冷えた空気のなかで、さらに冷たい風が肩に触れて指先がひんやりとした。すぐ横で転がっていた小さなリモコンを手繰りよせて、表示される気温をシンラはぼんやりと読む。
「設定温度20って寒くね?」
「上げてもいいが、じきに良くなるぞ」
アーサーの髪を頬に感じながらも視線は向けないまま、「んー」とあいまいな声だけを返して、そのリモコンを宙に掲げる。短い機械的な音が5回、部屋の隅から聞こえた。
カチャン、と手元から落としたリモコンは床を滑って、山になった二人分の衣服に埋もれた。室内に容赦なく注ぎこむ昼間の光が、カーテン越しでも瞼を照らす。
視界だけを閉ざして、ほんの少しだけひんやりとする薄いシーツを肌にまとう。それをはがすようにアーサーの指が、首から肩、胸から腰の輪郭をさらりと撫でていった。長く吐いた息はアーサーの柔らかさを誘う。軽くキスを交え、伸ばした腕でゆるく揺れる背中にしがみつく。
窓を突き抜けて奥まで届くセミの声に部屋が埋まる。単調なあれはナニゼミだっけ?
垂れ流したままのテレビからは、お昼の五分間ニュース。本日も危険な暑さとなるでしょう。不要不急の外出は控えて――。飲みかけのペットボトルが転がる。変わった目線の先にあるシワの寄ったシーツを指先で掴んで、軋んだ声が勝手にシミを作った。
薄いカーテンを引き延ばしただけの部屋は、外の容赦ない明るさには対抗できず、光が触れない肌でもひどく熱い。
アーサー、とうわ言のように呼ぶと、シンラ、と掠れた声が返ってきてその出口さえも塞がれる。熱を持ったシーツに汗の流れる額を擦りつけて、しびれる舌は好き勝手にさせた。そうして、そのままゆっくりと、身体を沈めた。
肌に浮かぶ滴が熱い。影と一緒に頬に落ちてくる汗は、気休めていどに冷たく感じた。重なる部分には、逃がしようのない熱が籠っている。
「あっつ……」
「20度に戻すか?」
髪の先から一滴だけ流して、俺の言った通りだろ、なんて顔に書いて見せてくる。ええ、ええ、今回ばかりは。
「…………ハイ」
短い機械的な音が5回、部屋の隅から聞こえた。