだな。よくやった時任。けど何でスーツなんだ。祓本と被ってるぞ。」
「馬鹿。この馬鹿。七海建人の魅力をまず押し出すならスーツでしょ。おかげでヘアセットの最中に胸ポケットに札束ねじ込みそうになったわ」
「いや、だからそれヤベェ奴だからやめろ。」
時任、相変わらず自由だな。お前。